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平成27年8月7日

東京工業大学
科学技術振興機構(JST)

ゲルマニウム導入し光るダイヤを開発
〜バイオマーカーや量子暗号通信への応用へ期待〜

ポイント

東京工業大学 大学院理工学研究科の岩崎 孝之 助教と波多野 睦子 教授らの研究グループは、ダイヤモンド中の空孔(V)注1)、とゲルマニウム(Ge)からなる新しいカラーセンター注2)の形成に世界で初めて成功した。

ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することによって、ゲルマニウムと格子欠陥(空孔)が結びつき、室温・大気中で安定して発光することを見いだした。アンサンブル状態(カラーセンターが多く含まれている状態)だけでなく、ゲルマニウム原子1個と空孔の組合せからなる単一カラーセンターも安定して形成できることを確認した。さらに、マイクロ波プラズマ化学堆積法注3)を使用し、発光波長の均一性に優れた高品質アンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した。生細胞イメージング用のバイオマーカー注4)量子暗号通信注5)への応用が期待でき、さらに高感度センサーとしての可能性も有している。研究成果は8月7日に、英国ネイチャー出版グループのオンラインジャーナル「Scientific Reports」に公開される。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構のCREST 研究領域「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」(炭素系ナノエレクトロニクスに基づく革新的な生体磁気計測システムの創出)の支援を受けて行われた。また今回「Scientific Reports」に掲載された論文は、大阪大学、産業技術総合研究所、滋賀医科大学、ドイツウルム大学との共著論文である。

<研究の背景>

ダイヤモンド中のカラーセンターは、ホスト材料であるダイヤモンドの高い生体適合性、退色しない安定した発光、室温での単一光子放出などの特長を有することから、生細胞イメージング用のバイオマーカー、量子暗号通信、高感度センサーなどの応用に向けて世界中で研究が活発に進められている。これらの応用には強く発光し、かつ形成を制御しやすいカラーセンターが求められている。様々な応用を実現するためには、アンサンブル状態および単一(ひとつのカラーセンターが孤立している状態)の両方を形成することが重要である。発光が強いアンサンブルカラーセンターはバイオマーカーやセンサー応用に適しており、単一光子源として機能する単一カラーセンターは量子暗号通信への応用が期待できる。

これまでに、ダイヤモンド中のカラーセンターにおいて窒素(N)‐空孔のNVセンターとシリコン(Si)‐空孔のSiVセンターだけが単一状態を示し、かつ再現性良く形成されていた。しかし、NVセンターは主要な発光波長であるゼロフォノンライン(ZPL)注6)、での強度が小さく、SiVセンターは合成装置中の不純物から取り込まれやすく形成が制御しづらいという問題があった。

<研究成果>

東工大の岩崎助教と波多野教授らは、ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することにより、ゲルマニウムと空孔からなるGeVセンターを形成した。GeVセンターは、外部からの光励起により波長602ナノメートル(nm)で強い発光を示し(図1)、高い再現性で形成できることを確認した。アンサンブル状態だけでなく、単一の状態でも安定したカラーセンターとして機能させることに成功した。

2次自己相関関数注7)測定から、単一GeVセンターが単一光子源として働くことを証明し(図1)、飽和発光強度注8)として170kcpsという高い値が得られた。励起波長の最適化により、GeVセンターの発光強度をさらに上昇させることができ、再現性良く形成できるダイヤモンド中のカラーセンターのうちで最も高輝度な構造となる可能性がある。第一原理計算により、ゲルマニウム原子は炭素原子が存在する格子位置ではなく、格子と格子の間に存在していることを明らかにした(図1)。

イオン注入法注9)を用いると、ダイヤモンド自体にダメージを与えてしまい、GeVセンターの発光波長がばらついてしまうことが観測された。一方、マイクロ波プラズマ化学堆積法を用いると、より鋭く発光波長の均一性に優れたアンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した(図2)。SiVセンターはマイクロ波プラズマ化学堆積装置中の真空チャンバ−(容器)部品などから容易にダイヤモンド中に取り込まれてしまうが、GeVセンターはより制御しやすく、拡張性が高い発光源として利用される可能性を有している。

<今後の展開>

ダイヤモンド中のGeVセンターは炭素とゲルマニウムからなる新しい原子レベルサイズの機能性構造であり、ダイヤモンドの特長である高い生体適合性を有する。さらに、発光強度が大きいことから、ナノダイヤモンド中へのGeVセンターの形成により、細胞内で退色しない安定な高輝度マーカーとして機能し、生体機能の解明や細胞レベルでの新しい診断技術につながる。さらに、均一な発光波長の単一GeVカラーセンターによって、量子暗号通信用光源への応用が期待される。

<参考図>

図1 ダイヤモンド中の単一GeVカラーセンターの構造と性質

図2 マイクロ波プラズマ堆積法による高品質アンサンブルGeVカラーセンターの形成

<用語解説>

注1) 空孔
固体結晶において、本来あるべき原子が抜けて孔となっている格子位置のこと。ダイヤモンドの場合は、炭素原子が格子位置からはずれることで空孔が発生する。空孔のVはベーカンシー(Vacancy)の頭文字。
注2) カラーセンター
ダイヤモンドなどの固体物質中に形成される欠陥構造で、光の吸収や外部励起による発光を示す。欠陥構造が孤立して存在し、単一光子源として機能するものを単一カラーセンターと呼ぶ。それに対して、光の回折限界以下の距離に単一カラーセンターが密集した状態をアンサンブルと呼ぶ。
注3) マイクロ波プラズマ化学堆積法
原料(今回の場合はメタンガス、水素ガス、ゲルマニウム小片)をマイクロ波プラズマで分解することによって材料を作製する手法。
注4) バイオマーカー
個々のタンパク質や細胞内部の機能を計測するためのナノサイズのマーカー。複数のマーカーにより細胞内部のイメージングが可能。
注5) 量子暗号通信
量子状態の特性を利用した通信技術で、外部からの盗聴に対して完全に安全な通信を可能とする技術。
注6) ゼロフォノンライン(ZPL)
発光においてフォノンの遷移を伴わないもの。
注7) 2次自己相関関数
発光源の時間コヒーレンスを調べる方法。遅延時間(τ)が0のときに、値が0.5以下になる場合に発光源が単一光子を発生していることがわかる。
注8) 飽和発光強度
単一カラーセンターの最大の発光強度。単位のkcpsはキロ・カウント・パー・セコンド(1秒間のカウント数)。
注9) イオン注入法
イオンを加速することによって固体中に導入する手法。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

岩崎 孝之 助教、波多野 睦子 教授
東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻
E-mail:
Tel:03-5734-3999 Fax: 03-5734-3999

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
E-mail:
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066

<報道担当>

東京工業大学 広報センター
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Tel:03-5734-2975  Fax: 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課
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Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432