JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成27年8月4日

九州大学
科学技術振興機構(JST)

太陽光程度の弱い光でも、フォトン・アップコンバージョン効率の
最大化を可能にした固体材料の開発に世界で初めて成功

九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門の君塚 信夫 主幹教授、楊井 伸浩 助教らと、ミラノ・ビコッカ大学(イタリア)のアンジェロ・モングッチ 博士の国際共同研究グループは、低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する技術であるフォトン・アップコンバージョンの実用化に不可欠な、太陽光程度の弱い光で効率を最大化する有機―無機複合材料を世界で初めて開発しました。

本研究グループは、既に分子組織化を利用し溶液中で高効率なアップコンバージョンに成功していましたが(http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2015/2015_06_10.pdf 参照)、そこで困難であった溶媒を含まない固体中での高効率化に今回成功しました。

フォトン・アップコンバージョンは、太陽電池や人工光合成注1)の効率を飛躍的に向上するなどの再生可能エネルギー技術への応用が期待されており、学術的のみならず産業的にも大きな波及効果をもたらす成果です。

本研究成果は、2015年8月3日(月)午後4時(英国時間)に英国科学誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

本研究の一部は、文部科学省 科学研究費基盤研究(S)(課題番号:25220805)「自己組織化に基づく機能性高分子ナノシステムの開発」(研究代表者:君塚 信夫)ならびに、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「分子技術と新機能創出」研究領域(研究総括:加藤 隆史 東京大学 教授)における研究課題「フォトン・アップコンバージョン分子技術の開拓」(研究代表者:楊井 伸浩)の支援を受けて行われました。

<背景>

フォトン・アップコンバージョンとは、低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術で、これまで不可能とされていた弱い光の利用を可能にする革新的なエネルギー創生技術であり、太陽電池や人工光合成の効率を大きく向上させるとして期待されています。

フォトン・アップコンバージョンの機構として、二光子吸収注2)希土類ナノ粒子注3)の多段階励起に基づく機構が知られていますが、これらの現象を起こすためには、レーザー光などの非常に強い光(太陽光の千倍以上)を必要とするため、太陽光などの弱い光は用いることはできません。そこで近年では、三重項―三重項消滅(triplet−triplet annihilation:TTA)(図1)を経る機構が、弱い光でもアップコンバージョン発光を観測できるものとして注目を集めています。このTTA機構によるアップコンバージョンでは通常、ドナー(増感剤)注4)アクセプター(発光体)注5)として働く2種の色素分子を有機溶媒に溶解させます。まず光を吸収して励起三重項状態注6)となったドナーがアクセプターに三重項エネルギーを移動し、これにより生じた励起三重項にある2つのアクセプター分子が溶液中を拡散して衝突すると、そのうち1分子が三重項状態よりも高いエネルギーを持つ励起一重項状態となり、アップコンバージョン発光が生じます。すなわち、低いエネルギーしか持たない2つの光子を用いて、より高いエネルギーの1つの光子を生み出すことになります。

これまでTTAを用いたアップコンバージョンの研究分野では、主にドナー・アクセプター分子自体の拡散を利用してエネルギーを受け渡すメカニズムが用いられてきましたが、産業的に応用先が豊富な固体状態においては分子の拡散が制限されるため、太陽光のような弱い光で高効率化することは困難でした。本研究グループは、色素分子を自己組織化させるという全く新しいアプローチにより、分子ではなくエネルギーを拡散させ、溶液中で高効率なアップコンバージョンに成功しましたが、固体状態では集合構造の乱れなどにより高効率化は未だ困難であり、さらなるブレイクスルーが必要でした。

<内容>

今回、本研究グループは、金属錯体骨格(MOF)注7)という結晶性材料中にアクセプター分子を規則的に配列させ、MOFを用いたアップコンバージョンを世界で初めて成功させました。

これまで、太陽光のような弱い光を用いたアップコンバージョンの高効率化は困難を極めており、その実現には①いかにドナーからアクセプターに励起三重項エネルギーを効率よく移動し、かつ②その励起三重項エネルギーをアクセプター分子間で高速に拡散させるか、といった2つの課題をクリアする必要がありました。まず1つ目の課題に関しては、これまで固体状態ではドナー分子が凝集してしまい、アクセプター分子にうまくエネルギーを渡せていませんでしたが、MOFのナノ結晶注8)を合成し、そのナノ結晶表面をドナー分子で修飾するというコロイド・界面化学的な新しいアプローチを導入し、この問題を解決しました(図2)。さらに2つ目の課題に関して、これまでは柔らかいポリマー中に色素を分散するという方法が一般的でしたが、十分な色素の拡散速度を得ることができませんでした。そこで今回、MOFの構造中にアクセプター部位(ジフェニルアントラセン)を規則的に配列させることで、励起三重項エネルギーを高速に拡散させることに成功しました(図3)。このように2つの課題を新しい手法により解決し、太陽光程度の弱い光でもアップコンバージョンの効率を最大化(約2%、図4)することに世界で初めて成功しました。

また、分子を拡散させる既存の手法では力学特性の劣る柔らかい高分子しか用いることができませんでしたが、今回開発したドナー修飾MOFナノ粒子はポリメタクリル酸メチル(PMMA)注9)などの力学特性に優れた硬いプラスチック中に分散させて用いることが可能であり、汎用性の高いプラスチック材料を高機能化して再生可能エネルギー分野に応用する新たな道を拓きました(図4)。

<効果・今後の展開>

今回開発したアップコンバージョン材料は、太陽光程度の弱い光でも利用効率を最大化する世界で初めての例であり、学術的のみならず産業的にも大きな波及効果をもたらす成果です。また、PMMAなど汎用性のプラスチックに組み込むことも可能であるため、折り曲げたり伸ばしたりできるフレキシブルなデバイスの基盤材料としても期待されます。将来的に近赤外光を可視光に、また可視光を紫外光に変換する色素系へと応用すれば、太陽電池や人工光合成の効率を高めるための画期的な方法論になることが期待されます。

<参考図>

図1 三重項―三重項消滅機構によるフォトン・アップコンバージョン(エネルギーレベル図)

  • (1) 光励起されたドナー分子からアクセプター分子への三重項エネルギー移動(TTET)を経て、アクセプター分子の励起三重項状態(TA)がつくられる。
  • (2) 励起三重起状態(TA)にある2つのアクセプター分子が溶液中で拡散し、衝突することによって三重項ー三重項消滅(TTA)がおこる(これまでの溶液系におけるTTAは励起された分子の拡散と衝突が必須)。
  • (3) その結果、アクセプター分子の高い励起一重項エネルギー状態(SA)が生成する。
  • (4) この高い励起一重項エネルギー状態(SA)からアップコンバージョン発光(励起光よりも大きなエネルギーをもつ光)が発せられる。

図2

ドナー分子をMOFナノ結晶の表面に修飾することで、ドナーからアクセプターへの高効率なエネルギー移動を可能にする。その結果得られる励起三重項エネルギーがMOFナノ結晶中を拡散し、衝突することで、アップコンバージョン発光を生じる。

図3 

アクセプターを含む分子(配位子)と金属イオンを結晶化することで、得られるMOF中にアクセプター部位(ジフェニルアントラセン)を有する分子を規則的に配列させる。

図4

ドナー分子を装飾したMOFナノ結晶がPMMA中で示すアップコンバージョン発光(左)とその発光の量子収率が太陽光程度の低い励起光強度でも最大値を示す様子(右)。

<用語解説>

注1) 人工光合成(水素エネルギー製造)
太陽光の約半分を占める可視光を用いて、水を触媒により分解して水素と酸素を製造する技術。水素を燃やすと水が出るのみなので、究極的にクリーンなエネルギーとして期待されている。
注2) 二光子吸収
強いレーザー光を照射した際に、1分子が2個の光子を同時に吸収する現象。
注3) 希土類ナノ粒子
無機フッ化物や無機酸化物のナノ粒子に希土類イオンをドープしたナノサイズの粒子。
注4) ドナー(増感剤)
図1において、光を吸収し、励起一重項状態(S)から系間交差により効率よく励起三重項状態(T)を与える分子。
注5) アクセプター(発光体)
図1において、励起三重項状態(T)にあるドナー分子からの三重項エネルギー移動(TTET)により、励起三重項状態(T)を与える分子。
注6) 三重項状態
分子の電子状態の1つで、電子の基底状態(普通の状態)と励起状態(エネルギーの高い状態)の電子スピンが平行な状態をいう。
注7) 金属錯体骨格(MOF)
金属イオンを有機分子(配位子)で架橋することにより得られる結晶性の材料。ガスなどの吸着・分離や、発光材料やセンサー材料としての応用が期待されている。
注8) ナノ結晶
ナノメートル(nm)のサイズの結晶。今回の報告では結晶成長を制御することで約60nmのサイズの結晶を合成して用いた。
注9) ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
透明性の高い合成樹脂であるアクリル樹脂の一種。最も汎用的なプラスチックの1つで、建物の窓材、水族館の水槽や医療用機器など身の回りの様々なものに使われている。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

君塚 信夫(キミヅカ ノブオ)
九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 主幹教授
Tel:092-802-2832 Fax:092-802-2838
E-mail:

楊井 伸浩(ヤナイ ノブヒロ)
九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 助教
Tel:092-802-2836 Fax:092-802-2838
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

<報道担当>

九州大学 広報室
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
Tel:092-802-2130 Fax:092-802-2139
E-mail:
URL:http://www.kyushu-u.ac.jp/

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: