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平成27年7月13日

東京大学
科学技術振興機構(JST)
九州大学

蛍光イメージング試薬による術中迅速微小乳がん検出の実現

ポイント

東京大学 大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野 泰照 教授らの研究グループは、がん細胞で活性が上昇している特定のタンパク質分解酵素によって蛍光性へと変化する試薬を開発し、がんモデル動物でその機能を証明してきました。しかし、ヒトのがんの性質は極めて多様であり、実際の外科手術時に真に有効であるかどうかはわかりませんでした。今回、九州大学病院 別府病院 三森 功士 教授らと共同して、乳腺手術において摘出した検体に対して本試薬をスプレーすることで、わずか数分で乳腺腫瘍を選択的に光らせ、周囲の乳腺と脂肪組織中の乳腺腫瘍を識別できることを明らかにしました。がんの外科手術において、微小がんの取り残しによる局所再発は極めて重要な問題です。本手法の活用により、乳がん部分切除手術中に切除断端に微小がん遺残の疑いがあるかどうかを正確に知ることができるようになるため、局所再発の頻度を劇的に低減させることができると期待しています。現在、本スプレー蛍光試薬の臨床医薬品としての市販を目指し、プローブの有用性を更に多数の症例で実証し、また体内使用を目指した安全性試験を、東京大学 エッジキャピタル(UTEC)からの投資を受けた五稜化学株式会社と共同して開始しています。

本研究は、九州大学病院 別府病院の三森 功士 教授、米国国立衛生研究所の小林 久隆 主任研究員の協力を得て行いました。また、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出(研究総括:清水 孝雄(国立国際医療研究センター研究所 所長))」における研究課題「臨床検体を用いた疾患部位特異的な代謝活性のライブイメージング探索技法の確立と創薬への応用」の一環として行われました。なお、本研究課題は、平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されたことに伴いAMEDに承継され、引き続き研究開発の支援がなされています。

<発表内容>

① 研究分野の背景とこれまでの研究の問題点

乳がんに対する手術の約半数を占める乳房部分切除術では、がん細胞を取り切れたかどうか確認するために、切除標本の断端にがん細胞が含まれているかどうかを手術中に診断する検査が必須となっています。しかし、病理医が不足している現在、切除標本の全ての断端を顕微鏡検査で調べることは大変な労力を要し、実行できない施設もあるのが現状です。また切除面全体の病理検査をすることは不可能であり、ごく一部の代表的な部分のみの検査しかできないため、がんを見逃してしまう可能性が指摘されています。このように、手術中にがん細胞を簡単かつ迅速に検出できる新しい方法の開発が望まれています。2011年に本研究グループは、がん細胞で活性の高い特定のタンパク質分解酵素活性を利用した、世界初の迅速がん部位可視化スプレー蛍光試薬の開発に成功しました。この蛍光試薬は迅速かつ簡便にがん細胞を光らせることができるため、実際の手術中にヒト臨床サンプルへと適用することで、微小がんの検出が可能となり、がんの見逃しを劇的に低減させるのではないかと期待されていました。

② 成果の要点

本研究グループは、2011年に開発したγ−グルタミルトランスペプチダーゼというタンパク質分解酵素活性を鋭敏に検出可能な蛍光プローブを、乳がん手術で摘出された実際の手術検体に散布し、その有用性を検証しました。その結果、非浸潤性乳管がんをはじめとする様々な乳腺腫瘍を光らせ、これまで肉眼ではわからなかった腫瘍を明瞭に描出することが可能となりました(図1)。実際の乳がんに対する乳房部分切除術においては、数cm大の検体の中の1mm以下の小さな病変を検出する必要があります。本手法により乳管という小さな管の中にある1mm以下のがん組織も検出可能であることがわかりました(図2図3)。測定方法は簡便かつ迅速で、蛍光プローブの散布から5分程度で、1mm以下の微小がん部位であっても、選択的かつ強い蛍光強度で光ることが確認されました(いくつかの臨床検体では、人の目で視認可能な強さでがん部位が光ることが確認されています)。たくさんの種類の乳がん、乳腺腫瘍に対して検証したところ、幅広い種類の乳腺腫瘍に対して有効であることがわかり、切除標本の断端にがん細胞が含まれているかどうかの検出に大きな機能を発揮することが明らかとなりました。

③ 今後の展開と一般へのアピールポイント

本研究グループが今回開発したスプレー蛍光試薬は、乳腺の手術で摘出した検体の中に隠れている微小ながんの容易な発見を可能とし、病理診断での見落としを無くし、手術での取り残しを防ぐ役割が期待できます。本研究グループは、蛍光の検出が安価かつ簡便に行えることから、この技術が一般的ながん検出手法として普及する上で大きな有用性があると期待しています。現在、東京大学 エッジキャピタル(UTEC)からの投資を受けた五稜化薬株式会社と共同し、臨床試験への適用に向けた準備を進めています。

<参考図>

図1 蛍光試薬を用いたがんの検出

肉眼ではがんの範囲は不明瞭ですが(左図)、試薬を投与して5分経過すると緑色の蛍光が得られます(左から2番目)。緑の蛍光部分(右から2番目)は病理検査でのがん部(右図の緑色)とよく一致していることがわかります。

図2 開発した蛍光試薬による、手術検体中の小さながんの検出

約5cmの大きな検体(左図)にがんが隠れていないかを探さなくてはいけません。最終病理検査で右下の赤枠の中に小さながんが隠れていることがわかりましたが、肉眼では全くわかりません。試薬を表層に塗布し、5分ほどすると蛍光が強かった部分がいくつか検出されたので(右図)、この部分を詳しく病理検査してみました(図3へ)。

図3 図2の拡大図と病理組織染色結果

肉眼では検出することのできない1mm程度の小さながんを、蛍光プローブの投与による迅速イメージングで検出することに成功しました(左図の赤と黄色が光った部位、そのうちの赤色の部分が右図のがん部と一致しています)。

<発表雑誌>

雑誌名 Scientific Reports
論文タイトル Rapid intraoperative visualization of breast lesions with γ-glutamyl hydroxymethyl rhodamine green
著者 Hiroki Ueo, Yoshiaki Shinden, Taro Tobo, Ayako Gamachi, Mitsuaki Udo, Hisateru Komatsu, Sho Nambara, Tomoko Saito, Masami Ueda, Hidenari Hirata, Shotaro Sakimura, Yuki Takano, Ryutaro Uchi, Junji Kurashige, Sayuri Akiyoshi, Tomohiro Iguchi, Hidetoshi Eguchi, Keishi Sugimachi, Yoko Kubota, Yuichiro Kai, Kenji Shibuta, Yuko Kijima, Heiji Yoshinaka, Shoji Natsugoe, Masaki Mori, Yoshihiko Maehara, Masayo Sakabe, Mako Kamiya, John W. Kakareka, Thomas J. Pohida, Peter L. Choyke, Hisataka Kobayashi, Hiroaki Ueo, Yasuteru Urano, Koshi Mimori
doi 10.1038/srep12080

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

東京大学 大学院薬学系研究科 薬品代謝化学教室 教授 東京大学 大学院医学系研究科 生体物理医学専攻 医用生体工学講座 生体情報学分野 教授(兼務) 浦野 泰照
〒113-0033 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-4850(薬)、03-5841-3601(医)
E-mail:

九州大学 病院別府病院 外科 教授
三森 功士
〒874-0083 大分県別府市鶴見原4546番地
Tel:0977-27-1645 Fax:0977-27-1651
E-mail:

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 戦略研究推進部
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<報道担当>

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