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平成27年4月10日

大阪府立大学
科学技術振興機構(JST)
大阪市立工業研究所

ユーグレナのワックスエステル合成系の代謝改変に成功
〜ユーグレナ由来バイオ燃料の生産制御への第一歩〜

ポイント

光合成生物であるユーグレナ(ミドリムシ)は、細胞内にワックスエステル注1)という油脂を蓄積します。この物質を輸送用燃料に変換して利用するための研究開発が進められています。しかし、合成メカニズムに不明な点が多く、従来ワックスエステル合成を制御することは困難でした。大阪府立大学の中澤 昌美 助教らの研究グループは、ユーグレナのワックスエステル代謝を解析・制御して、人為的にワックスエステルを改変する研究に取り組みました。本研究において、ワックスエステル合成過程で機能する中・長鎖脂肪酸伸長酵素(3−ケトアシルCoAチオラーゼ;KAT注2))を同定し、この酵素の発現を抑制することにより、構成炭素長の短いワックスエステルを作ることに世界で初めて成功しました。その結果、ワックスエステルを原料としたバイオディーゼル燃料の凝固点を下げることができました。これらは、ユーグレナが持つ機能を活用し、さらに人為的に制御することによって、目的に応じた特性のバイオ燃料を生産する技術につながる第一歩となる重要な成果です。

本研究は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の支援によって行われました。

本研究は大阪市立工業研究所の渡辺 嘉 研究主任らと共同で行ったものです。本研究成果は、米国油化学会誌「Lipids」に掲載されるに先立ち、オンライン版が近日掲載されます。

<背景>

微細藻類の一種であるユーグレナ(ミドリムシ)は、高濃度のCOが存在する環境でも光合成によって良好に生育する生物です。ユーグレナを酸素不足の環境にさらすと、細胞内に貯めた多糖類パラミロンを分解して、バイオ燃料の原料となるワックスエステルという油脂を細胞の中に作ります。ユーグレナワックスエステルから作るバイオディーゼル燃料は、車輌用燃料やジェット燃料などの輸送用燃料への利用が期待されています。車輌用燃料として用いる場合には、従来型バイオディーゼル燃料と同様に、脂肪酸メチルエステル(FAME)に変換して使用されます。実用化に向けた研究開発が進められる中で、ワックスエステル生産能力の増強や、用途に合った性質を持つワックスエステルの生産は重要な課題となっています。

ユーグレナがワックスエステルを作るメカニズムには未だ不明な点が多く、全体像は知られているものの、具体的に機能する酵素の分子情報はほとんど明らかになっていない現状です。そのため、これまでワックスエステル合成を制御することは非常に困難でした。本研究では、ユーグレナのワックスエステル代謝を解析し、制御することによって、人為的にワックスエステルを改変するための研究に取り組みました。

<研究手法と成果>

本研究では、ユーグレナがワックスエステルを合成する過程の中で、脂肪酸を伸長する反応を触媒する3−ケトアシルCoAチオラーゼ(KAT)に着目しました。本研究において、ユーグレナESTデータベース注3)の情報をもとにユーグレナには少なくとも6種類のKATがあることを見つけました。KATは、細菌からヒトなどの高等生物にまで広く存在する酵素ですが、今回ユーグレナから見つけたKATは、機能が知られているKATとの相同性が非常に低く、機能の推定は困難でした。そこで、RNA干渉注4)によって遺伝子の発現を抑制することにより、各KATの機能を調べました。その結果、6種のKATのうち、3種がワックスエステル合成に直接関わっていることがわかりました。その3種の内訳は、1つの短鎖脂肪酸アシルCoAを伸長するKAT、2つの中・長鎖脂肪酸アシルCoAを伸長するKATでした。短鎖脂肪酸を伸長するKATの発現を抑制すると、ユーグレナが作りだすワックスエステル量が大きく低下しました。この反応がワックスエステルを作るための律速となる反応の1つである可能性が示されました。

これに対して、中・長鎖脂肪酸を伸長するKATの発現を抑制すると、細胞内のワックスエステル量をほとんど変化させずに、構成炭素長の短いワックスエステルを生産するユーグレナを作りだすことができました。特に効果が顕著であった一方のKAT(KAT1)の発現を抑制したユーグレナで解析を進めたところ、ワックスエステルを構成する脂肪酸の主成分が、通常のユーグレナで炭素長14のミリスチン酸であることに対して、KAT1の発現を抑制したユーグレナでは炭素長12のラウリン酸および13のトリデカン酸でした。世界で初めて、代謝制御によってワックスエステル組成を人為的に変えることに成功しました。

このような改変を行ったユーグレナが生産するワックスエステル由来のバイオディーゼル燃料が持つ性質を調べるために、市販および合成した脂肪アルコール・FAMEを、分析結果に基づいて混合したモデル燃料を作製し、示差走査熱量計(DSC)によって熱への特性を調べました。その結果、通常ユーグレナが作るワックスエステル組成に基づいたものと比較して、凝固点が8℃低下して13℃に、融点が12℃低下して−38℃になっており、低温での流動性が向上したことがわかりました。

<今後の期待>

今回行った改変では、ユーグレナ由来従来型バイオディーゼル燃料の融点・凝固点を低下させることができました。現在日本では、車輌用燃料の軽油に添加されるバイオ燃料量は1〜5%です。通常のユーグレナ由来バイオ燃料を用いる場合、現在は少量であるため大きな問題とはなっていませんが、添加量を多くする場合は、冬季・寒冷地での使用が大きく制限されます。本研究で得られた成果を発展させることで、従来用いることのできなかった環境でのユーグレナ由来バイオ燃料利用が期待されます。

バイオ燃料を実際に利用していくためには、高い生産能力が求められるとともに、利用用途に適したバイオ燃料を作ることが必要です。本研究では、ユーグレナがワックスエステルを作る仕組みの一端を明らかにしたと同時に、その機能を制御することによってワックスエステルの組成を人為的に改変することに世界で初めて成功しました。今回の成果をもとに、今後さらにワックスエステル合成機構の解析を進め、異なる代謝制御を組み合わせることによって、炭素長や組成比の異なるワックスエステルを生産できる可能性があります。ユーグレナが持つ機能を活用し、さらに人為的に制御することによって、目的に応じた特性のバイオ燃料を生産する技術につながることが期待できます。

ユーグレナによるバイオ燃料生産は、光合成によるCO吸収と両立できるため、環境にやさしいプロセスとして期待されています。本成果は、ユーグレナの代謝機能を制御して、ユーグレナ由来バイオ燃料を、より広範な用途で利用するために改良する第一歩となります。

<研究サポート>

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域(松永 是 研究総括)における研究課題「微細藻類ユーグレナの新規形質転換法の開発と応用」(研究者:中澤 昌美)の支援により行われました。

<参考図>

図1 本研究の概要

  • ① ユーグレナは、貯蔵多糖から、バイオディーゼル燃料原料となる「ワックスエステル」を生産する。
  • ② 本研究で、ワックスエステル合成で働く3−ケトアシルCoAチオラーゼ(KAT)のうち、中・長 鎖脂肪酸アシルCoAに特異的なKAT1を発見した。
  • ③ RNA干渉という方法でKAT1の発現を抑制した結果、ユーグレナは構成炭素長の短いワックスエステルを生産した。
  • ④ この「短鎖化ワックスエステル」を原料として用いると、通常のユーグレナが作るワックスエステルと比べ「低温で固まりにくい」性質を持つバイオディーゼル燃料ができる。
  • ⑤ 世界で初めて、代謝制御によって、人為的にワックスエステルの組成を改変することに成功した。

図2 ワックスエステル合成における、脂肪酸伸長反応の概要

3−ケトアシルCoAチオラーゼ(KAT)は、脂肪酸の炭素鎖を2つ伸長する働きをする。ユーグレナには、短鎖特異的KATと中・長鎖特異的KATが存在し、両者が機能することによって、炭素鎖数2のアセチルCoAから炭素鎖数14のミリスチルCoAを合成する。

<用語解説>

注1) ワックスエステル
脂肪酸と脂肪アルコールがエステル結合した化合物の総称。メチル化などの方法によってディーゼル燃料に変換することができる。植物の表皮や蜂の作る蜜蝋、クジラの作る鯨蝋などにも含まれている。その中でもユーグレナのワックスエステルの主成分はミリスチン酸ミリスチル(C14:0−C14:0Alc)であり、他の生物由来のものと比較して短い脂肪酸、脂肪アルコールからできていること、不飽和結合を持たないため酸化安定性が高いことが特徴。
注2) 3−ケトアシルCoAチオラーゼ;KAT
アシルCoAとアセチルCoAを結合させ、脂肪酸の炭素鎖を2つ伸長する働きをする酵素。一般的に、1つの生物の中に細胞内での局在や機能の異なる複数のKATが存在する。本研究ではユーグレナに少なくとも6種類のKATがあること、そのうちワックスエステル合成で働くものは3種類であること、それらの基質特異性が異なることを見つけた。
注3) ESTデータベース
EST(expressed sequence tag)とは生体試料の中に存在するmRNA由来のcDNAの配列の一部分を読み取ったもの。世界中に多くの生物のESTデータベースが存在する。
注4) RNA干渉
RNAiとも呼ばれる。あるmRNAと同じ配列を持った二本鎖RNAを合成し、細胞内に導入すると、対応するmRNAが細胞内で分解され、細胞内での発現を抑制することができる。遺伝子の機能を調べるために非常に有用な手段。

<論文タイトル>

Masami Nakazawa, Hiroko Andoh, Keiichiro Koyama, Yomi Watanabe, Takeo Nakai, Mitsuhiro Ueda, Tatsuji Sakamoto, Hiroshi Inui, Yoshihisa Nakano, Kazutaka Miyatake “Alteration of Wax Ester Content and Composition in Euglena gracilis with Gene Silencing of 3-ketoacyl-CoA Thiolase Isozymes” Lipids
doi: 10.1007/s11745-015-4010-3

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

中澤 昌美(ナカザワ マサミ)
大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 助教
Tel:072-254-9468
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

<報道担当>

大阪府立大学 広報渉外部 広報課 広報グループ(担当:皆藤)
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科学技術振興機構 広報課
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