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平成27年2月23日

科学技術振興機構(JST)
東京大学 生産技術研究所
東京大学 大学院工学系研究科

室内光で働く腕章型やわらか体温計の開発に成功
〜電力の送電不要、発熱を音で知らせる−新型センサーへの応用に期待〜

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学の桜井 貴康 教授、染谷 隆夫 教授らの研究グループは、室内光で発電し、音で発熱を知らせる、有機集積回路注1)を用いた腕章型フレキシブル体温計の開発に成功しました。

近年、脈拍や体温などの生体情報を常時モニタリングするアプリケーションに注目が集まっています。このような、人体に直接接触するセンサー・デバイスには、従来の電子部品にはなかったような装着感のない柔らかさや、ケーブルが不要(ワイヤレス)な構造が求められます。さらに、電池交換のようなメンテナンスが不要であることも重要です。

本研究グループは、室内光で発電し、音で発熱を知らせる腕章型フレキシブル体温計の開発に成功しました(図1)。開発したフレキシブル体温計は、有機集積回路、温度センサー、フレキシブルな太陽電池とピエゾフィルムスピーカー注2)で構成されます。温度センサーは、検知温度が設定可能な抵抗変化型のセンサーで、高分子フィルム上に作製されているため、装着感のない柔らかさを実現しました(図2)。また、有機集積回路とピエゾフィルムスピーカーを用いることで、フレキシブルな電子ブザーを開発しました(図3)。有機集積回路を用いて音を発生させたのは、世界で初めてです。さらに、さまざまな明るさの部屋でフレキシブル体温計を使用できるようにするための電源回路も開発しました(図4)。このフレキシブル体温計は人の上腕部に取り付けられ、体温を常時モニターします。そして、体温が設定したある温度を超えると「発熱している」と判断して、周囲に音で知らせる機能を持ちます。この一連の動作は全て、室内光で発電される電力で賄うことができるため、電池交換などのメンテナンスは不要です。このような電源回路を有機トランジスターだけで実現したのも世界で初めてです。

今回の研究の原理は、温度以外にも、水分や圧力などさまざまなセンサーに応用することが可能であり、幅広い用途への応用が期待されます。

本研究成果は、2015年2月22日(日)〜26日(木)に米国サンフランシスコにて開催される「国際固体回路会議(ISSCC)2015」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業

研究プロジェクト 「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」
研究総括 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成23年8月〜平成29年3月

上記研究プロジェクトでは、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が期待できる有機材料に着目し、生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する全く新しいデバイスの開発の実現を目指しています。

<研究の背景と経緯>

近年、脈拍や体温などの生体情報を常時モニタリングするアプリケーションに注目が集まっています。このような人体に直接接触するセンサー・デバイスには、従来の電子部品にはなかった装着感のない機械的な柔らかさ(フレキシブル)や、衛生面から使い捨てにできることが求められます。また、デバイスにケーブル類を接続する必要がなく、さらに、電池交換などのメンテナンスが不要という特性も求められます。

こうした背景の中、有機トランジスターを用いた回路(有機集積回路)は、インクジェットなどの印刷プロセスによって高分子フィルムの上に容易に製造できるようになったため、大面積・低コスト・軽量性・柔軟性を同時に実現できると期待されています。特に最近は、有機集積回路を用いた生体向けセンサー・デバイスの開発が多数進められてきました。

しかし、このようなセンサー・デバイスは、電力や信号の送受信のために複数のケーブルをつなぐ必要があり、装着感に問題がありました。2013年度、本研究グループでは、ケーブル不要のワイヤレスで電力や信号の送受信ができるフレキシブルなワイヤレス・センサーを開発しましたが、送電距離に限りがあるため、電力を送る装置が近くに必要になるという課題がありました。そこで、電力の送電が不要なワイヤレス・センサーの技術開発が待たれていました。

<研究の内容>

本研究グループは、有機集積回路、温度センサー、フレキシブルな太陽電池とピエゾフィルムスピーカーで構成され、室内光で発電し、音で発熱を知らせる腕章型フレキシブル体温計の開発に成功しました(図1)。このフレキシブル体温計は人の上腕部に取り付けられ、体温を常時モニターします。そして、体温が設定したある温度を超えると「発熱している」と判断して、周囲に音で知らせる機能を持ちます。この一連の動作は全て、太陽電池で発電される電力で賄うことができるため、電池交換などのメンテナンスは不要です。

今回開発した腕章型フレキシブル体温計には次の3つの特徴があります。

まず1点目の特徴は、発熱を検知するセンサーです(図2)。フレキシブルな高分子フィルム上に形成可能な抵抗変化型の温度センサーが、今回新たに開発されました。さらに、発熱と判断する温度を外部から設定するための回路も合わせて実装されており、36.5℃〜38.5℃の間で自由に調節できることを実証しました。

2点目の特徴は、発熱を音で周囲に知らせるためのフレキシブルなブザーです(図3)。ブザーを鳴らすための回路は全て有機トランジスターでできており、音を発生させるスピーカー部分には、ピエゾフィルム注3)を用いています。両者の機械的な柔らかさを生かすことで、フレキシブルな電子ブザーを実現しました。このように、フレキシブルな有機集積回路とフレキシブルなスピーカーを用いて音を発生させたのは、世界で初めてのことです。なお、ブザー音の周波数は、人間の耳で聞こえてスピーカーの特性も良い3〜6kHzに設定されています。

3点目の特徴は、フレキシブルな体温計をさまざまな明るさの環境で使用可能にするための有機電源回路です(図4)。太陽電池は、環境の明るさに応じて出力電圧が変動します。従って、暗い部屋では電圧が低すぎて回路が動かず、逆に明るい部屋では電圧が高すぎて回路を破壊してしまいます。そこで、部屋の明るさに応じて電圧を調整する有機電源回路を今回、開発しました。この回路により、回路がない場合に比べて使用できる部屋の明るさの範囲を7.3倍に広げられることを実証しました。このような電源回路を有機トランジスターだけで実現したのは世界で初めてです。

なお、太陽電池とスピーカーには、市販のアモルファス・シリコン注4)を用いたフレキシブルな太陽電池と、ポリフッ化ビニリデン注5)を用いた圧電フィルムがそれぞれ用いられています。

<今後の展開>

今回の研究によって、太陽電池の電力だけで動作するエネルギー自立が可能なセンサーシステムが実現されました。温度以外にも、水分や圧力などのさまざまなセンサーに応用することも可能です。また、ブザー音だけでなく、数値などの情報を音にのせて送ることも原理上可能のため、発熱したかどうかだけでなく、体温の情報を送ったり、多点での測定結果を送ったりするなどの応用も期待できます。

一方で、太陽電池の電力だけで動作するシステムのため、夜間などの暗い環境では使用できないという課題があります。現在、フレキシブルな充電池やキャパシタの開発も進んでいますので、将来的には、昼間に電力を蓄え、夜間はその電力で動作することも可能になると考えられます。

<参考図>

図1 有機集積回路を用いた腕章型フレキシブル体温計

フレキシブルな太陽電池とスピーカーを搭載し、室内光による発電電力だけで動作するだけでなく、発熱を音で知らせることができる。

図2 高分子フィルム上に形成可能な抵抗変化型の温度センサー

図3 発熱を音で周囲に知らせるためのフレキシブルな電子ブザー

フレキシブルなスピーカーと有機集積回路を組み合わせることで、音を発生させることが実証できました。

図4 さまざまな明るさの環境で使用可能な太陽電池用の電源回路

電源回路は有機トランジスターだけで構成され、本回路を使用していない場合に比べて使用できる部屋の明るさの範囲を7.3倍拡大した。

<用語解説>

注1) 有機集積回路
有機トランジスターや有機ダイオードなどの有機半導体デバイスを集積化することによって特定の電気的な機能を実現した電子回路。
注2) ピエゾフィルムスピーカー
電圧をかけると体積が変化する特性を持つ「ピエゾ素子」(圧電素子ともいう)と樹脂フィルムを組み合わせた超薄型・軽量の音響デバイスのこと。
注3) ピエゾフィルム
プラスチックポリフッ化ビニリデン(注5参照)からつくられた圧電素子を、大面積で薄膜化したもの。圧電効果を有し、加工性が良い。従来のセラミック圧電素子と比較して、すぐれた柔軟性、耐衝撃性、耐水性、化学的安定性を備えている。
注4) アモルファス・シリコン
ケイ素を主体とする非晶質半導体で、太陽電池などに応用される。
注5) ポリフッ化ビニリデン
加熱すると軟化して変形しやすくなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可逆性)を有するフッ素系のプラスチック樹脂。耐薬品性がよく、難燃性のため、半導体製造装置部品、食品製造機械部品、産業機械部品、医療機器部品など幅広い分野で使われている。

<論文タイトル>

“Energy-Autonomous Fever Alarm Armband Integrating Fully Flexible Solar Cells, Piezoelectric Speaker, Temperature Detector, and 12V Organic Complementary FET Circuit”
(フレキシブルな太陽電池、ピエゾフィルムシート、温度センサー、および、有機トランジスター回路を用いたエネルギー自立可能な腕章型フレキシブル体温計)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

桜井 貴康(サクライ タカヤス)
東京大学 生産技術研究所 教授
〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
Tel:03-5452-6251/6253 Fax:03-5841-6252
E-mail:
URL:http://lowpower.iis.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

染谷 隆夫(ソメヤ タカオ)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-0411/6756 Fax:03-5841-6709
E-mail:
URL:http://www.ntech.t.u-tokyo.ac.jp/

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“Fever alarm armband: A wearable, printable, temperature sensor : Professor Takao Someya, Department of Electrical Engineering and Information Systems”