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平成27年2月4日

科学技術振興機構(JST)
群馬大学

PET樹脂の原料を食用に適さないバイオマス資源から作る方法を開発

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、群馬大学 大学院理工学府の橘 熊野 助教らは、汎用プラスチックとして普及しているポリエチレンテレフタレート(PET樹脂注1))の原料であるテレフタル酸注2)を食用に適さない(非食用)バイオマス注3)資源から簡便に生産する方法を開発しました。

PET樹脂は容器包装材料や繊維材料として利用されています。従来、PET樹脂は化石資源である石油や天然ガスから生産されており、COの排出削減・固定化の観点からもその原料を食料問題と競合しない非食用バイオマス資源へ転換することが特に望まれています。

橘 熊野 助教らは、非食用バイオマス資源から、PET樹脂の原料であるテレフタル酸を簡便な化学プロセスのみで合成することに成功しました。また、そのバイオマス炭素含有量注4)国際標準規格注5)を用いて測定することで、合成したテレフタル酸がバイオマス由来の炭素のみからできていることを証明しました。

バイオマス資源から汎用プラスチックが生産可能になれば、COの固定化につながります。特にPET樹脂は使用量が多いため、本方法が実用化されると計算上、日本国内だけで年間約97万トンのCO固定化となり、循環型社会構築に大きく貢献できると期待されます。

本研究は、群馬大学 大学院理工学府 木村 沙織 大学院生および、粕谷 健一 教授と共同で行ったものです。

本研究成果は、2015年2月4日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域 「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」
(研究総括:磯貝 彰 奈良先端科学技術大学院大学 名誉教授)
研究課題名 「フルフラールを出発原料とする汎用高分子モノマーライブラリの構築」
研究者 橘 熊野(群馬大学 大学院理工学府 助教)
研究期間 平成25年10月~平成29年3月

JSTは本研究領域において、植物の光合成能力の増強を図るとともに、光合成産物としての各種のバイオマスを活用することによって、二酸化炭素を資源として利活用するための基盤技術の創出を目的としています。

<研究の背景と経緯>

COの排出削減と化石資源への依存低減には、バイオマス資源の利活用が不可欠です。その活用例として、燃料に用いる「バイオディーゼル」や「バイオエタノール」の実用化が先行しています。現在、これらに加えさらなるバイオマス資源の利活用手段として、汎用プラスチックをバイオマス資源から製造しようとする試みが世界中で検討されています。

化石資源由来のエチレングリコールとテレフタル酸を原料として製造されているポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)は汎用プラスチックとしてさまざまな分野で利用されています(図1)。特に、飲料用ペットボトルや繊維材料としてPET樹脂は大量に使用されているために、飲料メーカーや繊維メーカーはバイオマス資源からのPET樹脂の生産方法の開発に注力しています。バイオマス資源からPET樹脂の製造例も出てきていますが、それらは「食べることができる」資源である食用バイオマス資源から製造をしているため、将来的には食料問題との競合が危惧されています。そのため、非食用バイオマス資源から製造するルートの開発が望まれます。

一方、工業的に生産されているフルフラール注6)という化合物は、木材や農業廃棄物を原料とする未利用バイオマス資源の1つであり、この化合物の利活用が望まれています。

<研究の内容>

橘助教らは、非食用バイオマス資源から工業的に生産されている化合物であるフルフラールからテレフタル酸を簡便な化学プロセスのみで合成することに成功しました(図2)。

本研究は、フルフラールのみを原料として、簡便な方法でテレフタル酸を合成した初めての例であり、これまでに産業化が検討されていた方法よりも高効率でテレフタル酸を合成することに成功しました。フルフラールは、大量に生産することが可能ですが、その用途が限られていました。本研究成果の普及はフルフラールの用途拡大につながり、循環型社会構築に向けて多大な貢献が期待できます。

また、国際標準規格に従いテレフタル酸に含まれるバイオマス炭素含有量を測定することにより、合成したテレフタル酸が100%バイオマス由来であることを証明しました。

<今後の展開>

今回の研究成果によって、食用に適さないバイオマス資源からPET樹脂原料であるテレフタル酸を製造できることを示しました。一方、すでに化石資源から生産されているプラスチックをバイオマス資源から製造して市販する際には、バイオマス資源からの製造コストを、可能な限り化石資源からの製造コストに近づける必要があります。フルフラールからテレフタル酸の製造に関しては、本成果のさらなる効率化によってコストダウンをすることは十分に可能です。非食用バイオマス資源からテレフタル酸の製造コストが低下すれば、世界中で利用されているPET樹脂の生産方法の置き換えが期待されます。仮に日本国内で生産されるPET樹脂全てを本方法で生産するとすれば、計算上は毎年約97万トンのCO固定化につながります。

<参考図>

図1 化石資源からPET樹脂の合成

化石資源である石油や天然ガスからパラキシレンとエチレンを分離します。化学プロセスによってそれぞれをテレフタル酸とエチレングリコールへと変換します。この2つの化合物を原料としてポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)が工業生産されています。PET樹脂は、繊維製品やペットボトル、電子機器の部材として利用されています。

図2 バイオマスからPET樹脂までの合成ルート

トウモロコシの実は、人間の食料や家畜飼料として利用されています。残った芯は化学的プロセスを経てフルフラールへと変換されます。このフルフラールから今回開発したプロセスを利用してテレフタル酸を得ます。このテレフタル酸をエチレングリコールと反応させることで、PET樹脂が製造できます。

<用語解説>

注1) PET樹脂
PETは、正式名称をポリエチレンテレフタレートと言い、エチレングリコールとテレフタル酸を原料として工業生産されています。ポリエステル繊維やペットボトルといった身近なプラスチックです。日本国内だけでも年間約53万トンが生産されています。
注2) テレフタル酸
現在は石油から抽出されるパラキシレンを原料として工業生産されています。PET樹脂などのポリステルの原料として利用されています。
注3) バイオマス
再生可能な生物(動物と植物)由来の資源のことです。植物は太陽エネルギーを使って水と二酸化炭素から有機物を作ります。動物はその有機物を食べることで成長します。植物も動物も最後は分解して水と二酸化酸素に戻ります。植物は再び太陽エネルギーを使って、それらから有機物を作っているため、石油などとは違い、何度も再生される資源です。
注4) バイオマス炭素含有量
化合物(プラスチック)に含まれる炭素のうち何%がバイオマス由来かを示しています。100%である場合、そのプラスチックは全てバイオマスから生産されていることを意味し、50%である場合、そのプラスチックの半分がバイオマスから生産されていることを意味しています。
注5) 国際標準規格ISO 16620-2
プラスチックに含まれるバイオマス炭素含有量の測定方法と評価方法を定めている日本提案で国際審議中の規格です。
炭素には12、13、14の質量数を持つ3つの同位体があります。炭素12と炭素13は安定ですが、炭素14は放射性炭素のために徐々に減少しますが、大気上層部では宇宙線の影響で炭素14が常に供給され続けています。その結果、大気中の放射性炭素14の割合は常に一定です。一方、木材などのバイオマスの中にCOが固定化されると、新たな放射性炭素14が供給されないために、その濃度は徐々に減少します。化石資源に含まれる炭素は数百万年前に固定化されたCOであるため、放射性炭素14の濃度はゼロです。つまり、放射性炭素14の濃度を測定することで、そのプラスチックに含まれるバイオマス炭素含有量を求めることができます。
http://www.iso.org/iso/home/store/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=63767
注6) フルフラール
トウモロコシの芯を原料として世界中で数十万トンが工業的に生産されており、バイオマス由来の安価な化合物として注目されています。利用用途が限定されているため、使用拡大には新たな用途開発が必要となっています。

<論文タイトル>

“Synthesis and Verification of Biobased Terephthalic Acid from Furfural”
(フルフラールからのバイオべーステレフタル酸の合成と評価)
doi: 10.1038/srep08249

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

橘 熊野(タチバナ ユヤ)
群馬大学 大学院理工学府 分子科学部門 助教
〒376-8515 群馬県桐生市天神町1-5-1
Tel:0277-30-1487 Fax:0277-30-1409
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーション・グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
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<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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(英文)“Successful development of a synthetic route for the production of the monomer used commodity plastics PET from the inedible cellulosic biomass.”