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平成27年1月22日

静岡大学
東京大学 大学院総合文化研究科 教養学部
科学技術振興機構(JST)

遠赤色光を吸収する光変換・蛍光タンパク質を発見
〜光スイッチや蛍光プローブへの応用に向けて〜

ポイント

静岡大学の成川 礼 講師ら研究グループは、遠赤色光を吸収して光変換する新規の光センサータンパク質を発見し、遠赤色光照射により蛍光を発することも見いだしました。

植物や藻類、シアノバクテリア注1)などの光合成をする生物は、光をエネルギーとして利用し、それ故に最重要な情報としても感知するため、高度な光応答機構を備えています。中でも、シアノバクテリオクロム注2)と総称される光センサーが、シアノバクテリアにおいて多様な光を感知し、走光性・光依存的な細胞凝集などの現象を制御していることが知られています。シアノバクテリオクロムは、フィコシアノビリン注3)という色素を結合するタイプとフィコビオロビリン注3)という色素を結合するタイプが知られていますが、それらの色素よりも長波長の光を吸収するビリベルジン注3)という色素を結合するシアノバクテリオクロムはこれまでに一切報告されていませんでした。

成川講師らは、通常の酸素発生型光合成生物が持つクロロフィル 注4)の代わりにそれよりも長波長の遠赤色光を吸収するクロロフィル 注4)を光合成色素として持つアカリオクロリス注5)というシアノノバクテリアから、フィコシアノビリンだけでなく、ビリベルジンも高効率で結合するシアノバクテリオクロム・AM1_1557g2を発見しました。

今回の発見は、ビリベルジンを結合して遠赤色光に応答するAM1_1557g2が、アカリオクロリスの光感知において、生理的機能を持っている可能性を示唆します。さらに、遠赤色光に応答し光変換する性質や、それよりも長波長の蛍光を発する性質は、光で細胞を制御するオプトジェネティクスや、細胞内の分子動態を可視化する蛍光イメージングなどの技術に将来的に資する可能性を秘めています。

本研究は、東京大学の池内 昌彦 教授、佐藤 守俊 准教授らと共同で行ったものです。

本研究成果は、オンラインのScientific Reports誌にて、2015年1月22日午前10時(英国時間)に公開される予定です。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題などによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
(研究総括:松永 是 東京農工大学 学長)
研究課題名 「多様な光スイッチ開発による細胞外多糖生産の光制御」
研究者 成川 礼(静岡大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 講師)
研究期間 平成23年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、藻類・水圏微生物には、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指しています。

科学研究費若手研究(A)

研究分野 ケミカルバイオロジー
研究課題名 「組織レベルのイメージングと光遺伝学に向けた遠赤色光プローブ/スイッチ開発」
研究者 成川 礼(静岡大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 講師)
研究期間 平成26年4月〜平成29年3月

<研究の背景と経緯>

植物や藻類などの光合成を行う生物は、光をエネルギーとして利用しており、それ故に、光を最重要な情報としても認識するために、高度な光応答機構を備えています。中でも、植物同様の酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアでは、光感知機構について詳細な研究が進められています。シアノバクテリアにおいては、シアノバクテリオクロム(CBCR)と呼ばれる光センサー群が、光の感知に重要な役割を果たしています。CBCRは、植物の赤色光と遠赤色光の量比を感知する光センサー・フィトクロムと相同性がありながら、青・緑色光センサー、赤・青色光センサー、赤・緑色光センサーなど、幅広い光質(光の色)を感知する多様な光センサーの存在が知られています。フィトクロムやCBCRは、開環テトラピロールという色素を共有結合します。開環テトラピロールは、動物の血液にも存在する閉環テトラピロール・ヘムの閉環構造が開裂した色素の総称であり、異なる光質を吸収する多様な色素が知られています。フィトクロムにおいては、生物種によって、フィトクロモビリン(植物)、フィコシアノビリン(PCB、シアノバクテリア)、ビリベルジン(BV、非光合成バクテリア)の三種類の色素が結合することが知られています(図1)。一方、CBCRに関しては、PCBを結合するものとフィコビオロビリン(PVB)を結合するものが知られています。PCBはPVBよりも長波長の光を吸収するため、PCB結合型CBCRは青〜赤色の比較的長波長の光を感知するのに対し、PVB結合型CBCRは紫外〜緑色の短波長の光を感知します。これまで知られている天然の開環テトラピロール色素では、BVが最も長波長の光を吸収するため、バクテリア由来のフィトクロムが最も長波長の光を感知するセンサーとして知られていました。一方、CBCRにおいては、BVを結合するタイプのものはこれまで全く報告されていませんでした。

シアノバクテリアは、地球上で初めて酸素発生型光合成を行ったと考えられており、現在も、世界中のあらゆる環境に生育しています。その生育環境の多様性に対応するように、そのゲノム配列も質・量ともに非常に多様化しています。現在までに、70種以上のシアノバクテリアのゲノム配列が解析されています。これらのゲノム配列中には、CBCRをコードする遺伝子が多数発見されています。我々は、多様なシアノバクテリアの中でも、Acaryochloris marina(アカリオクロリス)という特異なシアノバクテリアに注目しました。酸素発生型光合成を行う生物のほとんどが、光合成の反応中心色素として、675nm付近の光を吸収するクロロフィル を有するのに対し、アカリオクロリスは、クロロフィル の代わりに、710nm付近の光を吸収するクロロフィル を有します。我々は、光合成に利用する光の波長が長波長シフトしているため、アカリオクロリスにおいては、感知する光の波長も長波長シフトしている可能性を考えました。中でも、フィコシアノビリンを結合し、赤色光と緑色光の間で光変換するR/Gタイプと呼ばれるCBCRは、その結晶構造も明らかとなっているため(Narikawa et al.2013 Proc.Natl.Acad.Sci.U. S.A.)、このR/GタイプCBCRに着目し、PCBだけでなく、それよりも長波長の光を吸収するBVも結合できるかどうかを調べることを計画しました。

<研究の内容>

本研究では、アカリオクロリスのゲノム配列から、R/GタイプCBCRを探索し、候補遺伝子・AM1_1557を見いだしました。このAM1_1557の推定色素結合領域(AM1_1557g2)に相当するタンパク質を、PCBを産生する大腸菌とBVを産生する大腸菌でそれぞれ発現し、そのタンパク質を精製しました。PCB産生大腸菌から精製したタンパク質は、PCBを共有結合して赤色光と緑色光の間で可逆的に光変換しました(図2左)。この結果は、これまでのR/GタイプCBCRの結果とよく似ています。一方、BV産生大腸菌からもBVを共有結合したタンパク質が得られ、そのタンパク質は遠赤色光と橙色光の間で可逆的に光変換しました(図2右)。BVを効率よく結合するCBCRに関しては、これまで全く報告がなく、世界初の発見といえます。PCBと共有結合していると考えられるシステイン残基をアラニン残基に置換することで、BVとの結合能が完全に失われたので、BVとの共有結合にもPCBの場合と同じシステイン残基が寄与していることが明らかとなりました。

このBV結合型AM1_1557g2タンパク質の遠赤色光吸収型は、遠赤色光照射により730nmをピークとする蛍光を発しました(図3)。また、光変換することで、遠赤色光吸収型からの蛍光が増減する様子が、実体顕微鏡観察により確認できました。

<今後の展開>

本研究では、長波長である遠赤色光を感知するBV結合型CBCRであるAM1_1557g2を同定しました。AM1_1557g2は、遠赤色光を用いて光合成を行うアカリオクロリス由来であるので、アカリオクロリスが遠赤色光で効率よく光合成を行うために働いている光センサーである可能性が期待されます。今後は、アカリオクロリスにおける生理的な機能を解明していきたいと考えています。また、クロロフィル を用いて光合成を行う生物においては、遠赤色光はあまり光合成に用いられない光であるため、AM1_1557g2を光合成生物における光制御に利用することで、光合成の生産性をあまり下げることなく、制御が可能であると期待しています。現在、光合成による物質生産を制御するスイッチタンパク質としての開発を進めています。また、遠赤色光は動物組織においてもあまり吸収されないタンパク質であるため、動物の組織の奥深くの細胞を光で制御するためにも、AM1_1557g2は有用であると期待できます。さらに、遠赤色光吸収型は、730nmをピークとする蛍光を発しますので、遠赤色光の蛍光プローブとしても開発可能です。野生型のAM1_1557g2では、蛍光の量子収率が低いため、色素近傍のアミノ酸残基に変異を入れて量子収率の上がる変異体を取得し、蛍光プローブとして実用可能なタンパク質の開発を目指していく予定です。

<参考図>

図1

フィコシアノビリン(PCB、左)とビリベルジン(BV、右)の化学構造。赤丸で示した構造が両者で異なる。BVの方が二重結合の数が多く、そのためにより長波長の光を吸収する構造となっている。

図2

PCB結合型AM1_1557g2(左)とBV結合型AM1_1557g2(右)の光変換に伴う色変化。PCB結合型は、青色を呈する赤色光吸収型とピンク色を呈する緑色光吸収型の間で可逆的に光変換する。一方、BV結合型は、緑色を呈する遠赤色光吸収型と青色を呈する橙色光吸収型の間で可逆的に光変換する。

図3

BV結合型AM1_1557g2の遠赤色光吸収型は、730nmをピークとする蛍光を発する。左は、BV結合型AM1_1557g2の遠赤色光吸収型の蛍光スペクトルを示す。730nmをピーク波長とした蛍光を発していることが分かる。右は、タンパク質溶液を直接観察した写真(上)とタンパク質溶液から発せられた蛍光を直接顕微鏡で観察した写真(下)である。BV色素のみの場合、蛍光は検出されないが、BVとタンパク質の複合体では、蛍光が検出されるのが分かる。

<用語解説>

注1) シアノバクテリア
植物や藻類と同じ酸素発生型光合成を行うバクテリア。葉緑体と共通の起源を持つと考えられている。
注2) シアノバクテリオクロム
現在までのところ、シアノバクテリアのみから発見されている光センサー。植物で発芽などを制御する赤色光と遠赤色光の両比を感知する光センサーであるフィトクロムと似て非なる構造をしている。シアノバクテリオクロムは、フィトクロムと異なり、幅広い色の光を感知する多様な光センサーが同定されている。
注3) フィコシアノビリン、フィコビオロビリン、ビリベルジン
これらは全て、開環テトラピロールと総称される色素である。閉環テトラピロールであるヘムの閉環構造が開裂し、さらに多様な酵素によってそれぞれの色素が産生される。色素毎に吸収する光の波長が異なり、ビリベルジン、フィコシアノビリン、フィコビオロビリンの順番で、長波長から短波長へと吸収する光の波長が推移する。
注4) クロロフィル、クロロフィル
ともに光合成に用いられる色素であり、閉環テトラピロールにフィトール鎖が結合した構造を持つ。クロロフィルは675nm付近を吸収するのに対し、クロロフィル は710nm付近を吸収する。
注5) アカリオクロリス
シアノバクテリアの一種。学名はAcaryochloris marina。クロロフィル の代わりにクロロフィル を持つ特異なシアノバクテリアである。

<論文タイトル>

“A biliverdin-binding cyanobacteriochrome from the chlorophyll d -bearing cyanobacterium Acaryochloris marina
(クロロフィル を有するシアノバクテリアAcaryochloris marina から見いだされたビリベルジンを結合するシアノバクテリオクロム)
doi: 10.1038/srep07950

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

成川 礼(ナリカワ レイ)
静岡大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 講師
〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836
Tel:054-238-4783 Fax:054-238-0986
E-mail:

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)、古川 雅士(フルカワ マサシ)、松丸 健一(マツマル ケンイチ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
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<報道担当>

静岡大学 総務部 広報室
〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836
秋山 和廣(アキヤマ カズヒロ)
Tel:054-238-5179
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科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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