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平成26年12月19日

科学技術振興機構(JST)
東京大学 大学院工学系研究科

体に直接貼る生体情報センサーの開発に成功
〜粘着性ゲルによって、動いてもセンサーが剥がれない〜

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院工学系研究科の染谷 隆夫  教授、リー・ソンウォン 博士研究員らは、粘着性のゲルを開発し、湿布のように体に貼り付けるだけで生体情報を計測できるシート型センサーの作製に成功しました。

ビッグデータなど情報通信技術の目覚ましい発展に伴い、生体情報を計測する技術の重要性が増しています。計測の精度を良くするためには、センサーを測定対象に直接接触させることが理想的で、近年、センサーを生体に直接貼り付けた際の装着感や違和感を低減するために、高分子フィルムなど柔らかい素材の上に電子部品を作製する研究が活発に進められています。なかでも、生体に直接接触するセンサーの表面には、生体との親和性や粘着性など高度な性能を実現することが求められていました。

研究グループは、生体適合性に優れる素材だけで、粘着性があり、かつ光で特定のかたちに形成できるゲルを作ることに成功しました。このゲルを応用して、湿布のように体に貼り付けるだけで生体情報の計測を行うことのできるシート型センサーを実現しました。このシート型センサーは、人間の皮膚やラットの心臓の表面に直接貼り付けて、ひずみのような物理量や心電など生理電気信号を計測することができます。表面に粘着性があるため、ダイナミックに対象物の表面が動いても、シート型センサーは表面からずれたり取れたりすることなく長時間安定に計測が可能となりました。

今回の研究により、湿布や絆創膏のように体に直接貼り付けるシート型センサーを使って生体情報を計測する技術が一層発展し、ヘルスケア、スポーツ、医療、福祉など多方面で活用されることが期待されます。

本研究成果は、2014年12月19日(英国時間)に「Nature Communications」誌で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

研究プロジェクト 「生体調和エレクトロニクスプロジェクト」
研究総括 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成23年8月〜平成29年3月

上記研究プロジェクトでは、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が期待できる有機材料に着目し、生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する全く新しいデバイスの開発の実現を目指しています。

<研究の背景と経緯>

ビッグデータやモノのインターネット(Internet of Things:IoT)など情報通信技術の目覚ましい発展に伴い、実空間でさまざまな情報を計測する新しいセンシング技術が重要性を増しています。特に、人間の生体情報を計測する技術の研究開発が活発に進められています。その結果、腕時計型のウェアラブルデバイス注1)を装着しただけで、日常的な活動中に脈波が簡単に計測できるようになりつつあるなど、生体情報計測は目覚ましい発展を遂げています。

人間の運動や生体情報を精度良く電子的に計測するためには、センサーや電子回路を計測対象に近づける必要があります。特に、センサーを測定対象に直接接触させることによって、計測の信頼性を改善することができます。ところが、従来のエレクトロニクスは、シリコンを中心とした硬い電子素材で作られてきたため、硬い電子部品を生体に直接接触させた場合、装着時の違和感などが問題となってきました。また、硬いセンサーが、生体のダイナミックな運動と干渉するなどの問題もありました。

こうした中、高分子フィルムやゴムシートなど柔らかい素材の上に電子部品を形成する技術が盛んに研究開発されるようになりました。例えば、有機トランジスター注2)と呼ばれる柔らかい電子スイッチが、厚み1マイクロメートルの高分子フィルム上に形成され、曲げ半径10マイクロメートルまで折り曲げても壊れないデバイスが報告されています。このような柔軟性のある電子回路を生体に直接貼り付ける場合、生体と直接接触する表面にさらなる工夫が必要となります。具体的には、表面における生体との親和性を良くし、柔らかさを維持しながらも素材は丈夫であり、また湿った生体組織の上でもすべらずに安定したコンタクトを得るための技術が求められていました。

<研究の内容>

研究者らは、湿布のように体に貼り付けるだけで生体計測を行うことのできるシート型電子回路の作製に成功しました。この電子回路は、人間の皮膚やラットの心臓の表面に直接貼り付けて、ひずみのような物理量や心電など生理電気信号を計測することができます。また、シート型電子回路の表面は粘着性があるため、接触している表面がダイナミックに動いても、電子回路が体の表面からずれたり取れたりしません。

今回、研究グループは、厚さ1.4マイクロメートルの極薄のポリエチレンテレフタレート(PET)注3)という高分子フィルムに、高性能な有機トランジスターの集積回路を作製し、生体と直接接触する電極部分だけに粘着性のあるゲルを形成しました(図1図2a)。試作した集積回路は、4.8×4.8cm(平方センチメートル)の面積に144(12×12)個のセンサーが4ミリメートル間隔で配列されています。ゲル付きの電極は生体と直接接触し、生体からの電気信号を計測するセンサーとして機能します。この集積回路は、対象物がダイナミックに動いても、壊れません。例えば、膨らませたゴム風船の表面に張り付けて、100%の圧縮ひずみを加えるという実験では、電気性能が損なわれないことが示されました(図2b)。

開発の決め手は、生体適合性に優れる素材だけで、粘着性があり、かつ光で形成できるゲルを作ることに成功したことです(図1)。この新型ゲル素材は、ポリロタキサン注4)と呼ばれる環動ゲル注5)の中に、ポリビニルアルコール(PVA)注6)を均一に分散させて形成されます。光でさまざまな形に形成できるため、格子状に並べられたセンサーの電極部分だけにこの新型ゲルを形成できます(図2a)。また、新型ゲルは粘着性があるため、湿った生体組織と良好な接触を維持することもできます。従来の手法では、生体組織が動くと、生体表面と接触している電極の位置がずれたり、はがれたりするという問題がありましたが、この新型ゲルの開発によって、従来の問題を解決できました。

今回試作されたデバイスは、有機デバイスと粘着性ゲルの驚異的な柔軟性のため、ラットの心臓の表面に張り付けると、3時間以上にわたって良好なコンタクトを維持しました。その結果、信号の質のよい心電計測が実現できました。PVAは溶けて粘着性がなくなるので、計測後にはデバイスを心臓に負担を掛けずに簡単に外すことができます。さらに、同様の設計手法で、高感度で伸縮性のある、ひずみセンサーを試作しました。このセンサーを人の皮膚に直接貼り付けることによって、指の動きのような生体のダイナミックな動きを計測することができました(図3)。

研究グループは、2013年に、厚さ1マイクロメートル級の高分子フィルム上に有機トランジスターを作製し、タッチセンサーや筋電計測センサーに応用することに成功しています。今回の研究により、世界で初めて光で形成できる粘着性のゲルの開発に成功し、厚さ1マイクロメートルのセンサーを活用して、対象物がダイナミックに運動しても生体情報の計測が安定して長時間できるようになりました。

<今後の展開>

生体に直接貼り付けるだけで、生体のダイナミックな運動に追従できる多点計測のセンサーが実現できたことによって、ヘルスケア、スポーツ、医療、福祉など多方面への応用が期待されます。

従来のウェアラブルエレクトロニクスは、腕時計やメガネのように体に身に着けるアイテムに電子回路を導入して、モノのスマート化を進めてきました。一方で、本研究によって、湿布や絆創膏のような体に直接貼り付けるものにも電子部品を導入してスマート化することが可能になります。その結果、センサーシステムを体に貼り付けて、通常の生活をしながら、24時間ストレスなく生体情報を計測する技術に応用できると期待されます。

さらに、本研究による湿布のようなセンサーは、ラットを使った動物実験の段階ではありますが、皮膚だけでなく、心臓のような体内の組織にも貼り付けられることが示されました。将来は、体内埋植型電子システムに応用され、電子デバイスの応用範囲がより広がっていくことが期待されます。

<参考図>

図1 生体適合性に優れ、粘着性があり、光で形成できる新型ゲル

新型ゲルは、人の掌の形に追従して貼ることができます。また、新型ゲルの上に100円玉をのせて掌を振っても、ふり落ちないくらい表面に粘着性を有しています。

図2 新型のシート型センサー

シート型センサーは、極薄高分子フィルム上に有機トランジスター集積回路を作製した後で、電極部分だけに粘着性ゲルを形成して作製されます(a)。このセンサーを風船(白い部分)に貼り付けて、100%圧縮しても、壊れませんでした(b)。

図3 人の指に貼ったひずみセンサー

ひずみセンサーは薄くてしなやかであり、指にぴったりと密着させて貼り付けることができます。指の動きにより大きなひずみが加わっても、剥がれたり、壊れたりしません。

<用語解説>

注1) ウェアラブルデバイス
身に着けて簡単に持ち運ぶことのできるデバイスのこと。腕時計型やメガネ型のウェアラブルデバイスが普及し始めている。
注2) 有機トランジスター
電子スイッチであるとトランジスターのチャネル層に有機半導体を使ったもの。低温プロセスによって高分子フィルム上に簡単に製造できるため、軽量、薄型、曲げやすいなどの特徴を持つ。
注3) ポリエチレンテレフタレート(PET)
高分子であるポリエステルの一種。飲料容器のペットボトルや磁気テープの基材などとして広く用いられている。
注4) ポリロタキサン
リング状の分子の穴に棒状の分子を貫通させた構造を持つ分子を繋いで高分子にしたもの。車の塗料や人工筋肉などへの応用が進められている。
注5) 環動ゲル
化学的に架橋されていても、架橋されている点が自由に動ける高分子のこと。弾力性が高く、従来の樹脂とは異なる特性を持っている。
注6) ポリビニルアルコール(PVA)
ヒロドキシ基を持つために親水性を示す合成樹脂の一種。接着剤や界面活性剤などとして広く利用されている。

<論文タイトル>

“A strain-absorbing design for tissue–machine interfaces using a tunable adhesive gel”
(チューナブル粘着性ゲルを使った生体-機械インタフェースのためのひずみ吸収デザイン)
doi: 10.1038/ncomms6898

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

染谷 隆夫(ソメヤ タカオ)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-0411 Fax:03-5841-6709
E-mail:

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

東京大学 大学院工学系研究科 広報室
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-1790 Fax:03-5841-0529

(英文)“Biometric Information Sensor that directly adheres to the Body like a Compress
- With Adhesive Gel, the Sensor will stay in contact even in motions -”