JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成26年12月18日

科学技術振興機構(JST)
山形大学

多層構造を持つ低分子塗布型有機EL素子の開発に成功
〜印刷法でLED並の高効率白色有機ELパネル製造に道〜

ポイント

JST 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S−イノベ)の一環として、山形大学 大学院理工学研究科の城戸 淳二 教授、夫 勇進 准教授らの研究グループは、多層構造を持つ低分子塗布型白色有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)の開発に成功しました。

印刷技術を用いて製造コストを低減できる塗布型有機ELは、次世代のフラットパネルディスプレイや照明への応用が期待され、注目が集まっています。発光効率の向上が実用化に向けた課題の1つになっており、そのためには塗布によって有機材料を積層する技術の確立が望まれています。

研究者らは有機溶媒への溶解性を制御することで、これまでは一部の高分子有機EL材料によってのみ可能であった多層構造を低分子有機EL材料でも可能としました。これにより、塗布型有機EL素子における材料選択の自由度が大幅に広がり、印刷法でLED並みの高効率有機ELパネルを製造することができました。開発した塗布型白色有機EL素子は、世界最高水準のLED照明に匹敵する高い電力効率76ルーメン毎ワット(lm W−1)(光取り出し基板使用時)を達成しました。

この研究成果により、塗布型有機EL素子の高性能化に向けた材料開発が加速されることが期待されます。

本研究成果は、2014年12月18日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」にてオンライン公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

事業名 研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進(S−イノベ)
研究開発テーマ名 「有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発」
(プログラムオフィサー:谷口 彬雄 信州大学 名誉教授・特任教授)
研究課題名 「印刷で製造するフレキシブル有機EL照明の開発」
プロジェクトマネージャー 城戸 淳二(山形大学 大学院理工学研究科 教授)

上記研究課題では、白熱電球や蛍光灯を代替する高効率・長寿命な白色有機EL照明の開発を目的としています。そのために、印刷・塗工可能な高効率リン光材料群の開発、高効率・長寿命化を支える印刷・塗工プロセスに適したホールおよび電子輸送材料やホスト材料の開発、多積層マルチフォトン構造を可能とする材料不溶化技術や溶解性制御技術、大面積薄膜印刷・塗工プロセスの高精度化や高速化技術の開発を実施し、ロールツーロール印刷・塗工プロセスの可能性検証も行います。また、超バリアフィルム基板の検討も実施します。

<研究の背景と経緯>

次世代のフラットパネルディスプレイや照明を製造する過程において、印刷技術を用いた低コストな塗布型有機ELが注目されています。実用化に向けた課題の1つである発光効率の向上には、異なる有機材料を積層し、電荷輸送や発光といった機能を各層に分離することが有効です。しかし、塗布により有機材料を積層するには、塗布溶媒による下層の再溶解を防ぐ必要があります。したがって、これまで下層に使用できる材料は、耐溶媒性に優れた一部の高分子材料に限られ、高純度化や分子構造の制御が容易な低分子材料でも積層構造を形成する技術が望まれていました。

<研究の内容>

17種類の低分子有機EL材料(図1)を薄膜(30nm)にしたときの溶解性を詳細に調べた結果、分子量の増加とともにアルコール類への溶解性が減少し、分子量800程度を閾値として不溶化することを明らかにしました(図2)。

アルコール(2−プロパノール)に不溶性を示した低分子13と16をホスト材料として「発光層」を形成し、その上層に低分子電子輸送材料(BPOPB;ビス ダイフェニルホスフィンオキサイドフェニル ベンゼン)を2−プロパノールを用いて塗布成膜して、「電子輸送層」を形成しました。

「電子輸送層」と「発光層」の積層構造薄膜の表面に、イオンビームを照射して、エッチングと飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)注1)を行って薄膜の深さ方向の組成を測定しました。その結果、発光層成分の再溶解が抑制された積層構造が形成されており、2つの層が混ざり合うことなく積層されていることが明らかとなりました。

上記の電子輸送層と発光層の積層構造を用いて、塗布型白色有機EL素子(図3)を作製したところ、輝度100(cd m−2)時に世界最高水準の電力効率34(lm W−1)を示しました。さらに、半球レンズを用いてガラス基板と空気界面で全反射していた光を取り出すと、市販の蛍光灯やLED照明に匹敵する76(lm W−1)まで高効率化に成功しました(図4)。

<今後の展開>

本研究成果より、低分子有機EL材料を塗布により積層する技術を確立することができました。低分子材料は、高分子材料よりも材料の高純度化や分子構造の制御が容易であるため、塗布型有機EL素子の高性能化に向けた材料開発が加速されることが期待されます。

今後、塗布により複数の有機ELユニットを積層した素子構造を形成することにより、高輝度時の発光効率の低下抑制や長寿命化を実現し、塗布型有機ELの早期実用化を目指します。

<谷口 彬雄 プログラムオフィサー(PO)コメント>

塗布型有機EL素子に低分子有機EL材料の使用を可能とし、材料選択の自由度を大幅に広げ、印刷法でLED並の高効率白色有機ELパネル製造に道を開きました。これにより、有機EL照明への展開が期待されます。

<参考図>

図1 17種類の低分子有機EL材料(カルバゾール系低分子有機EL材料)

図2 図1の材料のアルコール類への溶解性

図3 発光層と電子輸送層の積層構造を用いて作製した、塗布型白色有機EL素子

図4 素子の電力効率(lm W−1)と外部量子効率(%)、輝度(cd m−2

<用語解説>

注1) 飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)
固体表面に一次イオンを照射することにより、スパッタアウトされた二次イオンを飛行時間型の質量分析器を用いて分析して、得られるスペクトルより試料表面の構造解析を行う手法。

<論文タイトル>

“Solution-processed multilayer small-molecule light-emitting devices with high-efficiency white-light emission”
(低分子材料の多積層塗布による白色有機EL素子の高効率化)
doi: 10.1038/ncomms6756

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

城戸 淳二(キド ジュンジ)
山形大学 大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻 教授
〒992-8510 山形県米沢市城南4−3−16
Tel:0238-26-3052
E-mail:

夫 勇進(プ ヨンジン)
山形大学 大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻 准教授
〒992-8510 山形県米沢市城南4−3−16
Tel:0238-26-3595
E-mail:

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 産学連携展開部 S−イノベ・共創グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3238-7682
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

山形大学 工学部 広報室
〒992-8510 山形県米沢市城南4−3−16
Tel:0238-26-3419
E-mail:

(英文)“Solution-Processed-Multilayer Small-Molecule Light-Emitting Devices: White Emission with High Efficiency”