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平成26年11月18日

九州大学
科学技術振興機構(JST)
東京大学

光の任意の偏光状態を磁性体に書き込み・読み出すことに成功

九州大学 大学院理学研究院の佐藤 琢哉 准教授と東京大学 生産技術研究所の志村 努 教授、飯田 隆吾 博士(研究当時大学院生)は、フリードリッヒ・アレクサンダー大学 エアランゲン・ニュルンベルグ(ドイツ)の樋口 卓也 博士、チューリッヒ工科大学(スイス)のマンフレッド・フィービッヒ 教授と共同で、光パルス注1)の任意の偏光状態注2)を磁性体の磁化振動注3)モードとして転写し、それらを情報媒体として書き込むことに成功しました。また、時間的に遅れて照射された別の光パルスを用いて磁化振動モードを読み取り、元の偏光状態の情報を失うことなく読み出すことに成功しました(図1)。この成果は、光が持つ偏光自由度を用いた多重度・偏光メモリーの研究開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2014年11月17日16時(英国時間)に、英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に掲載されます。

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域 「光の利用と物質材料・生命機能」
(研究総括:増原 宏 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 特任教授/台湾国立交通大学 講座教授)
研究課題 「フェムト秒光波制御による超高速コヒーレントスピン操作」
研究者 佐藤 琢哉 九州大学 大学院理学研究院 准教授
(平成26年3月まで東京大学 生産技術研究所 助教)
研究期間 平成22年10月〜平成26年3月

<背景>

磁性体は不揮発性を持つことからS/N極を記録媒体として広く利用されてきましたが、他にも多様でかつ特異な性質を持ちます。例えば、反強磁性体注4)は磁場を加えなくても数テラヘルツ注5)の共鳴周波数を有するため、超高速に動作する素子としての可能性を秘めています。

光を磁性体に照射したときに、磁化の向きなどの性質が変わる効果を光磁気効果と呼びますが、実際、照射する光の偏光状態によってその効果が変わる磁性体が存在します。これまでに円偏光の光を照射すると磁化の向きが高速に回転することが示されていますが、まだ基礎的な研究レベルに留まっています。他方、直線偏光の光による光磁気効果は光磁気(MO)ディスクやミニディスク(MD)として商品化されていますが、磁性体の性質が変わる理由は光の吸収による加熱効果であり、偏光の自由度を活かしたものではありません。このように光が持つ偏光自由度を最大限に活用して非熱的・超高速に磁気情報の制御を行う研究や開発は、ほとんど例がありませんでした。

<内容>

本研究ではまず、3回対称性注6)を持つ反強磁性体(図2)に注目しました。この性質を持つ六方晶YMnO(Y:イットリウム、Mn:マンガン、O:酸素)は、3つの直交する独立な磁化振動モードを示します。ここに偏光ストークスパラメータ注2),S,S図1左)の光パルスを照射すると、それぞれXモード、Yモード、Zモードの磁化振動モード(図1中、図3)が誘起されます。これは光の3つの偏光自由度すべてを独立に磁化振動モードという形で転写できたことを意味します。さらに光パルスに対して時間的に遅れて照射された別の光パルスを用いて、この3つの磁化振動モードを独立に読み出すことに成功しました(図1右)。また、偏光がねじれたダブル光パルスを用いて、約1テラヘルツで回転運動する磁化振動モードを単結晶系で引き起こすことにも初めて成功しました。この結果は、振動モードのそれぞれに「重ね合わせの原理注7)」が成り立ち、ポアンカレ球注2)上の任意の点で示される偏光を持つ光パルスの偏光情報を、磁性体に書き込み、またそれを別の光パルスで読み出せることを意味しています。

<効果・今後の展開>

従来の偏光メモリーは、偏光ストークスパラメータS,S,Sのうちのどれか1つのパラメータの符号(±)を「0」と「1」のビット情報として記録していました。本研究の成果により、3つのパラメータをすべて用いて光の任意の偏光を保存する多重度・偏光メモリーの研究・開発が可能になるものと期待されます。

また、本研究で得られた回転運動する磁化振動モードは円偏光のテラヘルツ電磁場パルスを放出すると予想しています。これによりテラヘルツ周波数帯での円二色性や光学活性を調べることが可能になり、セキュリティチェック、医療診断、分子構造解析、建物の非破壊検査など、幅広い分野での応用が期待されます。

<参考図>

図1

光の任意の偏光状態を1対1に磁性体に書き込み、1対1に光で読み出す概念図。ポンプ光のストークスパラメータと反強磁性体YMnOの磁化振動モード、プローブ光のストークスパラメータの変調の間の1対1対応を表す。

図2 YMnOのMn3+磁気モーメントにおける3副格子(M,M,M)の反強磁性的配列

図3 磁化振動モード(X,Y,Zモード)

<用語解説>

注1) 光パルス
短時間のみONとなる光。パルスの時間幅が短いほど、波長の帯域幅が広くなる性質があります。
注2) 偏光・ストークスパラメータ・ポアンカレ球
光は電磁波であり、電場と磁場は光線の進行方向と垂直に振動します。電場面の振動方向を偏光面といい、それが伝播に伴って時間的に不変ならば光は直線偏光、円弧を描くならば円偏光と呼びます。光の任意の完全偏光状態は3つのストークスパラメータ(S,S,S)で表現できます。図1左のようなポアンカレ球を用いると、ストークスパラメータは球上の1点に対応します。赤道上の点はすべて直線偏光であり、経度は偏光の方位角を表します。北極と南極では円偏光、それ以外の点では楕円偏光となり、経度は楕円率を表します。
注3) 磁化振動
磁化とは、物質がマクロに磁気を帯びるとき、その単位体積当たりの量を磁化といいます。磁化は、ある周波数においてマイクロ波を吸収し共鳴振動します。これを磁化振動と呼びます。磁化振動は、可視光を照射することでラマン散乱過程によっても誘起することができ、これが本研究におけるメカニズムになっています。
注4) 反強磁性体
強磁性体は磁石に吸い付くのに対し、反強磁性体は磁石に吸い付きません。これは、反強磁性体の内部で隣り合うスピンが互いに反対方向を向き、全体として磁化が相殺されているためです。内部では強いスピン間相互作用が働いているため、共鳴周波数は数テラヘルツにも達することがあります。
注5) テラヘルツ
1テラヘルツは1秒間に10の12乗回、つまり1,000,000,000,000回の振動数です。
注6) 3回対称性
ある軸を中心に3分の1回転させると、元の形と同じ形になる性質です。
注7) 重ね合わせの原理
つの振動モードの変位が、ある時刻・位置でX,Xであるとし、その合成振動モードの変位Xが、X=X+Xのような単なる和で表されるとき、重ね合わせの原理が成り立つといいます。

<発表雑誌>

雑誌名 Nature Photonics 2015年1月号
論文タイトル “Writing and reading of an arbitrary optical polarization state in an antiferromagnet”
著者 Takuya Satoh, Ryugo Iida, Takuya Higuchi, Manfred Fiebig, Tsutomu Shimura
doi 10.1038/NPHOTON.2014.273

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

九州大学 大学院理学研究院 准教授
佐藤 琢哉(さとう たくや)
〒812-8581 福岡県福岡市東区箱崎6−10−1
Tel:092-642-3895
E-mail:
URL:http://www.phys.kyushu-u.ac.jp/ocmp/

東京大学 生産技術研究所 教授
志村 努(しむら つとむ)
〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
Tel:03-5452-6139 Fax:03-5452-6140
E-mail:

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
古川 雅士(ふるかわ まさし)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町ビル
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

<報道担当>

九州大学 広報室
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
Tel:092-802-2130 Fax:092-802-2139
E-mail:
URL:http://www.kyushu-u.ac.jp

東京大学 生産技術研究所 総務課総務・広報チーム
山田 隆治(やまだ たかはる)
〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
Tel:03-5452-6017 Fax:03-5452-6071
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科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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