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平成26年11月5日

東北大学
科学技術振興機構(JST)

災害時でも必ずつながり、市民生活に革新をもたらす
情報通信ネットワークの実現に貢献
ディペンダブル・エアを提案

国立大学法人 東北大学 電気通信研究所の坪内 和夫 名誉教授のグループは、災害時でも必ずつながり、市民生活に革新をもたらす情報通信ネットワークとして、複数の異種無線通信方式の融合による高信頼・高速無線通信ネットワークである「ディペンダブル・エア(Dependable Air)」の提案を行います。準天頂衛星システム注1)により実現される高精度な時刻情報(ナノ秒精度)・位置情報(センチメートル精度)や双方向通信機能を活用し、さらに複数の異なる無線通信システムを融合することで、地上インフラを完全喪失した場合にも必ずつながる新たな情報通信ネットワークへの進化を目指します。

本研究開発は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」(研究総括 浅井 彰二郎)における研究課題「ディペンダブルワイヤレスシステム・デバイスの開発」(研究代表者 坪内 和夫)での成果です。本研究開発では、東京工業大学、高知工科大学、広島大学、富山高等専門学校、三菱電機株式会社と共同研究を行っております。また、日本電気株式会社、ソフトバンクモバイル株式会社の協力を得ております。

本成果の詳細な技術的内容は、2014年11月4日(火)〜7(金)に宮城県仙台市の仙台国際センターで開催される国際会議「APMC2014(2014年アジア・パシフィックマイクロ波会議:Asia−Pacific Microwave Conference 2014)」にて発表します。

<研究開発の背景・目的>

携帯電話やスマートフォンなどの普及に伴って、10年後には必要となる通信回線の容量が1、000倍になるという試算が出ております。これは、現在の携帯電話システムの改良だけでは収容できる大きさではありません。また、東日本大震災時には、携帯電話の利用が集中したために輻輳(ふくそう)(回線の混雑)が起こり、電話やメールが使いづらい状況が生じました。

これらの問題を解決する手段として、本研究開発では「ディペンダブル・エア(Dependable Air)」を提案します。複数の異なる通信手段を利用できる環境において、携帯電話やスマートフォンが適切な通信回線を選択することで、いかなる状況においてもネットワークにつながることができる環境を提供します。

図1に「ディペンダブル・エア」の概念図を示します。「ディペンダブル・エア」は3つの通信環境(3S)を統合し、これらの環境のいずれにおいても通信できることを目指しております。

・第1のS〜Space(宇宙)
準天頂衛星システム(QZSS)は、GPS(Global Positioning System)と同様に位置情報と時刻情報を地上の端末に提供できる日本独自の衛星測位システムです。この準天頂衛星システムには、東日本大震災以降に安否確認システムという新たなミッションが加えられました。地上の携帯電話などから通信衛星に対して直接情報を送り、近親者間での安否確認や行政機関の救援活動などに利用されます。
本研究開発においては、この準天頂衛星システムを用いた安否確認システムを実現するために、QZSSロケーション・ショートメッセージSS−CDMA注2)通信方式(後述)について研究開発を行っています。
・第2のS〜Surface(地上)
地上の通信システムは、準天頂衛星システムによって高精度な位置・時刻情報を利用することができるようになります。携帯電話やスマートフォンは高精度位置・時刻情報を利用することで、その位置における適切な手段を即時に判断できることにより、利用者が複数のシステムを利用していることを意識することなく、快適かつ信頼性の高い通信を行うことが可能となります。
本研究開発では、高精度位置情報を用いた異種無線融合システムのネットワーク選択手法(後述)の研究開発を行っています。
・第3のS〜Sea(海洋)
地球上のすべての場所において通信できる環境を実現するためには、海洋における通信も今後重要になってくると考えられます。例えば、海洋の船舶との通信においては、より高速な衛星通信システムが必要になってくると考えられます。また、水中での通信も重要な要素の1つになります。

図1 ディペンダブル・エアの概念図

<本研究開発の成果>

本研究開発では、日本独自の衛星測位システムである準天頂衛星システムなどにより提供される高精度な位置情報(センチメートル精度)・時刻情報(ナノ秒精度)を用いて、時刻同期型の情報ネットワークを実現することで、信頼性の高い社会インフラの実現を目指します。

本研究開発における成果のうち、準天頂衛星システムを用いたロケーション・ショートメッセージSS−CDMA通信方式と、QZSS高精度位置情報を用いた異種無線融合システムのネットワーク選択手法について、以下で説明します。

(1)準天頂衛星システムを用いたロケーション・ショートメッセージ SS−CDMA通信方式

図2に、QZSSロケーション・ショートメッセージSS−CDMA通信システムの概念図を示します。本システムは、携帯電話やスマートフォンなどの携帯端末が直接準天頂衛星システムの通信衛星に対して、端末の位置情報や安否確認のためのメッセージを送るシステムです。

本研究開発では、SS−CDMA(スペクトラム拡散・符号分割多元接続)方式により、携帯端末が、端末に搭載可能なアンテナや送信電力(1W)を用いて約36,000kmの距離にある通信衛星と通信可能であることを示しました。図2(b)に本方式で用いられる携帯端末の構成を示します。QZSS高精度測位信号を利用することで全無線局を高精度に時間・周波数同期し、上りリンク(端末から通信衛星への通信)で各端末からの信号を干渉なく復調することができます(CDMA拡散符号直交の実現)。これまでの回線設計の結果、計算機シミュレーション上では1時間あたり300万端末を超える端末収容数を実現できます。

図2 時間・周波数同期を用いたQZSSロケーション・ショートメッセージ SS−CDMA通信方式

(2)QZSS高精度位置情報を用いた異種無線融合システムのネットワーク選択手法

10年間で1,000倍必要となると言われる通信回線容量を確保するためには、携帯電話の基地局や無線LANのアクセスポイントを高密度に配置することが有効ですが、一方で端末が検出すべきネットワーク数(基地局・アクセスポイントの数)の増大により、最適なネットワーク選択が難しくなります。一般に、端末はネットワーク検出のために各ネットワークの基地局・アクセスポイントから報知されるビーコン信号を捕捉することで、通信品質の良好なネットワークを選択します。しかし、端末は常にビーコン信号を調べる必要があり、これらが測定時間や携帯端末の消費電力の増大につながります。

図3に高精度位置情報を用いた異種無線融合システムのネットワーク選択手法を示します。本提案手法では、ネットワーク選択のために端末の高精度位置情報とマップ情報を用いています。高精度位置情報の取得には、準天頂衛星システム(QZSS)やGPSの信号を用います。マップ情報は制御局にて作成される情報で、ある位置における信号品質やネットワークの混雑状況があらかじめ判明しており、接続すべきネットワークの優先順位がつけられています。

各端末は従来手法のように端末自身でのネットワーク検出や信号品質測定を行うことなく、自身の位置情報とサーバ側から提供されるマップ情報を用いてネットワークを選択できます。マップ情報はサーバから報知されるとともに、端末からデータ回線を通じて要求するなど個別の提供を受けることも可能です。マップ情報の作成や取得などに必要な通信はリアルタイムに行う必要がないため、空き時間を用いることでネットワークへの負荷が軽減可能となります。

図3 高精度位置情報を用いた異種ネットワーク選択

<用語解説>

注1) 準天頂衛星システム(QZSS:Quasi−Zenith Satellite System)
GPSと同様に位置情報と時刻情報を地上の端末に提供できる日本独自の衛星測位システム。日本上空においてほぼ天頂の高仰角な位置に1日あたり8時間程度留まることができる非対称な8の字軌道を持つ準天頂衛星などを複数機用いて構成される。この準天頂衛星の特徴により、高層ビルの多い都市部や山間部などGPS(Global Positioning System)信号を受信しにくい地域においても、常時、高精度な測位を可能とするものとして期待される。2010年9月に打ち上げられた準天頂衛星1号機(みちびき、QZS−1)を用いて、現在、高精度測位の実証実験が行われている。今後、QZSSは2010年代後半を目途にまずは4機体制(みちびきを含めた準天頂衛星3機・静止衛星1機)で整備され、将来的には持続測位が可能となる7機体制とする方針が政府の閣議決定などによって示されている。
注2) SS−CDMA(スペクトラム拡散・符号分割多元接続、spread spectrum code division multiple access)
スペクトラム拡散(SS)は、拡散符号を用いることで通信の信号を本来よりも広い帯域に拡散して通信することで、雑音や干渉に強く、長距離通信可能でかつ秘匿性に優れた技術である。また、符号分割多元接続(CDMA)は、同一の周波数帯域内で異なる拡散符号を用いることで、複数の通信(多元接続)を同時に行うことができる技術である。SS−CDMA方式は、このSSとCDMAの両者の特長を用いた方式である。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

東北大学 電気通信研究所 21世紀情報通信研究開発センター(IT−21センター)
名誉教授 坪内 和夫(連絡担当:准教授 亀田 卓)
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2−1−1
Tel:022-217-6121 Fax:022-217-5533
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