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平成26年8月6日

山口大学
科学技術振興機構(JST)

培養自己骨髄細胞による低侵襲な肝臓再生療法が臨床研究開始へ

ポイント

厚生労働省の科学技術部会は7月18日(金)、山口大学医学部附属病院から申請されていたヒト体性幹細胞を用いる臨床研究の実施計画を了承しました。この研究は、坂井田 功 教授(山口大学 大学院医学系研究科消化器病態内科学、プロジェクトリーダー)らの研究グループ(分担:寺井 崇二 准教授プロジェクトマネージャー、高見 太郎 講師、丸本 芳雄 助教)によって計画されたもので、進行した非代償性肝硬変の患者さんから局所麻酔下に骨髄液を約30ミリリットル採取し、それを培養装置内で約3週間培養して骨髄間葉系幹細胞を含む細胞群を増やし、品質・規格・安全性の評価を行った後、その細胞を懸濁液として、採取された患者さんの腕の静脈から点滴投与により体内に戻すというものです。この治療法の作用の仕組みとして、肝臓に集積した骨髄間葉系幹細胞が、肝硬変の局所に働いて蓄積した線維を減少させることが考えられています。この臨床研究の目的は、主として安全性を確認することであり、投与6ヶ月後まで有害事象の発生頻度を観察し、併せて肝臓機能を調べて効果についても推測します。

この骨髄細胞の培養に関して、坂井田教授のグループは先端医療振興財団(神戸市)との共同研究として体制を整えてきました。山口大学医学部附属病院では、厚生労働大臣の正式な承認を得た後、諸準備を整えて必要な手続きを経てから、10名の非代償性肝硬変の患者さんを対象として開始することを計画しています。

この研究の一部は、科学技術振興機構(JST)の事業「再生医療実現拠点ネットワークプログラム−再生医療の実用化ハイウェイ」の委託研究の成果であり、骨髄細胞の培養方法や治療に用いる細胞の品質や安全性を調べる研究はJSTの研究支援を受けて行われました。

<背景>

肝硬変は、様々な肝臓疾患が慢性的に進行した末に最終的にたどり着く病態です。肝硬変になると、肝臓は肉眼的にわかるほどの大きさのびまん性の結節のために硬くなり、これを顕微鏡で見ると肝臓には線維が密集し肝小葉を取り巻くような隔壁が形成されているのが観察されます。このような状態では、肝細胞は十分には増殖できず機能も低下してしまいます。肝硬変に至る肝臓病は、肝炎ウイルスの感染やアルコールなどいくつかの原因によって生じますが、いずれも慢性肝炎を経て、数十年をかけて最終的には肝硬変へと進行していきます。

肝硬変の患者数は日本には30万人、世界中では2,000万人ほどいるとされ、そのうち特に深刻な病態である非代償性肝硬変の患者数は、約3万人と推計されています。進行した非代償性肝硬変の内科的な根治療法は確立していないため、外科的な肝移植が唯一の治療法とされています。しかしながら、2012年の国内における肝移植の症例数は、脳死27件、生体366件の計393件にとどまっています(日本肝移植研究会、移植vol48, 362-368)。

一方、ウイルス性肝炎に対する治療薬は、主に海外の製薬会社により開発が行われており、その多くは肝炎ウイルスの増殖を抑えるなどして、患者さんの体から排除させます。これらの薬剤による治療がうまくいけば、病気の完治ないし進行を遅らせることが期待できます。しかし、すでに進行した非代償性肝硬変になった患者さんの根本的な治療は、肝移植が唯一の方法となっています。その肝移植には深刻なドナー不足や高額な医療費という問題、さらに生体肝移植の場合は健康な肝臓を部分的に取ってしまうというドナーの負担や手術に伴う危険性も皆無ではないなどの問題もあり、肝移植に代わる治療法の開発が待ち望まれています。

坂井田教授らの取り組んでいる新しい治療法は、局所麻酔下に肝硬変の患者さん自身の骨髄から骨髄液を採取し、それを体外で約3週間培養して骨髄間葉系幹細胞を含んだ細胞群を増やし、その細胞懸濁液を、同じ患者さんへ腕などの血管(末梢静脈)から通常の点滴と同じように投与するというものです。この治療を施すと、肝硬変の原因となっている隔壁を構成する線維が減少して、肝硬変の状態が改善し肝機能も回復することが、これまでの動物を使った研究からわかっています。

<この臨床研究の要点>

・対象患者さんは、非代償性肝硬変で原因を問わず、現行の内科的治療法では改善が見込めないこと。

・骨髄採取は、血液内科で行われている方法と同様、局所麻酔下で腸骨から骨髄液を約30ミリリットル採取して、山口大学医学部附属病院の再生・細胞治療センターにおいて赤血球を除いてから約3週間培養し骨髄間葉系幹細胞を含む細胞群を採取する。

・得られた細胞(約2x10個)の懸濁液を末梢静脈から点滴投与する。

・安全性を確保するため、定められた手順に従って細胞培養と品質管理を行う。投与後は、有害事象が発生しないなどの安全性を調べることを目的に観察と検査を定期的に行う。

・臨床研究は、山口大学医学部附属病院で非盲検の第T相試験として、目標症例数10例、実施期間4年間として実施する。

・主要評価項目は、6ヶ月後までに生じた有害事象の発生頻度で、副次評価項目として肝機能、症状等について6ヶ月後の変化量を観察する。

・患者さんに対しては、説明同意文書を用いて担当医師から説明し同意(インフォームドコンセント)を得たうえで臨床研究に参加して頂く。

<山口大学で既に実施されている臨床研究について>

坂井田教授らは2003年11月より、世界で最初に肝硬変の患者さんに自己骨髄液に含まれる骨髄細胞をそのまま(非培養で)投与する治療法(自己骨髄細胞投与療法、Autologous Bone Marrow Cell infusion, ABMi 療法)の臨床研究を開始し、2013年には先進医療Bとして承認されました。現在、その効果を確認する臨床研究が進行中です。この非培養骨髄細胞を用いた治療法は、全身麻酔下に約400ミリリットルの骨髄液を患者さんから採取し、洗浄濃縮した骨髄細胞を点滴投与するというものです。対象となる患者さんは、肝硬変の状態が全身麻酔に耐えられることなどが必要であり、対象が限られることが課題です。今ではこの非培養治療法は、ヨーロッパやアジアの新興国でも行われるようになっています。

今回了承された臨床研究とこの先進医療Bとして実施されている非培養治療法(自己骨髄細胞投与療法:ABMi 療法)との違いをまとめると、今回の臨床研究では約30ミリリットルという少量の骨髄液を局所麻酔下に採取するため、入院しなくてもできることが挙げられます(もちろん安全性を確保するため、本臨床研究では入院して行います)。また、培養を始めて3週間ほどで細胞数が増えたところで懸濁液を調製し、外来(本臨床研究では入院)で点滴により患者さんに戻すだけなので負担が軽減され低侵襲であることも違いです。あくまでも将来の可能性としてですが、この研究で良い結果が得られた場合には、臓器が線維化のために硬くなる他の病気(肺線維症や腎硬化症など)への応用も考えられます。

<今後の予定>

厚生労働大臣からの正式な承認がおりて、臨床研究実施のための手続きなどの諸準備が整った段階で臨床研究を開始します。患者さんの募集については、臨床研究を開始する準備が整った段階で山口大学医学部附属病院のホームページなどで発表する予定です。

<今後の課題>

少量の骨髄液から細胞を効率よく安定して培養し、生きたまま回収できるようになるまでが大変でしたが、これは実現できるようになりました。今後は、このような業務に携わる人材育成が再生医療の発展には欠かせず、細胞を取り扱うプロフェッショナルな培養技術者が必要です。日本再生医療学会でもそのような人材を育てるために臨床培養士認定制度を設けています。また再生医療の臨床研究を行うには、高額な施設を整備する必要があり、このコストを下げることも課題です。そのためには、多くの企業の参入が必要とされています。

<将来的な発展>

今後は、安全性を確保したうえで細胞をより効率良く大量に培養する方法の開発、培養期間の短縮などの培養方法の改良、培養細胞を凍結保存し繰り返し投与することで効果を高める方法の開発、末梢血管以外からの投与経路の検討などが必要となってきます。また将来的には、自分自身の細胞だけでなく、肝移植がこれまで辿ってきた道(生体肝移植から脳死肝移植への移行)を参考にして、親族を含む自分以外の細胞を用いた効果的な治療法の開発へとつなげていきたいと考えています。さらにはiPS細胞を活用して治療に適した細胞を大量に作ることができたら、より効果的な治療法へと発展する可能性があります。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

山口大学 大学院医学系研究科
消化器病態内科学 再生チーム
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 再生医療実現拠点ネットワークプログラム
Tel:03-5214-8427 Fax:03-5214-7810
E-mail:

<報道担当>

山口大学 総務部広報課広報係
Tel:083-933-5007 Fax:083-933-5013
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科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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