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平成26年8月2日

科学技術振興機構(JST)
上越教育大学

ライブとテレビとで、学習中の子どもの脳の働きの違いを解明

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、上越教育大学の森口 佑介 准教授らは、目の前の他者(ライブの他者)から学習する場合とテレビの中の他者から学習する場合を比較し、子どもの脳の働きが異なることを示しました。子どもがテレビから学習する際の脳内機序の特徴を初めて示した成果です。

テレビは子どもにとって現実とは異なる世界であり、テレビによる認識やテレビからの学習は重要な研究課題です。これまでの研究から、4〜5歳頃からテレビの他者から学習できることが示されています。しかし、テレビから学習する場合と、ライブで学習する場合とで、学習プロセスや脳内機序が同じであるかどうかは分かっていませんでした。

森口准教授らは、ライブで学習する場合と、テレビで学習する場合とで脳活動の活性度を、近赤外分光法注1)で調べ、幼児はライブと比べて、テレビで学習する場合の運動関連領野注2)の活動が弱いことを明らかにしました。テレビなどを用いたデジタル学習や教育への応用が期待されます。

本研究は、東京大学 大学院総合文化研究科 開 一夫 教授と共同で行ったものです。

本研究成果は、2014年8月2日(米国東部時間)に米科学誌「Trends in Neuroscience and Education」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業

研究領域 「脳情報の解読と制御」
(研究総括:川人 光男 (株) 国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長)
研究課題名 「脳情報の解読による幼児特有の認知的世界の解明」
研究者 森口 佑介(上越教育大学 大学院学校教育研究科 准教授)
研究期間 平成22年10月〜平成28年3月

<研究の背景と経緯>

子どもはテレビの世界と現実の世界を混同することもあれば、テレビの世界と現実の世界の関わりについて理解できないこともあります。子どもにとってテレビは、現実とは異なる世界であり、現代はテレビ以外にもスマートフォンやコンピューターなどのさまざまな電子情報機器が存在します。子どもは、それらをいかに認識し、機器からいかに学習することができるのでしょうか。

これまでの研究で、3歳以下の子どもはテレビから十分に学習できないことが知られていました。たとえば、生後9ヵ月の乳児は目の前の他者(ライブの他者)からは外国語の学習ができても、テレビの他者から外国語の学習はできません(参考文献1)。ところが、4〜5歳頃になると、テレビの他者から言葉やゲームのルールなどを学習でき、その成績はライブの他者から学ぶ場合と同程度であることが示されています(参考文献2)。

これまでの研究では、幼児がテレビの他者から学習する際に、ライブの他者からと同じように学習しているのかどうかは、分かっていませんでした。ライブの他者との間には身体的接触を含めたコミュニケーションがありますが、テレビの他者は画面の向こうに存在し、情報を一方的に伝達するだけです。実際に、生後6ヵ月の乳児でも、ライブの他者とテレビの他者を区別していることが分かっています(参考文献3)。これらの結果から、子どもにとってライブの他者とテレビの他者は異なった存在である可能性が示されます。

森口准教授らはこれらの先行研究に基づき、テレビから学習することが可能な5〜6歳の幼児を対象に、ライブおよびテレビの他者から学習している際の脳活動を計測しました。幼児の脳活動を計測することは容易ではなく、これまでの研究報告は十分ではありませんでしたが、本研究では脳機能計測手法の1つである近赤外分光法を乳幼児に適用することで、検討が可能となりました。近赤外分光法は、空間分解能や時間分解能では他の脳機能計測手法に劣るものの、拘束性の低さから幼児などの脳機能計測には最適な装置だと考えられます。

<研究の内容>

本研究には、幼児(5〜6歳)15名と成人15名に参加してもらいました。参加者は、目の前のモデル(ライブ条件)およびテレビに映ったモデル(テレビ条件)がカード分けゲームをしている様子を観察しました(観察段階)。カードには色と形の2つの属性があり、モデルは色か形のどちらか一方のルールでカードを分類しました(図1)。その後、参加者にはモデルと同じルールでカードを分けるように指示しました(分類段階)。その結果、幼児と成人のどちらにおいてもカード分けの成績は、ライブ条件とテレビ条件の間に違いはありませんでした(図2)。

また、観察段階の脳活動を、近赤外分光法を用いて計測・解析しました。脳が活動するときには、たくさんの酸素が必要となります。脳は、血液中のヘモグロビンと呼ばれる酸素を運搬するたんぱく質から酸素を供給されています。近赤外線分光法は、脳活動に伴う脳内の酸化ヘモグロビン(酸素と結合したヘモグロビン)と脱酸化ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)の変化量を計測することができます。標的となる脳の領域は、運動関連領野です。運動関連領野は、運動指令を出す脳領域ですが、自分が行動しているときだけではなく、他者の行動を観察しているときにも活動することが知られています(参考文献4)。ライブ条件およびテレビ条件の観察段階における運動関連領野の活動を計測し、観察も分類もしていない安静段階における運動関連領野の活動と比較しました。

その結果、成人においてはライブ条件とテレビ条件のどちらにおいても運動関連領野の酸化ヘモグロビン量は時間とともに増加しました。ところが、幼児においては、ライブ条件では左の運動関連領野の酸化ヘモグロビン量が時間とともに増加しましたが(図3左の青線)、テレビ条件では同領域の酸化ヘモグロビン量の増加は認められませんでした(図3左の赤線)。これは、幼児も成人と同様に、ライブ条件とテレビ条件のどちらからも学習することが可能であるにもかかわらず、テレビから学習する場合は、他者認識と関連する運動関連領野が活性化していないことを示しています。これらの結果は、ライブの他者とテレビの他者から等しく学習できる幼児においても、その学習プロセスや脳内機序は異なることを示唆しています。

<今後の展開>

本研究においては、幼児がライブとテレビから学習する場合に、運動関連領野の活動が異なることが示されました。今後は、運動関連領野以外の領域の活動がいかに異なるかを検討することで、テレビから学習する際の学習プロセスや脳内機序をより明確にしたいと考えています。

現代社会においてテレビなどのデジタル機器からの学習ニーズは今後も高まっていくと考えられます。本研究で見られたようなライブとテレビの違いを認識しつつ、いかにして効率よくデジタル機器から学習することができるかを探りたいと考えています。

<参考図>

図1

実験の様子(テレビ条件の観察段階)を示します。参加者は色と形の2つのルールがあるゲームで、ライブまたはテレビ条件のモデルが使うルールと同じルールを使用するように指示されています。

図2

分類段階の成績を示します。黒いバーが幼児の成績、白いバーが成人の成績を表しています。成人および幼児のどちらにおいても、ライブ条件とテレビ条件の間に成績の違いは見られませんでした。

図3

  • (左図)幼児の運動関連領野の活動(酸化ヘモグロビン量)を示します。青いバーがライブ条件の活動であり、赤いバーがテレビ条件の活動を表しています。課題開始直後は、幼児の血行動態は不安定であるため、モデルの行動が開始されてから5秒後からの経過時間に伴う活動の変化を比較しました。
  • (右図)ヒトの頭を頭頂部から見た模式図で、本研究で計測した領域の空間的位置を示しています。赤い丸は近赤外線の送光部、青い丸は受光部、数字は計測チャンネルを表しています。

<用語解説>

注1) 近赤外分光法
近赤外光により、脳活動の変化を血中の酸化・脱酸化ヘモグロビンの変化量として計測する手法。近赤外光は酸化ヘモグロビンおよび脱酸化ヘモグロビンによって異なった割合で吸収されるため、それぞれのヘモグロビンの量が安静時とある課題時でどの程度変化しているかが示される。通常、ある脳領域が活動すると、その領域付近の脳血流量は増加するため、酸化ヘモグロビンおよび脱酸化ヘモグロビンの量の変化が顕著となる。計測精度は他の脳機能計測手法に劣るが、乳幼児に適用しやすいというメリットがある。
注2) 運動関連領野
運動指令を出す脳領域。自分が行動しているときだけではなく、他者の行動を観察しているときにも活動することが知られている。

<論文タイトル>

“Neural basis of learning from television in young children”
(幼児におけるテレビから学習する際の脳内機構)
doi: 10.1016/j.tine.2014.07.001

<参考文献>

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

森口 佑介(モリグチ ユウスケ)
上越教育大学 大学院学校教育研究科 准教授
〒943-8512 新潟県上越市山屋敷町1番地
Tel:025-521-3415 Fax:025-521-3415
E-mail:

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)、川口 貴史(カワグチ タカフミ)、稲田 栄顕(イナダ ヒデアキ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーション・グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

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(英文)“Differences in children’s brain activations between learning from live and TV”