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平成26年5月22日

京都大学
高輝度光科学研究センター
科学技術振興機構(JST)

高い磁気転移温度を持つハーフメタル新材料の合成に成功
〜超高密度磁気メモリーなどスピントロニクスデバイスへ応用可能な新材料〜

ポイント

京都大学 化学研究所の島川 祐一 教授、高輝度光科学研究センター SPring−8の水牧 仁一朗 副主幹研究員らの研究グループは、英国エジンバラ大学 極限条件科学センター研究グループと共同で、高密度磁気メモリーや高感度センサーなど将来のスピントロニクス注1)分野でのデバイス応用が可能な新しいA−Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物注2)材料を合成することに成功しました。

超高密度磁気メモリーなどエレクトロニクスと磁性の融合した技術としてスピントロニクスが注目を集めていますが、そのようなデバイスに用いる材料は伝導電子が高いスピン偏極率注3)を持つことが必要です。また、デバイスの安定動作には、伝導電子がスピン偏極を示す温度(磁気転移温度)が室温よりも十分に高い新材料の開発が望まれていました。

研究グループでは、ペロブスカイト構造酸化物のAおよびBサイトにおいて、複数の元素が規則配列した新しいA−Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCuFeRe12を合成することに成功し、この物質が室温よりはるかに高い磁気転移温度と大きな磁化を持つフェリ磁性注4)金属であることを見いだしました。さらに、電子状態の理論計算と多結晶粒界トンネル磁気抵抗効果注5)の測定から、この材料が電気伝導特性を担う電子のスピンが偏極したハーフメタル注6)であることも実証しました。

本研究の成果は、材料構成元素の秩序配列を設計・合成する固体化学的物質開発に基づくものです。新物質の発見により、多彩な機能を融合する酸化物エレクトロニクスにおける材料バリエーションが広がり、この分野での研究開発を大きく発展させる成果です。

本研究成果は、平成26年5月22日(英国時間)に、英国ネイチャー出版グループのオンライン科学誌「Nature Communications」で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
(研究総括:玉尾 皓平 理化学研究所 研究顧問/グローバル研究クラスタ長)
研究課題名 「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」
研究代表者 島川 祐一(京都大学 化学研究所 教授)
研究期間 平成23年4月〜平成28年3月

JSTはこの領域で、持続可能な社会の構築のために解決すべき資源・エネルギー・環境問題に元素戦略を共通概念とする物質科学・物性科学の観点から取り組み、既存の延長線上にない物質・材料の革新的機能の創出を目指します。上記研究課題では、ユニークな物質合成手法を駆使することにより、ありふれた3d遷移金属元素を中心に、異常原子価状態と特異な配位構造を持つ新物質の「ものづくり」による革新的機能の開拓を目指した物質創製研究を推進します。

また、本成果の一部は、以下の事業・研究領域・研究課題からも支援を受けました。

科学研究費補助金
若手研究(B)24760009

研究課題名 「Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物における電荷移動・電荷不均化現象の解明」
研究代表者 齋藤 高志(京都大学 化学研究所 助教)
研究期間 平成22年4月〜平成25年3月

平成23年度 京都大学 化学研究所 「若手研究者国際短期受入事業」

<研究の背景と経緯>

磁場の変化に応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗効果は、現在の磁気メモリーなどにも応用され、この技術の基となった金属多層膜での巨大磁気抵抗効果(GMR効果)の発見は2007年のノーベル物理学賞を受賞しています。磁気抵抗効果の発現には、強磁性金属(磁石につき、かつ電気が流れる)特性が必要になりますが、特に巨大な磁気抵抗効果の発現には電気伝導を担う電子において上向きスピンを持った電子と下向きスピンを持った電子の数の差である「スピン偏極率」が重要になります。金属材料と比べて、磁性酸化物では、このスピン偏極率を高くすることができ、一方向のスピンを持った電子だけが電気伝導を担う「ハーフメタル」を実現することも可能です。

高いスピン偏極率を持った電子が電気伝導を示す酸化物材料としては、古くからマグネタイト(Fe)や酸化クロム(CrO)が知られていました。1990年代には、超巨大磁気抵抗効果を示すペロブスカイト構造マンガン酸化物(La1−xSrMnO)や二重ペロブスカイト構造酸化物(SrFeMoO)が発見されましたが、デバイスの安定動作には、伝導電子がスピン偏極を示す温度(磁気転移温度)が室温よりも十分に高い新材料の開発が望まれていました。

<研究の内容>

ペロブスカイト構造酸化物は組成式ABOで表される物質群で、その中には磁性体や誘電体をはじめ、電池の電極などに使われている材料もあります。また、近年では、高温超伝導やマルチフェロイックス注7)などの新しい特性も見いだされ、エレクトロニクスをはじめとする実用分野のみならず、物質科学の先端基礎研究の対象としても多くの注目を集めている物質・材料系です。

研究グループでは、このペロブスカイト構造酸化物のAおよびBで表される結晶学的サイトに複数の元素(イオン)を導入した新しい秩序構造物質を設計して、導入したイオン間にはたらく磁気相互作用を制御することで、高い磁気転移温度を持つA−Bサイト秩序型ペロブスカイト構造CaCuFeRe12という新物質を得ることに成功しました。この物質はペロブスカイト構造のAサイトにおいて1:3の比でカルシウムイオン(Ca2+)と銅イオン(Cu2+)、Bサイトにおいて1:1の比で鉄イオン(Fe3+)とレニウムイオン(Re5+)が秩序配列した構造となっていることが大きな特徴です(図1)。

この物質は、560K(約300℃)という高い温度以下で大きな磁化(低温で8.7μ/f.u.)を示し(図2)、かつ金属的な電気伝導特性も示します。放射光実験施設SPring−8注8)のビームライン(BL25SU)において測定された元素選択性を持つX線磁気円二色性(MCD)注9)スペクトルの詳細な解析(図3)から、AサイトにあるCu2+の磁気モーメントとBサイトのFe3+の磁気モーメントが同じ方向を向いてそろっており、BサイトにあるRe5+の磁気モーメントがこれらと反対方向を向いてそろうことでフェリ磁性となり(図4c)、これらの磁性イオン間での相互作用により、室温を超える高い転移温度と大きな磁化が生じていることが明らかになりました。

また、第一原理による電子状態の理論計算からは、この物質の基底状態は電気伝導特性を担う電子のスピンが一方向のみからなるハーフメタルであることも明らかになりました(図5)。実際に合成した多結晶試料の電気抵抗を磁場中で測定すると、磁場の方向と大きさに応じて電気抵抗が変化する粒界トンネル磁気抵抗効果が比較的弱い磁場で観測されます(図6)。これは、この材料の電気伝導特性がスピン偏極した伝導電子によるものであることを示しています。

この材料の磁気転移温度560Kというのは、ハーフメタルとして知られている二重ペロブスカイト構造酸化物(SrFeMoO)でこれまでに観測されていた410Kよりもかなり高い温度であり、また磁気転移温度以下で測定される磁化の値もはるかに大きいものです。材料が磁気転移温度以上になると、強磁性的な性質や伝導電子のスピン偏極特性が失われてしまうため、このように室温よりはるかに高い転移温度を持つ材料を使うことで、実用温度域での多少の温度変化に対しても安定して動作するデバイスを作製することができるようになります。また、大きな磁化や磁気抵抗を利用することで、従来よりも高密度・高感度なデバイスやセンサーなどを作製することも可能となります。

今回の新物質の合成は、材料構成元素の秩序配列を設計し、整列した磁性イオン間の相互作用を制御するという固体化学的物質開発に基づくものです。多くの鉄酸化物では、Feイオン同士の間には反強磁性相互作用注10)がはたらくことが知られています。実際、Fe3+イオンを含んだBサイト秩序型二重ペロブスカイトCaFeSbOでもFe3+−Fe3+間の反強磁性相互作用のために、非常に低い温度でスピングラス注11)という状態になることが知られています(図4a)。このCaFeSbOのAサイトにあるCa2+イオンの一部を、磁気モーメントを持つCu2+イオンに置き換えたAサイト秩序型ペロブスカイトCaCuFeSb12では、AサイトのCu2+イオンとBサイトのFe3+イオンの間に反強磁性的な相互作用がはたらくため、Fe3+のスピンを全て強磁性的に並べることができますが、転移温度は室温より低い170K程度であり、磁化もフェリ磁性のためにそれほど大きくはなりません(図4b)。今回の新物質では、さらにBサイトの半分に磁性イオンであるRe5+を入れたことで、Bサイトイオン間(Fe3+−Re5+)とAサイト−Bサイトイオン間(Cu2+−Re5+)には反強磁性的な相互作用がはたらきますが、その結果として、AサイトのCu2+イオンとBサイトのFe3+イオンのスピンを同じ向きにそろえて強磁性的に並べることに成功し(図4c)、これにより高い磁気転移温度と大きな磁化を実現したものです。

スピン偏極した伝導電子を持つハーフメタルとしてこれまでに知られている材料はそれほど多くはありません。今回の新物質の発見は、ハーフメタル材料のバリエーションを広げ、多彩な機能性を融合する酸化物エレクトロニクスの研究開発分野を大きく発展させる成果です。さらに、今回合成に成功した新物質では、銅や鉄といったありふれた遷移金属元素が主要構成要素である点も材料開発の元素戦略としては重要です。このような材料で、より高密度な磁気メモリーや高感度なセンサーが実現できれば、省電力・省エネルギーの観点からも社会の発展に貢献できることになります。

<今後の展開>

今後は、今回のような固体化学的材料設計に基づいて、その他の元素の組み合わせを試すことで、より高い磁気転移温度やより大きな磁化など、さらなる特性向上を目指す予定です。また、ペロブスカイト構造遷移金属酸化物は、今回得られたような多結晶試料の他にデバイスなどへの応用において有利な薄膜のような形態で作製することも可能です。薄膜試料を作製することができれば、異なる特性を示す材料を積層するなどして、さらに新しい酸化物エレクトロニクス・スピントロニクスへと発展させることもできるようになります。今後は、本研究の成果を基に、薄膜化などによるデバイス展開も進めていく予定です。

<参考図>

図1

図1 新規A−Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCuFeRe12の結晶構造

ペロブスカイト構造のAサイトにおいて1:3の比でCa2+イオンとCu2+イオン、Bサイトにおいて1:1の比でFe3+イオンとRe5+イオンが秩序配列した構造となっていることが特徴。

図2

図2 CaCuFeRe12の磁気特性

560K以下で大きな磁化が観測されており、この物質の磁気転移温度が室温(300K程度)よりはるかに高いことが確認できる。

図3

図3 CaCuFeRe12のX線磁気円二色性(MCD)スペクトル

AサイトにあるCu2+の磁気円二色性(MCD)スペクトルとBサイトにあるFe3+のスペクトルが2つの吸収()位置で同じ負・正のスペクトルを示していることから、この2つのイオンの磁気モーメントが同じ方向を向いて強磁性的にそろっていることがわかる。

図4

図4 A−Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCuFeRe12の磁気構造

今回合成に成功した新物質(c)では、Bサイトに導入したRe5+スピンがAサイトのCu2+スピンともBサイトのFe3+スピンとも反強磁性的な相互作用を示すため、その結果として、AサイトにあるCu2+のスピンとBサイトのFe3+のスピンが同じ方向を向いて強磁性的にそろったフェリ磁性となっている。

図5

図5 CaCuFeRe12の電子状態

理論計算による基底状態での電子構造は、上向きスピンのバンドにギャップがあり、フェルミ面()を横切るバンドは下向きスピン電子のみとなっている。この結果は、電気伝導を担う電子が下向きスピンを持つ電子のみであるハーフメタル電子状態を示している。

図6

図6 CaCuFeRe12の多結晶トンネル磁気抵抗効果(10K)

電気伝導を担う電子がスピン偏極しているため、多結晶試料の電気抵抗を磁場中で測定すると、磁場の方向と大きさに応じて抵抗が変化する粒界トンネル磁気抵抗効果が3kOe以下の弱い磁場で観測される。

<用語解説>

注1) スピントロニクス
電子を制御して電子機器を制御するエレクトロニクスと電子の持つスピンを制御する磁気工学が融合した新しい電子磁気制御技術。
注2) ぺロブスカイト構造酸化物
化学式ABOで表され、Bの遷移金属イオンが酸素に囲まれて作る八面体が頂点を共有してつながった結晶構造を持つ酸化物。
注3) スピン偏極率
電気伝導を担う電子において上向きスピンを持った電子の数と下向きスピンを持った電子の数の差。
注4) フェリ磁性
2種類以上の磁性イオンが物質中にあって、お互いの磁気モーメントが反対方向を向くが、その大きさが異なるため、全体として強磁性的な磁化を示すような磁性。
注5) 磁気抵抗効果
磁場の変化に応じて電気抵抗が変化する現象。大きな電気抵抗の変化を示すものを特に「巨大磁気抵抗(Giant Magnetoresistance:GMR)効果」と呼び、この発見により2007年にフランスのAlbert Fert氏とドイツのPeter Grünberg氏はノーベル物理学賞を受賞した。また、スピン偏極した電子が薄い絶縁層(電気の流れない層)を介してトンネル効果によって伝導する際に、磁場によりそろえられたスピンの向きに応じて電気抵抗が変化するものをトンネル磁気抵抗効果と呼ぶ。小さい結晶粒が集まった多結晶試料では、結晶粒界が絶縁性のトンネルバリアになると考えられている。
注6) ハーフメタル
強磁性金属において、電気伝導を担う電子が一方向のスピンだけからなる材料。理想的には100%スピン偏極した物質であり、高いスピン偏極率により磁気抵抗効果などスピンに依存した特性で大きな変化が観測しやすくなる。そのため、高密度な磁気メモリーや高感度なセンサーなどのスピントロニクスデバイスを作る上で既存の材料などに比べて有利となる。
注7) マルチフェロイックス
2つ以上の強特性が現れる性質。例えば、ある物質中で、強磁性と強誘電性がともに現れるような特性。このような特性があれば、磁場を変化させて誘電的な特性を制御することや、電圧を変化させて磁気的な特性を制御できる可能性があるため、新しいエレクトロニクスへの展開が期待され、近年、活発に研究開発が行われている。
注8) SPring−8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す独立行政法人 理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring−8の名前はSuper Photon ring−8GeVに由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring−8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
注9) X線磁気円二色性(MCD)
磁化した試料に左円偏光と右円偏光のX線を照射した際に吸収されるスペクトルを測定 し、その差分から磁性イオンの磁気モーメントの向く方向を決定する手法。
注10) 反強磁性相互作用
磁気モーメントがお互いに反対方向を向いてそろおうとする力。
注11) スピングラス
磁性スピンがバラバラの方向を向いて止まった状態。Bサイト秩序型二重ペロブスカイト構造酸化物(CaFeSbO)では、Fe3+−Fe3+間にはスピンが反対方向を向いて並ぼうとする反強磁性相互作用がはたらいているが、Fe3+イオンが正四面体の頂点位置に並んでいるため、幾何学的フラストレーションを起こし、Fe3+スピンが一方向にそろって並ぶことができなくなってしまっている。

<論文タイトル>

“A half-metallic A- and B-site-ordered quadruple perovskite oxide CaCu3Fe2Re2O12 with large magnetization and a high transition temperature”
(高い転移温度と大きな磁気モーメントを持つ新規ハーフメタルA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCuFeRe12
Wei-tin Chen, Masaichiro Mizumaki, Hayato Seki, Mark S. Senn, Takashi Saito, Daisuke Kan, J. Paul Attfield, and Yuichi Shimakawa
doi: 10.1038/ncomms4909

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

島川 祐一(シマカワ ユウイチ)
京都大学 化学研究所 教授
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
Tel:0774-38-3110 Fax:0774-38-3118
E-mail:

水牧 仁一朗(ミズマキ マサイチロウ)
高輝度光科学研究センター 副主幹研究員
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1−1
Tel:0791-58-0802 Fax:0791-58-0830
E-mail:

<SPring−8に関すること>

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課
Tel:0791-58-2785 Fax:0791-58-2786
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
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<報道対応>

科学技術振興機構 広報課
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