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平成26年4月7日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)

高い電気伝導性を持った3次元グラフェンの開発に成功
〜3次元炭素材料では困難だった高い伝導性を実現し、デバイスへの応用に道〜

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の伊藤 良一 助教、陳 明偉 教授らのグループは同研究機構の谷垣 勝己 教授、田邉 洋一 助教と高橋 隆 教授、菅原 克明 助教の協力を得て、新規材料「3次元ナノ多孔質グラフェン」の開発に成功しました。これまで3次元炭素材料は非結晶性不連続体(粉状)のため電気をほとんど通さなかったのに対して、今回結晶性の高い1枚の繋がった3次元グラフェンシートを作成することで高い電気移動度を達成し、シリコンに替わる3次元デバイスの開発が期待されます。

3次元ナノ多孔質グラフェンは、図1のように立体構造を持つナノ多孔質注1)金属を鋳型として、その上に化学気相蒸着法注2)を用いてグラフェンを成長させることによって、2次元物質であるグラフェンに3次元構造を持たせた厚みのある物質です。この3次元ナノ多孔質グラフェンの電気デバイス特性を調べたところ、電子の移動度が最大で500cm2/Vsを示しトランジスタで必要とされている性能値200cm2/Vs以上であることがわかりました。今回の研究成果は、今後炭素材料を使って3次元デバイスを作成する上での非常に重要な成果と考えられます。

本研究は、近日中にドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版にHot Paperとして正式掲載されます。

<研究の背景>

 グラフェンはよく電気を通す2次元シート材料として電気デバイス、蓄電デバイス、光/イオンセンサー、触媒などの分野で研究が盛んに行われており、安価で化学耐性、耐熱性、機械耐性が強いため、シリコンや貴金属の代替品として有望視されている材料です。現状では、液晶ディスプレイや電極材料として一部実用化されていますが、2次元シートであるため応用用途に制限が出来てしまい、性能値/重さは優れているが体積換算した性能値(性能値/体積、もしくは、性能値/重さのどちらかが性能を決める指標)が他の炭素材料よりも劣っているという問題があります。このため、2次元シートであるグラフェンに何とかして3次元構造を持たせようと様々な試みがされています。

 近年、3次元構造を持つ炭素材料開発が盛んに行われ、現在商品化されているカーボンブラックよりも表面積が広く、かつ、高性能な材料が実験室レベルで開発されています。しかしながら、それらの物質は結晶構造に乏しく、不連続体(粉状)のため電気が流れにくいという欠点があり、電気デバイス応用には向いていないことがわかりました。電気デバイス応用するためには1枚の連続した結晶性が高いシートであることが必要とされています。

 このような状況から、我々の研究グループは2次元グラフェンが持つ高い電気伝導性を保持した3次元構造を持つグラフェンの開発を目指しました。

<研究の内容>

 本研究では、図1に示すように、化学気相蒸着法を用いてナノ多孔質ニッケルの表面にグラフェンを成長させることによって、ナノ多孔質ニッケルの幾何学構造を維持した3次元ナノ多孔質グラフェンを作成しました。

 図2の3次元ナノ多孔質グラフェンを拡大した高解像度電子顕微鏡像から、実際の3次元構造を原子レベルで捉えることに成功しました。この観察より、平坦部分は図2(b)のように六員環の炭素原子が規則的に配列しており、曲率部分は図2(c)のように五員環や七員環の構造が混ざって曲面を作っていることが明らかとなりました。次に、この3次元ナノ多孔質グラフェンの物性を測定した結果を図3に示します。2次元グラフェンは図3(a−b)のような電子のエネルギーの分布(状態密度)を持つことが知られており、図2の構造を持つ3次元多孔質グラフェンと同じであることがわかりました。次に、図3(d)の移動度の温度依存性ですが、高温になるにつれて移動度が減少していますが、室温で200〜400cm2/Vsの値を示しました。図3(d)中のオレンジ部分で示した2次元グラフェンと比較すると、2次元グラフェンより少し低い程度であることがわかります。

 これらの結果から、図1のような3次元構造を持っているグラフェンは2次元グラフェンの特徴を引き継いでいることがわかります。本成果は3次元ナノ多孔質グラフェンの物性を初めて解明した非常に有意義な研究です。

<今後の展開>

 本研究で得られた3次元ナノ多孔質グラフェンは今までグラフェンを商品化しようとする際に大きな問題とされていた体積あたりの性能を劇的に向上させる可能性を秘めています。つまり、2次元シートであるグラフェンはシートであり体積を持ちません。一枚のグラフェンシートを何層も重ねて厚みを持たせることは可能ですが、重ねたグラフェンには多孔質構造がなく、内部への分子やイオンの出し入れも出来ないために連続的な化学反応も起こせません。本成果で得られた多孔質グラフェンを使用すれば内部への物質輸送は非常に円滑であり、化学反応を促進することが出来ます。また、平面が3次元的に滑らかに繋がったグラフェンは2次元グラフェンの性質を受け継いでいるため電気デバイスとして活用が可能です。また、電気を良く通すという性質があるため、金属を担持することで触媒として作用する可能性もあります。今後はこの3次元ナノ多孔質グラフェンの3次元構造と導電性を活用して、多孔質体の中にイオンを詰めてトランジスタ機能やコンデンサ機能を付加したり、高効率エネルギー創出の電極触媒(水素発生反応、酸素発生反応など)としての可能性を検討する予定です。

 本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「エネルギー高効率利用のための相界面科学」研究領域(研究総括:笠木 伸英)における研究課題「界面科学に基づく次世代エネルギーへのナノポーラス複合材料開発」(研究代表者:陳 明偉)の一環として行われました。

<参考図>

図1

図1

ナノ多孔質ニッケル上に成長した3次元ナノ多孔質グラフェン(左)とニッケルを溶かした後の3次元ナノ多孔質ナノ多孔質グラフェン単体(右)。

図2

図2 3次元ナノ多孔質グラフェンの電子顕微鏡像

図3

図3

図4

図4 ナノポーラス金属の3次元立体図

<用語解説>

注1)ナノ多孔質
物質の内部にナノサイズの細孔がランダムに繋がったスポンジ構造体のこと。例えば、図4の金の場合、ひも状の構造体が連続して繋がって穴が開いている状態である。ナノ多孔質を持つ物質では、この穴とひも状構造が数ナノメートルサイズの状態で維持されている。
注2)化学気相蒸着法
目的物質の前駆体を含んだガスを高温で加熱しながら流すことにより、化学的に薄膜する手法である。熱分解された分子は基盤表面上で化学反応を起こし、その反応によって1層から数層の膜を作成することが出来る。
注3)ディラックコーン型
ディラックコーンとは、理想的な2次元物質であるグラフェンの特異な電子状態を示す用語である。その電子状態は電子の運動量とエネルギーが線形の関係を持ち、図3(a)のような円錐型バンド構造を持っている。

<掲載論文>

Yoshikazu Ito, Yoichi Tanabe, Huajun Qiu, Katsuaki Sugawara, Satoshi Heguri, Ngoc Han Tu, Khuong Kim Huynh, Takeshi Fujita, Takashi Takahashi, Katsumi Tanigaki, Mingwei Chen, “High Quality Three-Dimensional Nanoporous Graphene”, Angewandte Chemie International Edition, 2014, in press.
doi: 10.1002/ange.201402662

<問い合わせ先>

<研究に関すること>

陳 明偉(チン メンウェイ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 教授
Tel:022-217-5992
E-mail:

伊藤 良一(イトウ ヨシカズ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教
Tel:022-217-5959
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
独立行政法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーション・グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<報道担当>

中道 康文(ナカミチ ヤスフミ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス
Tel:022-217-6146
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独立行政法人 科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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