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平成26年3月26日

独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構

ジスプロシウムフリーネオジム磁石の開発
〜微細組織の制御で熱間加工磁石を高性能化〜

<研究の背景>

 ネオジム磁石は、携帯電話やハードディスクなどの小型電子機器や家電製品、医療機器のMRIなど強力な磁力が必要な用途で広く使われています。最近ではハイブリッド自動車の駆動用モータへの応用が開拓され、その消費量が急速に拡大しています。しかし、通常のネオジム磁石は耐熱温度が比較的低く、自動車の駆動モータや風力発電など、使用温度が200℃まで上がる用途では、室温で3テスラ(T)、200℃では0.8T程度の保磁力が必要とされています。高温用のネオジム磁石では、保磁力を高める目的で重希土類元素注4)(重いレアアース元素)のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が用いられていますが、これらの元素は希少金属(レアメタル)に分類されており、ネオジムなどの軽希土類元素に比べて天然存在比が低い上に、原料が限られた地域に偏在することにより資源リスクが高い元素です。そこでジスプロシウムを一切用いないで磁石の保磁力を高める研究が産官学で精力的に進められています。

 高性能ネオジム磁石は一般には合金の粉を焼き固めて製品にする焼結法によって量産されています。これまでの研究から、焼結磁石では結晶の粒径が小さいほど保磁力が高まることが分っていました。結晶のサイズを0.3ミクロンまで微細化できれば、ジスプロシウムを用いずに室温で2.5テスラ(T)程度の保磁力が得られることが予測されており、実験室レベルではジスプロシウムを使わない1ミクロンの粒径の焼結磁石で2Tという高保磁力が達成されていました。しかし結晶粒のサイズをさらに小さくするには、工業的に高いハードルがあります。

 高性能ネオジム磁石のもう一つの作製法として、熱間加工法が知られています。液体急冷法によって作製されたナノ結晶を含む粉を、熱間プレスおよび熱間押し出しで加工するもので、扁平でサイズが直径0.3ミクロン、厚さ0.08ミクロンの小さい結晶になることが特徴です。このような熱間加工磁石は大同特殊鋼(株)のグループ会社である(株)ダイドー電子により量産されています。しかし結晶粒が一桁以上小さいにもかかわらず、磁気特性は焼結磁石より少し高い程度で、結晶粒の微細化の効果を十分に活用できていないと考えられていました。NIMSではこの原因が、粒子間の磁気的な結合によるものと特定し、2007年から2011年に実施された文部科学省 元素戦略プロジェクト(産学官連携プロジェクト)採択課題「低希土類元素組成高性能異方性ナノコンポジット磁石の開発」(研究リーダー 日立金属・広沢 哲)の一環として、特定組成で融点が低くなる非磁性のネオジム銅合金を微結晶ネオジム磁石に拡散させて粒子間の磁気的結合を切り、磁石の保磁力を高める方法を2010年に発表していました(H. Sepehri-Amin, Scripta Materialia, 63, 1124 (2010))。この低温共晶合金拡散法は、NIMS以外のいくつかのグループでもネオジム磁石の保磁力を高める方法として研究されていました。

<成果の内容>

 本研究では、まずこの低温共晶合金拡散法を熱間加工ネオジム磁石に適用し、その効果を確認しました。大同特殊鋼(株)から提供された5.6mmの厚みの直方体状の熱間加工ネオジム磁石に、約520℃で溶ける性質のあるNd70Cu30合金を650℃で溶かして熱間加工磁石の結晶粒界にそって浸透させます。すると、結晶粒界に非磁性のネオジム銅合金層が形成されます。図1は熱間加工ネオジム磁石を側面観察した走査電子顕微鏡写真です。この写真で暗く観察されているのが磁性を担うNdFe14B化合物の結晶で、白く観察されるのが磁性を持たないNdの粒間層です。扁平なNdFe14B粒子の磁化容易軸は平坦な面の垂直方向に向いています。(a)の拡散処理前の熱間加工磁石では大部分がNdFe14Bの扁平結晶で埋め尽くされていて、非磁性のNdは少ししか観察されません。(b)はNd−Cu合金で拡散処理した磁石で、白いNdCuの量が増えて、これらがNdFe14Bの結晶を覆っています。これがNdFe14Bの微細な磁石結晶を磁気的に分断して、高い保磁力を出す原因になります。

 図2は、Nd70Cu30合金で拡散処理した試料と処理前の試料の減磁曲線です。磁場がゼロの時の磁化の値が残留磁化、磁化がゼロになる磁場の値が保磁力です。実験に用いた熱間加工磁石の拡散処理前の保磁力は1.40テスラ(T)、残留磁化は1.39Tでした。通常の拡散処理では、保磁力は1.97Tまで高まりましたが、残留磁化は1.27Tまで減少します。その原因は、磁石の体積膨張にあります。非磁性のNd70Cu30共晶合金が磁石内部に拡散すると、図1(b)に示されるようにNdCuの非磁性相が扁平な結晶に沿って形成されますが、そのため磁石の厚さが8%も膨張し、非磁性部分の体積が増えて磁化が希釈されます。磁化が低下すると、磁石の性能である最大エネルギー積(BH)maxも低下します。つまり、耐熱性の指標となる保磁力が増加しても、磁石自体の性能は低くなってしまいます。

 そこで本研究では、磁化を低下させる原因となる体積膨張が一方向にだけ起きることに注目し、共晶拡散処理中に起こる体積膨張を拘束する冶具(図2の挿入図)を用いて、磁石に浸透する非磁性合金の量の制御を試みました。その結果、保磁力を1.92Tまで高めながらも、残留磁化の低下を押さえ、1.36Tの残留磁化を維持しました。図1に観察されたように、拡散処理前(a)では非磁性のNdの比率が少なく、各磁石粒子が直接接触し、磁気的に結合していることが分ります。通常の拡散処理後(b)では、粒界層が扁平な磁石粒子に沿って形成され、面に垂直方向にだけ厚さが増加しています。その際、大量の非磁性合金が浸透することと磁石粒子の配向に乱れが生じることにより、8.6%も残留磁化が低下しました。一方、膨張拘束を行った拡散処理では、浸透するNd−Cu相の量が適度に抑制されていることが分ります(c)。磁石粒子の配向も保たれており、残留磁化の低下も2.6%に抑えることができました。

 図3は、今回試作したNd−Cuの拡散処理前後の熱間加工磁石と商用の焼結磁石における保磁力および最大エネルギー積の値の温度変化をまとめたものです。Nd−Cuの拡散処理を行った熱間加工磁石の室温での保磁力は、市販ネオジム焼結磁石(Dy4%)の2.2Tよりは少し低いことが分かります。しかし保磁力の温度依存性はNd−Cu拡散処理した磁石の方が4%Dyを含む焼結磁石よりも小さくなります。これは微結晶化により保磁力が高められたことによる顕著な効果です。最大エネルギー積については、室温の値は通常の拡散処理の磁石ではDyを4%含むものとほぼ同等で、膨張拘束を行った拡散処理磁石はさらに高い値を示します。また電気自動車や風力発電機などで要求される200℃では、膨張拘束拡散処理磁石の最大エネルギー積は190kJ/m3に達しました。保磁力はまだ足りませんが、最大エネルギー積では8%のDyを含む焼結磁石よりも10%以上高い特性を有することが分りました。

<波及効果と今後の展開>

 本研究では、微細な結晶を含む熱間加工磁石を基に、ネオジム銅合金による膨張拘束拡散処理で結晶粒界に沿った非磁性層を形成し、最大エネルギー積の減少を最小限に抑えながら4%のジスプロシウムを含む焼結磁石と同等の保磁力に改善しました。さらに200℃では、4%ジスプロシウム含有焼結磁石よりも優れた磁石特性が得られました。この知見は、磁石内部の微細組織の最適化によって、希少金属を使わなくても高い残留磁化と保磁力がネオジム磁石で得られることを示しており、従来の焼結磁石をさらに高特性化するための設計指針としても役立てられるものと期待しています。実用化のためには、200℃で0.8Tを超える保磁力と少なくとも150kJ/m3の最大エネルギー積の実現が必要であり、一層の保磁力の増加が必要です。この目標に向けて今後さらに研究を進めて行きたいと考えています。

<参考図>

図1

図1 Nd70Cu30合金による拡散処理前後の熱間加工磁石の微細組織の比較

 暗く観察されているのがNdFe14B化合物の結晶で、白く観察されるのがNd。扁平なNdFe14B粒子の磁化容易軸は扁平な面の垂直方向に向いている。(a)の拡散処理前の磁石では大部分がNdFe14Bの扁平結晶で埋め尽くされていて、ネオジムは少ししか観察されない。(b)はNd−Cu合金で拡散処理した磁石で、白いNd(Cu)の量が増えて、これらがNdFe14Bの結晶を覆っている。(c)は膨張拘束を加えて拡散処理した磁石で白いNd(Cu)の量が少ないが、NdFe14Bは扁平面に垂直な方向でNd(Cu)により分断されている。Nd−Cu拡散処理後は磁化容易軸が分散するが、膨張拘束拡散処理後の結晶配向は処理前と同じ程度に改善されている。

図2

図2 Nd−Cu拡散理前後の減磁曲線の比較

 通常の拡散処理および変形拘束拡散処理を行った結果が、それぞれ青色および赤色で示されている。

図3

図3 今回作製した熱間加工磁石と商用の焼結磁石の、保磁力および最大エネルギー積の温度変化

<掲載論文>

題目:High-coercivity hot-deformed Nd-Fe-B permanent magnets processed by Nd-Cu eutectic diffusion under expansion constraint
著者:Takahiro Akiya, Jun Liu, Hossein Sepehri Amin, Tadakatsu Ohkubo, Keiko Hioki, Atsushi Hattori, Kazuhiro Hono
雑誌:Scripta Materialia (2014)
doi:10.1016/j.scriptamat.2014.03.002

<用語解説>

注1)保磁力
磁石の磁力にさからって磁場をかけたときに、磁石が磁力を失う磁場。モータで使うときに磁石に反対側の磁界がかかるが、保磁力がこの磁界よりも高くなければ、磁石は磁力を失う。保磁力は温度が高くなると低くなるので、モータを使用する温度で保磁力が反対側にかかる磁界よりも高くなければならない。
注2)最大エネルギー積
単位体積あたりに取り出せる磁気エネルギーの指標。磁石の磁化と保磁力の両立により高い最大エネルギー積が得られるので、保磁力だけでなく磁化も必要。
注3)残留磁化
磁石に外部から磁界がかかっていないときの、磁石が発生できる磁力。
注4)希土類元素(レアアース)
ランタノイド(周期律表の57番〜71番)にSc(21番)とY(39番)を加えたものを一般に希土類元素(レアアース)と呼ぶ。その名称から地殻存在比の低い元素と思われがちであるが、57番から60番までのLa,Ce,Pr,Ndの軽希土類元素(軽いレアアース)は比較的資源が豊富である。一方、GdからLuまでの元素は重希土類元素(重いレアアース)と呼ばれ、地殻存在比が低い上に、産地が限定される希少金属(レアメタル)に分類され、今後使用量の低減の努力が必要。重希土類元素中、特にDyとTbはネオジム磁石に高い保磁力を持たせて、耐熱性を高める元素として重要。

<本件に関するお問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

独立行政法人 物質・材料研究機構 磁性材料ユニット
ユニット長 宝野 和博(ほうの かずひろ)
E-mail:
Tel:029-859-2718
URL:http://www.nims.go.jp/apfim/index_j.html

<JST事業に関すること>

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
古川 雅士(フルカワ マサシ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
E-mail:
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066

<報道担当>

独立行政法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室
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独立行政法人 科学技術振興機構 広報課
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