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平成26年2月13日

科学技術振興機構(JST)

中央大学

慶應義塾大学

高速・大容量・高信頼のSSDメモリー・無線ネットワーク基盤技術を確立
〜ビッグデータサービスに道〜

<ポイント>

JST 課題達成型基礎研究の一環として、中央大学 理工学部の竹内 健 教授、慶應義塾大学 理工学部の黒田 忠広 教授と石黒 仁揮(イシクロ ヒロキ) 准教授らの研究チームは、最近ハードディスク(HDD)の代わりとして利用されている非接触型の固体記憶媒体ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)注1)の研究開発を進め、ビッグデータ時代に必要となる高速・リアルタイムの無線・大容量データ処理技術に道を開きました。

研究チームは今回、1)高速に書き換えが可能な抵抗変化型メモリー(ReRAM)注2)のエラーを8割削減し性能を33倍高速化する誤り訂正システム、2)配線をクリップで挟むだけで信号接続でき、従来比30%軽量・20倍高速な車載ネットワークを構築できる電磁界コネクタ、の2つの革新的新技術を開発しました。

新技術1により、DRAMのように高速でフラッシュメモリーのように大容量の「夢のメモリー」抵抗変化型メモリーが実用化に近づきました。パソコン・スマートフォンのバッテリーの長寿命化やデータセンターに使われる記憶装置(ストレージ)のけた違いの高速化、低電力化が期待されます。新技術2により、自動車の配線を30%軽量化し燃費を1.2%改善できます。また、車載ネットワークを20倍高速化し高度な情報処理ができるようになり、自動運転技術の実用化が近づきます。

この基本技術は、クラウドデータセンターや自動車の無人自動運転など、将来のビッグデータのサービス基盤に大きく寄与するものと期待されます。

本研究成果は、2014年2月9日から13日(米国西部時間)に米国・サンフランシスコで開催される「国際固体素子回路会議(ISSCC 2014)」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
(研究総括:浅井 彰二郎 株式会社リガク 取締役副社長)
研究課題名 「ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」
研究代表者 竹内 健(中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を推進しています。上記研究課題では、1mmの通信距離で毎秒10ギガビットの超高速無線通信・給電機能を持ち、かつ信頼性・安全性の高いワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目指し研究を進めています。

<研究の背景と経緯>

今日、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器にはフラッシュメモリー注3)を記憶媒体としたSSDが使われています。SSDは、機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強くなります。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータをSSDに保存する用途で現在幅広く使われています。

中央大学と慶應義塾大学の研究チームはこれまで、テラバイト(1兆バイト)容量のNANDフラッシュメモリーを搭載し、高信頼で非接触な毎秒10ギガビットの超高速無線通信・給電機能を持ったワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目的に研究開発を進めてきました。

記憶媒体としてのSSDの大容量化は研究開発上の大きな目標ですが、これを実現するためにメモリーセルを小さくし実装密度を高めると、隣接するセル間での干渉や記憶する電子数の減少により誤動作を起こし、結局は期待する性能が得られないというジレンマがあります。近年、SSDは携帯端末やパソコンに加えて、データセンターの記憶装置(ストレージ)としても使われ始めています。しかし将来、自動車の無人自動運転や動画像をやり取りするソーシャルネットワークサービス(SNS)、台風や竜巻など気象災害の予測、廃棄物・欠品ゼロの食品流通システムのような、高速でリアルタイムの処理を必要とするビッグデータのサービスを実現するには、現在に比べSSDをけた違いに高速化しなければなりません。

さらに、高速でリアルタイムの処理を必要とするシステムの実現には、ディペンダブルな(信頼性と性能が高い)ネットワークも必要です。特に、複数のモジュールを接続して複雑なシステムを構築するためのコネクタ(接続部分)の高信頼化、高性能化がディペンダブルなネットワーク実現の鍵となります。例えば、自動車の無人自動運転システムには、センサー、電子制御機器(ECU)、メモリーなどの多数のデバイスを接続する高速な車載ネットワークが必要です。2020年には現在より3倍多い300個程の電子機器を現在より10倍高速な毎秒100メガビットでデータ接続する必要があると予測されていますが、従来のコネクタでは、高速な信号の波形がゆがむため、これ以上の高速化が困難と考えられています。また、現在車載ネットワークで使用されているコネクタは、振動による通信障害(瞬断)を防ぐ重厚な耐震機構が必要なため、ジャンクションボックスに集約・固定されています。その結果、固定されているコネクタまで配線を余分に延伸する必要があり、重量増加や燃費の悪化を招いてきました。このように、ディペンダブルな車載ネットワークを構築するためには、けた違いに高速でかつ高い信頼性を持ったコネクタの開発が極めて重要です。

このような背景のもと、研究チームは以下に述べる2つの革新的技術の開発に成功しました。

<研究の内容と今後の展開>

【新技術1】

SSDの記憶媒体であるフラッシュメモリーは容量が大きい利点があるものの、書き換えが1ミリ秒(10−3秒)と遅いという問題があります。一方、抵抗変化型メモリー(ReRAM)は100ナノ秒(10−9秒)と、フラッシュメモリーの1万倍も高速に書き換えが可能という特徴があります。研究チームはこれまで「高速で低電力」なReRAMと「大容量」のフラッシュメモリーのそれぞれの利点を生かすため、両者を3次元に組み合わせたハイブリッド構造のSSDを提案してきました。ところが、ReRAMを実用化するためには、書き換えが高速な反面、読み出しやデータ保持中にデータが壊れやすいという問題がありました。

本研究では、ReRAMに記憶したデータのエラーを訂正する誤り訂正回路システムを開発し、エラーを80%削減することに成功しました。ReRAMは抵抗の大小によりデータの記憶を行いますが、書き換えを行うにつれて、ReRAMが疲労し特性が複雑に変化し、保持したデータが壊れてしまいます。これに対して、本研究ではReRAMの特性の変化に追随して、常に最適な条件で書き込み・読み出しを行えるように、読み出しレベルや誤り訂正の強度、メモリーを書き込む前に加える変調の仕方などを動的に変化させる新技術を開発しました(図1)。その結果、ReRAMのエラーを80%低減することに成功しました。ReRAMは単体のメモリーセルでは100ナノ秒程度で書き込みが可能ですが、ギガビット級に大容量化すると、メモリーセルの特性のバラつきにより、書き込み時間が20マイクロ秒程度まで伸びてしまうという問題がありました。提案する誤り訂正回路により書き込みにくいメモリーセルを使わないように制御することで、書き込み性能も33倍高速化(書き込み時間、約500ナノ秒)することに成功しました。さらに、1つのメモリーセルに3ビット記憶するTLC(Triple Level Cell)フラッシュメモリーに対しても、メモリーセルに書き換えが行われメモリーが疲労するに従って、記憶するデータ量を3ビットから2ビット、1ビットと変化させる手法を開発し、フラッシュメモリーの寿命を22倍長くすることにも成功しました。

今回の技術によりReRAMを用いたハイブリッドSSDは実用化に近づきました。高速なReRAMを活用することにより、SSDの性能はけた違いに高速化、低電力化されます。その結果、スマートフォンでは高速に画像やデータのダウンロードが可能になり、またバッテリー保持も長時間化されます。記憶装置の高速化の恩恵は携帯端末だけではありません。クラウドデータセンターのストレージが高速化することで、自動車の無人自動運転や動画像をやり取りするSNS、台風や竜巻など気象災害の予測、廃棄物・欠品ゼロの食品流通システムなど、高速でリアルタイム性に優れたビッグデータのサービス実現に貢献すると期待されます。

【新技術2】

現在の車載ネットワークに用いられるコネクタは、重厚な耐震構造を備え、ジャンクションボックスに集約・固定されています。従って近くの電子機器同士を接続する場合でも、配線をジャンクションボックスまで延伸する必要がありました(図2−1)。その結果、配線は不必要に長くなり重量が増します。加えてコネクタを通過するたびに信号の反射やゆがみが発生するため、ネットワークの高速化も難しい課題でした。

研究チームは、こうした課題の原因は、従来のコネクタが電極を圧着して接続する点にあると考えました。つまり、圧着による接続は、振動などの外力で電極が外れただけで通信が切断されてしまうために強固な耐震構造が必要になり、さらにインピーダンス(交流回路における電気抵抗)が急激に変化する接触面が必然的に存在するため、そこで信号の反射やゆがみが生じるため高速化も妨げていると考えられます。

そこで本研究チームは、配線同士は物理的には非接触のまま電気的に接続できる「クリップ型電磁界コネクタ」を考案しました(図2−2、3)。この方法は、電極間の電磁界結合注4)(電界と磁界を用いた電気的接続)で回路を接続するため、圧着という物理的な接触は必要ありません。重厚長大な耐震機構のジャンクションボックスは不要になるためコネクタを軽小短薄にできます。また、配線の被膜の上から(被膜を破らずに)クリップのように配線を挟むことで回路を接続できるため、配線を最短経路とすることができます。試算では、車の配線重量の30%を削減でき、燃費を1.2%改善できました。さらに、機械式でなく電子式接続なので、インピーダンスを調整することで従来と比較して20倍高速な通信(毎秒280メガビット)を達成しました。

高速な通信能力を活かして、(1)送信データに冗長性を加え受信側で誤り訂正ができる技術、(2)送信データにタイミング情報を加え確実に同期受信できる技術、(3)通信周波数を高くして放射ノイズの周波数成分を高くする技術、を開発し、ノイズ耐性を向上し不要ノイズ輻射を抑制しました。国際標準化機構(ISO)および国際無線障害特別委員会(CISPR)の定めるノイズ耐性、および不要ノイズ輻射に関する規格を満たすことに成功しました(図2−4)。

新開発したコネクタは、スマートフォンなどの携帯情報機器にも好適です。

【まとめと今後の展開】

リアルタイムに生じるビッグデータを活用したサービスを実現するためには、スマートフォンや自動車などセンサーを用いて環境データを収集する端末と、データを処理するデータセンター、双方のけた違いの高性能化、高信頼化が求められています。本研究の成果は、データセンターと自動車という過酷な環境でデータを収集・処理するシステムにおいて、軽量・高性能・高信頼・低電力・低コストを実現します。本研究の応用分野は、自動車の無人自動運転に限らず、動画像をやり取りするSNS、台風や竜巻など気象災害の予測、廃棄物・欠品ゼロの食品流通システムなど、高速でリアルタイム性に優れたさまざまなビッグデータを活用したサービスの実現に貢献することが期待されます。

<参考図>

図1

図1 中央大学による抵抗変化型メモリー(ReRAM)のエラー低減、高速化技術(論文(1))

図1−1 フレキシブルリード:書き換え(Set/Reset)を行うにつれて読み出しのレベルを変えることにより、エラーの数を常に最小にします。
図1−2 適応制御型非対称符号:書き換え(セット/リセット)回数が少ない時はセット状態(低抵抗状態)の数を増やし、書き換え回数が多い時にはリセット状態(高抵抗状態)の数を増やす変調を掛けることで、メモリーのエラーを削減します。

ReRAMに書き換え(Set/Reset)を行うにつれ、高抵抗状態と低抵抗状態それぞれの抵抗値が変化します。常に安定に読み出しを行うために、読み出し時の検知レベルを柔軟に変化させるフレキシブルリードを開発(図1−1)。ReRAMは書き込まれるにつれて、主要なエラーが低抵抗状態から高抵抗状態に変化します。最初は低抵抗状態のデータ数を減らし、書き換えが進むにつれて高抵抗状態のデータ数を減らす変調方式(適応制御型非対称符号)を開発しました(図1−2)。これらの技術により、書き換え回数にかかわらず常にエラーは最小化され、従来に比べて80%のエラーの削減と33倍の高速化を達成しました。新しい誤り訂正システムを実証したシステム構成が図1−3です。ReRAMやフラッシュメモリーを制御するコントローラ部分に本研究によって開発された新技術が組み込まれています。

図2

図2 慶應義塾大学による軽量、高速な車載ネットワークを構築できる電磁界コネクタ技術(論文(2))

図2−4 左図は通信がどれだけノイズに強いかを示す実験結果です。10個のECUをネットワークに接続したとき(X軸)、ノイズを印加しても通信のビット誤り率(Y軸)は10−11以下となり、ノイズ耐性が十分に高いことが分かります。

図2−4 右図はどれだけ不要ノイズを放出しているかを示す実験結果です。ネットワークから1m離れたところで電界強度のピーク・ピーク値(尖頭値)(Y軸)の周波数成分(スペクトル)(X軸)を分析しています。スペクトラムマスク(規格値)よりも実測スペクトルが下になければいけません。従来技術では一部規格を守れていませんが、提案技術を使うとノイズのスペクトルが高い周波数領域にシフトすることにより、規格を遵守できています。

<用語解説>

注1)固体記憶媒体ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)
SSDは記憶媒体としてフラッシュメモリーを用いるドライブ装置で、ハードディスクの代替として広く利用されています。機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強くなります。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータをSSDに保存する用途で現在幅広く使われています。
注2)抵抗変化型メモリー(ReRAM)
電圧を加えることで抵抗値が変化する材料を素子として用いた次世代の半導体メモリー。ReRAMは電源を落としてもデータを保持できる不揮発性の新しいメモリーで、データの読み書きが高速で消費電力も少ないのが特長です。
注3)フラッシュメモリー
データの一括消去を特徴とする、電気的にデータの読み書きが可能で、電源を切ってもデータが消えない半導体記憶装置。
注4)電磁界結合
2つの信号線が近接配置されたときに、電界および磁界で結合して、信号が無線伝搬する現象。従来は信号漏洩(クロストーク)の原因と認識されてきましたが、逆転の発想で電磁界コネクタに利用しています。

<論文名>

【技術1】論文番号19.6“Hybrid Storage of ReRAM/TLC NAND Flash with RAID-5/6 for Cloud Data Centers”
(ReRAMとTLC NAND型フラッシュメモリーで構成される、クラウドデータセンター向けハイブリッドストレージ)
doi: 10.1109/ISSCC.2014.6757459

【技術2】論文番号30.6“An Electromagnetic Clip Connector for In-Vehicle LAN to Reduce Wire Harness Weight by 30%”
(クリップ型電磁界コネクタを用いた配線重量を30%削減可能な車載LANシステム)
doi: 10.1109/ISSCC.2014.6757528

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹内 健(タケウチ ケン)
中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授
Tel:03-3817-7374
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.takeuchi-lab.org/

黒田 忠広(クロダ タダヒロ)
慶應義塾大学 理工学部 電子工学科 教授
Tel:045-566-1534(ダイヤルイン)
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.kuroda.elec.keio.ac.jp

<JSTの事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町ビル
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432

中央大学 研究支援室
〒112-8551 東京都文京区春日1−13−27
Tel:03-3817-1603 Fax:03-3817-1677

慶應義塾大学 広報室
〒108-8345 東京都港区三田2−15−45
Tel:03-5427-1541 Fax:03-5441-7640

(英文)“Hybrid Storage of ReRAM/TLC NAND Flash with RAID-5/6 for Cloud Data Centers with Improved Reliability of 69℅ in ReRAM and 98℅ in NAND”
and “An Electromagnetic Clip Connector for In-Vehicle LAN to Reduce Wire Harness Weight by 30℅”