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平成26年2月10日

科学技術振興機構(JST)

東京大学 生産技術研究所

東京大学 大学院工学系研究科

世界初、柔らかいワイヤレス有機センサーシステムの開発に成功
〜ばんそうこうやおむつへの使い捨てセンサー応用に期待〜

<ポイント>

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京大学の桜井 貴康 教授、染谷 隆夫 教授らは、世界で初めて柔らかいワイヤレス有機センサーシステム(有機デバイスだけで構成されるワイヤレスセンサーシステム)の開発に成功し、そのセンサーシステムとしての有用性を柔らかい水分検出センサーシートで実証しました。開発したセンサーシステムは、離れたところからワイヤレスで電力供給が可能で、水分検出センサーからのデータも最適な通信条件で取ることができます。

ワイヤレスセンサーの急速な発展によって、生活空間におけるさまざまな物理情報の計測と活用が進んでいます。センサーの計測対象は、最近、物から人へ急速に拡大しています。人体に接触しながら生体に関する情報を計測する際には、装着感のない柔らかさ、衛生面から使い捨てにできることなど、従来の電子部品になかった課題の解決が急務です。

本研究グループは、高分子フィルム上に有機集積回路注1)を作製することで、ワイヤレスで電力とデータを伝送できる柔らかい水分検出センサーシートの開発に成功しました(図1図2)。開発の決め手は、世界で初めて、有機集積回路を駆動するための電力伝送に電磁界共鳴法注2)を採用したことです。これによって、高効率に長距離のワイヤレス電力伝送と通信が可能となりました。有機集積回路は主に3つのブロックから構成されています(図3)。第1のブロックは、有機ダイオードを用いた整流回路注3)で、電磁界共鳴によりワイヤレスで電力を受けます。第2のブロックは、抵抗変化で発振周波数が変化する有機リング発振回路注4)で、水分による抵抗の変化をワイヤレスにデータ転送します。第3のブロックは、有機ダイオードを用いた静電気保護回路注5)で、2キロボルト(kV)に帯電した人体に触れても壊れない耐性を実現しました。

今回の研究の原理は、水分以外にも、温度や圧力などさまざまなセンサーに応用することも可能です。今後は、ばんそうこうやおむつなど装着感が少なく使い捨てにもできる衛生的なセンサーとして幅広い用途への応用が期待されます。

本研究成果は、2014年2月9日(日)〜13日(木)に米国サンフランシスコにて開催される「国際固体回路会議(ISSCC)2014」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業

研究プロジェクト 「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」
研究総括 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成23年8月〜平成29年3月

上記研究プロジェクトでは、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が期待できる有機材料に着目し、生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する全く新しいデバイスの開発の実現を目指しています。

<研究の背景と経緯>

ワイヤレスセンサーの急速な発展によって、生活空間におけるさまざまな物理情報の計測と活用が進んでいます。例えば、機器の電力消費量、温度や湿度などの環境情報、人の位置情報など多様な空間情報をもとにして、エネルギー調整・管理の最適化や人々の見守りシステムなどが、都市レベル、さらには地球規模で進められようとしています。また、最近ではセンサーの計測対象は、物から人へと急速に拡大しています。

ワイヤレスセンサーの基盤である無線技術やセンシング技術は、これまでシリコンを中心とした硬い電子素材で作られており、ヘルスケアや医療分野など人間を対象としたセンサーもその技術を用いて発展してきました。しかし、人体に接触しながら生体に関する情報を計測する際には、装着感のない柔らかさ(フレキシブル)、衛生面から使い捨てにできることなど、従来の電子部品に求められてこなかった課題の解決が急務です。

こうした背景の中、有機トランジスターや有機ダイオードなどの有機デバイスは、インクジェットなどの印刷プロセスによって高分子フィルムの上に容易に製造できるようになったため、大面積・低コスト・軽量性・柔軟性を同時に実現できると期待されています。これまで有機集積回路については、フレキシブルディスプレイや無線タグの実現に向けた開発が活発に進められてきました。

しかし、フレキシブルなワイヤレスセンサーは、さまざまな電子回路を組み合わせて集積化する必要があり、これらを1つの高分子フィルム上に集積化することはこれまで困難でした。特に、電池などの外部部品を取り付けるとセンサーシートが厚くなり、また、曲がらなくなります。外部部品を何も貼り付けることなく、有機デバイスだけで電子回路のすべての要素を構成し、かつ集積化するための技術開発が待たれていました。

<研究の内容>

本研究グループは、厚さ12.5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のポリイミドという高分子フィルムに色々な有機集積回路を作製することで、ワイヤレスで電力とデータを伝送できるフレキシブルな水分検出センサーシートの開発に成功しました(図1)。センサーは、水分を検出すると、数Hzの信号を出力します。周波数が3Hzの時、センサーの消費電力は1.4マイクロワットです。

開発の決め手は、有機集積回路を駆動するための電力伝送に電磁界共鳴法を採用したことです。電磁界共鳴法は、センサーなどの電子機器に離れたところから電力を伝送する新しい技術として注目されてきていますが、有機集積回路にも応用できることが実験で示されたのは、今回が世界初です。この技術によって、柔らかいセンサーについても、高効率に長距離のワイヤレス電力伝送と通信が可能となりました(図2)。

有機集積回路は、ショットキー型の有機ダイオード、有機トランジスター、キャパシタといったさまざまな電子部品を高分子フィルムの上に集積化して作製されます。いずれの部品も柔らかく、その結果、システム全体としてもくにゃくにゃと曲げられる柔らかさを兼ね備えています。

有機集積回路は主に3つのブロックから構成されています。第1のブロックは、有機ダイオードを用いた整流回路で、電磁界共鳴によりワイヤレスで電力を受けます(図3a)。この整流回路で使われている有機ダイオードは、無線タグで広く使われている周波数13.56MHz帯において、低駆動電圧(10ボルト(V)以下)で大電流(20ミリアンペア(mA))を流すことができます。

第2のブロックは、抵抗変化で発振周波数が変化する有機リング発振回路で、水分による抵抗の変化をワイヤレスにデータ転送します(図3b)。本システムでは、ワイヤレスセンサーの受信コイルが曲がっても最適な通信条件でデータを読み出すことができるように、送信電圧を調整できる仕組みを持っています(図2)。これによって、ワイヤレスセンサーからのデータを読み出す送信機(リーダー)の送信電圧を最大92%削減でき、消費電力の削減を実現しました。

第3のブロックは、有機ダイオードを用いた静電気保護回路です(図3c)。生体とフレキシブルセンサーが接触した際に発生する静電気によるデバイスの破壊を防ぐことが可能です。実際に、2kVの静電気でも壊れない耐性を実現しました。今回開発された有機ダイオードは、有機トランジスターの駆動電圧である8V以下の電圧で、大電流(10mA以上)を流すことができます。これまでも有機半導体を使った静電気保護回路に関する研究はありましたが、世界標準試験規格に準拠したレベルでの性能(IEC61000−4−2のレベル1相当)が示されたのは、世界で初めてです。

<今後の展開>

今回の研究によって、簡単な構成ではありますが、完全なワイヤレス伝送によるシート型のセンサーシステムが実現され、大きな波及効果が期待されます。まず、センサーで検出された情報は、抵抗変化に変換できれば、今回の原理を適応して、柔らかいセンサーシステムに応用できることが分かりました。つまり、水分以外にも、温度や圧力などさまざまなセンサーに応用することも可能です。さらに、これらを複合化して、多点で計測できるフレキシブル大面積ワイヤレスセンサーへの展開が期待されます。多点で計測した情報は、一点で計測した場合よりも、データの信頼性が高いので、医療やヘルスケアなどデータに高い信頼性や精度が求められる用途への展開や、また大面積に発汗のエリア情報が取れるので、ユニークな生体計測への応用も期待できます。

さらに、有機デバイスは、インクジェット印刷など高速処理で環境負荷の少ないプロセスで容易に製造できるため、将来の大幅な低コスト化が期待されます。その結果、今後は、ばんそうこう型のセンサーやおむつへの応用など、装着感が少なく使い捨てにもできる衛生的なセンサーとしてさまざまな用途への展開が期待されます。

今後の課題としては、信頼性の向上と低消費電力化が挙げられます。信頼性については、静電気保護回路有機ダイオードの材料や構造を検討することによって、さらなる高耐圧化を進めることができます。また、整流回路の有機ダイオードの駆動電圧を低減することによって、さらなる低消費電力化が可能です。

<参考図>

図1

図1 世界初となる柔らかいワイヤレス有機センサーシステム

水分を検出してワイヤレスで電力やデータを伝送できる。おむつやばんそうこうに張り付けて、使い捨てにすることもできる。

図2

図2

ワイヤレス通信可能かつ静電気保護回路を有するフレキシブル水分検出センサーシートはコイルが曲がっても動作する。

図3

図3 有機集積回路を構築する3つのブロック

(a)有機ダイオードを用いた整流回路。電磁界共鳴によりワイヤレスで電力を受けることができる。(b)抵抗変化で発振周波数が変化する有機リング発振回路。水分による抵抗の変化をワイヤレスにデータ転送する。(c)有機ダイオードを用いた静電気保護回路。2kVに帯電した人体に触れても壊れない耐性を実現。

<用語解説>

注1)有機集積回路
有機トランジスターや有機ダイオードなどの有機半導体デバイスを集積化することによって特定の電気的な機能を実現した電子回路。
注2)電磁界共鳴法
電磁界の共鳴現象を利用した伝送方式。伝送方式として広く利用されている電磁誘導方式と比較して、送受信の距離を離すことができる点や、結合面を対面させなくても電力伝送ができる点で優れている。
注3)整流回路
交流電力を直流電力に変換するための回路。一般的には、ダイオードのような一方向にだけ電流を流す半導体素子によって構成される。
注4)リング発振回路
持続した交流を発生させる回路(発振回路)の一種で、奇数個のインバータを遅延要素としてリング状に接続したもの。
注5)静電気保護回路
静電気放電で発生した高電圧パルスによって半導体デバイスや内部回路が破壊されることを避けるための保護回路。高電圧にも耐えることのできる半導体素子を介して、高電圧パルスによる電流を迂回させることによって、内部回路に高電圧が印加されることを防ぐ。

<論文タイトル>

“Organic Transistor Based 2kV ESD Tolerant Flexible Wet Sensor Sheet for Biomedical Applications with Wireless Power and Data Transmission Using 13.56MHz Magnetic Resonance”
(13.56MHz帯の無線で電力とデータが転送可能で2kVの静電気耐性のあるバイオ医療応用のための有機トランジスターによるフレキシブル水分センサーシート)
doi: 10.1109/ISSCC.2014.6757525

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

桜井 貴康 (サクライ タカヤス)
東京大学 生産技術研究所 教授
〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
Tel:03-5452-6251/6253 Fax:03-5841-6252
E-mail:
URL:http://lowpower.iis.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

染谷 隆夫(ソメヤ タカオ)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-0411/6756 Fax:03-5841-6709
E-mail:
URL:http://www.ntech.t.u-tokyo.ac.jp/

<JSTの事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail:

<報道担当>

独立行政法人 科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432

(英文)The world ’s first flexible wireless organic sensor system
Disposable sensors that can electrically functionalize a Band-Aid or diapers