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平成26年1月29日

公立大学法人 首都大学東京
学校法人 東京理科大学
独立行政法人 科学技術振興機構

カーボンナノチューブが、熱を電気エネルギーに変換する
優れた性能を持つことを発見
—フレキシブル熱電変換素子の実現に一歩前進—

ポイント

首都大学東京 理工学研究科 真庭 豊 教授、東京理科大学 工学部 山本 貴博 講師、産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 片浦 弘道 首席研究員の研究チームは、共同で高純度の半導体型単層カーボンナノチューブ(s-SWCNT)フィルムが、熱を電気エネルギーに変換する優れた性能をもつことを見いだしました。

尺度となるゼーベック係数は実用レベルのBiTe系熱電材料に匹敵します。このフィルムのゼーベック係数は含まれるs-SWCNTの比率に依存して敏感に変化するため、s-SWCNTの配合比率の異なる2種のSWCNTを用いて容易に熱電変換素子を作ることができます。さらに、この電圧発生には、SWCNT間の結合部分が重要な役割を担うことを理論計算により見いだしました。今後、SWCNTの耐熱性や柔軟性などの優れた特徴を活かし、高性能の新規熱電変換素子の開発につなげていく予定です。

本研究成果は、専門誌「Appl.Phys.Expr.(APEX)」に“Giant Seebeck coefficient in semiconducting single-wall carbon nanotube film”のタイトルでVol.7No2(2014年1月29日)にオンライン掲載される予定です。

本研究の一部は、独立行政法人 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)、首都大学東京 傾斜的研究補助金および文部科学省の科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

<研究の背景・経緯>

今日、先進国で消費されているエネルギーの約3分の2が未利用のまま排熱として環境に放出され、この廃熱エネルギーを効率よく利用可能なエネルギー形態に変換する技術の開発が強く望まれています。いわゆるゼーベック効果注1)と呼ばれる現象を利用した、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換技術は、そのような技術の1つとして注目されています。

本研究では、熱電変換素子を構成する主要材料として、カーボンナノチューブ(CNT)の可能性を探求しました。CNTがフレキシブルエレクトロニクス材料として利用可能であることは良く知られており、実際、CNTを用いた熱電変換素子は柔軟で室温近くで動作可能であることが実証され(関連情報を参照)、現在、実用レベルをめざした、より高性能な素子開発が続けられています。

<研究の詳細>

本研究では、CNT熱電変換素子の心臓部ともいうべき熱電変換材料としての単層カーボンナノチューブ(SWCNT)注2)を研究しました。

SWCNTは金属型(m-SWCNT)と半導体型(s-SWCNT)の2種類に大別され、通常の方法では、この2種類のSWCNTが混在して生成されています。従来の研究では、このようなm-SWCNTとs-SWCNTが混在した材料が使われていましたが、本研究ではs-SWCNTを高純度に濃縮する技術を用いることにより、(m-SWCNT)/(s-SWCNT)の存在比を制御したフィルム状の材料を開発しました。

その結果、図1に示すように、s-SWCNTの割合によって、熱を電気(温度差を電圧)に変換する効率を表すゼーベック係数Sが10倍以上変化することが分かりました。最も高純度のs-SWCNT材料では、s-SWCNTの混合比が約67%の従来型SWCNTの約2.8倍、実用BiTe系熱電材料に匹敵する170μV/Kが得られました。また、単位面積、単位温度差当たりの発電電力の尺度となるパワーファクターPが、従来型SWCNTの約4倍となりました。この結果は純度が違うSWCNT材料を組み合わせるだけで、容易に熱電変換素子を作製可能であることを意味し、図2にその例を示します。さらに、ドープ剤を注入することにより、従来型SWCNTにドープした場合のパワーファクターの約4倍である108μW/Kmが得られることが分かりました。

得られた巨大ゼーベック効果の原因はなにか、大変重要な問題です。本研究では理論的シミュレーションを行い、フィルム状試料内に多数存在するSWCNTとSWCNT間の接触部分が重要な役割を担っていることが示唆されました(図1(b))。SWCNTは高い固有の熱伝導度をもつため、普通に考えると熱電変換材料としての利用は難しいように思われるのですが、この機構では、熱の伝わりにくいSWCNT間の接触部分で電圧が生じるため、熱電変換性能として良い結果が得られたと考えられます。今後の実用熱電変換素子の開発においても、このような界面制御が重要な1つの要素となると思われます。

■研究チーム

○首都大学東京【学長 原島 文雄】

理工学研究科 物理学専攻

真庭 豊 教授
柳 和宏 准教授
中井 祐介 助教

理工学研究科 学生

本田 和也

○東京理科大学【学長 藤嶋 昭】

工学部 第一部教養

山本 貴博 講師

工学研究科 学生

加藤 哲平

○産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】

ナノシステム研究部門

片浦 弘道 首席研究員

<参考図>

図1

図1

(a)半導体型ナノチューブの割合とゼーベック係数Sの関係。
(b)SWCNT間結合部の電子状態の様子(例)。

図2

図2

s-SWCNTフィルムと(m-SWCNT)と(s-SWCNT)が混在したフィルムを10対組み合わせて作製したCNT熱電変換素子。この素子はSWCNTを分散させた2種類のペーストを基盤(厚紙)に塗布するだけで作ることができます。一端を手のひらで温めることにより、約2.6mVの電圧が発生しました。

<用語解説>

注1)ゼーベック効果
物体の両端に温度差を与えると、そこに電圧(起電力)が発生する現象。単位温度差(1K、1℃など)を与えたときに発生する電圧をゼーベック係数Sと呼びます。Sが大きいほど同じ温度差でも大きな電圧が得られます。また、温度差が大きいほど大きな電圧が得られます。Sは材料の種類に依存して、その大きさや符号(プラスの電圧が発生するか、マイナスの電圧が発生するか)が異なります。実際の熱電変換素子は、Sが違う2種類以上の材料を組み合わせて構成されています。
注2)単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Wall Carbon Nanotube)
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子のみからなる一次元性のナノ炭素材料です。その化学構造はグラファイト層(1層のものはグラフェンと呼ばれる)を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と呼び、グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりします。SWCNTの構造(直径とらせん構造)は2つの整数の組(m, n)によって指定されます。これをSWCNTの指数と呼びます。典型的なSWCNTの大きさは、直径が0.4~3nm、長さがおよそ0.1~数10μmです。

<発表論文>

“Giant Seebeck coefficient in semiconducting single-wall carbon nanotube film”
Yusuke Nakai, Kazuya Honda, Kazuhiro Yanagi, Hiromichi Kataura, Teppei Kato, Takahiro Yamamoto, and Yutaka Maniwa,
Appl. Phys. Expr., Vol.7 No2(2014年1月29日オンライン掲載予定)
doi: 10.7567/APEX.7.025103

<関連情報>

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

首都大学東京 理工学研究科 物理学専攻 真庭 豊、中井 祐介
Tel:042-677-2490, 2498
E-mail:

東京理科大学 工学部 山本 貴博
Tel:03-5876-1486
E-mail:

産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 片浦 弘道
Tel:029-861-2551
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
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