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平成25年12月25日

科学技術振興機構(JST)
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神戸大学
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有機薄膜太陽電池で電流を
効率よく発生させる仕組みを実験的に解明

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、神戸大学 大学院理学研究科の小堀 康博 教授らは、有機薄膜太陽電池注1)にできる電荷(電子と正孔)の正確な位置と向きの観測に成功し、光から電流が効率よく生まれる仕組みを分子レベルで初めて明らかにしました。

有機薄膜太陽電池は、現在主流のシリコン系太陽電池(変換効率最大25%程度)よりも小型で低コスト、柔軟性に富んだ次世代太陽電池として注目され、最近では変換効率が11%まで向上し、実用化が期待されています。有機薄膜太陽電池の材料であるフラーレンや高分子は、光を電気の担い手である電荷に変え、さらに生まれた電荷を電極に向けて輸送する重要な役割を担っています。このフラーレンと高分子で構成される不均一な接合界面は、バルクへテロ型接合(BHJ)と呼ばれ、高い変換効率を生むことから、現状の有機系太陽電池の主要な構造です。しかし、光照射後に電子と正孔がどのような位置や向きで生成し、有機分子からどのように効率的に光電流が生まれるのかを分子レベルで観測した例はなく、高効率化の機構はこれまで謎でした。

今回、小堀教授らはパルスレーザー照射で生じる中間体の磁気的性質を1,000万分の1秒の精度で検出する時間分解電子スピン共鳴法注2)を駆使し、有機薄膜太陽電池基板の光照射直後に生成する電子と正孔の正確な位置や向きと電子軌道注3)の重なりの観測に初めて成功しました。その結果、高分子材料のアルキル鎖の分子運動(フォノン効果)によって、BHJで生成した電子と正孔の間の距離が伸び、電極に運ばれることが分かりました。さらに、界面付近の高分子材料による領域では自己組織化による規則的な結晶相が形成されており、この結晶性により正孔の電子軌道に大きな空間的広がりを生む様子が見いだされました。以上のことから、フォノンと結晶性の相乗効果で電荷再結合を抑制しながら電荷を無駄なく電極に伝達し、効率よく光電流ができる仕組みが解明されました。

本成果により、高分子材料のアルキル鎖のフォノン効果や結晶相の形成を活用することで電荷再結合を防ぎ電荷解離を促進できることが明らかになりました。これは、今後の有機系太陽電池をはじめとしたデバイス開発に不可欠な半導体分子の制御や設計・合成に明確な指針を与えるもので、さらなる高効率化実現の加速に貢献することが期待されます。

研究成果は、2013年12月24日(米国東部時間)発行の米国化学会誌「The Journa of Physical Chemistry Letters」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 さきがけ(個人型研究)

研究領域 「太陽光と光電変換機能」
(研究総括:早瀬 修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)
研究課題名 「電子スピンコヒーレンスによる有機太陽電池基板の電子伝達機能の解明」
研究者 小堀 康博(神戸大学 理学研究科 教授)
研究期間 平成22年10月〜平成26年3月

この研究領域は、化学・物理・電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目標として、理論研究から実用化に向けたプロセス研究にわたる広域な研究を対象とするものです。

<研究の背景と経緯>

フラーレン誘導体と共役系高分子の混合膜を光活性材料として用いる有機薄膜太陽電池は、現在主流のシリコン系太陽電池(変換効率20〜25%)よりも小型、低コストで柔軟性に富んだ環境に優しい次世代太陽電池として注目されています。近年、その変換効率(11%程度)がめざましく上がってきてはいるものの、実用化にはさらなる高効率化が不可欠です。フラーレンや共役系高分子は光を電気の担い手である電荷に変え、さらに生まれた電荷を電極に向けて輸送する重要な役割を持っています。このような異なる有機化合物で構成される薄膜内部はバルクへテロ型接合(BHJ)と呼ばれる不均一な接合界面を形成しており、高い変換効率を生むことから、現状の有機系太陽電池の主要な構造です。薄膜基板への光照射により、この接合界面で電子と正孔に分かれる化学反応が起こると、電子はフラーレン誘導体に、正孔は共役系高分子にそれぞれ渡され、2つの反応中間体が生成します(図1)。この際に生成する各中間体には、不安定な電子を1つだけ持った電子軌道が存在します。

これら不安定な電子と正孔が光によって高速かつ高効率に生成することが知られています。しかし、高い効率で電気を取り出すためには、BHJで生成した電子と正孔との間の距離を伸ばして、元の安定な分子に戻る反応(電荷再結合)を起こさないようにすることが重要です。これまで、有機薄膜太陽電池基板への光照射直後に中間体である電子や正孔がどのような位置や向きにどのような電子軌道で生成し、電子と正孔の間に生じる引力の安定化をどう乗り越え光電流へと変わって行くのかを分子レベルで観測した例はなく、高効率化の鍵を握るBHJで光電流が効率よく生まれる仕組みは未解明でした。

一方、小堀教授らは、電子スピン共鳴法を用いた電子と正孔の電子軌道同士の重なりによる電子的相互作用と電子と正孔対の立体構造の解析手法を発展させてきました。この手法により、中間体の立体構造と電子軌道の重なりの同時解析が可能となり、光エネルギー変換の起源を実験的に明らかにすることが期待されていました。

<研究の内容>

有機薄膜太陽電池がBHJにおいて光電流を生み出す仕組みを分子レベルで明らかにするため、電池材料であるフラーレン誘導体(PCBM)と共役系高分子のポリアルキルチオフェン(P3HTあるいは置換アルキル基の炭素数を12個持つP3DDT)による薄膜基板を作成し、時間分解電子スピン共鳴法による測定を行いました(図2)。

さらに、測定された電子スピン共鳴スペクトルについて、BHJにおける反応で生成する電子および正孔の外部磁場や電荷同士の磁気的相互作用によるエネルギーと、電子と正孔の電子軌道同士の重なりによって生じる相互作用エネルギー(電子的相互作用)の影響を量子論にもとづき解析しました(図2)。計算機によるシミュレーションによって実験結果を再現し(図2赤線)、その中から高効率化の仕組みを明らかにするためのパラメータである界面に生成する電荷の立体構造(図3)と電子的相互作用(図4)を決定しました。

解析の結果、BHJ界面の自己組織化により形成された高分子結晶相(図3A)において高分子アルキル基の分子揺らぎ運動(フォノン効果)が活発化することによって、正孔が電子から2ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)以上に解離する様子(図3B)を捉えることに成功しました。さらに、このフォノンと高分子結晶性の相乗効果によって、複数のポリマー鎖に渡る広範囲な電子軌道の広がりが正孔に生まれることが電子的相互作用エネルギーの解析によって明らかになりました(図4)。

これは、高分子材料の1)アルキル鎖の運動によるフォノン効果と、2)自己組織化による規則的な結晶相の形成という2つの因子が電荷の広がりと解離を引き起こし、電荷再結合による損失を抑制することで、有機薄膜太陽電池が効率的に光電流を生み出すことを示すものです。本解析によって、BHJにおける高効率な電流生成の仕組みが分子レベルで初めて明らかになりました。

<今後の展開>

本成果は、有機太陽電池において初期に生成する電荷の位置や向きと、電子軌道の重なりを観測し、有機太陽電池の発電機能を分子レベルで探索・評価する新たな実験・解析手法を提案するものです。

具体的には、高分子材料におけるアルキル鎖のフォノン効果と結晶相の形成がBHJの高効率化に関わる2つの普遍的な因子であることを活用し、個々の高分子材料に適したコントロールを試みることで、電荷再結合を防ぎ電荷解離を促進するという、デバイス開発に不可欠な半導体分子の制御や設計・合成に明確な指針を与えることが可能です。

今後は有機太陽電池材料の解析によるさらなる高効率化実現の加速に貢献することが期待されます。

<付記>

本研究は、静岡大学 大学院理学研究科 修士課程1年の三浦 拓 氏、静岡大学 理学部 3年の相川 素子 氏との共同研究で行われました。

<参考図>

図1

図1 有機薄膜太陽電池のバルクへテロジャンクション構造の模式図

共役系高分子とフラーレン誘導体は互いに相分離しながら不均一な接合界面であるバルクへテロ型接合(BHJ)を生じる。光によって共役系高分子のポリヘキシルチオフェン(P3HT)相とフラーレン誘導体 (PCBM)相の界面で不安定な電子と正孔の対が生まれる。電荷同士が互いに離れることによって太陽光から電気が生まれる。電子と正孔はそれぞれに電荷による磁性を持つ。

図2

図2 有機薄膜太陽電池基板の時間分解電子スピン共鳴スペクトル

  • (A)P3HTとPCBMの混合薄膜(図1)および、(B) ポリドデシルチオフェン(P3DDT:P3HTと同様の共役系高分子であるポリアルキルチオフェンの1つで、P3HTに比べて置換アルキル鎖の炭素数が6から12に増加)とPCBMの混合薄膜のレーザー光照射後の各遅延時間(nsはナノ秒を表す)に観測された時間分解電子スピン共鳴スペクトル(測定温度は−196℃)。

  • (A)で観測されたスペクトルには幅の広い分裂が見られており、1.7ナノメートルの距離にある電子と正孔の間で生じる磁場(図1右側)が互いに影響を及ぼし合っていることを示している。

  • (B)では、その分裂が(A)よりも狭く、電荷同士の磁気的な影響が弱くなったことを示しており、電子−正孔間の距離が電荷解離によって2.4ナノメートルに増加したことが分かった。スペクトルの詳細な解析(赤線)から、中間体分子の位置や向き(図3)および電子軌道の重なりの大きさ(電子的相互作用)が決定された(図4)。

図3

図3 光エネルギー変換の初期に界面で生まれる電荷の立体構造

  • (A)図2の解析から得られた界面電子−正孔対の立体構造の模式図。2つの座標系(赤と青の矢印)は、PCBM、P3HT各分子の軸を基準とし、電子(PCBM-・)、正孔(P3HT+・)の磁気エネルギーが空間的な方向によって変化することを表している。各座標の原点は電荷の中心位置を示す。P3HTに描かれた平面は、ポリチオフェンの芳香環を表し、これら芳香環が折り重なるように自己集合して結晶相を形成する。
  • (B)図2(A)および図2(B)を再現する電子−正孔対の各立体構造がそれぞれ左図、右図のように決定された。アルキル基炭素数の増加で置換基の揺らぎ運動(フォノン効果)がより活発となり、ポリアルキルチオフェン結晶相においてポリマー分子が積層する方向(図の下方向)へと電荷解離が起こる様子が初めて明らかとなった。
図4

図4 有機薄膜太陽電池におけるバルクへテロ接合界面の電子的相互作用

界面付近の高分子結晶相(図の右側)で、電子−正孔間距離が1ナノメートル(nm)以上増加しても電子的相互作用は大きく減少しない。この結果から、複数のポリマー鎖に渡る広範囲な電子軌道の広がりが正孔に生まれることが明らかになった。

<用語解説>

注1)有機薄膜太陽電池
有機化合物で作った薄膜を用いた太陽電池の総称。基板への印刷プロセスによる大量生産が適用できるため、安価な太陽電池として注目を集めている。
注2)電子スピン共鳴法
化学反応により電荷を受けて生まれた中間体分子は、電子の自転運動で生じる磁石の性質を持つ。この磁気エネルギーが、電磁石で発生させた外部磁場や中間体分子同士の磁気エネルギーによって影響を受ける様子をマイクロ波で検出する手法のこと。時間分解電子スピン共鳴法では、ナノ秒(ナノ秒は10億分の1秒)パルスレーザーの照射直後に生成する不安定な中間体を、100ナノ秒単位の連続撮影のように観測することができる。今回、有機薄膜太陽電池に生成した中間体分子の対において、マイクロ波の吸収(A)や、放出(E)が外部磁場強度によって変化する様子を電子スピン共鳴スペクトルとして観測した(図2)。
注3)電子軌道
物質を構成する原子や分子に存在する電子の空間的な分布のこと。

<論文名>

“Time-Resolved EPR Study of Electron-Hole Dissociations Influenced by Alkyl Side Chains at the Photovoltaic Polyalkylthiophene:PCBM Interface”
(時間分解電子スピン共鳴法を用いた太陽光発電用ポリアルキルチオフェン:PCBM界面のアルキル鎖の影響による電子−正孔間解離の研究)
doi: 10.1021/jz402300m

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

小堀 康博(コボリ ヤスヒロ)
神戸大学 大学院理学研究科 教授
〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1
Tel/Fax:078-803-6548
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)、古川 雅士(フルカワ マサシ)、川添 菜津子(カワゾエ ナツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

(英文)Experimental elucidation of mechanism of efficient photocurrent generation
in the organic thin-film solar cells