JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成25年12月6日

独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構

InGaNの多重中間準位を活用した太陽電池の高効率化の原理を実証
〜太陽光の全波長を活用する高効率太陽電池への道〜

概要

1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(拠点長:青野 正和)ICYS−MANA研究員のサン リウエン 博士(独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:中村 道治)さきがけ研究者)および独立行政法人 物質・材料研究機構ワイドギャップ機能材料グループの角谷 正友 主幹研究員らは、III−V族窒化物半導体注1)に多重の中間準位(バンド)を形成することで、太陽光の高効率吸収に利用することに成功しました。これは、従来は活用が難しかった太陽光の幅広い波長成分の利用を可能にするものであり、太陽電池の効率向上に大きく寄与することが期待されます。

2.太陽電池注2)は、その電気エネルギーへの変換効率の向上が求められています。この変換効率を高めるためには、材料の品質や太陽電池構造を改善して電気エネルギーへ変換する効率を上げる方法と、太陽光の特定の範囲の光だけでなく、広い波長範囲の光を利用する方法の2つのアプローチがあります。化合物半導体型の太陽電池では、利用できる太陽光の波長範囲が用いる半導体材料の元素種や結晶構造に特有のバンドギャップ注3)で決まるため、特定の波長範囲の光しか利用できないという欠点があります。そのため、バンドギャップの大きさが異なる複数の半導体材料を積層したタンデム構造や量子ドット構造を埋め込んでより波長の長い太陽光成分も利用する量子ドット太陽電池などが研究されています。しかし、これまでの構造では格子形状の違いや使用できる半導体材料の制限によって変換効率の大きな向上が困難な状況でした。

3.そこで、本研究グループでは、白色・青色発光デバイス(LED)材料である窒化ガリウム(GaN、バンドギャップ:3.4eV)と窒化インジウム(InN、バンドギャップ:0.65eV)が同様の構造を持っていること、およびその波長範囲が太陽光の全波長範囲を含んでいることに着目しました。In組成を制御した窒化ガリウムインジウム(InGaN)混晶を中心として、中間バンドを形成できれば、バンドギャップエネルギーに相当する光のみならず、それよりも長波長側、すなわち、太陽光の主要な構成波長である緑や黄色などの可視光を利用して変換効率を向上することができないかと考えていました。

4.本研究グループでは有機金属化学堆積法(MOCVD法)注4)を用い、n型InGaN層上に発電機能を発揮する領域としてInGaN/GaN量子井戸構造の30層からなり、In組成を変化させたInGaN量子ドットを各量子井戸に埋め込んだ構造の中間バンド太陽電池注5)を作製しました。この太陽電池の外部量子効率注6)を測定したところ、2.40,2.29,および1.97eVの複数の中間バンド準位が形成され、その結果、本来のInGaNでは利用できなかった450nmから750nmの光が吸収され、電気エネルギーに変換されていることを確認しました。

5.今回の成果は短波長の太陽光成分しか活用できないInGaN型の化合物半導体材料を用いる場合でも、複雑な構造となるタンデム構造を形成することなく広い波長範囲の太陽光成分を利用できることを意味し、その結果として変換効率が大きく向上できる可能性を示しており、太陽電池の効率向上に大きく寄与することが期待されます。

6.本研究は独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「エネルギー高効率利用と相界面」研究領域(研究総括:笠木 伸英)における研究課題「高効率光電変換デバイスの実現に向けたIII族窒化物のマルチバンドエンジニアリング」(研究者:サン リウエン)の一環として行われ、Advanced Materialsオンラインに掲載予定です。

<研究の背景>

太陽電池は持続可能な社会のために有望なエネルギー源の1つとして考えられています。太陽光エネルギーを吸収して電気エネルギーに変換できる波長の範囲は半導体材料のバンドギャップによって決まっているため、その理論的な変換効率は用いる半導体材料と太陽光スペクトルの波長構成の組み合わせで決定されてしまいます。変換効率を向上させるためには太陽光のエネルギー(波長)を広い範囲で吸収する必要があり、そのためにInGaP、GaAsなどの化合物半導体系材料でみられるようにバンドギャップの異なる材料からなる太陽電池を直列につなげたタンデム型が提案され、研究されています。

しかしながら、タンデム型太陽電池には適切なバンドギャップを持つ材料を選定すること、およびその材料を組み合わせ、積層するための複雑な製作技術に課題があります。また、別の方法として本来のバンドギャップの中間のバンドギャップを持つ準位(中間バンド)を形成し、本来のバンドギャップよりも長い波長範囲の光も利用することが提案されています。しかし、その中間バンドは単一のレベルしか形成することができませんでした。そこで、本研究グループでは白色・青色発光デバイス(LED)材料にも使われている大きなバンドギャップ(3.4eV)を持つGaNと小さなバンドギャップ(0.65eV)を持つInNを組み合わせる混晶化によって得られるInGaN材料を用い、複数の中間バンドを形成できれば、太陽光スペクトルの全領域をカバーできる可能性があることに着目し、変換効率の大きな向上を実現できるのではないかと考えました。これまでにInGaN系材料で中間バンドの形成を確認した報告はありません。

<成果の内容>

本研究グループでは有機金属化学堆積法(MOCVD法)でn型InGaN層上に発電機能を発揮する領域(i層)として、InGaN量子ドットが埋め込まれたInGaN/GaN量子井戸構造を30層導入した、太陽電池を作製しました(図1a)。

この太陽電池の外部量子効率を測定したところ、本来のInGaNのバンドギャップエネルギーよりも低い(長波長)領域でも太陽光を吸収し、電気エネルギーに変換していることがわかりました。すなわち、本来のInGaN型の太陽電池では、約400nmよりも短波長側の太陽光成分のみしか電気エネルギーに変換できなかったのに対し、本研究による中間バンド型太陽電池では、450〜750nmの波長範囲の光も含めた広い範囲の太陽光成分(可視光)を吸収して電気エネルギー変換できることが示されました(図2)。

これらのデータを理論計算も含めて解析した結果、我々が作製した太陽電池では、30層のInGaN量子ドット/GaN量子井戸構造によって、2.40,2.29,および1.97eVの複数の中間準位を持つ中間バンドが形成されていることが確認されました(図1b)。この結果は、カソードルミネッセンス注7)の深さ方向分析と断面透過型顕微鏡観察によるIn組成分析の結果とも一致していました。これらの中間バンドは、InGaN量子ドットの閉じ込めとドット間のカップリング効果によってそれぞれのエネルギー準位が形成されたことによるものと考えられます。

<波及効果と今後の展開>

本研究のInGaN中間バンド太陽電池の特徴は、複数の中間バンドが形成されていることであり、本来のInGaNが吸収できる波長以外に太陽光に含まれる広い波長成分をより多く利用することが可能となることです。今後の研究により、それぞれの波長範囲における変換効率を向上させることで、高効率での太陽電池が実現することが期待されます。

<参考図>

図1

図1

  • (a)MOCVDによるInGaN多重準位中間バンド太陽電池の構造。
  • (b)InGaN多重準位中間バンド太陽電池のバンドダイアグラム概略図。2.40,2.29,および1.97eVの中間準位を持つ中間バンドが形成されている。
図2

図2 中間バンド太陽電池の外部量子効率スペクトル

<用語解説>

注1) III−V族窒化物半導体
III−V族窒化物半導体は、周期表のIII族に属するAl,Ga,Inなどの元素とX族に属する窒素(N)との化合物である。III族元素の単独もしくは2つ、3つの混合比を制御することで検出できる光の波長を制御することができる。
注2) 太陽電池
光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する電力機器である。光照射時に於いて、端子を開放した時の出力電圧を開放電圧、短絡した時の電流を短絡電流(short−circuit current Isc)と呼ぶ。またIscを有効受光面積で割ったものを短絡電流密度(Jsc)と呼ぶ。
注3) バンドギャップ(禁制帯幅)
半導体の物性値の1つであり、ここでは吸収できる最小の光エネルギーを表す。
注4) 有機金属化学堆積法(MOCVD法)
金属元素にメチル基(−CH3)やエチル基(−C2H5)を結合させた化合物を加熱・気化して反応装置に導入することによって基板上に薄膜状の金属化合物の結晶を形成させる手法。
注5) 中間バンド太陽電池
中間バンド方式の量子ドット型太陽電池は、量子ドット間を電子的に結合させることで生じる中間バンドを活用し、幅広い波長の光を吸収できるように構成されたものである。複数の中間バンドを有効に活用できるように構成した中間バンド方式の量子ドット型太陽電池の理論変換効率は75%に達するという研究結果が東京大学の荒川教授らによって報告されている。
注6) 量子効率
量子効率とは、太陽電池に毎秒吸収された光子に対して何個の電子を発生させるかを比率(%)で示した値である。
注7) カソードルミネッセンス
カソードルミネセンス(Cathode luminescence,CL)とは、物質に電子線を照射することによって発光させるルミネセンスのことである。

<掲載論文>

題目:Multilevel intermediate-band solar cell by InGaN/GaN quantum dots with a strainmodulated structure
著者:Liwen Sang,* Meiyong Liao,* Qifeng Liang, Masaki Takeguchi, Benjamin Dierre, Bo Shen,
Takashi Sekiguchi, Yasuo Koide, and MasatomoSumiya
雑誌:Advanced Materials
doi: 10.1002/adma.201304335

<本件に関するお問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

独立行政法人 物質・材料研究機構 ワイドギャップ機能材料グループ
角谷 正友(スミヤ マサトモ)
Tel:029-860-4784
E-mail:
http://www.nims.go.jp/optical_sensor/sumiya_lab/

独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
独立行政法人 科学技術振興機構 さきがけ研究者
Sang Liwen(サン リウエン)
Tel:029-851-3354(8652)
E-mail:

<科学技術振興機構の事業に関すること>

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
松尾浩司(マツオ コウジ)、古川雅士(フルカワ マサシ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

<報道担当>

独立行政法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1
Tel:029-859-2026 Fax:029-859-2017

独立行政法人 科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432