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平成25年10月25日

独立行政法人 理化学研究所
慶應義塾大学 医学部
独立行政法人 科学技術振興機構

ステロイドが効かない重症ぜんそくのメカニズムをマウスで解明
〜Stat5阻害剤投与で重症ぜんそくが改善〜

本研究成果のポイント

理化学研究所(理研、野依 良治 理事長)は、マウスを使い重症ぜんそくで抗炎症薬剤「ステロイド注1)」が効かなくなるメカニズムを解明しました。これは、理研 統合生命医科学研究センター(小安 重夫 センター長代行) 免疫細胞システム研究グループの小安 重夫 グループディレクター、茂呂 和世 上級研究員(JST さきがけ研究者)と、東海大学 医学部 呼吸器内科学系の浅野 浩一郎 教授、慶應義塾大学 医学部 内科学教室(呼吸器)の別役 智子 教授、加畑 宏樹 助教らによる共同研究グループの成果です。

ぜんそくの治療には、ステロイドが最も基本となる薬剤です。多くの場合、低用量〜中用量のステロイド吸入によって炎症を抑え、長期的に症状をコントロールできます。しかし、ぜんそく患者の5〜10%は、ステロイドに対する耐性(ステロイド抵抗性)を獲得してしまい、高用量の吸入投与を必要とする重症ぜんそくとなり、時には死に至るケースもあります。

小安グループディレクターらは2010年、新しい免疫細胞「ナチュラルヘルパー細胞(NH細胞)注2)」を発見しました。NH細胞は、インターロイキン(IL)注3)の1つIL−33の刺激を受けると、炎症を起こすタンパク質を放出して免疫系を活性化します。ぜんそくでは、IL−33の刺激を受けたNH細胞による免疫系の活性化で、気道の炎症が悪化します。本来、NH細胞の細胞死を誘導し炎症を抑制するステロイドに対して、抵抗性を獲得するメカニズムは分かっていませんでした。

共同研究グループは、ぜんそくモデルマウスを用いた実験により、気道で作られるタンパク質「TSLP注4)」がステロイド抵抗性に関わることを発見しました。TSLPがIL−33とともにNH細胞に作用すると、NH細胞がステロイドに対する抵抗性を獲得することが分かりました。さらに、この作用を調べた結果、TSLPが「Stat5注5)」という転写因子を活性化し、NH細胞の細胞死を防いでいました。そこで、Stat5阻害剤をマウスに投与したところ、NH細胞のステロイドへの抵抗性が消失し、重症ぜんそくが改善することが明らかになりました。

ヒトにおいても、ステロイドが効かない重症ぜんそくにStat5阻害剤を用いることで、ステロイド抵抗性をコントロールできる可能性が示されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われ、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(10月25日付け:日本時間10月25日)に掲載されます。

1.背景

ぜんそくの治療において、ステロイドは最も基本となる薬剤です。多くの場合、低用量〜中用量のステロイド吸入によって炎症を抑え、長期的に症状をコントロールできます。しかし、ぜんそく患者の5〜10%程度はステロイドへの耐性(ステロイド抵抗性)を獲得してしまい、高用量の吸入投与を必要とする重症ぜんそくとなり、時には死に至るケースもあります。

これまで、重症ぜんそくのメカニズムについては、気道で作られるインターロイキン(IL)の1つであるIL−33というサイトカインが体内で増加すること、IL−33やIL−33受容体の遺伝子の変異が重症ぜんそくの発症に関係していることから、IL−33が重要な役割を果たしていると考えられていました。しかし、どのようにステロイド抵抗性を獲得するのか、そのメカニズムの詳細は分かっていませんでした。

小安グループディレクターらは2010年、新しい免疫細胞「ナチュラルヘルパー細胞(NH細胞)」を発見しています。NH細胞は、腹腔の脂肪組織、肺や気道の上皮、消化器や肝臓など、従来の免疫組織とは異なる場所に存在し、IL−33の刺激を受けると、炎症を起こすタンパク質(IL−5やIL−13)を放出し、免疫系を活性化します。

そこで共同研究グループは、重症ぜんそくに見られるステロイド抵抗性とNH細胞との関連について調べることにしました。

2.研究手法と成果

まず、ステロイドがどのようにNH細胞に反応するかを調べました。マウスにIL−33を点鼻すると、肺のNH細胞が増加して気道に炎症が起きます。このマウスにステロイドを投与したところ、NH細胞が死滅し炎症が抑えられました。つまり、ステロイドはNH細胞を殺すことによって、炎症を起こすタンパク質の分泌を抑え、気道の炎症を抑制することが確認できました。

次に、重症ぜんそくの状態でのステロイド反応性を調べました。マウスにアレルギーを誘導することで知られる卵白アルブミンとIL−33を点鼻すると、重症ぜんそくの症状を示します。このマウスにステロイドを投与しましたが、NH細胞は死滅せず、炎症を抑えることができませんでした。これにより、ステロイド抵抗性には、NH細胞が関わっていることが分かりました。

これらの結果から、本来ステロイドに反応して死滅するNH細胞が、ステロイド抵抗性を示すのは、何らかの免疫物質が作用しているのではないかと考えました。そこで、NH細胞の培養液に15種類のサイトカインを加えて調べたところ、TSLPが存在すると、ステロイドを加えてもNH細胞が死なず、ステロイド抵抗性を獲得することが分かりました(図1)。

TSLPは、IL−33と同様、気道や肺で作られるタンパク質で、重症ぜんそく患者ではその遺伝子が活性化することが知られています。ステロイド抵抗性へのTSLPの関与を確認するため、TSLPとIL−33を同時にマウスに点鼻して気道や肺に炎症を誘導しました。すると、このマウスにステロイドを投与しても、顕著な効果はなく(図2)、肺の炎症も抑制されませんでした(図3)。この結果から、TSLPがIL−33とともにNH細胞に作用したために、NH細胞がステロイド抵抗性を獲得したことが分かりました。

さらに、TSLPがどのようにNH細胞に作用し、ステロイド抵抗性を獲得するかを調べました。その結果、NH細胞内のStat5という転写因子が重要な働きをしていることが分かりました。そこで培養実験で、ステロイド抵抗性を獲得したNH細胞にピモジド注6)というStat5阻害薬を添加したところ、NH細胞が死滅して、ステロイド抵抗性が消失しました(図1)。実際にステロイド抵抗性を獲得した重症ぜんそくのマウスにピモジドを投与したところ、肺のNH細胞の数が減少し(図2)、炎症を強く抑えられたことから(図3)、ステロイドの効果が回復したことが分かりました。

これらのことから、重症ぜんそくのマウスでは気道のIL−33とTSLPがともにNH細胞に作用することで、ステロイド抵抗性を獲得することが明らかになりました。さらに、Stat5阻害薬のピモジドを投与することで、ステロイド反応性を回復させることが分かりました(図4)。

3.今後の期待

今回用いたピモジドというStat5阻害剤は、既に認可薬として用いられている薬剤です。今後、ヒトの重症ぜんそくにおける効果、安全性などについて研究を進めることで、臨床において問題となっているステロイド抵抗性のコントロールに応用できると期待できます。

なお、本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ):「炎症の慢性化機構の解明と制御」研究領域(研究総括:高津 聖志(富山県薬事研究所 所長)における研究課題「IL−33産生を伴う慢性疾患と加齢や肥満により増加したナチュラルヘルパー細胞がTh1/Th2バランスの破綻を惹起するメカニズムの解明」(研究者:茂呂 和世)の一環として行われました。

<参考図>

図1

図1 ピモジドによるNH細胞のステロイド抵抗性の消失

ステロイドの効果で死滅するNH細胞(左端)はTSLPが存在すると死ななくなる(左から2番目:ステロイド抵抗性あり)。しかし、ここにピモジド(Pimozide)を投与するとNH細胞は死滅する(左から3番目と右端:ステロイド抵抗性の消失)。

図2

図2 ピモジドによる肺の中のNH細胞数の減少

マウスにIL−33とTSLPを投与してステロイド抵抗性を持つ重症ぜんそくを引き起こすと、肺の中のNH細胞数は大きく上昇する(左から2番目)。ここにステロイドを投与しても目に見えるほどの効果はないが(左から3番目)、さらにピモジド(Pimozide)を投与するとNH細胞の増殖が強く抑えられる(右端)。

図3

図3 ピモジド投与による肺の炎症抑制

マウスにIL−33とTSLPを投与してステロイド抵抗性を持つ重症ぜんそくを引き起こすと、気管支に粘液(紫色)が多量に出て呼吸困難の原因となる(左端)。ここにステロイドを投与してもあまり効果はないが(中央)、さらにピモジド(Pimozide)を投与すると粘液産生が強く抑えられる(右端)。

図4

図4 ピモジド投与によるステロイドの効果回復メカニズム

アレルギーを起こすアレルゲンの吸入によって気道や肺で作られるIL−33がNH細胞を活性化する。この活性化は、ステロイド投与により抑えることができるが(左側)、重症ぜんそくではTSLPが作られてNH細胞がステロイド抵抗性を獲得するために、ステロイドが効かなくなる(上右側)。そこにTSLPの働きを止めるピモジド(Pimozide)を投与すると、NH細胞に対するステロイドの効果が回復し、症状を抑えることができる(下右側)。

白血球の一種である好酸球は、IL−5とIL−13によって活性化する。ステロイドには、この活性化も抑制する効果がある。

<用語解説>

注1)ステロイド
副腎皮質ステロイドを含むステロイド系抗炎症薬の通称であり、抗炎症作用や免疫抑制作用などを期待して用いられる薬剤。プレドニゾロンやヒドロコルチゾンなどが代表的なステロイド剤である。
注2)ナチュラルヘルパー細胞(NH細胞)
リンパ球の一種。Tリンパ球やBリンパ球のように異物を認識する受容体を持たず、IL−33によって刺激を受けると大量のIL−5やIL−13を産生する細胞で、アレルギーや寄生虫感染で重要な細胞であることが分かっている。脂肪組織の中に多く存在するが、それ以外に肺や腸管にも存在する。
注3)インターロイキン(IL)
情報伝達物質であるサイトカインの一種。免疫細胞によって生産・分泌され、他の細胞に働きかけてさまざまな作用を示すタンパク質の総称。代表的なインターロイキン(Interleukin)には、Tリンパ球の増殖を誘導するIL−2があるが、IL−33は33番目に命名されたインターロイキン。
注4)TSLP
TSLPはThymic stromal lymphoproteinの略。もともとは、胸腺という臓器で作られ、Tリンパ球の成熟を促すタンパク質として見つかったが、その後の研究から胸腺以外にも皮膚や腸管において外界と接する上皮細胞と呼ばれる細胞などによって作られることが明らかになった。末梢においては、樹状細胞と呼ばれる免疫細胞にも働きかけることが知られている。
注5)Stat5
StatはSignal Transducers and Activator of Transcriptionの略。サイトカイン刺激を受けた細胞内でリン酸化され、リン酸化されることで細胞核へ移行し、さまざまな遺伝子の発現に関わるタンパク質ファミリー。Stat5はその1つで、TSLP受容体刺激で活性化されるとともに、IL−2やIL−7などの受容体刺激によっても活性化される。
注6)ピモジド
抗精神病薬として開発されたブチロフェン(butyrophenone)系の薬剤であり、抗精神病薬として臨床で使用されている。商品名はオーラップ。既存の市販薬の作用機作を改めて検討するdrug repositioning programによって、Stat5阻害活性があることが示された。

<論文タイトル>

“Thymic stromal lymphopoietin induces corticosteroid resistance in natural helper cells during airway inflammation.”
Kabata, H. Moro, K. Fukunaga, K. Suzuki, Y. Miyata, J. Masaki, K. Betsuyaku, T. Koyasu, S. and Asano K. Nature Communications, 2013,
doi: 10.1038/ncomms3675

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

独立行政法人 理化学研究所 統合生命医科学研究センター 免疫細胞システム研究グループ
グループディレクター 小安 重夫(コヤス シゲオ)
Tel:045-503-7007 Fax:045-503-7003

統合生命医科学研究推進室
Tel:045-503-9121 Fax:045-503-9113

<JSTの事業に関すること>

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063

<報道担当>

独立行政法人 理化学研究所 広報室 報道担当
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Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432

(英文)Hope of new treatment for severe asthma patients