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平成25年10月18日

国立大学法人 神戸大学
国立大学法人 北海道大学
独立行政法人 科学技術振興機構

骨が免疫を育て脂肪バランスを整える
〜骨をターゲットにした新たな治療戦略の提示へ〜

ポイント

神戸大学 医学部 附属病院 血液内科の片山 義雄 講師(JST さきがけ研究者 兼任)と北海道大学 大学院歯学研究科 口腔先端融合科学分野の佐藤 真理 助教らの共同研究グループは、骨を構成する「骨細胞」が免疫臓器や脂肪組織をコントロールすることで、全身の健康に大きな影響を与えていることを動物実験により世界に先駆けて明らかにしました。

重力のかからない宇宙飛行士や寝たきりの患者さんでは、通常の10倍ものスピードで骨の量が減ります。それだけではなく、免疫の低下やホルモンなどの代謝異常も引き起こされます。その重力を感知しているのは、骨細胞という骨の中に大量に埋め込まれた細胞です。骨細胞は、私たちの体にかかる重力や運動刺激を感知して骨の健康に重要な役割を果たすことが知られていますが、全身の健康に果たす役割は分かっていませんでした。

我々は、遺伝子操作により生体内で骨細胞にダメージを与えたマウスの全身を解析しました。このマウスは、免疫に重要な白血球の一部が枯渇し、脂肪が消えてみるみるやせ細っていきます。種々の実験結果から、骨細胞は免疫細胞を育てるゆりかごである骨髄と胸腺の環境を整備し、全身の脂肪組織や肝臓での脂肪の貯蓄と出入りをコントロールしていることが明らかになりました。

骨が弱ると全身も弱ります。骨全体に張り巡らされた骨細胞が日々重力を感じて発信する刺激こそが、強い免疫と健全な脂肪の保持に大切なのです。この全く新しい知見と概念は、免疫不全や脂質代謝異常といった疾患に対して、標的臓器のみならず黒幕的臓器とも言える骨をターゲットとした、より根本的な治療の開発に役立つものと思われます。さらに、骨をターゲットにした新しい予防医療と健康作りの提案によって、国民の意識改革と健康増進に大きく貢献するものと思われます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 さきがけの一環として行われ、本研究成果は生理学やホメオスタシスの根底にある分子メカニズム、健康と病気、モデルシステムから臨床についての研究に焦点を当てた代謝生物学分野における世界トップクラスの学術雑誌である米国科学雑誌「Cell Metabolism」に10月17日(米国東部時間)オンライン掲載されます。

<研究の背景>

骨は単なるカルシウムの塊ではなく、骨細胞という生きた細胞の塊です。全身の骨に大量に埋め込まれ、長い手のような細胞突起を伸ばして互いにネットワークを形成している骨細胞は、私たちの体にかかる重力や運動刺激を感じとるメカノセンサーとしての役割を持つことが知られています。宇宙飛行士や寝たきりの患者さんのように、重力の少ない環境におかれた生体内では通常の10倍ものスピードで骨の量が減ります。さらに、マウスのしっぽをつり下げて重力がかからないようにした後ろ足では骨の量のみならず、骨細胞の作るネットワーク構造が乱れてバラバラになります。興味深いことに、宇宙飛行士や寝たきりの患者さんでは免疫不全や、ホルモンなどの代謝異常が引き起こされることも知られており、重力刺激が入らないことによる骨すなわち骨細胞の異常と免疫や代謝異常がリンクしている可能性が示唆されます。

今までに、骨細胞が骨芽細胞や破骨細胞に影響して骨の健康を保つことは報告されてきましたが、免疫制御や脂肪代謝制御といった全身の健康におよぼす影響については検討されていませんでした。

<本研究の概要>

ジフテリア毒素受容体を骨細胞のみに発現させた遺伝子組み換えマウスにジフテリア毒を投与すると、骨細胞がダメージを受けて骨細胞同士のネットワーク構造が乱れます(図1)。このマウスの血液中では、免疫に重要なBリンパ球やTリンパ球が著しく減少していました。詳細を調べた結果、骨細胞がダメージを受けることで単純にリンパ球そのものが影響を受けるのではなく、Bリンパ球を育てるゆりかごである骨髄ストローマ細胞ならびにTリンパ球を育てるゆりかごである胸腺ストローマ細胞が消えてしまうからだということが明らかとなりました。見た目にも胸腺がしぼんで小さくなっているのが分かります(図2)。骨細胞はリンパ球の生育環境を整備することで免疫をコントロールしていると考えられました。

さらに、骨細胞が弱ったマウスはみるみる体重が減り、食べているのにやせこけていきます。これは全身の皮下脂肪や内臓脂肪がなくなってしまうからです(図2)。興味深いことに、脳視床下部の摂食中枢を破壊した上で骨細胞にダメージを与えたマウスでは同様に脂肪がなくなりますが、肝臓だけには脂肪がたまって激烈な脂肪肝となります(図3)。骨細胞は全身に適切な量の脂肪を保つとともに、脳と協調して肝臓への脂肪の貯蓄と出入りをコントロールしていると考えられました。

この骨細胞にダメージを与えたマウスで観察される胸腺の萎縮と脂肪の消失は、2匹のマウスの血液の流れをつなげて共有させるパラバイオーシスという方法で、血液中のホルモンやミネラルなどの液性因子を正常マウスから供給してやっても回復しませんでした。骨を作る骨芽細胞がホルモンを介してすい臓や精巣をコントロールしていることは知られていますが、骨に埋め込まれた骨細胞がホルモンやミネラルを介さずに遠くに位置する胸腺や脂肪をコントロールしていることは大きな発見です(図4)。

<今後の展開>

本研究により、骨に埋め込まれた骨細胞が免疫や脂肪代謝に深く関わり全身の健康に重要であることが明らかとなりました。これにより、医療従事者のみならず一般の人々が抱く骨のイメージを塗り替え、骨をターゲットとした新たな治療法や健康法の開発につながると考えられます。免疫不全や脂質代謝疾患の患者さんに、標的臓器に加えて黒幕的臓器である骨をターゲットにした治療を施すことで、より根本的な治癒・回復が期待できるのみならず、健康増進・病気予防のためのトレーニングや食生活に、骨をターゲットにしたプログラムを取り入れることで、より良い効果が得られ健康な成長・発育やサクセスフルエイジングにも寄与すると考えられます。

<参考図>

図1

図1 ダメージを受けて弱った骨細胞

骨細胞は、長い手のような細胞突起をお互い伸ばし合い、骨の中で網目のようなネットワーク構造を作っています。骨細胞にダメージを与え、ネットワーク構造がスカスカになったマウスの全身解析を行いました。(当該論文 Sato et al. Cell Metabolism (in press) Figure 1A より改変)

図2

図2 骨細胞が弱ったマウスでは胸腺がしぼみ、脂肪がなくなる

骨細胞が弱ったマウスでは、Tリンパ球を育てる臓器である胸腺が小さくしぼんでしまいます。さらに、白い皮下脂肪や内臓脂肪がなくなってしまいます。(当該論文 Sato et al. Cell Metabolism (in press) Figure 1CとFigure 4A より改変)

図3

図3 脳視床下部の摂食中枢を破壊し、骨細胞にダメージを与えたマウスは激烈な脂肪肝になる

骨細胞だけがダメージを受けたり、脳だけを壊しただけでは肝臓に変化はありませんが、骨と脳の両方がダメージを受けると脂肪がたまり大きく真っ白になった脂肪肝になってしまいます。(当該論文 Sato et al. Cell Metabolism (in press) Figure 4Bより改変)

図4

図4 本研究のまとめ

骨に埋め込まれた骨細胞は、胸腺や骨髄の環境を整備して免疫に重要なTリンパ球やBリンパ球を育てます。さらに全身の脂肪を健全に保つとともに、脳と協調して肝臓への脂肪の貯蓄と出入りをコントロールします。(当該論文 Sato et al. Cell Metabolism (in press) Figure 4Eより改変)

<論文情報>

Mari Sato, Noboru Asada, Yuko Kawano, Kanako Wakahashi, Kentaro Minagawa, Hiroki Kawano, Akiko Sada, Kyoji Ikeda, Toshimitsu Matsui, Yoshio Katayama.
“Osteocytes regulate primary lymphoid organs and fat metabolism.”
Cell Metabolism (in press)
doi: 10.1016/j.cmet.2013.09.014

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

北海道大学 大学院歯学研究科 口腔先端融合科学分野
助教 佐藤 真理
Tel:011-706-4232 Fax:011-706-4231
E-mail:

神戸大学 医学部 附属病院 血液内科
講師 片山 義雄
Tel:078-382-6912 Fax:078-382-6910
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<JSTの事業に関すること>

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