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平成25年9月13日

東京医科歯科大学
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秋田大学 大学院医学系研究科
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過剰な免疫反応を抑制する新たな樹状細胞のはたらきを発見
〜感染症や自己免疫疾患治療に新たな視点〜

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京医科歯科大学 難治疾患研究所の樗木(オオテキ) 俊聡 教授らは、秋田大学 大学院医学系研究科の澤田 賢一 教授らとの共同研究により、樹状細胞(DC:Dendritic Cell)注1)による血球貪食注2)が、過剰な免疫反応を抑制する仕組みであることを新たに発見しました。

ヒト血球貪食症候群(HPS:Hemophagocytic Syndrome)注3)は、先天的な遺伝子異常によって発症するもの(一次性)と、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などの疾患にともなって発症するもの(二次性)に分類されます。免疫細胞が暴走し、大量のサイトカイン注4)の産生や貪食細胞による赤血球や白血球の貪食を特徴とし、重篤な場合には死に至ります。

本研究グループは、マウス血球貪食症候群モデルを用いて、今回新たにDCによる血球貪食が、過剰な免疫反応を抑制する仕組みであることを発見しました。DCは、正常な状態では従来型DC注5)形質細胞様DC注6)に分類されますが、炎症状態では、さらに単球注7)から誘導されるDCが存在することが知られています。激しい炎症や重篤な感染症の際、この単球由来のDCが主にアポトーシスを起こした赤血球系細胞を貪食することによって、免疫抑制性サイトカインを産生して過剰な免疫反応による組織傷害を抑制し、個体の死を回避することを見いだしました。

本研究成果は、これまで激しい炎症の指標として位置づけられてきた血球貪食が、新たな免疫寛容注8)機構としての機能を持つことを明らかにした重要な発見です。今後、本研究成果に基づき、免疫細胞の暴走など過剰な免疫反応を伴う感染症・自己免疫疾患に対する新たな診断法・治療法の開発が進むものと期待されます。

本研究成果は、2013年9月12日(米国東部時間)に米国科学誌「Immunity」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
(研究総括:菅村 和夫 宮城県立病院機構 理事長)
研究課題名 「樹状細胞制御に基づく粘膜免疫疾患の克服」
研究代表者 樗木 俊聡(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授)
研究期間 平成20年10月〜平成26年3月

JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。上記研究課題では、主に粘膜組織における樹状細胞群の免疫応答・免疫寛容誘導機構を明らかにすることで、粘膜免疫疾患を予防・治療する技術開発を目指します。

<研究の背景と経緯>

免疫反応は、病原体を排除することで宿主を防衛すると同時に組織を傷害する、いわば“諸刃の剣”です。感染や炎症が起こるとDCは、Toll様受容体(TLR)をはじめとするセンサーで病原体の特徴を認識し、獲得免疫系を活性化して病原体を排除します。しかしながら、活性化された免疫反応、特にサイトカイン、化学伝達物質、ウィルスを排除するキラーT細胞(CTL)などは、病原体の排除に役立つと同時に組織を傷害します。従って、免疫反応には、病原体排除と組織傷害のバランスを調節・維持するための仕組みが必要になります。激しい免疫反応ほど、そのバランスを適度に調節する仕組みの重要性が増すことになります。しかし、激しい免疫反応時のバランス調節機構に関してはよくわかっていませんでした。

激しい炎症時には、貪食細胞による血球細胞の貪食が起こり、さらにいくつかの診断基準を満たす場合をヒト血球貪食症候群(HPS:Hemophagocytic Syndrome)と言います。HPSは適切な治療が施されないと死に至ることもあります。先天的な原因で発症する一次性HPSと、感染症や自己免疫疾患に付随して発症する二次性HPSに分類され、これまで、血球貪食は激しい炎症の一指標として位置づけられていました。また血球貪食の仕組みも不明でした。

<研究の内容>

本研究チームは炎症時の血球細胞の貪食の仕組みを明らかにするために、代表的なTLRが認識するリガンドであるCpG(微生物に多くみられるDNA配列)あるいはpoly I:C(ウイルスの構成成分に類似の合成RNA)を高濃度で野生型マウスに投与して、激しい炎症を誘導しました。その結果、骨髄、脾臓、末梢血などで“血球貪食”現象が観察されました(図1左)。貪食される細胞は主に未熟な有核赤血球でしたが、脱核した成熟赤血球も混在していました。また、貪食細胞が単球由来DCであることもわかりました。ヒトでは、EBウィルス、サイトメガロウィルス、HIVなどの慢性感染症でHPSが観察されます。そこで、マウスに慢性感染するリンパ球性脈絡髄膜炎ウィルスクローン13株(LCMV C13:Lymphocytic Choriomeningitis Virus Clone 13)を感染させたところ、“血球貪食”が効率よく誘導されました(図1右)。これらのマウス血球貪食症候群モデルを用いて、“血球貪食”機構の詳細を調べたところ、高濃度TLRリガンドあるいはLCMV C13によって赤血球系細胞にアポトーシス注9)が起こり、フォスファチジルセリン(PS)が膜表面に露出して、単球由来DC上のPS受容体に結合し、貪食されていました。

興味深いことに、単球由来DCは血球を貪食すると、血清中にIL−10やTGF−βといった免疫抑制性サイトカインを産生しました(図2)。この血球貪食によって産生されるIL−10の免疫学的意義を明らかにするために、単球由来DCがIL−10を産生できないマウスを用いてその血球貪食について解析しました。同マウスにLCMV C13を感染させたところ、ウィルスを排除するCTLの誘導が促進され、LCMV C13の排除が亢進しましたが、一方、CTLによって肝傷害が重症化して半数以上のマウスが死亡しました(図3)。このことから、血球貪食現象はIL−10の産生を介して過剰な免疫応答を抑制していること、特に重篤な感染症において個体の死を回避する免疫寛容システムとして非常に重要であることが明らかになりました(図4)。

<今後の展開>

今回、二次性HPSなどで観察される“血球貪食”は、感染などによりアポトーシスを起こした赤血球系細胞などが、単球由来DCをはじめとする貪食細胞によって貪食される現象であることがわかりました。また、単球由来DCは血球貪食によって免疫応答を抑制させるサイトカインを産生させ、過剰な免疫反応を抑えることで個体を死から守っていることがわかりました。

これまで“血球貪食”は、HPSやほかの激しい炎症状態の1指標とされてきましたが、本研究成果は、“血球貪食”が炎症抑制反応のバイオマーカーになり得る可能性を提示しています。また、“血球貪食”は激しい炎症状態を抑えることで自らの死を防ぐ代わりに病原体の排除を見送る、宿主〜病原体間の共生戦略ととらえることもできます。

本研究成果は、慢性感染成立における新たな生物学的視点を提供するものです。また、免疫細胞の暴走など過剰な免疫反応を伴う感染症・自己免疫病に対する新たな診断法・治療法の開発が期待できるものです。

<参考図>

図1

図1 単球由来DCによる血球貪食

野生型マウスにCpG(200μg)あるいはLCMV C13(2x10 pfu)投与後、骨髄から血球貪食している単球を精製してDiff−Quick染色した。表面に接着している、あるいは細胞内に取り込まれている赤血球系細胞が観察される。

図2

図2 血球貪食に依存したIL−10、TGF−β1の産生

 野生型マウスにLCMV C13(2x10 pfu)を感染させるとIL−10やTGF−β1が産生されるが、PS受容体に対する抗体を投与して血球貪食を抑制すると、それらサイトカインの再生が有意に低下した。

図3

図3 血球貪食による過剰な免疫反応の抑制

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、GOTともいう)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ、GPTともいう)は肝細胞の障害の指標。

血球貪食したDCからIL−10が産生されないマウス(CKO)では、LCMV C13感染後の肝組織傷害と個体の死亡率が亢進した。

図4

図4 血球貪食メカニズムのまとめ

高濃度のTLRリガンドや重篤なウィルス感染により赤血球系細胞上にフォスファティジルセリン(PS)が発現し、これが単球由来DCに認識されて血球貪食が誘導される。その結果、単球由来DCからIL−10が産生されて過剰な免疫応答が抑制される。

<用語解説>

注1) 樹状細胞(DC:Dendritic Cell)
白血球の一種。無数の突起を持つ特徴的な形態から名付けられた。全身に分布し、さまざまなサブセットが存在する。免疫システムの維持や反応を制御する重要な細胞。
注2) 血球貪食
樹状細胞やマクロファージなどの貪食細胞が赤血球や白血球を食べる現象。
注3) 血球貪食症候群(HPS:Hemophagocytic Syndrome)
先天的な遺伝子異常によって発症する一次性と、感染症、膠原病、悪性腫瘍などの疾患に伴って発症する二次性に分類される。発熱、脾腫、血球減少、高トリグリセライド血症・低フィブリノゲン血症、血球貪食を特徴とする症候群。
注4) サイトカイン
サイトカインは、免疫細胞などから産生され、ほかの細胞の分化や機能に影響を与える液性因子。
注5) 従来型DC
DCサブセットの一種。がんや病原性微生物由来の抗原を捕捉し分解してT細胞に提示する。また生理活性物質サイトカインを産生して免疫反応を誘導する。
注6) 形質細胞様DC
DCサブセットの一種。病原性微生物由来の分子を認識してウィルス排除に重要な生理活性物質I型インターフェロンを大量に産生する細胞。
注7) 単球
単核白血球とも呼ばれる白血球の一種。骨髄でつくられ血管外ではマクロファージに分化。異物の貪食、分解能を持つ。激しい炎症時には樹状細胞に分化する。
注8) 免疫寛容
ある抗原に対する免疫応答が失われている状態。自己の持つ抗原に対しては免疫寛容の状態が保たれている。
注9) アポトーシス
個体をより良い状態に保つために引き起こされる細胞死で、これに対し、細胞内外の環境の悪化によって起こる細胞死をネクローシス(壊死)という。アポトーシスはそのきっかけとして①細胞外からのシグナルによるもの、②DNA損傷などによるもの、③小胞体ストレスによるものの3種類に分けられる。アポトーシスを起こした細胞は細胞膜上にフォスファチジルセリン(PS)が現れ、これが“eat me signal”となって貪食細胞に識別され、貪食される。

<論文タイトル>

“Monocyte-derived dendritic cells perform hemophagocytosis to fine-tune excessive immune responses”
(単球由来樹状細胞は過剰な免疫反応を抑制するために血球を貪食する)
doi: 10.1016/j.immuni.2013.06.019

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

樗木 俊聡(オオテキ トシアキ)
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野 教授
〒113-8510 東京都文京区湯島1−5−45
Tel:03-5803-4746 Fax:03-5803-4747
E-mail:

澤田 賢一(サワダ ケンイチ)
秋田大学 大学院医学系研究科 血液・腎臓・膠原病内科学分野 教授
〒010-8543 秋田県秋田市本道1−1−1
Tel:018-884-6111 Fax:018-836-2613
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

川口 貴史(カワグチ タカフミ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

東京医科歯科大学 広報部 広報課
〒113-8519 東京都文京区湯島1−5−45
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Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432

(英文)“Discovery of a novel function of dendritic cells to fine-tune excessive immune responses”