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平成25年7月31日

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超伝導体の物質設計に道を開く新たな理論計算手法の開発

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科(理化学研究所 創発物性科学研究センター 客員研究員)の有田 亮太郎 准教授と同大学の明石 遼介 大学院生は、物質の結晶構造と構成元素の情報だけを用いて、超伝導体が超伝導状態に変化する転移温度を精密に評価する新理論計算手法を開発しました。

超伝導注1)が初めて観測されてから100年以上が経過しますが、超伝導状態に転移する温度(Tc )は一般的に絶対温度0ケルビン(セ氏−273度)近辺と非常に低く、その活用には液体ヘリウムなど高コストな冷却手段が必要で、社会的な応用は限られているのが課題です。これまでに、銅酸化物高温超伝導体注2)鉄系高温超伝導体注3)など、通常の物質に比べて比較的高いTc を持つ高温超伝導体が発見され、低損失大電力送電などの応用研究が行われていますが、実用化に向けては、さらにTc を高め、室温に近づけることが不可欠です。ところが、これまで新たな高温超伝導体の探索は、試行錯誤しながら合成するしかなく、効率が悪い上に探索範囲も限られていました。そのため、高温超伝導体のTc を理論的に正確に予測し、未知の有望な新物質の探索や新材料設計の効率を飛躍的に向上できる理論計算手法の確立が切望されてきました。

有田准教授らは、アルミニウムや鉛などの単純な超伝導体では、すでに「超伝導密度汎関数理論注4)」という計算法によってTc の高精度な予測が可能であることを基盤に、より複雑な発現機構を持つ高温超伝導体についてもTc の予測を可能とする計算法を開発しました。本手法では、結晶の格子振動が単純な超伝導体の起源となるのに対し、物質中の電子集団の振動が高温超伝導発現の起源になりうることに着目して、超伝導密度汎関数理論に電子集団の振動を因子として加えています。この手法を、常圧下で非常に低いTc を持つ一方で高い圧力下で急激にTc が上昇するリチウムに適用し、Tc の予測精度を検証したところ、既存手法では不可能であった理論計算によるTc の正確な評価に、世界で初めて成功しました。

本成果は、高温超伝導体のTc の予言に適用できる新理論計算手法の精度を実証したものです。本手法で、超伝導密度汎関数理論を用いて正確なTc を見積もることができる物質の範囲が大きく広がり、新たな超伝導体物質を設計する指標が提示されるため、今後の材料探索や合成が一気に加速し、将来的には超伝導モーターや送電線の実現に資することが期待されます。本研究成果は、米国科学誌「Physical Review Letters」にオンライン版で近日中に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域 「新物質科学と元素戦略」
(研究総括:細野 秀雄 東京工業大学 フロンティア研究センター/応用セラミックス研究所 教授)
研究課題名 「非バルク的環境を活用した次世代材料の理論設計」
研 究 者 有田 亮太郎(東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 准教授)
研究実施場所 東京大学 大学院工学系研究科
研究期間 平成23年4月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、グリーン・イノベーションに資するべく、革新的な機能物質や材料の創成と計算科学や先端計測に立脚した新物質・材料科学の確立を目指します。

<研究の背景と経緯>

物質を冷却していくと、ある温度で電気抵抗が急激にゼロになることがあり、これを超伝導転移と呼びます。超伝導転移を起こす温度は通常絶対温度0ケルビン(セ氏−273度)近辺と極めて低温で、これを室温に近づけることができれば、液体ヘリウムなどを使って冷却する必要がなくなります。また、現在は送電時の電気抵抗によって、生み出された電力のうちの数10%もの電力が失われますが、超電導体は、この損失を軽減できる画期的なテクノロジーとして期待されています。この室温超伝導体が実現すれば、その応用が、エネルギー分野、産業・輸送分野、医療分野、情報・通信分野など、幅広い領域で見込まれることから、社会に大きな変革をもたらすことが期待されます。

1911年にカマリング・オネスが水銀に対して超伝導を観測して以来、約100年が経過し、これまでに銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体など、転移温度(Tc )が高い物質がいくつか見つかっています。しかし、どのような物質を合成すればTc が高くなるかを、理論計算から具体的に予言、設計できた例は存在しません。これは、実験データを参照せずに超伝導のTc を定量評価することが非常に困難で、その理論手法が完全に確立していないためです。

超伝導体の中でも、鉛やニオブ、アルミニウムなどの単純な超伝導体については、結晶の格子振動が超伝導転移の起源になっていることが知られており、これらの金属については、2005年に超伝導密度汎関数理論という理論によってTc を正確に定量評価できることが示されていました。一方、これまでに知られている高温超伝導体の多くにおいては、格子振動ではなく、電子間の相互作用が重要な役割を担っていることが分かっています。そこで、高温超伝導体の物質設計への道を開くためには、これまでの超伝導密度汎関数理論の枠組みを大幅に拡張し、電子間相互作用が重要な役割を果たしている高温超伝導体についてもTc が計算できる新手法を構築する必要がありました。

<研究の内容>

超伝導は電子がクーパーペアと呼ばれる対状態を形成し、電気を運ぶ電子が低エネルギー状態を取ることで実現します。クーパーペアがどのような状況で実現するかを考える上で重要なことは、動きの速い電子と遅い電子は物質中で異なる相互作用を受けるということです。格子の振動は動きの遅い電子の間に引力をもたらし、このことによって鉛やアルミニウムにおいてクーパーペアが形成されます。一方、電子間に直接働く相互作用についても、動きの速い電子と遅い電子では受ける強さが異なります。動きの遅い電子は、速い電子を含めた周囲の電子の雲の振動を感じながら動きますが、速い電子は運動エネルギーが十分高いので周囲の電子の存在には影響されずに動きます。70年代の終わりから80年代の初めにかけて、この速い電子と遅い電子が受ける相互作用の差によって、格子振動が存在しなくても超伝導状態が実現し、場合によっては超伝導Tc が高くなることが示されました。これをプラズモン機構注5)と呼びます。

一方、これまでの超伝導密度汎関数理論においては、電子間相互作用は遅い電子も速い電子も同様に働くという近似をおいていたので、プラズモン機構による超伝導のTc の見積もりはできません。実際、動きの速い電子と遅い電子が感じる相互作用の差が顕著であると期待される高圧下のリチウムのTc を計算すると、実験値を著しく過小評価します。そこで本研究では、これまでの方法論の枠組みを大幅に拡張し、速い電子と遅い電子の差を正確に考慮できる理論を構築しました。リチウムは、常圧下ではTc が絶対温度1ミリケルビン以下ですが、20ギガパスカル以上の高い圧力をかけるとTc が10数ケルビン程度にまで劇的に上昇することが知られています。本研究で定式化された新しい理論によって、圧力下のTc が正確に評価されることが分かりました(図1)。

超伝導密度汎関数理論は、2005年に具体的な定式化がなされて以来、本質的な進歩が滞っていましたが、本研究は理論の適用範囲を格子振動起源以外の超伝導体にも広げる画期的な成果といえます。

<今後の展開>

高温超伝導の発現機構についてはいくつかの種類があることが知られています。それらを密度汎関数理論という理論の枠組みに入れることは、これまで誰も試みたことがなく、今回の仕事が初めての試みで、今回の成果は、プラズモン機構という数ある機構の中の1つを入れることに成功したものです。そのほかの機構については、今後の課題となりますが、この電子間相互作用を超伝導密度汎関数理論の枠内で適切に取り込むことができるようになれば、新しい高温超伝導体の物質設計が現実的に視野に入ってきます。

本研究は、従来の実験を説明するだけの理論から、予言能力のある理論への発展の重要な第一歩であり、この成果によって、今後の材料探索や合成が一気に加速し、将来的には超伝導モーターや無損失送電線の実現に資することが期待されます。

<付記>

本研究の一部は、日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)研究課題名「強相関量子科学」(中心研究者:東京大学/理化学研究所 十倉 好紀 教授)からの支援を受けて行われました。

<参考図>

図1

図1 従来の理論計算手法と新手法の結果を実験データと比較した図

従来の格子振動のみを考慮した場合の計算では実験値を過小評価するが、新しく開発した高振動に電子振動の因子を加えた理論計算手法により、実験値との一致がよくなっていることが分かる。図中には、4つのグループの実験値が○、△、□、◇で表現されている。

<用語解説>

注1)超伝導
ある種の金属、合金、化合物などの温度を下げていくと、ある温度(転移温度:Tc )で電気抵抗が急激にゼロとなる現象。基礎科学だけではなく、エネルギー分野、産業・輸送分野、医療分野、情報・通信分野など、幅広い領域で応用に向けた研究が行われている。
注2) 銅酸化物高温超伝導体
ベドノルツとミュラーによって1986年に発見された超伝導体。その後も関連物質における高温超伝導の発見が続き、現在では最高で絶対温度160ケルビン程度の転移温度を持つ。
注3) 鉄系高温超伝導体
2008年に発見された超伝導体。現在では転移温度は最高で絶対温度55ケルビン程度に達している。
注4) 超伝導密度汎関数理論
多数の電子から構成されるさまざまな物質の物理量が、電子密度の分布関数の関数(汎関数)によって普遍的に記述されるとするのが密度汎関数理論である。今日、この理論に基づいて、実験から得られるパラメータを使用せずに電子状態を計算する「第一原理計算」と呼ばれる研究手法が物性研究において広く活用されている。超伝導密度汎関数理論は、超伝導状態を議論するために、クーパーペア(超伝導状態において実現している、電気を運ぶ電子が対を組んで安定化している状態)を形成している電子の密度分布も考慮するように拡張された理論である。
注5) プラズモン機構
電子の集団が振動し、擬似的な粒子として振る舞う状態がプラズモンであり、結晶格子の振動が擬似的な粒子として振る舞う状態がフォノンである。アルミニウムや鉛では、フォノンが超伝導状態の実現に必要な電子対における「のり」の役割を果たすが、プラズモンもフォノンと同様に「のり」の役割を果たすことがあり、これをプラズモン機構と呼ぶ。

<論文タイトル>

“Development of density-functional theory for a plasmon-assisted superconducting state: Application to lithium under high pressures”
(プラズモン支援超伝導体状態に対する密度汎関数理論の構築:高圧下リチウムへの適用)
doi: 10.1103/PhysRevLett.111.057006

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

有田 亮太郎(アリタ リョウタロウ)
東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel/Fax:03-5841-6809
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

木村 文治(キムラ フミハル)、古川 雅士(フルカワ マサシ)、大阿久 裕美(オオアク ヒロミ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
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(英文)Opening the door to predictive calculation of high temperature superconductors