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平成25年7月29日

東京大学 大学院工学系研究科
Tel:03-5841-1790(広報室)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

世界最軽量、世界最薄の柔らかい有機LED(発光ダイオード)の開発に成功
〜あらゆる曲面に張り付けられる有機LED照明や
ヘルスケア・センサーの新しい光源への応用が期待〜

発表のポイント

<研究概要>

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の染谷 隆夫 教授、関谷 毅 准教授らは、世界最軽量(3g/m)で最薄(2マイクロメートル:マイクロは100万分の1)のくしゃくしゃに折り曲げても動作する新しい光源として“超薄膜有機LED(発光ダイオード)の開発”に成功しました。

近年、有機LEDディスプレイや有機LED照明が実用化され、さまざまな生活のシーンで使われています。有機LEDは、従来のLEDに比べて消費電力、色再現性、応答速度の点で優れており、今後いろいろな応用が期待されています。このような背景の中、有機LEDの更なる軽量化、薄膜化が求められています。

本研究グループは、厚さ1.4マイクロメートルの極薄の高分子フィルムに、有機半導体材料を積層する独自の作製技術を確立し、世界最軽量で最薄の柔らかい有機LEDの作製に成功しました。開発の決め手は、表面が粗い1マイクロメートル級の高分子フィルムに、ダメージを与えずに有機LEDを製造する低温プロセスです。より具体的には、高温で高エネルギープロセスが必要な酸化インジウムスズ(ITO)注1)の透明電極を利用せず、低温かつ低損失で形成可能な導電性高分子を電極(陽極)に活用しました。この有機LEDは、超薄型であるにもかかわらず、くしゃくしゃに折り曲げても動作します。最小曲げ半径10マイクロメートルを達成し、輝度は100カンデラ/平方メートル注2)です。さらに、柔らかい伸縮可能なゴムの上に有機LEDフィルムを張り付けることで、伸縮自在なLEDの開発に成功しました。

今回の研究により、柔らかい有機LEDの超軽量化・超薄型化が達成されたことで、今後、あらゆる曲面に張り付けられる有機LED照明、有機LEDディスプレイ、装着感のないヘルスケア・センサー用途の光源など多方面への応用が期待されます。

本研究成果は、2013年7月28日18時(英国時間)に「Nature Photonics」誌のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

研究プロジェクト 「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」
研究総括 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成23年8月〜平成29年3月

上記研究プロジェクトでは、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が期待できる有機材料に着目し、生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する全く新しいデバイスの開発の実現を目指しています。

<研究の背景と経緯>

有機半導体は、無機半導体を中心とした既存のエレクトロニクスにはない柔らかさや大面積化といった特徴を有しており、光学特性にも優れています。有機LED(発光ダイオード)や有機太陽電池については、近年、活発に研究開発が進められた結果、既に実用化されています。また、有機LEDディスプレイは、消費電力、色再現性、応答速度の点で既存の液晶ディスプレイよりも優れており、次世代ディスプレイとして大いに期待されています。有機LEDディスプレイは、携帯電話やスマートフォン用途で急速に成長してきた経緯もあり、その軽量化・薄型化へのニーズが高まっています。さらに、有機LEDを利用した照明も既に実用化されており、その機械的な柔らかさを特徴としたユニークな形状の照明などが注目を集めています。

<研究の内容>

研究グループは、厚さ1.4マイクロメートルの極薄のポリエチレンテレフタレート(PET)注3)という高分子フィルムに、有機半導体材料を積層する独自の作製技術を確立し、世界で最軽量(3g/m)かつ最薄(2マイクロメートル)の柔らかい有機LEDの開発に成功しました(図1)。

この有機LEDは、1マイクロメートル級の薄膜の高分子フィルムに作製することで、くしゃくしゃに折り曲げても、電気的な性能が劣化せずに動作します。これは、有機LEDの発光素子部を折り曲げた際に、素子部に掛かる歪は極めて小さくなるように構造が最適化されているためです。その結果、最小折り曲げ半径10マイクロメートルを達成しました。また、有機LEDの輝度は100カンデラ/平方メートルです。

開発の決め手は、表面が粗い1マイクロメートル級の高分子フィルムに、ダメージを与えずに有機LEDを製造する低温プロセスです。より具体的には、高温で高エネルギープロセスが必要な酸化インジウムスズ(ITO)の透明電極を利用せず、低温かつ低損失で形成可能な導電性高分子、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)注4)を電極(陽極)に活用しました。陰極には、フッ化リチウム(LiF)薄膜を挿入したアルミニウム電極を用いました。

さらに、伸縮可能なゴムの上にこの柔らかい有機LEDフィルムを張り付けることで、アコーディオンのような波型形状の有機LED(図1図2)を実現し、100%伸縮させることができるゴムのように伸縮自在な有機LEDの開発に成功しました。

<今後の展開>

今回の研究で、世界で初めて、厚さ1マイクロメートル級の高分子フィルム上に有機LEDが作製できるようになりました。柔らかい有機LEDの超軽量化・超薄型化が達成されたことで、今後、複雑な形状をした自由曲面に張り付けられる有機LED照明や有機LEDディスプレイなど多方面への応用が期待されます。

本研究グループは、厚さ1マイクロメートル級の高分子フィルム上に有機太陽電池を均一に形成することに成功しています(Nature Communications誌、2012年4月3日)。また、全体の厚みが2マイクロメートルの世界最軽量、最薄の柔らかい有機電子回路の開発に成功しています(Nature誌、2013年7月25日)。

今回の研究成果とこれまでの成果とを併せると、本研究グループでは、有機LED(発光素子)、有機太陽電池(光センサ)、有機トランジスタ(電子回路の構成要素)というすべての有機デバイスを、厚さ1マイクロメートル級の高分子フィルムに作製できるようになりました。これらの有機デバイスは、同じような製造プロセスで作製できるため、すべての有機デバイスを1枚の高分子フィルム上に集積化することが可能です。その結果、従来の有機エレクトロニクスを格段に薄型化・軽量化することができます。

このような薄型化・軽量化技術により、有機LEDを新しい光源としたユニークな薄型センサーへの応用が期待されます。特に、血中酸素濃度など生体情報の計測には、光源と光検出器を組み合わせた装置が広く用いられているため、これらの生体情報を計測する装置に応用することも見えてきます。血中酸素濃度の他にも、光をプロ―ブとして血流量や脈波などの生体情報を計測するための装置が、今後、急速に軽量化・薄型化される可能性が高まります。その結果、装着してもストレスなく計測できる“装着感のないヘルスケア・デバイス”などへの応用が期待されます。

<付記>

本研究は、オーストリアのヨハネス・ケプラー大学のジークフリート・バウアー(Siegfried Bauer) 教授ならびにニアジ・セルダー・サリチフチ(Niyazi Serdar Sariciftci) 教授のグループとの共同研究で進められました。

<参考図>

図1

図1 最軽量(3g/m)かつ最薄(2マイクロメートル)の柔らかい有機LED

くしゃくしゃに折り曲げても、機能が壊れない新しい光源。薄く軽いため、装着感のないディスプレイやヘルスケア・センサーへの応用が期待される。

図2

図2 伸縮自在な有機LEDディスプレイ

あらかじめ伸張させておいたゴム基板に、薄膜有機LEDを張り付けることで、アコーディオンのような波形形状の有機LEDを作製。100%以上伸張させても輝度が低下しない。

<用語解説>

注1)酸化インジウムスズ(ITO)
酸化インジウム(III)(In2O3)と酸化スズ(IV)(SnO2)の無機化合物で薄膜ではほぼ無色透明になる。そのため、液晶パネルや従来の有機ELの電極として使われている。
注2) カンデラ/平方メートル(cd/m
表面面積における光源の明るさを示す、輝度の単位。コンピューターのモニターの輝度は、100〜250カンデラである。
注3) ポリエチレンテレフタレート(PET)
ポリエチレンの一種で、ペットボトルや繊維の材料として使われている。化学式:(C10H8O4)n
注4) ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)
3,4−エチレンジオキシチオフェンのポリマー(PEDOT)とスチレンスルホン酸のポリマー(PSS)の2つのポリマーの混合物。透明導電膜材料として使われている。
図

<論文タイトル>

“Ultrathin, highly flexible and stretchable PLEDs”
(超軽量、超柔軟、伸縮自在な有機LED)
doi: 10.1038/nphoton.2013.188

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

染谷 隆夫(ソメヤ タカオ)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-0411/6756 Fax:03-5841-6709
E-mail:
URL:http://www.ntech.t.u-tokyo.ac.jp/

関谷 毅(セキタニ ツヨシ)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-0413 Fax:03-5841-6709
E-mail:
URL:http://www.ntech.t.u-tokyo.ac.jp/

<JSTの事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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