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平成25年7月19日

東京大学
日本大学
株式会社TSLソリューションズ
科学技術振興機構

3次元ピコメートル精度でナノ粒子の水中動画観察に成功
〜新しい時分割電子顕微鏡が究極的単粒子運動計測を実現〜

ポイント

電子顕微鏡はナノサイズのものを観察する際に用いられる代表的な顕微鏡です。最近、世界では電子顕微鏡を従来のように真空中の観察に用いるだけではなく、水中での観察にも適応させる試みが数多くなされています。しかし、水中観察で得られた画像の分解能は良くないという問題がありました。

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の佐々木 裕次 教授を中心とする研究グループ(日本大学 文理学部 物理学科 石川 晃 教授、小川 直樹 助教(現在、東京農工大学 工学府)、(株)TSLソリューションズ 鈴木 清一 社長などが参画)は、走査型電子顕微鏡(JSM−7001F,JEOL,Japan)を用いて、水溶液中に存在する直径40nmの金コロイド粒子のブラウン運動注1)をピコメートル(原子サイズの1/100)精度で60ミリ秒の高速性で2秒間、動画として観察することに成功しました。

従来とは異なる発想で、ナノ粒子の結晶方位の変化だけを計測することに特化して、その方位変化を時分割的運動に変換することで、普通の走査型電子顕微鏡を用いて非常に高い位置決定精度を世界で初めて実現しました。この発想は、1998年に佐々木 裕次 教授が考案し開発したX線1分子追跡法 (Diffracted X−ray Tracking;DXT)注2)に基づくもので、プローブをX線から電子線に代えるというアイデアを新たに取り入れています。

本研究の成果は、電子顕微鏡の全く新しい利用法を提案するものであり、電子顕微鏡を用いて観察できる対象が革命的に広がる可能性を秘めています。

なお本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」(研究総括:柳田 敏雄)研究課題「高精度1分子内動画計測から見える生体分子構造認識プロセス」(研究代表者:佐々木 裕次)の一環として行われ、2013年7月19日(英国時間)にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)電子ジャーナル「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されます。

<発表内容>

先端計測技術開発において、機能性1分子(粒子)の分子内構造変化をÅ(オングストローム、1Åは0.1ナノメートル)以下の精度でマイクロ秒よりも高速計測できる1分子(粒子)計測法の開発が注目されています。1980年代に考案された可視光を用いた1分子計測法は、回折限界をはるかに超えたナノメートルレベルの位置決定精度を実現しました。しかし、それ以上の精度向上は可視光では困難でした。研究グループの一員である佐々木教授は、以前、計測する波長自身を短波長に持っていく方法を考案していました。この考案に基づいて開発したX線1分子追跡法(Diffracted X−ray Tracking;DXT)は、分子に標識したナノ結晶からのX線回折斑点の動きを連続的にトレースする方法で、現在、ピコメートルの位置決定精度でマイクロ秒の高速性を実現し、世界最高精度最高速度1分子計測法へ発展しています。しかし、DXT最大の欠点は、X線プローブ源として大型放射光施設を利用することです。そこで本研究では、X線よりも試料との相互作用の大きい電子線を用いて、実験室規模で常時高精度1分子計測できる汎用性の高い1分子(粒子)運動追跡装置の開発を目指しました。加えて現状のDXTでは、X線ビームを原子サイズにできないため、放射線照射による試料ダメージが問題点となっていましたが、Åサイズの電子ビームを用いることでこのダメージの問題を解決できるようになりました。本開発装置では、電子後方散乱回折(Electron Back−Scattered Diffraction;EBSD)注3)装置を装備した走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用い、生体分子に標識したナノ結晶の結晶方位の変化を、原理的に生体分子へのダメージを与えることなく高速時分割計測できます。この開発装置では、電子線1分子追跡法(DET)注2)の原理検討として、金コロイド粒子の動的挙動を計測対象としました。

DETの基本装置構成は、溶液中の試料を観察できるSEM用の環境試料室(Wet Cell)注4)を薄膜カーボン製の隔膜を用いて、生体分子に標識したナノ結晶の結晶方位の変化をEBSDパターンで高速時分割計測できるコンパクトなラボサイズの高精度電子線1分子(粒子)追跡法です。SEMを用いて、水溶液中に存在する直径40nmの金コロイド粒子の運動をピコメートル(原子サイズの1/100)精度で60ミリ秒の高速性で2秒間動画の計測をすることに成功しました。また、測定により、DETはDXTと異なり、市販の金コロイドを標識体として使用できることが新たに分かりました。DXTは、非常に良質なナノ結晶を必要とし、その作製に関する研究に多くの時間が費やされます。一方で、DETでは、良質な結晶でなく、市販されている直径数十nmの金コロイド粒子の方位をEBSDが敏感かつ高精度に検出できます。

これまで分子生物学は分子を点として扱ってきました。一方で、構造生物学は分子をある一定の構造体として定義して扱います。しかし、本当の生体分子の構造は、揺らぎの中で常に変形しているため、その現象を細胞内で高速かつ高精度に計測できる方法論を確立することが期待されていました。また、ラボサイズで多くの研究者が手軽に使えるような装置で、その方法論が実現されることも望まれていました。本研究では、電子顕微鏡を用いて水中で1分子(粒子)の運動計測を高精度で実現できる新規な方法論を提案しました。今後は、電子顕微鏡を用いた動画計測が本格的に利用されるようになるでしょう。本研究グループも、タンパク質分子に金コロイドを標識して、間接的にタンパク質分子の動的挙動の計測を試みています。

なお、本プレス発表は、東京大学、日本大学、(株)TSLソリューションズおよび、科学技術振興機構(JST)の共同発表です。また、本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」(研究総括:柳田 敏雄)研究課題「高精度1分子内動画計測から見える生体分子構造認識プロセス」(研究代表者:佐々木 裕次)の一環として行われました。

<用語解説>

注1) ブラウン運動
1827年、イギリスの植物学者ブラウン(Robert Brown,1773〜1858)は、草花の花粉を水の中に入れて顕微鏡で観察していたとき、花粉から出た微粒子がたえず振動して不規則に動くことを見つけた。1906年、アインシュタインは、当時すでに知られていた分子運動論と結びつけて、この現象を明快に説明した。このまわりにあって媒質の役をする水や空気の分子の運動によって、ブラウン運動がおこると考えたのである。もし、この考えが正しければ、ブラウン運動を詳しく調べることによって、その原因となっている分子の運動を解析し、そのことから分子の存在を確かめることができるはずである。このような立場から、ブラウン運動を研究し、それがアインシュタインの理論にうまく合致するかどうかを調べたのは、フランスの物理学者ぺラン(Jean Baptiste Perrin,1870〜1942)で、そのねらいはみごとに成功した。これによって分子の実在が証明されたのである。最近の科学技術の進歩は、先端的顕微鏡技術によって、分子の一個一個を見ることができるまでになっている。 また、これから、分子の中で原子がどのように組み立てられているかも知ることができる。さらに進歩すれば、これらの分子の中での原子の動き、つまり化学反応までも直接に観測できるようになるであろうと予想されていた。今回の研究成果により、これらが現実のものになりつつある。
注2) X線1分子追跡法(Diffracted X−ray Tracking;DXT)と電子線1分子追跡法(Diffracted Electron Tracking;DET)
数10nm程度のナノ結晶をタンパク質分子に標識し、タンパク質分子の内部運動に連動したナノ結晶の動きを、ナノ結晶からのX線による回折ラウエ斑点の動きとして高速時分割追跡する手法。佐々木 裕次 教授が1998年に考案し、科学技術振興事業団(現JST)の個人研究推進事業「素課程と連携」さきがけ研究21研究員としてそのアイデアを実現し2000年に発表し、これまでに多くの論文を発表している(Physical Review Letters,Physical Review,BBRC,Cell,PLOS ONEなど)。このDXTをコンパクトな装置として完成させたのが電子線1分子追跡法(Diffracted Electron Tracking;DET)である。下図はDET装置の説明図。
図1
注3) 電子後方散乱回折(Electron Back−Scattered Diffraction;EBSD)
結晶に量子プローブを照射すると、その結晶周期に近い波長特性で、回折反射パターンが得られる。X線ではラウエ斑点やブラック反射として有名であり、電子線では、電子後方散乱回折(Electron Back−Scattered Diffraction;EBSD)パターンとして得られる。これまで工業製品の結晶化の均一性をチェックするなどに広く利用されていたが、EBSDを高速に測定するニーズはそれほどなかった。
図2
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動画
本研究で得られた金コロイド粒子から得られたEBSD動画である。
注4) SEM用の環境試料室(Wet Cell)
水溶液中やガス中においてSEM観察のできるサンプルホルダーを言う。一般に最小限の空間をガスおよび溶液状態に満たして、電子線の透過能ぎりぎりのところまでを観察する。ポイントは、真空状態の電子線発生部とサンプル部の圧力差に耐えうる電子線の透過性の高い薄膜をいかに作製するかである。今回は非常に耐久性の高い20nmのカーボン膜の開発に成功した。下記が隔膜を持つサンプルセルの図。最近では2010年ノーベル物理学賞を受賞したグラフェン(数Åの膜厚)を隔膜に利用する研究が行われるようになってきた。
図3

<発表雑誌>

雑誌名:Scientific Reports (Nature Publishing Groupの電子ジャーナル)
論文タイトル:Tracking 3D Picometer-Scale Motions of Single Nanoparticles with High Energy Electron Probes
著者:Naoki Ogawa, Kentaro Hoshisashi, Hiroshi Sekiguchi, Kouhei Ichiyanagi, Yufuku Matsushita, Yasuhisa Hirohata, Seiichi Suzuki, Akira Ishikawa, and Yuji C. Sasaki*
doi: 10.1038/srep02201

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

佐々木 裕次(ササキ ユウジ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授/物質系専攻 専攻長
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5−1−5 新領域基盤棟609(7A2号室)
Tel:04-7136-3856
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

川口 貴史(カワグチ タカフミ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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