JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成25年4月22日

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

公益財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究所
Tel:03-3441-4173(知的財産情報部)

高性能で再利用可能な「ナノチューブ触媒を開発」
〜効率的な医薬品合成に新たな展開〜

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、微生物化学研究所の柴崎 正勝らは、カーボンナノチューブを利用した再利用可能な高機能性不斉触媒注1)を開発しました。

医薬品の迅速合成を可能にする不斉触媒は、溶液状態で機能を発揮するものが多く、再利用性に乏しいのが現状でした。触媒を不溶化(固定化)して簡便なろ過分離操作で再利用を可能にする不斉触媒の開発が行われてきましたが、不溶化に数工程の反応が必要でさらには不溶化の段階で触媒の機能低下を招くことが多く、再利用性と高触媒機能性を併せ持つ、調製容易な不斉触媒の開発が望まれていました。

研究グループは、自然に秩序ある構造に組み上がる「自己組織化注2)」という特性を持った不斉触媒を利用し、カーボンナノチューブの網目構造中で自己組織化を行うことで、不斉触媒の再利用性と高機能性を同時に実現しました。つまり、ナノチューブがある溶液に触媒原料を混ぜるだけで、触媒が狭い網目構造中で組織化することで封じ込められ、ろ過分離による簡便な触媒再利用を可能としました。また、網目中での組織化により触媒が微粒子化して分散されており、触媒機能の向上も実現しました。

今回用いた触媒の原型は、研究グループが2011年に達成した抗インフルエンザ薬リレンザの純化学合成に利用したもので、多くの医薬品の迅速合成に応用できるものです。再利用性と高機能性により実用性が大幅に向上した今回の触媒を用いて、すでに高脂血症治療候補薬アナセトラピブの合成に成功しており、今後ますます多くの医薬品合成への応用が期待されます。

本研究成果は、ドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition(応用化学誌国際版)」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 先導的物質変換領域(ACT−C)

研究領域 「低エネルギー、低環境負荷で持続可能なものづくりのための先導的な物質変換技術の創出」
(研究総括:國武 豊喜 公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長)
研究課題名 「先進的・実践的協奏機能型不斉触媒の開発と医薬合成の刷新」
研究代表者 柴崎正勝(公益財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究所 所長)
研究期間 平成24年10月〜平成30年3月

JSTはこの領域で、先導的な物質変換技術開発による環境、エネルギー、創薬における問題解決を推進している。上記研究課題では、先進的不斉触媒開発による医薬品の効率的合成技術の刷新を目指している。

<研究の背景と経緯>

研究グループでは、協奏機能型不斉触媒注3)の創製とそれらを利用する医薬品の効率的合成法の開発研究を行っています。協奏機能型不斉触媒は、生体内酵素のように複数の触媒機能を同時に発現させることが最大の特徴で、廃棄物を副生しないクリーンな化学反応を可能にします。このユニークな触媒機能に、再利用性・高機能性の付加価値を追加することで実用性を兼ね備えた触媒の創製が実現します。従来法による再利用を可能にする固相触媒化は、調製が難しく、触媒活性・立体選択性の大幅な低下をもたらすことが課題となっていました。今回、新たな触媒固定化法の開発により、触媒の固定化による再利用と高活性化を同時に実現させることに成功しました。

<研究の内容>

研究チームはこれまでに、医薬品合成などで使われるanti−選択的触媒的不斉ニトロアルドール反応注4)を極めて円滑に進行させるNd(ネオジム)とNa(ナトリウム)を含む協奏機能型不斉触媒を開発していました。この触媒は、上記反応で世界最高性能の触媒能力を持ち、さらに自己組織化により不溶化して機能する特長を持っています。しかし、この不溶性触媒の粒径は非常に微細かつ安定性も低いため、触媒の再利用は困難でした。今回、この触媒の自己組織化能に着目し、触媒の高活性化と再利用を同時に可能にする次世代型触媒の創出を試みました。

ナノスケール(ナノは10億分の1)の微細網目構造を持つカーボンナノチューブ溶液中に触媒を混ぜると、カーボンナノチューブ壁面が触媒の自己組織化を誘起して、カーボンナノチューブが形成する網目状のネットワーク内で触媒成長が起こります。網目状の制限された空間であるため、自己組織化による触媒成長が数10nm〜200nm程度の微粒子に抑えられると同時に、成長した触媒が網目ネットワーク内に封じ込められて非常に簡便に触媒の固相担持ができることが分かりました(図1)。触媒が微粒子化したことにより、触媒の表面積が大幅に上昇して高活性化を実現し、簡便なろ過操作で再利用可能な不斉触媒として利用できます。

このナノチューブ触媒を、3,5−ジヨードベンズアルデヒドとニトロエタンのニトロアルドール反応で用いました。その結果、ナノチューブ触媒は従来型触媒と比較して1/6の触媒量でも円滑に反応を進行させ、反応生成物が98%収率で立体選択的に得られました(anti体/syn体=96/4,鏡像体過剰率注5)95%ee)(図2)。さらに、触媒封じ込めにより簡便なろ過操作のみによる触媒の再利用も同時に実現され、6回の繰り返し使用実験でも高い触媒活性・立体選択性を維持しました(収率83%、鏡像体過剰率98%ee)(図3)。

ナノチューブ触媒を用いて、高脂血症治療候補薬であるアナセトラピブ(米国で臨床第3相試験中)の不斉合成をすでに達成しています(図4)。ナノチューブ触媒により、医薬品合成に重要な炭素-炭素結合を形成できるため、現行法に比べて短工程での化学合成を実現しています。

<今後の展開>

anti−選択的触媒的不斉ニトロアルドール反応は、多くの医薬品が共有する1,2−アミノアルコール部位を高い立体選択性で構築できる有用な炭素−炭素結合形成反応です。今回新たに開発したナノチューブ触媒は、この高付加価値な化学反応を促進する高活性・再利用可能触媒として機能します。研究チームが2011年に合成を達成した抗インフルエンザ薬リレンザも1,2−アミノアルコール部位を持っており、多くの医薬品の安価・大量合成を可能にする基盤科学技術となることが期待されます。

<参考図>

図1

図1 協奏機能型不斉触媒−カーボンナノチューブの融合

カーボンナノチューブの網目構造中で触媒を自己組織化させる簡便な手法で、比表面積の大きい高分散型触媒が生成する。網目構造に封じ込められた触媒は、高い触媒活性と再利用可能な不斉触媒として利用できる。

図2

図2 ナノチューブ触媒による高立体選択的ニトロアルドール反応

従来型触媒に比較して1/6の触媒量で反応の実施が可能であり、高い立体選択性で望みの生成物が得られる。3,5−ジヨードベンズアルデヒドとニトロエタンの反応において、わずか0.5mol%のナノチューブ触媒により望みのニトロアルドール生成物が高い収率・立体選択性にて得られる。

図3

図3 ナノチューブ触媒の繰返し使用

ナノチューブ触媒は、簡便なろ過操作のみで繰返し使用が可能で、高い触媒活性、立体選択性を維持する。3,5−ジヨードベンズアルデヒドとニトロエタンの反応において、ナノチューブ触媒と混合して振とうし、反応完結後は簡便なろ過操作・濃縮のみで生成物を単離できる。反応容器に残るナノチューブ触媒は繰り返し再利用可能である。

図4

図4 アナセトラピブの不斉合成

ニトロアルドール生成物から4工程で光学的に純粋なアナセトラピブが合成可能。従来法ではアラニンをキラル原料として6工程で合成されている。

<用語解説>

注1) 不斉触媒
通常の人工化学合成法ではL−体、D−体(右手物質、左手物質)が等量生成するが、不斉触媒は片方のみの作り分けを可能にする。糖、たんぱく質、DNAなど、生命体を構成する物質はL−体、D−体の片方のみで形成されている。必然的に医薬品もL−体あるいはD−体の物質で合成する必要があり、不斉触媒は最も効率的な合成法を提供する。
注2) 自己組織化
複数の分子、金属イオンの混合物が自発的に会合を起こして規則的な高次構造を構築する現象。
注3) 協奏機能型不斉触媒
複数の触媒機能を同時に発現する不斉触媒。酵素と同様の化学反応促進機構であり、温和な反応条件下で反応促進を可能にすることから、環境に優しい合成化学を推進する上で鍵となる技術である。
注4) anti−選択的触媒的不斉ニトロアルドール反応
アルデヒドとニトロアルカンの炭素−炭素結合形成型反応。4つの立体異性体が生成するが、研究チームの触媒では望みとする1つを作り分けることができる。生成物は多くの医薬品に見られる部分構造を持ち、効率的な医薬品合成に直結する。
注5) 鏡像体過剰率
多くの有機分子は、互いに重なり合わないが鏡で映すと同型となる右手型分子と左手型分子が存在する。これらを鏡像体と呼び、どちらか一方が過剰に存在している場合、その程度を鏡像体過剰率として%ee(enantiomeric excess)と表示する。例えば、右手型と左手型が95:5の比率で存在している場合、鏡像体過剰率は(95-5)/(95+5)x100=90%eeとなる。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

柴崎 正勝(シバサキ マサカツ)
公益財団法人 微生物化学研究会 微生物化学研究所 所長
〒141-0021 東京都品川区上大崎3−14−23
Tel:03-3447-7779 Fax:03-3441-7589
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail: