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平成25年4月4日

京都大学
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(渉外部 広報・社会連携推進室)

科学技術振興機構(JST)
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新しい構造を持つ金属ルテニウム触媒の開発に世界で初めて成功
—家庭用燃料電池エネファームの耐用年数向上へ—

[概要]

京都大学 大学院理学研究科の北川 宏(きたがわ ひろし) 教授の研究グループは、面心立方格子(fcc)構造を有する金属ルテニウム(Ru)触媒の開発に成功しました。従来のRu触媒では、六方最密格子(hcp)の構造をとるものしか知られていませんでした。今回、化学的還元法によりRuの原子配列を精密に制御することで、初めてfcc構造を有するRu触媒を得ることに成功したものです。家庭で使用されている燃料電池コジェネレーションシステム「エネファーム」で、金属Ru触媒はレアメタルである白金の耐被毒触媒として使用されています。今回開発されたfcc−Ru触媒は従来のhcp−Ru触媒の性能を凌ぐものです。このことにより、エネファームの耐用年数が画期的に延びることが期待されます。

従来のルテニウム(Ru)は、六方最密格子(hcp)構造を有し、高価で希少な白金族元素の1つです。この金属Ruは、有機合成反応用の触媒をはじめとして、家庭用燃料電池エネファームでの一酸化炭素被毒触媒、アンモニア合成触媒、NOなどの排ガス浄化触媒、白金フリーな燃料電池電極触媒など、社会で広く利用されている極めて有用な触媒です。最近ではコンピューターやDVD用のハードディスク容量を増大させるためのメモリ材料としても利用されています。これらの材料として使用される際には、主にナノメートルサイズの金属微粒子として用いられていますが、このRuナノ粒子も既知のhcp構造を有するものでした。今回開発されたfcc−Ru触媒は、既存のhcp−Ruに比べて、有害な一酸化炭素を除去する性能がより優れていることがわかりました。

以上の研究成果は、言い換えれば、新しい金属Ruを発見したということであり、エネファームで耐被毒触媒として使われている従来の金属Ruの性能を凌ぐものです。このことにより、燃料電池で使用されている高価な白金触媒の耐久性が向上し、エネファームの耐用年数が画期的に延びることが期待されます。

独立行政法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」における研究課題「元素間融合を基軸とする新機能性物質・材料の開発」(研究代表者:京都大学 北川 宏 教授)の一環として行われたものです。本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開される予定です。

<研究の背景>

現在、周期表上に存在する元素を巧みに組み合わせることで材料開発が行われています。金属の結晶構造はその化学的・物理的性質と密接に関係しており、これまでに、金属組織学注1)において多くの金属や合金の状態図注2)が明らかにされています。例えば日常的に慣れ親しんでいる鉄は常温付近下では体心立方格子(bcc)構造を持ち、磁石にくっつきますが、温度が1000℃以上になるとfcc構造へと構造が変化し、磁石に応答しなくなります。これまで金属ルテニウムについては、hcp構造しか持たない金属として知られていました。

<研究の内容>

本研究では、ナノメートルオーダーまでサイズを減少させることで新しい構造を持つルテニウム(Ru)を作り出すことに世界で初めて成功しました(図1)。今回開発したfcc構造を持つRuは溶液中で金属原料を還元し、ナノ粒子を作製するボトムアップ法により作製しました。粒径を制御するため保護剤としてポリ(−ビニル−2−ピロリドン)(PVP)を用い、ルテニウムアセチルアセトナト錯体をトリエチレングリコールで還元することにより、fcc構造を有するRuナノ粒子の作製に成功しました。また、PVPおよびRu原料の濃度を調整することにより得られる粒子のサイズを精密に制御可能であることが透過型電子顕微鏡観察注3)によりわかりました(図2)。興味深いことにRu原料と還元剤の種類を変えることで、fcc構造とhcp構造の作り分けが可能であることも粉末X線回折測定注4)により明らかになりました(図2)。

次に、一酸化炭素の酸化反応に対する触媒評価を行いました。3nmから5nmの粒径を持つ新規fcc−Ru粒子は従来のhcp−Ru粒子に比べて、一酸化炭素の転化率注5)が50%に達する温度(T50)が低いことから、よりマイルドな条件下で高い活性を示すことが明らかになりました(図3)。また、hcp−Ruナノ粒子では、サイズが小さいほど活性が高くなるといった一般的な触媒活性のサイズ依存性を示しましたが、fcc−Ruナノ粒子は逆のサイズ依存性を示すこともわかりました。得られたfcc構造を有するRuナノ粒子は広い温度範囲で安定であり、高活性に加え高寿命の性能を兼ね備えた優れた触媒になり得ることが期待されます。

<今後の展開>

燃料電池のセルスタックに、一酸化炭素(CO)は大敵です。COは、燃料電池スタック反応で重要な役割を果たす白金触媒に付着して、化学反応を妨げてしまうからです。これをCOによる“被毒”と言います。有害なCOに被毒すると、燃料電池スタックは次第に発電できなくなります。それを防ぐためには、燃料電池スタックに送り込まれる水素ガス中のCO濃度を10ppm(0.001%)以下に保たなければなりません。Ruは、金属表面上で一酸化炭素(CO)と酸素(O)を反応させて二酸化炭素(CO)に変換し、COを酸化除去する性能が最も高い金属であり、CO除去触媒としてエネファームに使用されています。Ru触媒は、これ以外にも、様々な有機合成反応をはじめとして、アンモニア合成触媒、アンモニア型燃料電池触媒、NOなどの排ガス浄化触媒、白金フリーな燃料電池電極触媒など、多岐にわたり社会で利用されている極めて有用な触媒です。今回、発見したfcc−Ruナノ粒子は、家庭用燃料電池エネファームで使用されている既存のhcp−Ruに置き換わる革新的な新触媒として期待されます。さらに本研究により開発された合成手法を適用することで、これまで存在し得なかった構造を有する金属やさらに、バルク状態注6)では相分離注7)する金属元素の組み合わせから原子レベルで固溶化した新しいナノ合金を創出できる可能性があり、既存の物質や材料に比べ安価でかつ優れた特性を有する新物質、新材料が創製されることが期待されます。

<参考図>

図1

図1 面心立方格子(fcc)構造を有する新規Ruナノ粒子と一酸化炭素の酸化反応

図2

図2 透過型電子顕微鏡像(左図)と粉末X線回折パターン(右図)

AからDはhcp−Ruナノ粒子、EからHはfcc−Ruナノ粒子の結果を示している。透過型電子顕微鏡像から2nmから5nm程度の粒径を持つナノ粒子が得られていることがわかる。粉末X線回折パターンからfcc構造とhcpの構造の作り分けが可能であることを示している。

図3

図3 fcc−Ruナノ粒子とhcp−Ruナノ粒子の一酸化炭素の酸化反応活性

T50は一酸化炭素の転化率が50%に達する温度を示している。3nmから5nmの粒径を持つ新規fcc−Ru粒子は従来のhcp−Ruナノ粒子に比べ、20K程度マイルドな条件で触媒活性を示している。

<用語解説>

注1) 金属組織学
金属・合金の結晶組織および構造と,金属の組成・加工状態・物性などとの関連を求める学問。
注2) 状態図
物質系の状態が状態変数によってどのように変わるかを示す図。状態変数としては温度、圧力、密度、多成分系ではこれらのほかに成分比などがとられる。ここでは、温度を状態変数として示している。
注3) 透過型電子顕微鏡観察
電子顕微鏡の一種である。観察対象に電子線をあて、それを透過してきた電子が作り出す干渉像を拡大して観察する電子顕微鏡のこと。
注4) 粉末X線回折測定
粉末にX線を照射すると、結晶を構成する原子や分子の規則正しい配列に応じた回折現象(回折パターン)が観測される。この回折パターンを解析することで、結晶中で原子や分子がどのように配列しているのかを明らかにすることができる。
注5) 転化率
反応により消失した反応物質の供給量にたいする割合。
注6) バルク状態
大きな粒子径を持つ物質。一般的に市販されている金属粉末などはバルク状態にある。
注7) 相分離
物質系が2つの相に分離する現象をいう。ここでは2種類以上の金属が原子レベルで交じり合わず、お互い別々に存在している状態。

<論文名と著者>

“Discovery of Face-Centered-Cubic Ruthenium Nanoparticles: Facile Size-Controlled Synthesis Using the Chemical Reduction Method”
(fcc−Ruナノ粒子の発見:化学的還元法を用いた簡便なサイズ制御合成)
Kohei Kusada, Hirokazu Kobayashi, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Naoya, Sumi, Katsutoshi Sato, Katsutoshi Nagaoka, Yoshiki Kubota and Hiroshi Kitagawa
Journal of the American Chemical Society, 2013,
doi: 10.1021/ja311261s

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

北川 宏(きたがわ ひろし)
国立大学法人 京都大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
「元素間融合を基軸とする新機能性物質・材料の開発」研究代表者
〒606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町
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古川 雅士(ふるかわ まさし)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
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