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平成25年3月26日

国立大学法人 千葉大学

国立大学法人 北海道大学

科学技術振興機構(JST)

光渦レーザーが創るナノスケールの螺旋針
—螺旋の向きや巻き数を光で制御—

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業の一環として、千葉大学の尾松 孝茂 教授と北海道大学の森田 隆二 教授らのグループにより行われ、螺旋波面とドーナツ型の強度分布を持つレーザー光(光渦レーザー)を金属に照射した時にできる螺旋ナノ針(カイラルナノニードル)の螺旋の巻数が光渦レーザーの螺旋波面の巻数と偏光の向き(螺旋性)で制御できることを、世界で初めて実証しました。

光渦レーザーの螺旋性は、螺旋波面の巻数で決まる螺旋性Lと円偏光の向きで決まる螺旋性Sがあります。LとSはともに整数で、その符号は螺旋の向き(時計回り、反時計回り)に対応します。

今回の研究は、これまでに同グループが発見した「光渦レーザーを金属に照射するとカイラルナノニードルができる。」という現象において光の螺旋性とカイラルナノニードルの形の関係を定量的に明らかにしたものです。その結果、カイラルナノニードルの螺旋の巻数は、L+Sで決まり、螺旋の向きはLの符号で決まることが解明されました。さらに、L+Sが同じであれば光渦レーザーの螺旋波面の巻数Lが違っていても、同じ螺旋構造を持つカイラルナノニードルができることも分かりました。このことは言い換えるとカイラルナノニードルの螺旋の巻数や向きを光の螺旋性の大きさと符号だけで完全に制御できることを意味します。今回の研究成果は、光の螺旋性が金属に転写されるメカニズムの謎に迫るものであり、光の螺旋性を用いた新たな光科学を創出する先駆けになるものと期待できます。また、この成果は将来的には様々な波及効果をもたらすと期待されます。例えば、物質のカイラリティーを検出できる近接場光プローブや原子間力プローブ、光学素子のない波長域で旋光性を示すメタマテリアル、さらにはナノコイルやバイオMEMSなどの先端ナノテクノロジーを支える機能性デバイスが光を照射するだけで創成できることになります。

本研究成果は、2013年4月5日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌Physical Review Lettersに先立ち、オンライン版で近日中に公開されます。

<研究の背景と経緯>

光の螺旋性には、波面の螺旋構造から現れる螺旋性と円偏光注1)によって現れる螺旋性の2種類があります。中でも波面の螺旋構造から現れる螺旋性はこれまで光マニピュレーション注2)などを除くとほとんど利用されてこなかった未開拓な光の性質と言えます。

近年、われわれは、螺旋性を持つ光(光渦レーザー)を金属に照射すると、光の螺旋性が金属に転写されて螺旋状の新奇なナノ構造体(カイラルナノニードル)ができることを発見しました。この現象は、従来の光科学の研究では観測されていなかった新発見です。

今回、われわれは光の螺旋性とカイラルナノニードルの形の関係を定量的に明らかにしました。その結果、カイラルナノニードルの螺旋の巻数や向きを光の螺旋性の大きさと符号だけで完全に制御できることが分かりました。 これは、光の螺旋性が金属に転写されるメカニズムの謎に迫る研究成果であり、光の螺旋性を用いた新たな光科学を創出する先駆けになるものと期待できます。また、この研究成果は将来的には様々な波及効果をもたらすことが期待できます。例えば、物質のカイラリティー注3)を検出できる近接場光プローブや原子間力プローブ、光学素子のない波長域で旋光性を示すメタマテリアル、さらにはナノコイルやバイオMEMSなどの先端ナノテクノロジーを支える機能性デバイスが光を照射するだけで創成できることになります。

<研究の内容>

本研究では、螺旋波面注4)とドーナツ型の強度分布を持つレーザー光(光渦レーザー)を金属に照射した時にできる螺旋ナノ針(カイラルナノニードル)の螺旋の巻数が光渦レーザーの螺旋波面の巻数と偏光の向き(螺旋性)で制御できることを世界で初めて実証しました。

本研究では、波長1μmの光渦レーザー(パルス幅20ns、エネルギー0.2mJ−0.8mJ)を用いました。使用した金属はTa基板です。できあがったカイラルナノニードルは電子顕微鏡を用いて観察しました。 光渦レーザーの螺旋性を決めるパラメーターには、螺旋波面の巻数で決まるLと円偏光の向きで決まるSがあります。LとSはともに整数で、その符号は螺旋の向き(時計回り、反時計回り)に対応します。カイラルナノニードルの螺旋の巻数は、L+S(=J)で決まり、螺旋の向きはLの符号で決まることが解明されました。

また、Jが同じであれば光渦レーザーの螺旋波面の巻数Lが違っていても、同じ螺旋構造を持つカイラルナノニードルができることも分かりました。

以上の結果から、光渦レーザーの照射によってカイラルナノニードルが形成される過程では、次のようなことが起こっていると考えられます。まず光渦レーザーを照射することで光渦レーザーのドーナツ型の強度分布に沿って金属が融解し閉じ込められます。融解した金属は光渦レーザーの螺旋性によって散乱力注5)を受け、ドーナツ型の強度分布に沿って周回方向に回転運動します。同時に金属は光渦レーザーの前方方向へ強い散乱力を受けるために、回転運動している金属は光がなく散乱力を受けないですむ光渦の中心に向かって押し出されます。その後、摩擦や再結合により金属の回転運動が静止し、カイラルナノニードルが形成されると考えられます。

<今後の展開>

形成されたカイラルナノニードルの螺旋性(螺旋の巻数、螺旋の向き、螺旋構造の半径や高さ)がすべて光渦レーザーの螺旋性で制御できることから、メタマテリアル、プラズモニクス、電界放射電極、バイオMEMS、ナノコイルなどのナノテクノロジーに広く活用できる技術であると言えます。

この研究成果は米国物理学会の学術雑誌Physical Review Lettersに掲載予定です。

<参考図>

図1

図1 光の持つ二つの螺旋性

(左)螺旋状波面による螺旋性、(右)円偏光による螺旋性。 それぞれの大きさと向きは整数LとSの大きさと符号を使って表される。

図2

図2 カイラルナノニードルの概念図(上図)と
螺旋構造の金属ナノ針(カイラルナノニードル)の電子顕微鏡画像(中図)

光の螺旋性を示すJが大きくなると螺旋の巻数が増加する。カイラルナノニードルの単位高さ当たりの螺旋の巻数を「螺旋の巻数」と定義する(下図)。

図3

図3 カイラルナノニードルの螺旋の巻数とJの関係

光の螺旋性を示すJが大きくなると螺旋の巻数が増加する。光のJが同じだとLが違っても同じ巻数のカイラルナノニードルができる。

<用語解説>

注1) 円偏光
電磁波である光の電場は進行方向と垂直な面内で振動する。電場の振動の軌跡が円である場合、円偏光と呼ぶ。円偏光には時計回りと反時計回りの螺旋性がある。
注2) 光マニピュレーション
レーザー光の放射圧を用いて非破壊・非接触に微粒子を捕捉および操作すること。医学生物分野で応用されている。
注3) カイラリティー
物体(構造体)とその鏡像が同一でない(重ね合わせることができない)ことをカイラリティーと呼ぶ。
注4) 螺旋波面
光の等位相面である波面が螺旋状になっているものを螺旋波面と呼ぶ。通常のレーザー光の波面は平面であるのに対し、光渦レーザーの波面は螺旋状になる。光の波長に対する螺旋波面のねじれの回数がL(整数)に対応する。
注5) 散乱力
光のエネルギーの流れに沿って物質に働く力を散乱力と言う。螺旋波面を持つ光渦レーザーの散乱力は、進行方向に沿った前方向の散乱力の他にドーナツ型強度分布に沿った周回方向の散乱力を持つ。周回方向の散乱力は、光渦レーザーの螺旋の巻き数を表すパラメーターLによって制御できる。

<論文タイトル>

“Transfer of light helicity to nanostructures”
(光の螺旋性がどのようにしてナノ構造体へと転写されるのか?)
doi: 10.1103/PhysRevLett.110.143603

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

尾松 孝茂(オマツ タカシゲ)
千葉大学 大学院融合科学研究科 情報科学専攻 教授
〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1−33 工学部7−218
Tel:043-290-3477 Fax:043-290-3477
E-mail:

森田 隆二(モリタ リュウジ)
北海道大学 大学院工学研究院 教授
〒060-8628 北海道札幌市北区北13条西8丁目
Tel:011-706-6626 Fax:011-706-6626
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<JSTの事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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