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平成24年11月12日

科学技術振興機構(JST)
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大阪大学
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素子を作らなくとも有機薄膜太陽電池性能を予測診断する装置と手法を開発
—デジカメと電子レンジ技術の応用による迅速評価法—

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、大阪大学 大学院工学研究科 佐伯 昭紀 助教は、有機薄膜太陽電池注1)素子を作製することなく、迅速に性能を予測診断できる装置および手法を開発しました。

軽くて曲がる低価格な有機薄膜太陽電池は、実用化に向けて世界中で研究が行われています。太陽電池は光を電気に変えて電荷を輸送する活性層と電流・電圧としてエネルギーを取り出す電極などから構成されます。ところが、この性能を高めるには新規材料開発に加えて、材料の混合比、用いる溶媒と熱処理、活性層の厚み、電極の種類の選択、さらには有機材料の純度など、数多くのパラメーターを最適化して試作を行わなければならず、高度な装置と技術、時間が必要で性能向上の課題となっていました。

今回、デジタルカメラに使われているキセノンフラッシュランプ注2)と電子レンジで使われているマイクロ波注3)に着目し、それらの技術を組み合わせた測定装置を用いて、有機薄膜太陽電池性能の迅速な評価法を実現しました。具体的には、キセノンフラッシュランプによる疑似太陽光・高強度短パルスを有機薄膜太陽電池の活性層に照射することで、瞬間的に正負の電荷を生成させます。そこに、マイクロ波を照射して有機材料を透過したマイクロ波の強度変化に基づいて電荷の動きを高速に検出し、光電変換特性を評価します。この評価法では、電極を設けることなく太陽電池の基本構造である活性層フィルムのみで、太陽電池性能の直接的指標となる信号を得ることができ、最先端の有機薄膜太陽電池高分子(ポリマー)材料注4)の性能と相関していることが分かりました。

本手法では、これまで評価が難しく最適化が行われていない試作段階の材料でも、迅速で安定な評価が可能になり、評価時間も従来の5〜8時間に比べてその1/10以下になったため、有望な材料の早期選別が可能です(図1)。今回開発された測定装置および評価法が、今後、広く活用されることによって、実用化に向けた高効率有機薄膜太陽電池の開発をはじめ、太陽光を利用する光触媒などの性能評価の予測診断が進み、素子性能向上の加速が期待されます。

本研究の要素技術はすでに日本を含む世界5ヵ国・地域に特許出願され、本研究成果は、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で近日公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域 「太陽光と光電変換機能」(研究総括:早瀬 修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)
研究課題名 「マイクロ波法によるドナー・アクセプター系薄膜中の光誘起電荷ナノダイナミクス」
研究者 佐伯 昭紀(大阪大学 大学院工学研究科 助教)
研究実施場所 大阪大学 大学院工学研究科
研究期間 平成21年10月〜平成25年3月

この研究領域では、化学・物理・電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目標として、理論研究から実用化に向けたプロセス研究に渡る広域な研究を対象とするものです。

<研究の背景と経緯>

現在、住宅屋上や大規模太陽光発電所で用いられている太陽電池は、ほぼ全て無機のシリコンや化合物半導体で製造されています。バルクヘテロジャンクション注5)と呼ばれる有機薄膜太陽電池は、印刷・常温プロセスや資源の有効利用の観点から、低価格・軽量化につながるため、次世代太陽電池として世界中で研究が行われています(図2a)。実用化には、高効率化と高耐久化が大きな鍵ですが、近年、より多くの光を吸収する有機材料の開発などにより、8〜11%の変換効率注6)が報告されています。変換効率を最大限に高めるには、新規材料の開発はもちろんのこと、太陽光を吸収して電荷を発生させる活性層のさまざまなパラメーターの最適化や、電流・電圧として外部に取り出すための素子構造の最適化を、高価な装置を用いて徹底的に行わなくてはなりません。特に素子作製時は、酸素や水分濃度を極限まで少なくして作業を行い、さらに高真空金属容器内にて電極を熱蒸着するため多くの時間と労力を必要とし、小さな要素で性能が大きく変化することがあります(図1)。従って、他の迅速で安定な素子性能評価方法の開発が望まれていました。

近年、佐伯助教の研究(参考論文参照)によって、携帯電話・電子レンジなどで使われているマイクロ波の一種(約9ギガヘルツ付近、波の長さ約4センチメートル)を用いたマイクロ波法注7)が、この目的に有効であることが示されました(図2b)。従来の素子作製による評価では、トータルで5〜8時間程度かかりますが、この新たな方法では、大気中で石英基板に活性層を塗布するだけで準備ができ(図2c)、測定も数分で行えるため、サンプルの準備から結果が出るまで30分もかかりません(図1)。しかし、当初は光パルス照射源としてナノ秒パルスレーザー注8)を用いていたため、一度に1つの色の光照射しか行えず、太陽光のように多くの色の光を含む白色光に対する評価を行うにはレーザーの色を少しずつ変えて測定し、太陽光のそれぞれの色での強度補正を伴う解析を行わなければならないため、迅速な評価という特徴を最大限に生かすことができませんでした。また、代表的な電子供与体であるポリチオフェンと電子受容体である可溶性フラーレン(PCBM)の組み合わせで作製された太陽電池には有効でしたが、色の異なる材料を用いた時は、単色の光照射では正確な評価が困難でした。

<研究の内容>

そこで、家庭で使われている蛍光灯やLED照明注9)のようにさまざまな色の光を含む白色光を用いることを考案し、かつ短時間で起こる現象を測定するためにパルス光を照射できる光源を検討しました。その結果、デジタルカメラのフラッシュ光にも使われているキセノンフラッシュランプと呼ばれる希ガスの瞬間的な放電発光(パルス)現象を利用した光源に着目し、マイクロ波測定装置に組み込みました(図3a)。通常のキセノンフラッシュランプは、数ミリ秒(1,000分の1秒)程度の長いパルス光ですが、本装置に利用するために100万分の1秒の高強度短パルスを発生できるように改良し、マイクロ波測定時に問題となる特有の電気ノイズ軽減の開発を行った結果、期待通りに有機薄膜太陽電池の光電流信号を得ることに成功しました(図3b)。パルス光でない定常光のキセノンランプは、ソーラーシミュレーターと呼ばれる疑似太陽光照射装置の光源にも用いられており、キセノンフラッシュランプからの短パルス光も太陽光に近いスペクトル形状を持っていることも確認されました(図3c)。

この装置を用いて、高い変換効率が報告されている代表的な高分子材料(電子供与体)と可溶性フラーレン(PCBM、電子受容体)の2種混合膜からなる有機薄膜太陽電池の光電気特性を評価しました。その結果、従来のナノ秒レーザーからの単色光パルスを用いた実験では、信号が最大になる電子供与体・受容体比率が照射する光の色によって異なる結果となり、どの比率が最適になるかを判別するのが困難でした。しかし、キセノンフラッシュランプを用いた実験では、報告されている素子での最適比率に対応する混合比率の場所で最大値を示す結果となり、本装置による評価が有効であることが確認されました(図4)。

次に、電子供与体・受容体混合比率だけでなく、薄膜作製に用いる溶媒の違いと材料の違いを統一的に評価できるかどうかを検討するため、4種類の代表的な高分子材料に対して、それぞれを可溶性フラーレンと混合した活性層の光電気特性をさらに詳細に検討しました。その結果、材料と溶媒が異なっていても、統一的な相関があることが分かりました(図5)。従って、未知の材料と薄膜作製条件であっても、キセノンフラッシュ・マイクロ波測定を行えば素子を作製することなく、迅速で安定に性能を診断・予測することが可能です。従来のナノ秒レーザーを用いた方法でも同様の検討を行いましたが、用いる波長によって結果が異なり、かつキセノンフラッシュの結果と比べると素子性能との相関は不明瞭なものであったため、今回の装置を用いた評価法の有効性が非常に高いことが分かりました。

<今後の展開>

有機薄膜太陽電池の高効率化・高耐久性化には、さらなる新規材料の開発、最適薄膜作製条件の探索、最適素子構造の構築が必要です。本装置による評価法では、材料と薄膜作製条件の探索に有効であるだけでなく、マイクロ波によって検知されるナノスケールの電荷移動度の研究という、基礎科学へのアプローチにも展開できます。さらに、サンプル形態によらない自由度の高い測定であるため、例えば溶解性が悪かったために素子性能評価まで至らなかった材料についても、粉末の状態で光電気特性を評価することができ、これまで見落としていた特性や材料を再発見できる可能性もあります。また、色素増感太陽電池や光触媒材料などの有機と無機の境界領域研究でも利用できるため、太陽光を利用するさまざまな分野にも応用することが可能です。

将来的には、企業や大学などのニーズに応えるため、評価装置を高機能化・システム化(自動化)・高感度化・高安定化させるなどのステップを経て、高効率有機太陽電池をはじめとする太陽光を利用した多角的な機能性材料の性能予測診断にも展開することで、素子性能向上を加速することが期待されます。

<付記>

本研究は、大阪大学 大学院工学研究科 博士前期課程1年の吉川 沙耶 氏、関 修平 教授らとの共同で行われました。

<参考図>

図1

図1 通常の素子評価(左)と今回のマイクロ波法による評価(右)との比較

図2

図2 有機薄膜太陽電池素子の構造とマイクロ波法用のサンプル構造

  • a)通常の有機薄膜太陽電池素子構造。活性層が光を吸収し、電気に変換する。生成した正負の電荷をそれぞれ下部(透明電極)・上部(アルミ電極)で集め、電力として取り出す。
  • b)マイクロ波法による測定概念図。信号強度が大きいほど、性能が高い。
  • c)マイクロ波測定用サンプルの構造。石英基板に活性層をコートするのみで評価が可能。
図3

図3 キセノンフラッシュランプとマイクロ波を用いた評価装置と特性

  • a)測定システム概略図。
  • b)キセノンフラッシュ・マイクロ波法測定による、代表的なポリチオフェン・フラーレン混合膜の過渡伝導度信号。
  • c)キセノンフラッシュランプからの白色光パルスと太陽光のスペクトル形状の比較。波長による感度補正は行っていないため、相対的な比較は可能だが絶対的なスペクトル形状ではない。
図4

図4 ドナーとアクセプター混合比を変えた時の、単色光および白色光照射による評価

  • a)ナノ秒レーザーからの単色光(355nm、500nm、680nm)を用いた時のマイクロ波信号強度の混合割合依存性。網掛け部は、素子で最適とされている混合比率。信号が最大になる電子供与体・受容体比率が照射する光の色によって異なる結果となり、どの比率が最適になるかを判別するのが困難。
  • b)キセノンフラッシュランプからの白色光パルスを用いた時の過渡伝導度信号ピークの混合割合依存性。上部には用いた高分子材料(電子供与体)とフラーレン(電子受容体)を示している。また、0%は高分子のみ、100%はフラーレンのみに相当する。
図5

図5 有機薄膜太陽電池に用いられている代表的な4種類の高分子材料に対して、薄膜作製条件(溶媒と混合比率)を変えた時の素子性能(縦軸)とマイクロ波信号(横軸)の相関

  • a)横軸にマイクロ波過渡伝導度信号のピーク強度、縦軸に素子の変換効率(%)を開放電圧注6)(Voc)で割った値をプロット。
  • b)用いた4種類の高分子材料と可溶性フラーレン(PCBM)の化学構造。

<用語解説>

注1) 有機薄膜太陽電池
有機材料で作られた太陽電池。従来の無機系太陽電池に比べて材料や製造コストが安く、軽量で曲がるものも作れるため、次世代型太陽電池として注目されている。
注2) キセノンフラッシュランプ
希ガスであるキセノンをガラス管などに封入し、コンデンサなどを用いてパルス電圧を与えて瞬間的に白色光パルスを発生する装置。カメラのフラッシュとしても使用される。
注3) マイクロ波
ラジオ波、赤外線、可視光、X線、γ線と同じく電磁波の一種で波長はマイクロメートルからミリメートルの範囲。携帯電話の波長領域の通称はLバンド(0.7〜1.5GHz)、電子レンジはSバンド(2〜3GHz)。今回測定に用いたマイクロ波はXバンド(9GHz)と呼ばれる。
注4) 有機薄膜太陽電池高分子(ポリマー)材料
有機薄膜太陽電池などに使われる高分子半導体材料。光を吸収して、電子が詰まっている一番上の準位から電子が空の一番下の準位へ電子が遷移する。このギャップはバンドギャップと呼ばれ、そのギャップの高さを狭くして低バンドギャップ化することで、より広い波長の光を吸収することが可能となり、太陽電池の性能向上に直結する。
注5) バルクヘテロジャンクション
有機薄膜太陽電池の活性層の構造。正の電荷を輸送する電子供与体と負の電荷を輸送する電子受容体の混合膜から成る構造。単純な2層膜に比べ電子供与・受容体の界面が飛躍的に増加し変換効率が大幅に向上する。
注6) 変換効率
 変換効率(PCE)は、太陽電池の陽極と陰極を電線でつないだ状態の電流値である「短絡電流(Jsc)」と電線を外した状態の電圧値である「開放電圧(Voc)」および電力(電流×電圧)を最大にする電流・電圧値から計算される「曲線因子(FF)」の掛け算を、入射太陽光エネルギー(P)で割って求められる(PCE=Jsc×Voc×FF/P)。
注7) マイクロ波法
時間分解マイクロ波伝導度法。光や放射線パルスを有機物に照射すると短寿命の電荷が生じ、その電荷がマイクロ波と相互作用してマイクロ波のパワーが減少する。この現象を観察し電荷の時間挙動やナノスケールの電荷キャリアの局所的な振動速度を評価する手法。
注8) ナノ秒パルスレーザー
ナノ秒(10億分の1秒)オーダーのパルス幅の単色光を発生できるレーザー。
注9) LED照明
Light Emitting Diodeの略。無機半導体で作られるが有機LEDも実用化に向けて研究中。

<論文タイトル>

“A Versatile Approach to Organic Photovoltaics Evaluation Using White Light Pulse and Microwave Conductivity”
(白色光パルスとマイクロ波伝導度を用いた有機太陽電池評価に有効な方法)
doi: 10.1021/ja309524f

<参考論文>

“Direct Evaluation of Intrinsic Optoelectronic Performance of Organic Photovoltaic Cells with Minimizing Impurity and Degradation Effects”
2011, Advanced Energy Materials
doi: 10.1002/aenm.201100143

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

佐伯 昭紀(サエキ アキノリ)
大阪大学 大学院工学研究科 助教
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2−1
Tel:06-6879-4587 Fax:06-6879-4586
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

木村 文治(キムラ フミハル)、古川 雅士(フルカワ マサシ)、川添 菜津子(カワゾエ ナツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町ビル
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067
E-mail:

(英文):Development of method and instrument for an evaluation of organic photovoltaic cell without device fabrication