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平成24年8月17日

科学技術振興機構(JST)
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東北大学 流体科学研究所
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バイオテンプレート極限加工により損傷がなく10倍高密度の量子ドットを作製して、発光に成功
–高速通信用量子ドットレーザーの実現に前進–

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東北大学 流体科学研究所(兼 原子分子材料科学高等研究機構)の寒川 誠二 教授らは、トップダウン加工でガリウムヒ素の高密度・無欠陥の量子ドット注1)を作製し、その量子ドットからの直接発光を確認しました。

量子ドットは、ナノメートル(nm:10億分の1m)の微小な半導体のことで、この半導体ナノ構造を用いた量子ドットレーザーは、温度による影響が少なく低消費電力などの特長を持つことから、従来の半導体レーザーを凌駕するものとして注目されています。しかし、これまでの光リソグラフィーとプラズマエッチングを用いたトップダウンの加工技術では、ナノメートルオーダーの加工は難しく、また、量子ドット表面に欠陥が多量に生成し、発光効率が著しく劣化するという問題点がありました。そこで、この損傷を回避するために自己組織的な結晶成長による量子ドット作製法が開発されましたが、材料が限定され、サイズ、位置などの制御も難しく、また、形成される量子ドットの密度が低いため、量子ドットレーザーが本来持つ高効率な発光強度を多様な波長で実現することが困難でした。

本研究チームはこれまで、たんぱく質を用いて配置させた金属微粒子を加工マスク(バイオテンプレート注2))として、中性粒子ビーム注3)を用いた無損傷エッチングにより、高密度・無欠陥のガリウムヒ素の量子ドットを作ることに成功していました。今回、そのガリウムヒ素量子ドット上に、アルミニウムガリウムヒ素を界面制御して結晶成長させることにより、量子ドット側壁表面を補修して活性層を作製し、トップダウンで加工した量子ドットが発光することを初めて確認しました。

本研究により作製されたガリウムヒ素量子ドットは、自己組織的な結晶成長により形成された従来の量子ドットに比べて10倍以上の高密度な量子ドットを簡易に配置制御して形成できるため、量子ドットレーザー構造として画期的なものです。理論的には、従来に比べて10倍以上のレーザー光強度と単色化やフレキシブルな材料選択による波長制御が実現でき、高速通信用レーザーとして大いに期待されます。究極のグリーンテクノロジーとして期待される高効率・量子ドットレーザーの実現に向けて前進したといえます。

本研究成果は、2012年8月20日〜23日まで英国・バーミンガムで開催されるナノテクノロジー分野の最高峰の1つである「IEEE International Conference on nanotechnology 2012」で発表されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
(研究総括:曽根 純一 物質・材料研究機構 理事)
研究課題名 「バイオテンプレート極限加工による3次元量子構造の制御と新機能発現」
研究者 寒川 誠二(東北大学 流体科学研究所 教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、フォトリソグラフィなどのトップダウンプロセスと自己組織化に代表されるボトムアッププロセスの高度化と統合化を進めることによって、革新的な機能を発現する次世代ナノシステムを創製することを目標としています。上記研究課題では、超低損傷中性粒子ビームエッチングと、球穀状たんぱく質を用いた高密度ナノテンプレート配置技術を組み合わせることで、超高効率量子ドットレーザーおよび超高効率量子ドット太陽電池の実現を目指します。

<研究の背景と経緯>

化合物半導体を用いた量子ドットレーザーは効率の良い低消費電力レーザー素子として、また超高速光スイッチとして、飛躍的に高まる通信需要に応えユビキタス情報化社会を支える重要な技術であり、広く研究されてきています。このデバイスを実現するにはナノメートルオーダーでサイズや密度、位置などの制御された構造を作製することが求められますが、従来のトップダウンのリソグラフィー技術とエッチング技術に依存した微細加工技術では大きな困難が予想されます。現状のリソグラフィー技術では光源やレンズ系の設計において22nmよりも微細なパターン形成することは技術的・経済的に大きな壁があります。また、プラズマエッチングでは、ナノメートルスケールの構造形成においてはプラズマからの紫外線照射による表面欠陥生成が大きな問題となっています(プラズマダメージ注4))。特に化合物半導体はシリコンに比べて不安定な材料でプラズマに対して脆弱であるため、プラズマエッチングによる欠陥のないナノ構造作製は不可能であるといわれています。一方、ボトムアップによる量子ドットを形成する手法としては、格子歪みを利用したStranski−Krastanow(S−K)成長モード注5)による自己形成量子ドット作製法が一般的ですが、この手法では、①寸法のばらつきを十分に抑えることができない、②ドットの密度に限界(10〜1010cm−2)がある、③サイズに制限がある(数10nm程度)、④材料を自由に選択することができない、⑤歪みに伴う格子欠陥が不可避であるなどの問題があります(図1)。そのため、十分な性能の量子ドットレーザーの実現には、良好な量子効果注6)を持つ欠陥の無い高密度ナノ構造を再現性よく作製可能なトップダウン加工技術の確立が急務となっています。

現在、その最有力な手法として、ボトムアップ技術とトップダウン加工技術の融合(プロセスインテグレーション)が注目され、多くの提案がされています。ボトムアップ技術の中でも、バイオテクノロジーは極めて急速に進歩しており、奈良先端技術大学院大学の山下 一郎 教授らは遺伝子操作により改質されたフェリチン変異体などを用いてナノサイズの金属を内包したたんぱく質を作製し、それらの自己組織化によるナノ構造作製を実現しています。一方、トップダウン加工技術では、プラズマから放射される電荷や紫外線を抑制し、超低損傷で高精度のエッチングを可能とする中性粒子ビーム技術(図2)を世界で初めて東北大学の寒川教授らが開発し、その効果を最先端超LSIで実証しています。

<研究の内容>

今回、寒川教授は、山下教授によるたんぱく質+金属複合体(バイオコンジュゲート)の自己組織化による均一・高面内密度・高均一加工マスク(バイオテンプレート)を用いてガリウムヒ素の中性粒子ビーム無欠陥エッチング技術により作製された高密度・配置制御・ガリウムヒ素量子ドット構造(図1)に、東京大学 岡田 至崇 教授の結晶界面構造制御技術によりアルミニウムガリウムヒ素を界面制御してエピタキシャル成長注7)することで、トップダウンで加工した量子ドットの極表面に存在するダングリングボンド注8)(未結合手)を補修して活性層を形成し、初めて発光を観察しました。

今回のガリウムヒ素量子ドットの作製プロセスは、次の通りです。

金属微粒子を内包したたんぱく質が、特殊な処理をした表面に自発的に規則正しく配列した構造を作る性質を用いて、金属微粒子を内包したたんぱく質を約20nm程度の間隔でガリウムヒ素の基板上に高密度(1011cm−2以上)に等間隔に配置しました(図3図4)。その後、たんぱく質だけを除去して7nm径の均一な金属微粒子を加工マスクとして中性粒子ビームによる無損傷エッチングを行うことにより、室温にて量子効果を示す厚さ数nm、直径を10〜20nmに制御した円板構造を、無欠陥、高密度、等間隔(約20nm)で制御して配置しました(図5左)。この加工した円板構造表面に残留するダングリングボンド(未結合手)を、結晶界面構造制御技術を用いたアルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)エピタキシャル成長により原子レベルで補修して埋め込むことでガリウムヒ素量子ドット構造による活性層を形成しました(図5右)。この活性層構造において、北海道大学 村山 明宏 教授グループのレーザー分光技術により形成した量子ドットからの強い発光を初めて確認しました(図6)。

本量子ドット作製手法を用いることで、フレキシブルな材料による量子ドット構造を無欠陥で高密度に配置できることから、従来の量子ドットレーザーに比べて10倍以上高強度で広範囲な波長によるレーザー発振が期待できる画期的な研究成果といえます。

<今後の展開>

これらの結果を基に、今回作製した活性層上にクラッド層注9)および電極層を積層して実際に量子ドットレーザーを試作し、従来に比べて発光効率が高く単色化されたレーザー発振を実現する予定です。この構造を用いることで理論的には、従来に比べて10倍以上のレーザー光強度と単色化が実現でき、また、材料を選択することで広範囲な発振波長が実現できる高速通信用レーザーとして大いに期待されます。

<参考図>

図1

図1

 本研究におけるバイオテンプレート極限加工による量子ドット作製技術の利点と従来用いられている自己組織的結晶成長技術(S−K法)による量子ドット作製技術の欠点。
図2

図2 中性粒子ビームエッチング装置

 プラズマ生成室とプロセスで構成され、その間に高アスペクトグラファイトグリットが設置されている。そのグリットによりプラズマからの紫外線および電荷を遮り、運動エネルギーを持った中性粒子ビームのみを基板に照射できる。
図3

図3

 フェリチンによるバイオテンプレート作製と直径7nmの鉄コアをマスクに中性粒子ビームによりガリウムヒ素井戸構造に円板構造を転写するプロセス。
図4

図4 ガリウムヒ素表面に配置された鉄コア

 フェリチン表面に修飾された高分子ポリマーにより間隔を20〜30nmに制御できている。このとき、面密度:1.3×1011cm−2である。
図5

図5

 鉄コアをマスクに塩素中性粒子ビームによりガリウムヒ素/アルミニウムガリウムヒ素量子井戸構造をエッチングした直後の形状とアルミニウムガリウムヒ素を埋め込んだ後の形状。
図6

図6 ガリウムヒ素量子ナノ円板構造からの発光スペクトル

加工前の量子井戸からの発光と波長が異なる。

<用語解説>

注1) 量子ドット
主に半導体において、電子の持つド・ブロイ波長(数nm〜20nm)程度の大きさの粒状の構造を作ると、電子はその領域に閉じ込められる。閉じ込め方向を1次元にしたものを量子井戸構造、2次元のものを量子細線、そして3次元全ての方向から閉じ込めたものを、量子ドットと呼ぶ。量子ドットは、その特異な電気的性質により、単電子トランジスタ、量子テレポーテーション、量子コンピュータ−などへの応用が期待されている。また、大きさを変えることでバンドギャップエネルギーが制御でき、光の吸収や発光の波長を変化させることができるため、量子ドット太陽電池や量子ドットレーザーへの応用も期待されている。これらを実現するためには大きさのそろった量子ドットを作製する必要があり、本研究ではバイオテンプレート法を用いた円板アレイ構造を提案している。
注2) バイオテンプレート
生体超分子を用いて無機材料を配置する合成手法。これまでに奈良先端技術大学院大学の山下教授と寒川教授は生体内で鉄量調整たんぱく質・フェリチンを用いて、光リソグラフィー技術の限界22nmより微小なナノ粒子配列を加工マスクとする超微細エッチング加工に成功している。フェリチンは外径12nm、内径7nmで、鉄酸化物ナノ粒子を持つ。自己組織化能を利用してフェリチンをシリコンあるいは化合物半導体基板上に2次元配置し、たんぱく質殻部分を熱処理またはオゾン処理で除去すると、2次元配置された7nm径鉄ナノ粒子の分散配列ができる。この鉄ナノ粒子をマスクとして中性粒子ビームエッチング加工すると無欠陥でサイズのそろった高密度で等間隔なナノメートルオーダーの量子ナノ円板構造が作製できる。今回は開発したバイオテンプレート技術をガリウムヒ素に応用した。
注3) 中性粒子ビーム
プラズマ中に存在する正イオンあるいは負イオンは、電界により加速されると、原子分子、電子、壁などとの衝突で電荷交換して中性化される。このとき、運動エネルギーは保存され、方向性を持った中性粒子ビームを生成する。寒川教授はフッ素・塩素負イオンを直流電圧により加速することで電荷放出を促し、世界で初めて超高効率・低エネルギー高密度中性粒子ビームを形成した。この中性粒子ビームでは、プラズマからの電荷や紫外線が一切基板に到達しないので、プラズマダメージは完全に抑制される。
注4) プラズマダメージ
半導体デバイス製造工程においてプラズマプロセスにより入るダメージが大きな問題となっている。ダメージには、(1)物理的なダメージ、(2)電荷蓄積によるダメージ、(3)放射光によるダメージ、の3種類がある。物理的ダメージは基板に入射するエネルギーを持ったイオンの衝撃により基板に欠陥などのダメージが入ることをいう。電荷蓄積によるダメージはプラズマから基板に入射する電荷(正イオン、電子)が絶縁膜上に蓄積することで、MOSトランジスタにとって極めて重要であるゲート絶縁膜などを絶縁破壊することをいう。放射光によるダメージは、プラズマから基板に入射する紫外光やX線のような波長の短い放射光が基板に堆積されているシリコン酸化膜注にホール・電子対を生成し、絶縁性を劣化させることをいう。
注5) Stranski−Krastanow(S−K)成長モード
結晶成長において、2次元膜構造が3次元的島状構造に変化することである。下地結晶と異なる格子定数を持つ材料を成長させるとき、その格子不整合度が1.7%以上のときには成長層は歪みを持ち、系全体のエネルギーが大きくなる。成長膜厚を増やすほど系の持つ歪みエネルギーは増大し、ある臨界膜厚を超えたところでS−K成長モードが起こり、膜が島状構造に変化する。特に分子線エピタキシー法(MBE)や有機金属気相成長法(MOCVD,MOVPE)といった結晶成長において量子ドットを始めとする半導体微細構造を作製するのに用いられている。
注6) 量子効果
量子サイズ効果やトンネル効果などがあり、いずれもナノメートルオーダーの構造で発現する。ナノ微粒子の直径を電子のド・ブロイ波長(数nm−20nm)程度まで小さくすると、電子はその領域に閉じ込められ、とびとびのエネルギー準位をとる。さらに電子の運動の自由度が極端に制限されるために、その運動エネルギーは増加する。従って、粒子径が小さくなるにつれてバンドギャップエネルギーが増加する。この現象を量子サイズ効果と呼ぶ。この量子サイズ効果により、半導体ナノ結晶では光の吸収・発光波長を粒子径により制御することができる。一方、トンネル効果とは、微小な構造において、エネルギー的に通常は超えることのできない領域(ポテンシャル障壁)を粒子が一定の確率で通り抜けてしまう現象のことをいう。例えば、2種類の金属や半導体の間に薄い絶縁物の層(障壁)を挟み、両端に電圧を加えるとき、絶縁層の厚さが極めて薄く、ナノメートル(nm)の桁になると、トンネル効果により電流が流れるようになる。
注7) エピタキシャル成長
薄膜結晶成長技術の1つ。基板となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板の結晶面にそろえて配列する成長の様式である。基板と薄膜が同じ物質である場合をホモエピタキシャル、異なる物質である場合をヘテロエピタキシャルと呼ぶ。結晶成長の方法として分子線エピタキシー法や有機金属気相成長法、液相エピタキシー法などがある。エピタキシャル成長が起こるには格子定数のほぼ等しい結晶を選ぶ必要があり、温度による膨張係数の近い物でなくてはならない。
注8) ダングリングボンド
原子における未結合手のこと。半導体結晶は、結晶の表面や欠陥付近では原子は共有結合の相手を失って、結合に関与しない電子(不対電子)で占められた結合手が存在する。この手をダングリングボンドと呼ぶ。ダングリングボンド上の電子は不安定なため化学的に活性となり、特に結晶表面の物性には重要な役割を果たす。例えば、シリコン(ダイヤモンド構造)の(001)理想表面の表面第一層のシリコン原子は2個のダングリングボンドを持ち、そのままでは非常に不安定になっている。実際のシリコン表面はダングリングボンドを減らすためにダイマー化した構造を形成する(表面再構成)。このようにダングリングボンドが存在する表面では、ダングリングボンドを減らす(なくす)ために再構成(リコンストラクション)などの構造の変化が起こる。
注9) クラッド層
半導体レーザーチップでは半導体基板の上にダブルヘテロ構造が形成されています。電子と正孔が結合して光を出す中心の層を活性層と呼び、その上下の層をクラッド層と通常呼んでいます。基板がn型の場合、下側のクラッド層はn型、上側のクラッド層はp型になります。活性層で発生したレーザー光は活性層内に閉じ込める必要があります。ダブルヘテロ構造はその役割も兼ねています。光を閉じ込める、いわゆる光導波路においては光が閉じ込められる層をコア層といい、それを挟む外側の層をクラッド層といいます。

<論文名>

“High-density and Sub-20-nm GaAs Nanodisk Array Fabricated Using Neutral Beam Etching Process for High Performance QD Devices”
(中性粒子ビームによる高密度Sub−20nmガリウムヒ素ナノ円板アレイ構造の作製)
doi: 10.1109/NANO.2012.6321974

<お問い合わせ先>

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寒川 誠二(サムカワ セイジ)
東北大学 流体科学研究所 教授
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