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平成24年7月18日

東京大学 生産技術研究所

科学技術振興機構

見かけは同じナノに、性質の異なるヒモ
〜内部のナノ繊維の方向を制御して特性向上〜

<ポイント>

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業ERATO「竹内バイオ融合プロジェクト」の竹内 昌治 リーダー(東京大学 生産技術研究所 准教授)と桐谷 乃輔(機能創発グループ グループリーダー)らは、液体の流れを精度よくコントロールし、ナノスケールの繊維状材料(ナノファイバ)の隊列(並ぶ方向)を制御する方法を開発しました。

軽量・頑丈な工業製品や、人工生体組織の材料として、ナノファイバを束ねたヒモの利用が注目されています。ナノファイバは、縦と横で性質が大きく異なるため、ヒモの中のナノファイバの並び方がヒモ全体の特性に影響を及ぼします。しかし、非常に小さいナノファイバの向きを制御することは大変難しいことでした。今回、研究グループが開発した方法では、そのままナノファイバの隊列を固めることができるため、同じ材料から、見た目は同じでも性質の異なるヒモを作製し、電気特性や丈夫さを変えることができるようになりました。実際に、同じナノファイバから作ったヒモで、電気伝導度の異方性(電気の流れやすさの方向特性)を約30倍変化させることに成功し、ナノファイバの並び方を制御することで電気の流れ方の制御が可能であることを示しました。この技術は、本研究グループが取り組んできた生体組織の人工構築を大きく前進させるだけでなく、あらゆる繊維状材料への適用も可能です。

本成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で近日中に公開されます。

<概要>

本研究グループは、生体組織の人工構築を目指して、ナノファイバを束ねたヒモを作ることに取り組んできました。血管や筋肉をはじめとする生体の組織はヒモの形状をしており、ヒモは絡めて太くしたり、編んでシートにしたりと材料としての使い勝手が良いことから、生体組織を組み立てる足場としての利用が期待されます。

ヒモを作るための材料として用いたナノファイバは、ナノ(10−9メートル)スケールの直径を持つとても小さな繊維状の材料の総称です。たとえば、その1つであるカーボンナノチューブは、軽くて丈夫であるために、宇宙エレベータを作る素材としての利用が期待されています。また、身体の中にはコラーゲンなどの生体ナノファイバが存在し、血管や筋肉などの組織を支える土台としても機能しています。

ナノファイバを束ねて、軽くて強い骨組みを作ったり、生体組織を人工的に作ったりするには、ナノスケール(髪の毛の1/10,000スケール)の世界で繊維の並び方をコントロールすることが必要です。なぜなら、ナノファイバは、その細長い形の縦と横で性質が大きく変わるため、その並び方がヒモの特性に影響を及ぼすからです。これまでの技術では、ナノファイバが細長いために、束ねると隙間を埋めるように一方向に並んでしまうことが問題でした(割りばしをゴムで束ねたときに割りばしが並ぶようなイメージ)。ナノファイバは、もちろん目で見えないので、その方向を変えて並べるトリックを見つける必要がありました。

本研究では、マイクロ流体デバイスを利用して、2種類の液体(ナノファイバが分散した水溶液と水)をデバイス中に流すシステムを構築しました。ナノファイバの分散液を内側に、水を外側に流すと、ナノファイバの分散液の流れる速度が水より遅い場合には、ナノファイバは、流れに沿って並ぶことがわかりました。一方で逆の条件では、ナノファイバは向きを変えて、流れと垂直に並ぶことが確認されました。したがって、マイクロ流体デバイス内の液体の流れをコントロールすることで、簡単にナノファイバの方向を制御することが可能となりました。

さらに、水の代わりに、ナノファイバを固める材料(カルシウムイオン)を溶かした水溶液を流すことで、そのままナノファイバの隊列を固めてヒモとして取り出せることもわかりました。実際にカーボンナノチューブの方向を制御して固めて取り出すことにも成功し、電気的な性質や丈夫さがカーボンナノチューブの並び方によって変えられることも示しました。また、この方法では、数メートルもの長さのヒモをわずか数分で作れることから、大量にヒモを製造することも可能になります。

<従来法との比較と今後の展開>

これまでマイクロ流体デバイス中でのナノファイバの集積化については、流れの方向に並ぶという概念が一般的でした。しかし、ナノファイバは、ファイバの長軸方向と短軸方向では、性質が異なるため、その並び方を変えることで、材料としての性質を多様に調整することが期待されてきました。しかしながら、単一の流れの中では、ファイバ状の構造は流れの方向を向いてしまい、その方向を制御することは容易ではありませんでした。本方法は、内側(コア)と外側(シェル)の同軸の2つの流れを用い、コアとシェルの流れの大小関係を制御することで、ナノファイバの方向を変えるものであり、原理的にあらゆる繊維状の材料に適用することが可能となります。

本研究では、細胞を細胞ブロックとして扱い、人工的に立体組織を構築することを目指しています。細胞ブロックに使う足場(ナノ繊維で作られるゲル)がナノレベルで制御されていれば、細胞の立体構造を設計しやすくなると考えられます。今回の成果は、微小な液体の流れの状態を変えることで、ナノレベルで足場の向きを変えられることを示したもので、今後の細胞ブロック作りに役立つことが期待されます。

<参考図>

図1

図1 マイクロ流体デバイスを利用した、ナノファイバの配列制御の模式図

図2

図2 流れの中でのナノファイバの様子

ナノファイバが流れに沿って並んでいる様子(上段)と流れと垂直に並んでいる様子(下段)。左から明視野画像、偏光顕微鏡画像、およびイラスト。偏光顕微鏡画像は、ナノファイバの配列を反映している

図3

図3

本研究の方法で作成した、カーボンナノチューブを含む紐を巻きつけた様子。全長はおおよそ4m。

図4

図4

同じナノファイバ(導電性高分子とバナジウムオキサイドを複合化したナノファイバ)から作成したヒモ。見た目はどちらも(a,b)緑色であるが、偏光顕微鏡という内部を見る装置を通すと中身が違う(c,d)。aとcは同じヒモでナノファイバが同じ方向を向いている。bとdはナノファイバがヒモの方向とは垂直に向いている。ヒモの長軸方向への電気伝導度の異方性は、a,cでは300,b,dでは11であり、電気の流れ方の特性が異なる。

<用語解説>

注) マイクロ流体デバイス
半導体の作製工程において利用される微細加工技術を利用して作成された、マイクロスケールの微小流路を有するデバイスの総称。小さな空間に液体を流すため、少ないサンプル量での検査や合成など、バイオ研究や化学工学への応用研究が盛んに行われている。

<論文情報>

論文タイトル:Microfluidic Control of the Internal Morphology in Nanofiber-based Macroscopic Cables

著者:Daisuke Kiriya, Ryuji Kawano, Hiroaki Onoe, Shoji Takeuchi

doi: 10.1002/anie.201202078

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹内 昌治(タケウチ ショウジ)
東京大学 生産技術研究所 准教授
〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
Tel:03-5452-6650 Fax:03-5452-6649
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
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