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平成24年7月11日

科学技術振興機構(JST)
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慶應義塾大学
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細やかな触感を伝えるテレイグジスタンス遠隔操作ロボットを開発

ポイント

JST 課題達成型基礎研究の一環として、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科の舘(たち) ワ(すすむ) 特任教授らは、遠隔地に細やかな触感や存在感を伝えられる「テレイグジスタンス注1)」システムを用いたロボットを世界で初めて開発しました。

近年、遠隔コミュニケーション、災害救助、医療などさまざまな場面で遠隔操作ロボットの利用が進んでいますが、これらのロボットを操縦者の分身として自在かつ安全に扱うためには、ロボットがいる遠隔地に自身が存在しているかのような高い臨場感を与えることが不可欠です。これまで、研究者らは「テレイグジスタンス」という概念を提唱し、このような高臨場感伝達技術の研究開発を進めてきました。

本研究グループは、カメラやマイクを通した視覚・聴覚の伝達だけでなく、ロボットが手に取った物の材質や温度などの触覚の伝達に着目して研究を進め、2011年には、指先への反力や温度を伝えられるテレイグジスタンスシステム「TELESAR V注2)」を開発しました。しかし、絹布のサラサラ感、デニムのゴワゴワ感などの触感の違いまでは伝達できませんでした。

今回本研究グループは、新たに「触原色原理注3)」を提案し、それに基づいて新規開発した圧覚・振動覚・温度覚を伝える触感伝達技術を「TELESAR V」と統合することにより、遠隔環境の細やかな触感を伝えるテレイグジスタンスに世界で初めて成功しました。

今後は、遠隔コミュニケーション、旅行やショッピングなどの遠隔体験、極限環境下における作業、遠隔医療、介護、サービス産業、エンターテイメント分野などさまざまな応用が期待されます。

今回開発したTELESAR Vは、世界最高峰のCGとインタラクティブ技術の祭典「SIGGRAPH2012」のEmerging Technologies部門に採択され、2012年8月5日(現地時間)よりロサンゼルス・コンベンションセンターにて展示されます。

本研究によって開発されたテレイグジスタンスシステムが動作する様子は、下記サイトにてご覧いただけます。(http://www.youtube.com/watch?v=KoC1iTOmYTg

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」
(研究総括:東倉 洋一 国立情報学研究所 名誉教授)
研究課題名 「さわれる人間調和型情報環境の構築と活用」
研究代表者 舘 ワ(慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 特任教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、実空間コミュニケーション、ヒューマンインターフェース、メディア処理などの要素技術を融合・統合し、「人間と情報環境の調和」を実現するための基盤技術の構築を目標としています。上記研究課題では、視覚や身体運動と統合された触覚情報提示の設計手法を確立し、実空間コミュニケーション、ヒューマンインターフェース、メディア処理が融合した、見て・触れる知的な情報環境の構築を目指します。

<研究の背景と経緯>

舘教授らは1980年より「テレイグジスタンス」という概念を提唱し、感覚伝達技術の研究開発を進めてきました。テレイグジスタンスは、高い臨場感を持って自分がいる空間とは別の空間を体験できるだけではなく、逆に、自己の存在感を伝えることを可能とする、双方向のコミュニケーション技術です。

テレイグジスタンスは、従来から研究開発が進められている医療応用や災害や事故現場への適用にとどまらず、オフィスワークへの遠隔地からのロボットを介した参加や、病床の生徒の遠隔通学などの新規分野へも進出し、徐々に社会に根付き始めています。近年、グローバル化・高齢化・核家族化などの社会の変革に伴って、コミュニケーションを高度化するニーズが急速に高まっており、テレイグジスタンス技術の発展に大きな期待が寄せられています。

テレイグジスタンスの実現には、バーチャルリアリティ技術・ロボット技術・通信技術の高度な統合が不可欠です。特に、人が実際に目の前の物を見たり触れたりしたときに得られる感覚を、ロボットを通して本質的に正しく伝える必要があります。加えて、ロボットの感覚情報を一方的に人に伝えるだけでなく、反対に人の身体の動きをロボット側で再現する必要があります。これを達成するため、人と同等のサイズおよび自由度を持つアバター(分身)ロボットと、人の動きを計測し感覚を提示するためのインターフェースの研究開発が世界的に進められています。アバターロボットの体が、自分の分身となったかのような一体感を持って自在に行動できるようにするためには、人とロボットとの間における視覚・聴覚・触覚などの感覚と運動の伝達を高い精度で同期させる必要があります。しかし、視聴覚に比べて触覚の伝達技術はいまだ発展途上にあり、一層の研究開発が求められています。

本研究グループは、触覚を伝達するテレイグジスタンスシステム「TELESAR V」を2011年に発表し、遠隔地にいながらまるで目の前の物に直接触れているかのように感じられることを世界に先駆けて示しました。指先が押し込まれる力(押下力)と指先に加わる水平方向の力(せん断力)と物体表面の温度を伝えることに成功し、ユーザーは物を握ったときに指先に力を感じ、温もりや冷たさまでも感じられることを実証しました。しかし、物体表面の細かな触感を伝えることはできませんでした。

<研究の内容>

今回の研究では、アバターロボットの指先に搭載し触感を計測する触覚センサーと、操縦者の手に装着し手の詳細な運動を計測するとともに触感を提示するグローブ型の触覚ディスプレイを新たに開発しました。触覚センサーは、指先と物体との接触力を計測する圧力センサーに加え、広い周波数帯域の振動を計測する音響式触感センサー、および温度センサーを内蔵しています。また、触覚ディスプレイは、各要素を指の背や腹に分離して搭載することで、従来難しかった圧力・微細振動・温度の3要素の提示を実現しました。これにより、布と紙などの物体表面の細やかな凹凸による触感を伝達できるようになりました。

<今後の展開>

本研究で開発された触感を伝えるテレイグジスタンス技術は、従来の高臨場感コミュニケーション技術で課題であった触覚情報の伝達に対して大きく貢献するものです。高品質な触感を伝えることにより、手元の感覚に頼る必要がある作業を高精度に行うことや、対象が見えなくても触れただけで迅速な判断を行うことが可能となり、医療、製造、災害対応などの分野への貢献が期待できます。

さらに、遠隔地の人や物に違和感なく触れられることで、見て聞くだけではない能動的で身体的な体験を提供できるようになり、遠隔体験や疑似体験がより豊かなものになります。例えば、旅行の遠隔体験において現地に行かなければ分からなかった物の肌触りなど感性に訴えかける体験や、教育・訓練において「身体で覚える」ことなどコミュニケーション、エンターテイメント、教育、福祉、などの分野へも幅広く貢献することが期待されます。

<参考図>

図1

図1 触感が伝わるテレイグジスタンスによる遠隔ショッピングの例

図2

図2 テレイグジスタンスシステム「TELESAR V」

コックピット(左)とアバターロボット(右)の外観
図3

図3 触感の違いを伝えるグローブ(左)とロボットハンド(右)

図4

図4 「TELESAR V」のシステム構成

図5

図5 アバターロボットが布を触る様子

図6

図6 布などの表面材質の他、コップの内容物のようなダイナミックな触感も伝達可能

<用語解説>

注1) テレイグジスタンス
テレイグジスタンスとは、その場にいながらにしてまるで遠隔地にいるかのような感覚を得ながら作業やコミュニケーションを可能にする技術です。具体的な実現方法の例として、遠隔地に自分の分身となるアバターロボットを配置し、ユーザーがコックピットからアバターロボットを操縦する「マスタースレーブ」と呼ばれる関係を構築する手法があります。このときユーザーの行動や発話の情報をロボット側に伝えることでユーザーとロボットの行動を同期し、さらにロボットのセンサーを介して得るさまざまな感覚情報をユーザーにフィードバックすることでユーザーがロボットと一体となった感覚を与えます。
図7

図7 テレイグジスタンスの展開例

注2) TELESARシリーズ
本研究グループは1980年に提唱したテレイグジスタンスの概念に基づき、実証のためのロボット「TELESAR」シリーズを開発してきました。テレイグジスタンスの基本概念は1989年に開発されたTELESAR Iで実証され、操縦者が遠隔地にロボットを介して入り込む感覚を与えることを示しました。2005年に開発されたTELESAR Ⅱでは、あたかも自分が遠隔地にいるかのように感じることができるだけでなく、遠隔地にいる人々がロボットではなく操縦者と実際にコミュニケーションをしているように感じることができる“相互テレイグジスタンス”の可能性を示しました。TELESAR Ⅲでは操縦者への自然で違和感のない視覚を提示し臨場感を向上させるために腰部の自由度が有効であることを示しました。2010年に開発されたTELESAR Ⅳでは、自由に歩き回りコミュニケーションを行うことを達成しました。今回のTELESAR Ⅴは、TELESARシリーズの最新作であり、触覚情報を伴う身体性の高いテレイグジスタンスの実現を目指して研究開発が進められています。
図8

図8 これまでのTELESARシリーズロボット

注3) 触原色原理
色が「赤・青・緑」の三原色の組み合わせで表現できるのと同様に、あらゆる皮膚感覚を「圧覚・低周波振動覚・高周波振動覚・皮膚伸び覚・冷覚・温覚・痛覚」といった7種類の感覚要素を運動と同期して組み合せることで表現可能であるとする考え方で、本研究グループによって命名されました。人の皮膚感覚においては、皮膚直下に存在している数種類の触覚受容器(触覚を検知する細胞)が神経信号を発信し、脳がこれを合成することで触覚が得られることが知られています。特に圧覚・振動覚はMeissner小体、Merkel細胞、Pacini小体、Ruffini終末といわれる4種類の触覚受容器が存在し、それぞれ異なる刺激によって活動することが知られています。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

舘 ワ(タチ ススム)
慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 特任教授
〒 223-8526 神奈川県横浜市港北区日吉4−1−1 慶應義塾 協生館
Tel:045-564-2499
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

木村 文治(キムラ フミハル)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2063
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