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平成24年5月23日

大阪府立大学
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科学技術振興機構(JST)
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全固体型ナトリウム蓄電池の室温作動に世界で初めて成功
〜安全性の高い次世代蓄電池の研究開発における大きな一歩〜

公立大学法人 大阪府立大学の林 晃敏 助教・辰巳砂 昌弘 教授らの研究グループは、ナトリウムイオン伝導性を示す無機固体電解質注1)を新たに開発し、それを用いた全固体ナトリウム蓄電池の室温作動に世界で初めて成功しました。ナトリウム蓄電池は、次世代蓄電池として非常に期待されており、今回の成果は、世界中で活発化している次世代蓄電池の研究開発で大きな一歩となるものです。

現在、低炭素社会の実現に向けて、電気自動車をはじめとするエコカーの駆動電源や、太陽光や風力発電によって生み出された再生可能エネルギーを貯蔵するための定置用電源として、高性能な蓄電池の開発が急務となっています。特に、ナトリウムイオンを用いて電力を繰り返し貯蔵・放出可能なナトリウム蓄電池は、豊富なナトリウム資源を背景に低コスト化が期待でき、ポスト・リチウムイオン電池として近年研究が進められています。さらに、従来リチウムイオン電池に用いられてきた有機電解液を、無機固体電解質に置き換えた全固体電池注2)は、電解質が不燃性の固体となるため、電池の安全性が向上するだけでなく、高エネルギー密度と長寿命を兼ね備えた次世代の革新型蓄電池として期待されています。全固体ナトリウム蓄電池を実現するための鍵となる材料として、室温でナトリウムイオンが高速移動できる固体電解質が挙げられ、開発が望まれていました。

本研究グループは、ガラスを結晶化させる手法によって、これまでに報告例のない立方晶Na3PS4相が析出した固体電解質を見出し、これが10-4Scm-1以上の高い室温導電率と約5Vの広い電位窓注3)を持つことを明らかにし、様々な電極材料との組み合わせが期待できます。さらに、この電解質微粒子を室温で圧粉成形し作製した全固体ナトリウム電池は、室温で繰り返し充電・放電できることを初めて実証しました。

本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の一環として行われ、2012年5月22日(英国時間)発行の英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」のオンライン速報版で公開されます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

事業名 「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)」
開発課題名 「全固体ナトリウム−硫黄系高容量電池の開発」
研究開発代表者 林 晃敏(大阪府立 大学大学院 助教)
研究開発期間 平成22〜27年度(予定)

JSTはこのプログラムで、温室効果ガスの排出量削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発を実施しています。

研究の背景と経緯

小型ポータブルデバイスの電源として広く普及しているリチウムイオン電池は、軽量かつ高エネルギー密度という特長を持っています。近年この電池は、プラグインハイブリッド自動車や電気自動車の駆動電源や家庭用蓄電池としての用途が拡大しつつあり、電池の大型化が進められています。それに伴い、電池にはより一層の安全性と低コスト化が求められており、リチウムイオン電池にかわる、全固体ナトリウム蓄電池の開発が期待されています。

ナトリウムはリチウムに比べて資源量が多く、産地偏在の懸念がありません。大型蓄電池としての普及に対してはナトリウム蓄電池が有利であると考えられます。

また、ナトリウムイオンを伝導種とする蓄電池としては、唯一、ナトリウム−硫黄電池注4)が大型電力貯蔵用の蓄電池として既に実用化されています。この電池は、β−アルミナ固体電解質注5)のイオン伝導性を高めるとともに、正極(硫黄)および負極(ナトリウム)を溶融状態で使用するため、250℃以上に加熱して運転する必要があります。一方、無機固体材料を電解質に用いた全固体電池は、有機電解液を用いる従来の電池とは異なり、液漏れや発火などの危険性のない究極の電池形態として知られています。全固体電池には、電極および電解質の薄膜を積層して得られる薄膜型全固体電池と、微粒子を積層して得られるバルク型全固体電池の2つに大別されますが(図1)、後者のバルク型電池においては、固体内のイオンの移動が電解液に比べて困難なことや電極−電解質間における固体界面接合の困難さから実用化された例はまだありません。

このように、室温で作動する全固体ナトリウム蓄電池が開発できれば、ヒーターなどの電池加熱用の補機が不要となり、電池トータルとしてのエネルギー効率が向上するとともに、電池の安全機構が簡略化することから電池の小型化、軽量化が可能となり、高安全性と高エネルギー密度を両立した革新型蓄電池として期待できます。

研究の成果と内容

全固体ナトリウム蓄電池を実現するためには様々な課題がありますが、キーマテリアルである高いナトリウムイオン伝導性を示す固体電解質材料の開発が優先課題として挙げられます。本研究では、超イオン伝導性硫化物材料である立方晶Na3PS4を発見し、室温(25℃)で2×10-4Scm-1の高いナトリウムイオン伝導度を示す固体電解質を開発しました。

X線回折測定の結果、この結晶相はNa3PS4組成のガラスを270 ℃で加熱結晶化することによって析出することがわかりました(図2)。より高温の420℃で結晶化させると常温安定相である正方晶Na3PS4が得られることから、立方晶Na3PS4は高温相であると結論しました。よってこの材料は固体電解質として高いイオン伝導性の発現が期待できます。そこで粉末状のガラスを圧粉することによって得られる成形体(ペレット)に対して、交流インピーダンス法を用いてイオン伝導度の評価を行いました。立方晶Na3PS4の析出によってガラスのイオン伝導度は1桁以上増大し、得られたガラスセラミックス(結晶化ガラス、図3の●)はこれまでに報告されている硫化物系固体電解質と比較して高い導電率を示すことがわかりました。本研究で開発したガラスセラミックスと比較して、より高い導電率を示す材料も存在しますが(例えばβ−アルミナ)、これらはいずれも1000℃以上の高温で焼成することによって得られた焼結体の測定値であり、焼結を施さないβ−アルミナのペレットは粒子間の抵抗が大きいために、本研究で開発した硫化物電解質ペレットと比べて抵抗が数桁大きいことが明らかになりました(図4)。よって、粉末の積層によって作製されるバルク型全固体ナトリウム蓄電池に応用する上で、硫化物電解質が実用材料であるβ−アルミナ電解質に比べて有利であると考えられます。またこの硫化物電解質は約5Vの広い電位窓を持つことがわかりました(図5)。

そこで実際に立方晶Na3PS4が析出したガラスセラミックスを用いてバルク型全固体ナトリウム蓄電池を試作しました。負極にNa-Sn合金、固体電解質にガラスセラミックス、正極にTiS2結晶を用いて、これら3層を積層して室温でプレス成形し作製した全固体電池が、室温で充放電が可能であり、10回の繰り返し測定を行った後においても、TiS2活物質重量あたり約90mAhg-1の可逆容量を保持することを明らかにしました(図6)。

今後の展開

試作した全固体ナトリウム電池が室温で充放電可能であったことから、本研究で見出した立方晶Na3PS4が有望な固体電解質となりうることが明らかになりました。全固体電池の高性能化には、固体電解質のより一層の導電率増大と電極−電解質間の良好な固体界面構築が重要となります。これらの課題を解決し、全固体ナトリウム−硫黄電池の室温作動が可能となれば、安全性と高エネルギー密度を兼ね備えた次世代電池としての普及が期待されます。

付記

本研究は、大阪府立大学 大学院工学研究科 博士前期課程2年の野井 浩祐、同 博士研究員の作田 敦らと共同で行われました。

<参考図>

図1

図1 薄膜型全固体電池とバルク型全固体電池の模式図

一般的には、バルク型全固体電池は、微粒子を圧粉成形することによって作製される。

図2

図2 本研究で作製した固体電解質のX線回折パターン

Na3PS4ガラス(a)を270℃で結晶化することによって立方晶Na3PS4が得られたことがわかる(b)。より高温の420℃で結晶化した試料は常温安定相である正方晶のパターンを示す(c)。

図3

図3

これまでに報告されているナトリウムイオン伝導性無機固体電解質のイオン伝導度と、今回発見した立方晶Na3PS4が析出したガラスセラミックス(結晶化ガラス、●)およびガラス(○)のイオン伝導度の比較。ガラスの結晶化によって、導電率が増大したことがわかる。得られたガラスセラミックスは、これまでに報告されている硫化物系固体電解質と比較して高い導電率を示す。一方、β−アルミナなど、より高い導電率を示す材料も存在するが、これらはいずれも高温焼成によって作製された焼結体の測定値である。

図4

図4 β−アルミナと本研究で開発した硫化物ガラス系電解質の抵抗(|Z|)の周波数分散の比較

括弧内の数値は測定温度を示している。β−アルミナの粉末を圧粉成形することによって得られたペレットは粒子間の抵抗が大きいために、硫化物電解質ペレットと比べて抵抗が数桁大きいことがわかる。吹き出しには、ペレット断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示しており、β−アルミナでは粒子間の界面が明瞭に観察されるのに対して、Na3PS4ガラスセラミックスでは比較的緻密な組織が観察されている。

図5

図5 立方晶Na3PS4が析出したガラスセラミックスのサイクリックボルタモグラム

作用極にステンレス鋼、対極には金属ナトリウムを用いた。0V付近にナトリウムの析出・溶解に対応する還元・酸化電流が観測され、+5Vまで酸化側へ電位を掃引しても電解質の分解などに伴う酸化電流は観測されないことから、約5Vの電位窓を持つことがわかる。

図6

図6

負極にNa-Sn合金、固体電解質に立方晶Na3PS4が析出したガラスセラミックス、正極にTiS2結晶を用いて作製した全固体電池の充放電曲線。作製した全固体電池が、室温(25℃)で蓄電池として作動し、10回の繰り返し測定を行った後においても、TiS2活物質重量あたり約90mAhg-1の可逆容量を保持することがわかる。

<用語解説>

注1) 固体電解質
固体状態の電解質。例えば実用化されているリチウムイオン電池では可燃性の有機電解液が用いられているが、これを無機固体電解質に置き換えることによって、液漏れや発火などの心配のない安全性の高い電池の実現が期待されている。
注2) 全固体電池
負極、電解質、正極の全てに固体材料を用いた電池。安全性が高く長寿命で、様々な電池形態を取り得るという点で究極の電池としてその開発が期待されている。
注3) 電位窓
電解質が安定に存在しうる電位範囲のこと。電位窓が広い固体電解質では、より高電位を示す正極や、より低電位の負極との組み合わせが可能となる。
注4) ナトリウム−硫黄電池
負極にナトリウム、電解質にβ−アルミナ、正極に硫黄を用いた電池で、760Whkg-1の大きなエネルギー密度を持つのが特長。250℃以上の高温で作動させるため、作動時には電極は液体状態となるため、電池の内部抵抗が低く保たれている。定置用の大規模電力貯蔵用蓄電池として主に用いられている。
注5) β−アルミナ固体電解質
代表的なナトリウムイオン伝導性の固体電解質。通常はNa2O・11Al2O3組成を持ち、固体中をナトリウムイオンが高速で伝導できる結晶構造を有する。

掲載論文

題目:Superionic glass-ceramic electrolytes for room-temperature rechargeable sodium batteries
雑誌:Nature Communications
doi : 10.1038/ncomms1843

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻応用化学分野
助教 林 晃敏(はやし あきとし)
〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1
Tel:072-254-9334 Fax:072-254-9334
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部
低炭素研究担当 生嶋 達史(いくしま たつし)、古賀 明嗣(こが あきつぐ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7番地 K’s五番町
Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533
E-mail:

<報道担当>

大阪府立大学
広報渉外部 広報課 広報グループ 西原 舞(にしはら まい)
〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1
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