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平成24年5月16日

大阪大学
科学技術振興機構(JST)

溶媒組成変化によって制御できる材料集積システムの開発
—媒体濃度に応じて接着相手を変えるゲル—

大阪大学 大学院理学研究科の原田 明 教授らは、蛍光物質ピレンを結合したゲストゲル(Pyゲル)と大きさの異なる環状オリゴ糖を結合したホストゲル(CDゲル)を用いた材料集積について、水と有機溶媒の混合物中で調べた結果、混合物の濃度によって、Pyゲルが接着する相手となるCDゲルが異なることを発見しました(ゲルとは溶剤を含んだ網目状高分子を表します。材料集積とは、ここではゲルが集合することを意味します)。

分子認識に基づいて、ミリメートルからセンチメートルに達するマクロスケールの材料集積の選択性を、媒体濃度によって変えることができるということを明らかにした世界で初めての例です。

本研究成果は2012年5月15日(英国時間)に「Nature Communications」(英国科学雑誌)のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」
(研究総括:入江 正浩 立教大学 理学部 教授)
研究課題名 「自己組織化超分子ポリマーの動的機能化」
研究代表者 原田 明(大阪大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間 平成20年10月〜平成26年3月

JSTはこの領域で、自己組織化に代表される従来のボトムアッププロセスに、分子レベルでの精緻な機能を利用して自己構造化や自己修復などの新たな手法を取り込んで一段の高度化を図ることによって新規高機能ナノ構造体の創出を目指しています。

上記研究課題では、ホスト分子としてシクロデキストリンや光応答タンパク質、抗体分子を、ゲスト分子として光や酸化還元応答性を有する分子を用いて、そのホスト−ゲスト相互作用を利用してさまざまな自己組織化超分子ポリマー構造体を作り、マクロスケール(リアルワールド)での機能発現を目的に研究を展開しています。

<研究の背景と経緯>

ミクロスケールでの分子の特異的な相互作用(分子認識)を利用して、ミリメートルやセンチメートルの大きさの材料を集積させることは、修復性材料などの機能性材料開発のために有望であり、近年、活発に研究が行われています。その1つとして光などの外部刺激に応じて集積形態が変化する高機能材料の開発があります。

最近、当研究グループでは、環状オリゴ糖であるシクロデキストリンを結合したホストゲルとシクロデキストリンと特異的に相互作用するさまざまなゲスト分子を結合させたゲストゲルを用いて、ミクロスケールの特異的相互作用に基づいたマクロスケールでの材料集積システムを開発しました(文献(1)−(3))。ごく最近、光によって形を変える分子を用いることによって、光刺激によって材料集積を制御することにも成功しました(文献(4))。光エネルギーをさらに効率的に利用する観点から、天然の光合成システムの光エネルギー変換のように、蛍光物質を用いて材料を集積し、その集積形態を制御することが重要な課題でした。

(1)Harada, A.; Kobayashi, R.; Takashima, Y.; Hashidzume, A.; Yamaguchi, H. Nat. Chem . 2011, 3 (1), 34-37.
(2)Yamaguchi, H.; Kobayashi, R.; Takashima, Y.; Hashidzume, A.; Harada, A. Macromolecules 2011, 44 (8), 2395-2399.
(3)Zheng, Y.; Hashidzume, A.; Takashima, Y.; Yamaguchi, H.; Harada, A. Langmuir 2011, 27 (22), 13790-13795.
(4)Yamaguchi, H.; Kobayashi, Y.; Kobayashi, R.; Takashima, Y.; Hashidzume, A.; Harada, A. Nat. Commun . 2012, 3, 603.

<研究の内容>

本研究では、よく研究されている蛍光物質であるピレン(Py)を選択し、ピレンを結合したゲストゲル(Pyゲル)、そして大きさの異なる3つのシクロデキストリン(6個のグルコースが連結されたα−シクロデキストリン(αCD)、7個のβ−シクロデキストリン(βCD)、8個のγ−シクロデキストリン(γCD))をそれぞれ結合したホストゲル(αCDゲル、βCDゲル、γCDゲル)を作製しました(図1)。

有機溶剤の1つであるジメチルスルホキシド(DMSO)と水との混合物中でPyゲルとCDゲルを振とうさせることにより、PyゲルとCDゲルとの相互作用を調べました(図2)。ここでは、DMSOと水との混合物中のDMSO濃度をDMSOの体積分率(xDMSO=(DMSOの体積)/{(DMSOの体積)+(水の体積)})で表します。水中(xDMSO=0)において、PyゲルはγCDゲルとのみ接着し、集積体を形成しました(図2a)。DMSOがわずかに含まれるxDMSO=0.2のDMSOと水との混合物中では、PyゲルはβCDゲルとγCDゲルの両方と接着し、より大きな集積体を形成します(図2b)。DMSOと水が同じだけ含まれるxDMSO=0.5のDMSOと水との混合物中では、PyゲルはβCDゲルと接着しますが、 γCDとは接着しません(図2c)。DMSO中(xDMSO=1)では、PyゲルといずれのCDゲルも相互作用しませんでした。さらに、Pyゲルは、DMSOの濃度に関わらずαCDゲルとは接着しませんでした。これは、αCDが小さすぎるため、Pyと相互作用できないからであると考えられます。これらの結果から、混合物中のDMSO濃度を調節することにより、Pyゲルが接着するホストゲルを変換できることが示されました。

溶媒濃度の変化によってPyゲルの接着するホストゲルを変換できる理由を調べるために、少量のPyを結合したポリアクリルアミドをモデルポリマーとして用い、蛍光測定を行いました。Pyは水に溶けにくいために、水中では多くのPyは会合して二量体の蛍光を示します。DMSOと水との混合物中のDMSO濃度が増加するとともに、二量体の蛍光は減少し、会合していない一量体の蛍光が増加しました。(図2の挿入図は、紫外光を照射したときxDMSO=0でのPyゲル中の二量体の青緑色の蛍光と、xDMSO=0.5での一量体の青色の蛍光を示しています。また、xDMSO=0.2では青緑色と青色の発光が混ざっています。)また、βCDとγCDを添加しながら測定したモデルポリマーの蛍光測定から、Pyは一量体としてβCDと相互作用するのに対し、γCDとは二量体として相互作用することが確かめられました。

これらの結果から、DMSOと水との混合物中のDMSO濃度の変化によってPyゲルの接着するホストゲルを変換できることは以下のように説明されます(図3)。水中(xDMSO=0)では、Pyゲル中のPyは二量体を形成し、γCDゲル中のγCDと相互作用し集積体を形成します。しかし、Pyゲル中の会合していないPyは少なく、βCDゲルとは相互作用しません。DMSOをわずかに含むDMSOと水との混合物中(xDMSO=0.2)では、Pyゲル中、会合していないPyと二量体のPyが十分に存在するため、PyゲルはβCDゲルとγCDゲルの両方と相互作用して3種類全てのゲルを含むより大きな集積体を形成します。DMSOと水との混合物中のDMSO濃度がさらに増加すると (xDMSO=0.5)、Pyゲル中のPyはほとんど会合せず、PyゲルはβCDゲルとのみ相互作用し、集積体を形成します。

このように、PyゲルとCDゲルの集積体形成における選択性が、DMSOと水との混合物中のDMSO濃度を変えることによって変換できることが示されました。

<今後の展開>

今回の成果に基づいて、今後は、環境分析などの分野に利用できる蛍光の色の変化を利用した化学センサーの開発が期待できます。さらに、蛍光物質からの蛍光を受け取る物質をシステムに組み入れることで、光合成システムのような、分子認識を利用した光エネルギー変換集積材料の開発も期待されます。

<参考図>

図1

図1 シクロデキストリンを有するホストゲル(αCDゲル、βCDゲル、γCDゲル)と
蛍光物質であるピレンを有するゲストゲルの化学構造

図2

図2

水とジメチルスルホキシド(DMSO)の混合物中でPyゲルとCDゲルを振とうさせることにより、PyゲルとCDゲルとの相互作用を調べました。水/DMSO混合物の組成をDMSOの体積分率(xDMSO=(DMSOの体積)/{(DMSOの体積)+(水の体積)})で表します。

  • (a)水中(xDMSO=0)において、PyゲルはCDゲルとのみ接着し、集積体を形成しました。
  • (b)xDMSO=0.2の水/DMSO混合物中では、PyゲルはβCDゲルとγCDゲルの両方と接着し、より大きな集積体を形成します。
  • (c)xDMSO=0.5の水/DMSO混合物中では、PyゲルはβCDゲルと接着しますが、γ γCDとは接着しません。Pyゲルは、xDMSOに関わらずαCDゲルとは接着しません。挿入図は、紫外光を照射したときxDMSO=0でのPyゲル中の二量体の青緑色の蛍光と、xDMSO=0.5での一量体の青色の蛍光を示しています。また、xDMSO=0.2では青緑色と青色の発光が混ざっています。
図3

図3

  • (a)水中(xDMSO=0)では、Pyゲル中のPyは二量体を形成し、γCDゲル中のγCDと相互作用し集積体を形成します。
  • (b)xDMSO=0.2の水/DMSO混合物中では、Pyゲル中、会合していないPyと二量体のPyが十分に存在するため、PyゲルはβCDゲルとγCDゲルの両方と相互作用して3種類全てのゲルを含むより大きな集積体を形成します。
  • (c)xDMSO=0.5の水/DMSO混合物中では、Pyゲル中のPyはほとんど会合せず、PyゲルはβCDゲルとのみ相互作用し、集積体を形成します。

<論文情報>

“Switching of macroscopic molecular recognition selectivity using a mixed solvent system”
Yongtai Zheng, Akihito Hashidzume, Yoshinori Takashima, Hiroyasu Yamaguchi & Akira Harada (Graduate School of Science, Osaka University) Nature Communications 2012, in press.
doi: 10.1038/ncomms1841

「混合溶媒系を用いた巨視的分子認識の選択性の変換」
鄭 永太、橋爪 章仁、高島 義徳、山口 浩靖、原田 明(大阪大学 大学院理学研究科)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

原田 明(ハラダ アキラ)
大阪大学 大学院理学研究科 高分子科学専攻 教授
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1−1
Tel:06-6850-5445 Fax:06-6850-5445
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町ビル
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