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平成24年5月9日

北陸先端科学技術大学院大学
Tel:0761-51-1030(広報調整課)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)

高耐熱性を持つ世界最強度のバイオポリエステルを開発
—自動車の軽量化に道—

ポイント

JSTが実施する課題達成型基礎研究の一環として、北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科の金子 達雄 准教授は海老谷 幸喜 教授らとともに、植物細胞に含まれる桂皮酸類(ポリフェノールの一種)と天然鉱物であるハイドロタルサイト注1)を用いて、高耐熱性と世界最強の曲げ強度を持つバイオポリエステルを開発しました。

バイオプラスチック注2)は、光合成により固定した炭素を含む材料であり、二酸化炭素を長期間固定することが可能なため、低炭素社会構築に有効であるとされていますが、そのほとんどは柔軟なポリエステルであり力学強度の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状であり、工業製品に用いるためにはケナフ繊維を添加するなど特殊な加工が必要となっています。

今回、金子 准教授らは光合成微生物から高等植物まであらゆる植物細胞に含まれる堅い構造の天然分子である桂皮酸誘導体に注目し、それらを天然層状鉱物であるハイドロタルサイト触媒の存在下で重合することにより、明確な構造の液晶性高分岐高分子となることを初めて見いだしました。この高分子は土壌分解性高分子でもあり、かつガラス繊維が作る界面の効果により高度に配列する現象を見いだしました。

そこで、ガラス繊維をプラスチックの鋳型中に同一方向に並べそこに高分子固体粉末を入れ、ホットプレス法により固めるだけで、高度に配向したバイオ樹脂が生成され、力学強度が従来のケナフ強化型を超える145MPaのガラス繊維強化型の高強度バイオポリエステル樹脂を開発しました。また、305℃の高耐熱性と10GPaの弾性率を持つためにスーパーエンジニアリングプラスチック注3)としての使用が可能なレベルとなりました。今後、自動車エンジン周りなどの金属やプラスチックを代替する物質として設計する予定です。将来的には、大気のCO削減、自動車の軽量化、産業廃棄物削減などへと、さまざまな応用展開が期待できます。

本成果は独国科学誌「Advanced Functional Materials」(インパクトファクター8.49)のオンライン版で近く公開されます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

(1) 事業名 地域イノベーション創出総合支援事業 育成研究
  開発課題名 「芳香族アミノ酸類縁体を用いた高性能成型材料の開発」
  チームリーダー 金子 達雄(北陸先端科学技術大学院大学 准教授)
  研究開発期間 平成20〜22年度(終了課題)
(2) 事業名 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
  開発課題名 「微生物バイオマスを用いたスーパーエンジニアリングプラスチックの創出」
  チームリーダー 金子 達雄(北陸先端科学技術大学院大学 准教授)
  研究開発期間 平成22〜27年度(予定)

JSTは本事業において、温室効果ガスの排出削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発を実施しています。

<開発の背景と経緯>

植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオプラスチックは材料中に二酸化炭素を固定することにより、二酸化炭素濃度を削減し、低炭素社会構築に有効であるとされています。しかし、バイオプラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで力学強度の点で問題があるため、その用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。例えばポリ乳酸は代表的かつ最も高い強度を持つバイオポリエステルですが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、その力学強度は60MPa程度、ケナフ強化型で135MPaと報告されています。(参考:ポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレンなどの汎用プラは20−70MPa程度、工業用プラのポリカーボネートは100MPa)

研究チームは、ポリフェノールの一種である剛直な構造の桂皮酸に注目し、中でも大麦から得られるパラクマル酸とサツマイモから得られるカフェ酸などから高耐熱性のバイオポリエステルを開発してきました。しかし、その難点は力学強度の低さ(30MPa程度)であり、これが実用化における問題点となっていました。その理由は、アシドリシス重合注4)を行う際の副反応による構造の乱れによるものでした。

本プロジェクトでは、桂皮酸類を用いてスーパーエンジニアリングプラスチックを開発することを目的として進めていますが、天然鉱物であるハイドロタルサイト(模式図:図2)を触媒として上記のポリエステル合成を試みたところ、1)スムーズにアシドリシス重合が進むことを初めて発見し、これにより高配向性のバイオポリエステル樹脂を得ることができました。さらに、2)ガラス繊維の表面でこのポリエステルがうまく配向するというユニークな現象を見いだし、145MPaの力学強度、10GPaの弾性率、305℃の耐熱温度を持つスーパーエンジニアリングプラスチック並の性能を持つバイオポリエステル樹脂を得ることができました。現在、さらなる改良により高強度/高耐熱のバイオ樹脂を作る研究を進めています。

<作成方法>

パラクマル酸とカフェ酸を60対40のモル比で混合し、無水酢酸の存在下ハイドロタルサイトを0.4−0.8%(対モノマー重量)程度混合し150℃で2時間、200℃で4時間加熱攪拌します。そうすると粘性の高い物質となり、続いて自然冷却することで樹脂状の固体が得られます(反応式:図1)。それを粉砕し鋳型(50mm長x6.5mm幅x3.5mm厚)の中に入れ、同時に5mm程度のガラス繊維を鋳型の長軸に沿って共存させます。それを200℃で5MPaの圧力をかけて5分プレスし、そのまま冷却します。これにより棒状の配向樹脂を得ることができます。

<今回の成果>

今回の成果は大きく分けて2つ示すことができます。

1) 天然鉱物であるハイドロタルサイトがアシドリシス重合で触媒の役目を果たすことを発見

アシドリシス重合は、一般の液晶高分子樹脂にも使用されているように広く知られた重合方法ですが酢酸ナトリウムなどの弱アルカリ性の塩やマグネシウムなどの金属を使用することがほとんどです。これらの触媒は、表面が二酸化炭素などで覆われやすく本来の活性が失われやすいことが欠点です。ポリフェノールにこのような一般的な弱アルカリ性の触媒を適用すると、反応が遅く長時間を要するため、時間とともに架橋などの力学強度を低下させる副反応が発生してしまいます。逆に、より強いアルカリ塩を使用すると別の副反応である加水分解が発生してしまいます。そこで、表面が二酸化炭素で覆われた状態で弱アルカリ性を示す唯一の物質であるハイドロタルサイトを使用することで、この問題を克服しました。ハイドロタルサイトが、アシドリシス反応で触媒の役目を果たすことを示したのは今回が初めての発見です。結果として、副反応を極限まで抑えた状態でバイオポリエステルを合成することが可能となりました。

2)バイオポリエステルのガラス表面配向性を発見

明確な構造のバイオポリエステルを合成したために、その剛直性がうまく作用しガラス表面で液晶配向性を高度に示すことが分かりました(図3)。従来のポリエステルの場合には外力を与えて無理に配向させる必要があるために、ガラス繊維強化プラスチックを効果的に得ることが難しい状況でした。しかし、今回のポリエステルの場合には、その融解液をガラス繊維の上に乗せるだけで、繊維軸に沿って配向する現象が見られました(図4)。そこで、作成方法に示すように、ガラス繊維を入れて融解状態で圧縮するだけで配向性の良い高強度プラスチックとなることが分かりました。これにより140MPaの力学強度、10GPaの弾性率、305℃の耐熱温度を持つスーパーエンジニアリングプラスチック並の性能を持つバイオポリエステル樹脂を得ることができました(図5)。

<今後の展開>

本成果により、ハイドロタルサイトという天然鉱物の新しい利用法の開拓と、フェノール系ポリマーがより効率よく合成できる可能性が見いだされました。天然物の中には数多くのポリフェノールが存在しますが、これらのバイオプラスチック原料としての利用範囲が広がったと言えます。また、得られた高性能バイオポリエステル樹脂は、比重が1.3程度であり金属と比較して格段に小さいことから自動車などの輸送機器への応用が可能と考えられます。

<参考図>

図1

図1 パラクマル酸(4HCA)とカフェ酸(DHCA)を用いたバイオポリエステルの重合反応式

図2

図2 ハイドロタルサイト構造の概念図(表面に炭酸塩が存在)

図3

図3 バイオポリエステルの液晶模様

ハイドロタルサイト類を使用した場合(b、c、d)のポリエステルは明確なラインを示している。

図4

図4 ガラス繊維の偏光顕微鏡写真

左はガラス繊維そのものの写真:黒っぽいエッジが見えるのみであり配向は確認できない。真ん中と右の写真はガラス繊維にバイオポリエステル融解液を少量混合したもの。試料を左上から右下へ斜めにおいた場合に色調がオレンジに見える(真ん中)が、これを90度回転することによりブルー(右)に色調変化した。これは配向試料の特徴である。

図5

図5a ガラス繊維の量に対するバイオポリエステル樹脂の力学強度の変化

ガラスの量が増えると最大140MPaまで上昇することを確認。挿入図は樹脂の構造の模式図。

図5b 30%ガラス繊維混合樹脂の剛性率の温度依存性

Tanδがピークを示す305℃が軟化温度。室温で7GPaの剛性率(10MPaの弾性率)を示す。

<用語説明>

注1) ハイドロタルサイト
天然に産出する粘土鉱物の一種である。構造式はMgAl(OH)16CO・4HOで、タルクやスメクタイトと同じように層状の結晶構造を有していて、一つ一つの結晶片は葉片状あるいは鱗状を呈している。層状構造を持ち、層間にアニオンを取り込む性質を持つ。制酸剤や有機合成における触媒として利用される。
注2) バイオプラスチック
植物や動物など生物に由来する再生可能な有機性資源(バイオマス)を原材料とするプラスチック。生体分子であれば石油由来でも、安全性、生分解性の意味で同等であるために広義のバイオプラスチックとされており、実際に流通している。これと区別する意味でバイオマスプラスチックという名称もあり、バイオ燃料とは異なりカーボンを材料中に長期にストックすることが可能である。
注3) エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
特に強度に優れ、耐熱性のような特定の機能を強化してあるプラスチックの一群を指す分類上の名称である。特に耐熱温度は150℃以上であるものをスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼ぶことが多い。
注4) アシドリシス重合
脱離しやすい酸Aとアルコールからなるエステル体と別の酸Bを作用させたとき、酸Bが酸Aと入れ替わることにより新たなエステル体が生成する反応がアシドリシス反応である。この反応を連続的に使用し、高分子を得る方法をアシドリシス重合という。工業用プラスチックの一種である液晶ポリマー樹脂を作る際に良く用いられる。

<論文名>

“Hydrotalcites catalyze the acidolysis polymerization of phenolic acid to create highly heat-resistant bioplastics”
(ハイドロタルサイトはフェノール酸のアシドリシス重合を触媒し高耐熱性のバイオプラスチックを与える)
doi: 10.1002/adfm.201200427

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科
准教授 金子 達雄(カネコ タツオ)
〒923-1292 石川県能美市旭台1−1
Tel:0761-51-1631 Fax:0761-51-1635
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部 低炭素研究担当
保坂 真一(ホサカ シンイチ)、古賀 明嗣(コガ アキツグ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7番地 K’s五番町
Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533
E-mail:

<報道発表についてのお問い合わせ先>

北陸先端科学技術大学院大学 広報調整課
松島 健一(マツシマ ケンイチ)
〒923-1292 石川県能美市旭台1−1
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科学技術振興機構 広報課
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