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平成24年2月20日

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固体記憶媒体SSDメモリーに関する3つの革新的新技術を開発、家電の超小型化へ
−寿命10倍化、世界最高速(毎秒7ギガビット)、0.52W給電−

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の竹内 健 准教授、慶應義塾大学 理工学部の黒田 忠広 教授と石黒 仁揮(イシクロ ヒロキ) 准教授らの研究チームは、非接触型の固体記憶媒体ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)メモリー注1)の研究開発において、キー技術である1)高信頼メモリーシステム、2)ワイヤレス通信システム、3)ワイヤレス給電システムの最先端研究を進めてきました。

同チームは、今回、1)フラッシュメモリー注2)の寿命を最大10倍(実験値)に延ばすことができる誤り訂正回路、2)メモリーモジュールを回路基板に載せるだけでプロセッサーと双方向通信できる世界最高速(1ピン当たり毎秒7ギガビット)の非接触メモリーシステム、3)最大0.52Wの電力を数マイクロ秒の応答速度(従来比2桁高速化)で伝送できる非接触給電システムの3つの革新的新技術を開発しました。これらの研究成果である技術を統合することにより、128ギガビット以上の大容量ワイヤレスSSDメモリー製作が可能となるため、データーセンターでは従来のハードディスクからSSDメモリーへの置き換えにより処理速度の10倍高速化、消費電力半減化が可能になるほか、世界市場1兆円規模のメモリーモジュールビジネスに大きな経済効果をもたらす可能性があります。同技術はまた、将来、小型バッテリーフリーの大容量メモリーカード注3)を実現する際にも鍵となる革新技術としても期待されます。

本研究成果は、2012年2月19日から23日(米国西部時間)に米国・サンフランシスコで開催される「国際固体素子回路会議(ISSCC 2012)」で発表されます。本国際会議は固体素子回路分野では世界的研究のオリンピックと称される権威あるもので、竹内チームが論文3件同時に採択されたことは快挙といえます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
(研究総括:浅井 彰二郎 株式会社リガク 取締役副社長)
研究課題名 「ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」
研究代表者 竹内 健(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を推進しています。上記研究課題では、1mmの通信距離で毎秒10ギガビットの超高速無線通信・給電機能を持ち、かつ信頼性・安全性の高いワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目指し研究を進めています。

<研究の背景と経緯>

今日、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器にはフラッシュメモリーを記憶媒体としたSSDが使われています。東京大学と慶應義塾大学の研究チームはこれまで、テラバイト(1兆バイト)容量のNANDフラッシュメモリーを搭載し、高信頼で非接触な毎秒10ギガビットの超高速無線通信・給電機能を持ったワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムの実現を目的に研究開発を進めてきました。

SSDには図1に示すような実用上の課題があります。また記憶媒体としてのSSDの大容量化は研究開発上の大きな目的ですが、これを果たすためにメモリーセルの実装密度を高めようとすると、後述するような隣接するセル間での干渉が生じ誤動作を起こすというジレンマがあります。さらに現在の微小電力給電で利用可能なスマートフォンも多様なアプリやコンテンツ利用に対応するために大容量メモリーカードが実装されるため、高効率・高速でしかも非接触の給電が絶対条件となります。

こうした課題を解決するため、研究チームは図1に示す3つの研究テーマを設定し、これまでにも、エラーを飛躍的に削減し、電力を半減以下にするデーター変調技術と、伝送線路結合を用いた世界最速の非接触インタフェースを世界で初めて開発するなどしてきました。

<研究の内容>

研究チームが開発する高信頼メモリーシステムでは、フラッシュメモリーを30nm(ナノは10億分の1m)以下に微細化することを目的としています。しかし微細化を行うと、隣接するメモリーセルとの間で電気的な干渉が生じ(図2)、メモリーセルのしきい値電圧が変動してエラーを起こします。このエラーは従来技術では解決できなかったため、メモリーの大規模化は大変困難でした。研究チームはこの課題を解決するために、干渉の補正によるエラーの低減と高速な読み出しを両立し、メモリーの大規模化を実現する世界で初めてのエラー予測LDPC(低密度パリティ検査符号)という新技術を開発しました。具体的には、あるメモリーセルについて情報を読み出しする際に、周囲に隣接するメモリーセルのデーターパターン、書き換え回数、データー保持時間などの情報から予め作成する不良率のデーターベースを参照して読み出しのエラー確率を算出し、エラーを訂正します(図2)。その結果、メモリーの寿命を最大10倍(実験値)にまで延ばすことが実証されました。以上の成果により、フラッシュメモリーは20nm以下で微細化できるようになるため、128ギガビット以上の大容量化が実現可能となります。

メモリーモジュールは、複数のDRAMを装備・配線して接続端子を設けた基板で、電子機器の主要部品です。このメモリーモジュールのデーター転送速度が電子機器の性能を決めるため、その高速化が必要で、2015年頃には最大毎秒4.3ギガビット(DDR4規格)が必要性能になると予測されます。しかし転送速度を毎秒5ギガビット以上にすると、信号がバスで分岐し、ソケットを通過するたびに反射や歪みが生じるなど、信号の信頼性を損なうという深刻な問題がありました。そこで本研究チームは、入出力信号を区別して反射やひずみを抑制する方向性結合器を用いて信号を分岐する新技術を開発しました。本技術では、結合器の結合度を調整することで、各メモリーモジュールに伝送する信号エネルギーを等しくし、信号波形を整えています(図3)。その結果、ビット誤りの少ない高信頼のデーター転送を可能にし、かつ1ピン当たり毎秒7ギガビットという世界最高速の通信に世界で初めて成功しました。

現状のスマートフォンなどでは微少電力給電(数十ミリワットレベル)に限られ、高速給電も不要でしたが、将来の大容量メモリーカードではワットレベルの高効率、高速のワイヤレス給電技術が必要となります。しかし、電力輻射注4)によるエネルギー損失があるため高効率給電は困難でした。そこで電力輻射を抑制し、高効率を維持しながら、高速の消費電力変動に対応して高速に送信電力を制御するスイッチング変調の新技術を開発しました。本技術では、受電側の電圧を一定に保つために、カードの動作状態(読み出し/書き込み)に応じて高速に大きく変動するカード側消費電力に追従して、送信電力側でスイッチング周波数を共振周波数およびその分数調波の間で変調しています(図4)。その結果、カード側の消費電力が数マイクロ秒以内に1桁変動した場合においても、受電側の最大電圧降下は2%程度に抑えることができます(従来比2桁以上の高速化)。

<今後の展開>

SSDは、2009年にも実装面積が1.8インチHDDのわずか1/15の18mm×14mmという半導体パッケージ1個分の寸法で、128ギガバイトの容量が実現し、全く新しい機器を生み出す可能性を秘めています。2015年には、テラバイト容量のワイヤレスSSDを持ち歩くことで、テレビ・携帯電話・車などが“My PC”として自宅のパソコン同様に使える社会が実現します。また壁やテーブルなど生活の至るところに埋め込まれたスクリーンに指先で触れることで操作できる新しいコンピューターが出現します。このような新しいコンピューターは、スクリーンにワイヤレスSSDを置くことで、“My PC”として利用することが可能になります。

身の回りのあらゆる物がコンピューター化する社会においては、端末が通信網を介して常時データーセンターにアクセスするネットワーク志向の情報システムとなり、データーセンターが膨大な量のデーターを処理することになります(情報爆発)。その結果、データーセンターでの消費電力が爆発的に増大し、温暖化など地球環境に著しい悪影響を及ぼします。このデーターセンターのストレージをハードディスクからSSDに置き換えることにより、消費電力の半減化が実現できます。

一方、本研究で開発する、データーのみならずOS・アプリケーションソフトウエアを搭載したワイヤレスSSDと近年進歩が著しい小さな電力で電子回路を動かそうという「エネルギー・ハーベスティング」の発電技術(環境発電技術)により、“地産地消”の地球環境に優しい自律分散型の情報システムを構築することができます。人間が持ち歩くワイヤレスSSD端末で発電(地産)と情報処理を行う(地消)ことで、データーセンターやネットワークに過度な負荷を掛けることなく情報処理が可能になり、低電力志向の環境に優しいITシステムを構築することができます。

<参考図>

図1

図1 東京大学と慶應義塾大学の研究経緯と研究プログラム

図2

図2 東京大学によるフラッシュメモリーの長寿命化、高速化技術(論文(1))

フラッシュメモリーの微細化(20nm以下)に伴い、メモリーセル間で干渉(容量結合)が生じるため、しきい値電圧が変動するエラー(信号誤り)が生じます(図2−1)。この信号誤りを防ぐため、従来からLDPC(低密度パリティ検査符号)法(図2−2)が用いられていましたが、この方法では1つの信号の誤りチェックのために複数回(図2−2では7回)の信号読み出しを行うため読み出しに時間がかかるという問題がありました。本研究では、1回の読み出しで誤りのない信号予測ができるエラー予測LDPCを開発しました。方法としては、周囲のメモリーセルのデーターパターン、書き換え回数、データー保持時間などの情報から、予め作成した不良率を示すテーブル(データーベース)を参照してエラー確率を算出し、エラーを訂正します。その結果、世界で初めて、10倍の寿命の増加と、高速な読み出しを両立しました。このエラー予測LDPC技術を実証したシステム構成が図2−3です。ホストとフラッシュメモリーの間にあるNANDコントローラ部分に新技術が組み込まれています。

図3

図3 慶應義塾大学による世界初の非接触DRAMモジュールと世界最高速度の通信波形(論文(2))

ワイヤレス通信システムの基本技術として、DRAMモジュールとCPUを無線接続する技術(図3−1)を開発しました。従来の技術では信号分岐点で信号が反射して高速通信できません。そこで、世界で初めて方向性結合器を用いて信号を分岐しました(図3−2)。DRAMモジュールとマザーボードに形成した伝送線路が互いに接近したときに方向性結合器を構成します。結合器の結合度とインピーダンス(交流電気抵抗)を精緻に調整することで、各モジュールに均質な信号を送ることができます(図3−3)(従来技術(左)では結合度・インピーダンス調整なし、新技術(右)では結合度・インピーダンス調整あり)。現在主流の規格DDR3に比べて、通信速度を3倍以上高速化することに成功しました。

図4

図4 慶應義塾大学による分数調波切り替えにより高速負荷追従を実現した昇圧無線 給電システム(論文(3))

ワイヤレス給電システムの基本技術として、高効率の非接触給電システム(図4−1)を開発しました。高速に大きく変動するカード側消費電力に追従して送信電力を高速に制御します(図4−2)。スイッチング周波数を共振周波数およびその分数調波の間で変調することで、高効率を維持しながら高速かつ不要輻射の少ない電力制御を可能としました(図4−3)。カード側の消費電力が数マイクロ秒以内に1桁変動した場合においても、受電側の最大電圧降下は2%程度に抑えられます(図4−4)。

補足図面

【補足図面】 非接触メモリーカードが切り開くアプリケーション

  • 左図:高信頼な非接触メモリーカード
  • 提案する非接触カードは高速なデーター通信だけでなく、防水機能を備え、接触不良や、動作中の誤った抜き差しなど利用者の誤使用、人体との接触による静電気破壊、使用に伴う劣化に高い信頼性・安全性も確保します。
  • 右図:非接触メモリーカードが切り開く新しいアプリケーション
  • メモリーカードを携帯電話やテレビ、車、パソコン、音楽機器、デジタルカメラ、ビデオカメラと接触することで、あらゆる機器が“My PC”として使えるようになります。

<用語解説>

注1) 固体記憶媒体ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)メモリー
SSDは記憶媒体としてフラッシュメモリーを用いるドライブ装置で、ハードディスクの代替として広く利用されています。機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強くなります。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデーターをSSDに保存する用途で現在幅広く使われています。
注2) フラッシュメモリー
データーの一括消去を特徴とする、電気的にデーターの読み書きが可能で、電源を切ってもデーターが消えない半導体記憶装置。
注3) メモリーカード
ここでいうメモリーカードとは、大容量のフラッシュメモリーを、ハードディスクドライブの代わりに記憶媒体として用いるSSDのこと。
注4) 電力輻射
データー伝送回路を含む機器内外の電子回路に発生する通信用の電波や高周波の電磁ノイズなどによって生じる電磁妨害のこと。

<論文名>

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹内 健(タケウチ ケン)
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1 工学部2号館12階122A3号室
Tel/Fax:03-5841-6672
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.lsi.t.u-tokyo.ac.jp

黒田 忠広(クロダ タダヒロ)
慶應義塾大学 理工学部 電子工学科 教授
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3−14−1
Tel/Fax:045-566-1534(ダイヤルイン)
E-mail:
研究室ホームページ:http://www.kuroda.elec.keio.ac.jp

<JSTの事業に関すること>

石井 哲也(イシイ テツヤ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
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