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平成24年1月10日

北海道大学
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科学技術振興機構(JST)
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氷の新しい融け方を発見:2種類の異なる表面液体相の生成
〜表面液体相が関わる幅広い現象の機構解明に期待〜

研究成果のポイント

氷の表面は融点(0℃)以下の温度でも融解し、表面液体相注1)が生成します。表面液体相は、スケートの滑りやすさから雷雲での電気の発生まで、幅広い現象の鍵を握ると考えられており、表面液体相の正体を分子レベルで解明することは大変重要です。これまでは、氷結晶の表面から1種類の液体相が一様に現れると考えられてきました。ところが、北海道大学 低温科学研究所の佐崎 元 准教授らが、オリンパス株式会社と共同で開発した原子・分子高さの段差を可視化できる光学顕微鏡を用いて観察したところ、氷結晶六角底面上では2種類の表面液体相が生成し、これらは互いに混じり合わずあたかも水面上に雨粒が乗った様な振る舞いを示す(図1)ことを発見しました。

これは、表面液体相についてのこれまでの描像を根底から覆す成果で、今後、表面液体相が重要な役割を果たす幅広い現象の機構解明に役立つと期待されます。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「光の利用と物質材料・生命機能」(研究総括:増原 宏 台湾国立交通大学 講座教授)研究領域における研究課題「不凍タンパク質作用発現機構の解明を目指したその場光観察」(研究代表者:佐崎 元)の一環として行われ、本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン速報版で2012年1月9日(米国東部時間)に公開される予定です。

<研究の背景>

氷は地球上で極めて大量に存在し、その相転移(成長や融解・昇華)は地球の寒冷圏で起こる様々な自然現象を支配します。氷結晶の表面は融点(0℃)以下の温度でも融解し、「表面液体相」が生成します。表面液体相は、スケートの滑りやすさや復氷、霜柱による凍上、氷結晶粒の再結晶化や粗大化、雪結晶の形の変化、食品や臓器の低温保存、雷雲での電気の発生など、幅広い現象の鍵を握ると考えられています。そのため、これらの現象の秘密を解き明かすためには、表面液体相の正体を分子レベルで解明する必要があります。

融点以下での氷の融解による表面液体相の生成は、電磁気学の祖であるマイケル・ファラデーによって1850年代に初めて提唱されましたが、これまで誰も直接可視化することが出来ませんでした。

<研究手法>

オリンパス株式会社と共同で開発したレーザー共焦点微分干渉顕微鏡注2)と呼ばれる光学顕微鏡を用いると、氷結晶表面の水1分子高さ(0.37nm)の段差(図1の黒三角)を直接可視化できます。この光学顕微鏡を用いて、水蒸気中で成長させた氷結晶(雪結晶)の表面を観察しました。

<研究の成果>

氷結晶の六角底面上で、あたかも水と油の様に互いに混じり合わない2種類の表面液体相が生成することを発見しました。−1.5℃より低い温度では氷結晶の表面は成長していきますが、−1.5〜−0.4℃よりも高い温度ではバルク状の液滴(α相:図1の白三角)が、そして−1.0〜−0.1℃よりも高い温度では薄い液状の層(β相:図1の赤三角)が生成します。これらの形状の違いは、2つの表面液体相の物理的・化学的性質が大きく異なることを示しています。2種類の表面液体相は、氷の結晶表面上を動き回り、合体を繰り返します。これまでは、表面液体相は1種類しか存在せず、氷の全表面から一様に生成すると考えられてきました。しかし、本研究により、2種類の表面液体相が存在し、それらは氷の表面上で極めて不均一かつダイナミックな振る舞いをすることがわかりました。

水と油は性質が全く異なる分子より出来ているため互いに混ざり合いません。しかし、同じ水分子から出来ている2種類の表面液体相が互いに混ざり合わず、あたかも水面上に雨粒が乗った様な振る舞いを示すことは(図1)、基礎科学の観点から極めて興味深い現象です。

<今後の展開>

本研究では、性質が異なる2種類の表面液体相が存在し、これらが氷の表面上で不均一かつダイナミックに振る舞うことを見出すことに成功しました。本研究により得られた表面液体相についての新たな描像は、スケートの滑りやすさから雷雲での電気の発生まで、表面液体相が重要な役割を果たす幅広い現象の秘密を解き明かす鍵を握ると期待されます。

<参考図>

図1

図1 氷結晶の六角底面上で生成する2種類の表面液体相。

図の左側は光学顕微鏡写真で、右側は模式図です。−1.5℃より低い温度では、3段目のように氷結晶の表面は成長していきます。しかし、それより少し温度の高い−1.5〜−0.4℃からは、2段目のようにバルク状の液滴(α相:白三角)が生成し始めます。さらに温度の高い−1.0〜−0.1℃からは、1段目のようにバルク状の液滴に加えて薄い液状の層(β相:赤三角)が生成し始めます。α相とβ相の発生温度は実験のたびに若干のずれを示しましたが、同じ実験中では常にβ相はα相よりも高温で発生しました。2種類の表面液体相は、ダイナミックに氷結晶表面上を動き回り、合体を繰り返しました。黒三角は氷結晶表面上の水1分子高さの分子層(単位ステップ)を示しています。

図2

図2 透明な固体表面上の原子・分子高さの段差を可視化できるレーザー共焦点微分干渉顕微鏡。

<用語解説>

注1) 表面液体相
融点以下の温度で氷結晶表面が融解して現れる液体相は、通常は「疑似液体層」と呼ばれます。しかし本研究では、単なる「層」ではなく、相転移(成長や融解・昇華)の結果生じる「相」であることを強調するため、「表面液体相」と呼んでいます。表面液体相は、氷以外でも、金属や半導体、有機物など幅広い材料の結晶表面で生成することが知られています。
注2) レーザー共焦点微分干渉顕微鏡
レーザー共焦点顕微鏡はノイズ光を大幅に除去し、観察像を鮮明にします。また、微分干渉顕微鏡は分子高さレベルの段差に明暗のコントラストを与えます。この両顕微法を組み合わせ、さらに様々な改良を加えたものが本研究で用いているレーザー共焦点微分干渉顕微鏡(図2)です。

<論文情報>

掲載誌:“Quasi-Liquid Layers on Ice Crystal Surfaces Are Made Up of Two Different Phases”
(氷結晶上の表面液体相は2つの異なる相からできている)

著者: 佐崎 元(北海道大学、科学技術振興機構)、Salvador Zepeda(北海道大学)、中坪 俊一(北海道大学)、横峰 誠(株式会社東陽テクニカ)、古川 義純(北海道大学)

doi10.1073/pnas.1116685109

<お問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

佐崎 元(サザキ ゲン)
北海道大学 低温科学研究所 准教授
Tel:011-706-6880 Fax:011-706-6880
E-mail:
ホームページ:http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/ptdice/

<JSTの事業に関すること>

原口 亮治(ハラグチ リョウジ)、木村 文治(キムラ フミハル)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部(さきがけ担当)
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<報道に関すること>

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