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平成23年12月19日

独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構

新たな高機能性材料メソポーラス・プルシアンブルーの合成に成功

〜表面積の増大によるセシウム吸着性能の向上〜

1.今回開発したプロセス

まず、サイズの均一なキューブ状のプルシアンブルーのナノ粒子(190nm)を調整した。その後、水溶液中に分散させ、水溶性ポリマーであるポリビニルピロリドンを適量溶解させる。その後、酸を適量溶液中に加え、エッチング処理を行う。ポリビニルピロリドン分子は、プルシアンブルーのナノ粒子の表面に選択的に吸着するため、ナノ粒子表面は酸性溶液に触れないのでエッチングされない。キューブ状のプルシアンブルー粒子中には、1nm以下の超微細細孔が存在しており、そこから粒子内部へと溶液が進入し、粒子中心部から自発的にエッチングが始まる。その後、水などで洗浄し生成物が得られる。(図1

2.得られたメソポーラス・プルシアンブルーの構造

エッチング前後で粒子サイズは、変化しなかった。電子顕微鏡観察では、エッチング後の生成物において、無数のナノ細孔が粒子中にあいていることが確認された。さらに、粒子中央部には大きな細孔が形成していた。ポリビニルピロリドン分子は、プルシアンブルーのナノ粒子の表面に選択的に吸着するため、ナノ粒子表面は酸性溶液に触れないのでエッチングされず、粒子内部からエッチングが始まるため、中空状になると考えられる。

表面積は、1gあたり330m以上の高い値を達成しており、今までに報告されているすべてのプルシアンブルーの中で最も大きい表面積を達成した(市販のプルシアンブルー粒子と比較すると10倍以上の表面積である)。

エッチング後において、電子線回折はプルシアンブルーの結晶に由来するスポットが確認でき、粒子一つは単結晶状態であった。このように、高い結晶性を維持しつつ、ナノ細孔をあけることに成功し、それに伴い表面積も大幅に向上した。(図2

3.セシウム(Cs)吸着実験

セシウム(Cs)吸着挙動を直接モニタリングするために、水晶発振子マイクロバランス(Quarts Crystal Microbalance)測定法を用いてCsの吸着実験を行った。QCM水晶センサーは、水晶振動子の電極表面に物質が付着するとその質量に応じて共振周波数が下がる。この性質を利用し極めて微量な質量変化を計測することができる。図3に示すように市販のバルクのプルシアンブルーと比較して、メソポーラス・プルシアンブルーは、その8倍以上のCsを瞬時に吸着することができた。この実験は、淡水中での実験であるが、プルシアンブルーは、海水のようにナトリウムイオンやカリウムイオンなど、類似のイオンが存在している環境でも、セシウムイオンを選択的に吸着する能力を持つことが知られており、淡水中の実験結果と同様の効果が、海水中でも期待できると考えられる。

4.従来研究との比較(研究の背景)

『メソ』とはミクロとマクロの中間を意味し、多孔体の分野においては、マクロ多孔体(多孔質ガラスなど)とミクロ多孔体(ゼオライトなど)との中間に位置する。従来の多孔質材料とは異なり、有機分子集合体を利用して合成されたメソポーラス物質は、メソ領域(2−50nm)に狭い細孔径分布を持つため、新材料として活発な研究が行われてきている。メソポーラス物質合成の基本コンセプトは、有機分子集合構造を鋳型として、無機種との無機有機メソ構造体の合成を行い、その後の鋳型除去によりメソ孔を生成するというものである。(図4

現在、メソポーラス材料に関する研究は、合成はもとより構造評価から触媒・吸着剤・光学材料をはじめ、様々な応用まで多岐にわたり展開されている。メソポーラス材料の合成面から着目すると、ミクロ・メソ・マクロレベルのそれぞれ異なったスケールを視野に入れ、発展してきたといえる。メソポーラス構造の精密制御や新たなメソ構造の創製はもとより、ミクロレベルでの細孔壁内の組成・構造の制御と多様化が活発に行われ、さらには、マクロレベルでのメソポーラス物質の形態制御が行われてきており、粒子のみならず薄膜・モノリス・ナノ粒子・ファイバーなどと多岐にわたり合成が報告されてきた。

現在のメソポーラス研究の最大の課題は、細孔壁の結晶性を上げることである。細孔は曲率の高い構造なので、それらの細孔を維持したまま、骨格の結晶性を上げるということは、非常に難しいものであった。結晶性を上げれば、細孔構造は壊れ、表面積は低下するという問題点があった。そのため界面活性剤の自己集合体を使用しない新しいプロセスの開発が重要であった。本プロセスは、エッチングを使用する新しい合成法であり、これらの課題を一挙に解決することができる。

5.今後の展開

プルシアンブルーは、金属置換によりセシウム吸着能力をさらに向上するため、現在、本手法のCo-FeやMn-Feプルシアンブルー類似体への適用を試みている。今後は、これらの材料の吸着材としての試験を進めると共に、量産化に対応できるようにプロセスを一層簡単にすることで、実用化にも近付くことが期待される。(図5

<参考図>

図1

図1 エッチングを利用した新しいナノポーラス材料の合成法

図2

図2 エッチング前後の形態・微細構造観察

図3

図3 QCMによるCsの吸着挙動のモニタリング

図4

図4 一般的なメソポーラス材料の合成法

図5

<用語解説>

注1) プルシアンブルー
1704年に初めて人工的に合成された青色顔料であり、紺青(こんじょう)とも呼ばれる。ジャングルジムのような結晶構造を内部に持ち、その空隙にセシウムを取り込むことが知られている。
注2) ゼオライト
ナノメートルオーダーの細孔が規則的に並んだ多孔性アルミノケイ酸塩の総称を指す。天然でも産出される。また、人工的にも、様々な構造・性質を持つものが合成されている。主な組成はSi(ケイ素)、Al(アルミニウム)、O(酸素)からなる。
注3) セシウム(Cs)
東京電力福島第一原子力発電所の放射性物質漏洩事故では、半減期の長いセシウム134(半減期約2年間)とセシウム137(半減期約30年間)が、長期間にわたり放射線を発しており、除染の対象元素となっている。

<本件に関するお問い合わせ先>

<研究内容に関すること>

山内 悠輔(ヤマウチ ユウスケ)
物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 独立研究者
〒305-0044 茨城県つくば市並木1−1
Tel:029-860-4635 Fax:029-860-4706
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

原口 亮治(ハラグチ リョウジ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部(研究推進担当)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2063
E-mail:

<報道対応>

物質・材料研究機構 企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1
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科学技術振興機構 広報ポータル部
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