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平成23年12月2日

富士ソフト株式会社

科学技術振興機構(JST)

耳の軟骨からの移植用再生軟骨を長期間保存することに世界で初めて成功
−鼻の再生治療の実用化に見通し−

富士ソフト株式会社(本社:神奈川県横浜市/代表取締役社長:坂下 智保)は、JSTの企業向け公募プログラム「独創的シーズ展開事業・委託開発」注1)の開発課題「先天性顔面疾患に用いるインプラント型再生軟骨」で実用化開発を行い、耳の軟骨から作製した鼻への移植用再生軟骨を、三次元構造のまま細胞生存性と無菌状態を長期間維持できる技術を世界で初めて開発しました。

再生医療の実用化には、遠隔地の病院へ搬送するなど、製造後しばらくの期間、再生軟骨をそのままの状態で保存することが必要であると考えられます。今回の成功により富士ソフトでは製品化のための治験準備を開始いたします。3年後の治験終了及び薬事申請を目指し、実用化に向けた申請手続きを推進していきます。

本開発は、平成19年10月にJSTに採択され東京大学からの技術移転を受けて富士ソフト株式会社が『インプラント型再生軟骨』の実用化開発を実施するものです。『インプラント型再生軟骨』は、患者自身の細胞を使って人工的に作る軟骨で、病気や怪我などで顔面(鼻など)や関節にある軟骨が損傷、欠損した患者の治療に使用します。これまでの再生医療では、培養した細胞を液状、あるいはゲル状にして関節軟骨などの欠損部に注入する方法が主に実施されてきましたが、鼻の高度な変形の治療に使えるような、立体的な形と硬さを併せ持った再生医療製品はありませんでした。しかし、東京大学 大学院医学系研究科 軟骨・骨再生医療寄付講座(富士ソフト)の研究成果により、世界で初めて立体的な形と硬さを併せ持った『インプラント型再生軟骨』が開発され、今年度6月より第1例目の臨床研究が開始されました(写真1)。平成23年9月8日、東京大学 臨床研究の第1例目の経過が順調であることが発表され、2例目、3例目も引き続き臨床研究が行われる予定です。

臨床研究では、東京大学医学部附属病院内の細胞プロセッシングセンター内で再生軟骨を作製後、速やかに患者への移植を実施しました。しかし、今後製品化を進めるにあたっては、遠隔地の病院へ搬送する場合も想定され、製品安全性の観点から製造後しばらくの期間、再生軟骨の細胞生存性及び無菌性を維持することが必要であると考えられます。現在の技術では平面培養において細胞生存性の維持は比較的容易ですが、立体組織の場合には組織内部の細胞生存性維持は非常に困難とされており、これが再生医療の実用化では大きな問題点となっていました。そのため富士ソフト株式会社では、立体組織のまま細胞生存性と無菌状態を維持することに取り組み、軟骨の栄養交換効率を上げることにより容器を密閉した状態で長期間安定させることが可能な方法を開発しました。

この富士ソフト株式会社が開発した方法で作製した再生軟骨については、すでに東京大学でマウスを使った動物実験を実施し、東京大学臨床研究における製造方法で作製した再生軟骨とほぼ同等の性能を有しており、移植後の軟骨形成も良好であるとの評価を受けています(写真2)。本成果を含め、富士ソフト株式会社では製品化のための治験準備を開始いたします。3年後の治験終了及び薬事申請を目指し、実用化に向けた申請手続きを推進していきます。

またIT企業本来の技術を活用し、自己細胞による製造プロセスをシステム化(東京大学における臨床研究に使用)することで、コンタミネーション(有害物の混入)の防止、さらにはプロセスの標準化、製品の均一性に優れた結果が得られます。製造記録のすべてがデータ化され、製造工程をシステム化することにより、製品品質の標準化を可能とし、安心して利用できる再生軟骨の製造に向け、開発を続けていきます(写真3)。

事業化については平成27年度を予定しており、富士ソフト株式会社錦糸町オフィスに開設した細胞プロセッシングセンターで製造を実施いたします。販売開始より5年間で40億円の売り上げを見込んでいます。

<参考図>

図1今回の研究成果の一例

図1 再生軟骨作製手順

  • <注釈>
  • 軟骨細胞単離:軟骨組織から軟骨細胞のみを取り出すこと
  • 細胞播種:細胞を増殖させるため、単離した軟骨細胞を培養用容器に入れること
  • 継代:細胞を植え継ぐこと
  • 細胞回収:増殖した軟骨細胞を培養容器から取り出すこと
  • 細胞投与:培養した細胞をアテロコラーゲンと混合し、混合液を足場素材へ投与すること
  • ゲル化:固める作業のこと(立体構造となる)
写真1 再生軟骨

写真1 再生軟骨

写真2 移植後TB染色像

写真2 移植後TB染色像

TB染色(トルイジンブルー染色):軟骨組織を赤紫色に染める染色方法

写真3 システム用クリーンベンチ(左)、ピペット(中)、RFIDタグ付シャーレ(右)

写真3 システム用クリーンベンチ(左)、ピペット(中)、RFIDタグ付シャーレ(右)

RFIDタグ付シャーレをシステム用クリーンベンチ内蔵型RFIDタグリーダで読み取ることにより、患者情報のトレースを行う。また、製造プロセスを管理するシステムによりピペットの動作を管理することで、コンタミネーションを防止し、均一な製品を製造することができる。

注1) 独創的シーズ展開事業・委託開発
独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP))」に発展的に再編しています。
詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

原井 基博(ハライ モトヒロ)
富士ソフト株式会社 再生医療研究部
〒130-0022 東京都墨田区江東橋2丁目19番7号
Tel:03-6844-0801 Fax:03-6844-0802

<JSTの事業に関すること>

平尾 孝憲(ヒラオ タカノリ)、剱持 由起夫(ケンモチ ユキオ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学連携展開部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-0017

<報道担当>

植村 登美子(ウエムラ トミコ)、西野 千秋(ニシノ チアキ)
富士ソフト株式会社 企画部 コーポレートコミュニケーション室
〒101-0022 東京都千代田区神田練塀町3番地
Tel:03-5209-5910 Fax:03-5209-6085

科学技術振興機構 広報ポータル部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel: 03-5214-8404 Fax: 03-5214-8432

(英文)The World’s First Successful Long-term Storage of Implant-type Regenerated Cartilage Derived from Ear Cartilage
- The Prospect of the Practical Application of Regenerative Therapy for the Nose -