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平成23年10月17日

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インコがリズムに合わせて運動できることを確認
(リズムをとる行動と発声模倣能力に関連があることを示唆)

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院総合文化研究科の岡ノ谷 一夫 教授と、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「岡ノ谷情動情報注1)プロジェクト」の関 義正 研究員らは、オウムの仲間の一種であるセキセイインコ(図1)がリズムに合わせてタッピング(机などを叩く)できることを世界で初めて確認しました。

ヒト以外の動物は(オウムの仲間やゾウなどを除き)、特定のリズミカルな運動は行いますが、与えられたリズムに応じて自在に動きを合わせることはできません。本研究は、オウムの仲間の一種であるセキセイインコの一群を用いて、外部から与えられる多様なテンポのリズムに対して同調したキーをつつく運動ができることを確認しました(動画)。ヒトにおいてはタッピングによるリズムとの同期実験は多数行われていますが、今回の成果は動物がリズムに合わせてタッピングできることを示したもので、世界で初めての公式な報告です。

リズムに合わせて運動できる、ヒト・オウムの仲間・ゾウの共通点は「発声を模倣する」ことですが、本成果はリズムに合わせて運動する能力が「新たな発声パターンを獲得する能力」の副産物として備わったのではないか、とする仮説(Patel、2006)を裏付けるもので、ヒトが文化や世代を超え、当たり前のように行ってきた「音楽に合わせて踊ること」が、言語能力と密接に関連していることを示唆するデータが得られたことになります。

本研究により、動物における「リズムに合わせて運動する能力」と「新たな発声パターンの獲得」の関連性が裏付けられ、今後、リズムに関わる神経機構の仕組みや言語能力のメカニズムの解明につながるものと期待されます。

本研究は、理化学研究所 脳科学総合研究センターや東京大学 大学院総合文化研究科の長谷川 愛 大学院生(研究当時)との共同研究で行われ、本研究成果は、2011年10月17日(英国時間)にNature Publishingグループのオンラインジャーナル「Scientific Reports」で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

研究プロジェクト 岡ノ谷情動情報プロジェクト
研究総括 岡ノ谷 一夫(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)
研究期間 平成20〜25年度

JSTはこのプロジェクトで、情動情報が言語と同様にある種の規則性(情動文法)をもって伝達されるものであると捉え、その進化過程・発達過程の生物学的な解析を基礎として、情動情報の計算科学的な符号化モデルを構築することを目指します。

<研究の背景と経緯>

ヒトは音楽など多様なリズムに合わせて運動できます。一方、多くの動物の運動にも、リズミカルなパターンがあり、中にはリズミカルなダンスを披露する動物もいます。しかし、動物たちはもともと持っているリズムのパターン以外に、「外部から与えられる」リズムに合わせて運動する能力を持っているわけではありません。

「音楽に合わせてダンスする」動物のビデオを解析すると、音楽と運動の同調が認められた動物はオウムの仲間数種とゾウ一種だけで、イヌやウマ、サルなどでは確認できませんでした(Patel et al., 2009; Schachner et al., 2009)。つまり、ヒトにとっては容易な外から与えられた「リズムに合わせて運動する」ことが、動物一般にとっては当たり前ではないのです。

リズムに合わせて運動できる、ヒト・オウムの仲間・ゾウの共通点は「発声を模倣する」ということです。この「発声の模倣」は、「新たな発声パターンを獲得する能力」と言い換えることもできます。実はこれまでに、『リズムに合わせて運動する能力が「新たな発声パターンを獲得する能力」の副産物として備わったのではないか』とする仮説(Patel, 2006)が挙げられてきましたが、その裏付けとなる研究は、上に述べたビデオ解析によるいくつかの事例報告に過ぎませんでした。

この仮説は、ヒトが文化や世代を超え、当たり前のように行ってきた、「音楽に合わせて踊ること」が、実は言語能力と密接に関連していることを示唆しています。この与えられたリズムを予測し、それに合わせる能力に関する研究として、ヒトにおいてはリズムとの同期タッピング(机などを指先で叩く)実験は多数行われていますが、動物によるリズムに同調したタッピング行動は認められていませんでした。例えば、サルでの類似した実験では、サルは提示される光や音に対し、急いで反応しているだけで刺激を予想しての反応は認められませんでした。

<研究の内容>

本研究は、オウムの仲間の一種であるセキセイインコの一群を用いて実験を行い、外部から与えられる多様なテンポのリズムと同期した運動が生じるかどうかを検討しました。鳥たちは、餌を報酬として用いるオペラント条件付け注2)という手法により、一定テンポで点滅するLEDをその点滅に合わせてつつくよう訓練されました。この点滅にはピッという電子音が伴っており、鳥は光と音をテンポの手掛かりとしてLEDをつつくことができます(これら光や音を「刺激」と言います)。鳥たちは餌をもらうために、6回連続でつつきを成功させる必要がありました。鳥たちは皆、連続つつきを成功させて餌をもらうことができましたが、そのつつきタイミングを分析した結果、鳥たちは刺激が出てから急いでつついているわけではなく、鳥たちが刺激の出現を予期しており、つつきタイミングには一定のパターンがあることが分かりました。刺激の間隔については、450ミリ秒、600ミリ秒、900ミリ秒、1200ミリ秒、1500ミリ秒、1800ミリ秒といくつかの条件で試しましたが、鳥たちはこれら全ての条件で正確につつくことができました。また、刺激を音だけにした条件でも同様に上手くつつくことができました。

この研究成果により、種としてのセキセイインコは外部から与えられるリズムに同調してキーをつつく運動ができるということを確認しました。これは動物によるリズムに同調したタッピング行動として世界で初めての公式な報告となります。

リズムに合わせて運動できる、ヒト・オウムの仲間・ゾウの共通点は「発声を模倣する」ということです。本研究は、『リズムに合わせて運動する能力が「新たな発声パターンを獲得する能力」の副産物として備わったのではないか』とする仮説(Patel, 2006)を裏付けるものとなります。つまり、ヒトが文化や世代を超え、当たり前のように行ってきた、「音楽に合わせて踊ること」が、実は言語能力と密接に関連していることを示唆する興味深いデータを得たことになります。また、ヒトはリズムに乗って、ダンスそのほかの行動を通じて、仲間と感情を共有してきました。本研究は、そのようなことを可能にするのが何なのか、その生物学的な基盤を探る1つの研究成果としても位置付けることが可能です。

<今後の展開>

ヒトでは、自分の意思とは無関係に体が勝手に音楽に同調してしまう、言わばつられて動くというような現象が見られますが、動物のリズム同調がこれと比較し得るような強いものなのかどうなのかを、次の実験で検討したいと考えています。

また、リズムに合わせて運動するための神経機構の研究へと発展させたいとも考えています。例えば、新たな発声パターンを獲得できる鳥においては、さえずりに関わる神経系の操作により、さえずりのスピードが速くなったり遅くなったりすることが分かっていますが、同様の操作が本研究で見られたようなリズミカルな運動の制御にも影響するのかを検討し、発声パターンの獲得能力とリズミカルな運動との関連について、神経メカニズムの観点からも明らかにしていきたいと思います。

<参考図>

図1

図1 セキセイインコ

図2

図2 セキセイインコのつつき実験

(a)一定テンポで点滅する光(LED)を6回連続でつつくと、(b)報酬として餌をもらうことができる。(c)刺激提示とつつくタイミングとのズレを測ったところ、かなりの割合で負の方向へのわずかなズレが見られた。これはヒトの実験でも観察される現象であり、このことから、インコが周期的な刺激提示パターンに基づき、次の刺激の提示タイミングを予測してつつき運動をしていたことが分かった。

図3

図3 つつきながらタイミングのズレを補正していく

遅いテンポで刺激を提示する条件では、6回連続つつきの前半には早めにつつきがちであるが、後半にはそのズレが小さくなっていく。これは、鳥がリアルタイムに刺激のリズムをモニターしながら、つつくタイミングを補正していくことを示している。

図4

図4 つつくタイミングの時間分布

  • (左図)時間の経過を円の角度で表わしたもの。「刺激提示開始」を0度として反時計まわりで時間が進むとする。一周が780ミリ秒を表わす。刺激の提示の前後には一定の許容範囲があり、それも含め、この円の範囲であれば全ての角度(つまり、全てのタイミング)でのつつきが成功となる。「推定反応時間」は、刺激がいつ出現するかを予測できない条件でのつつき実験の結果をもとに得た数値である。すなわち、刺激が出た直後に、鳥がいそいでつついたときに生じるタイムラグの測定値である。
  • (右図)8個の図は、それぞれの鳥について、キーつつきが偏在していた時間範囲を赤で示し、左図上に重ねたもの。鳥が適当につついた結果、偶然成功したのであればつつきタイミングは円全体にばらける。しかし、全ての鳥において分布には偏りがあり、つつきタイミングに一定のパターンがあったことが分かる。もし鳥が、刺激の提示後に急いでつついていたとすれば、つつきタイミングは「推定反応時間」周辺に分布するはずである。しかし、上の条件では、オスA、D、メスB、Dにおいては「刺激提示開始」周辺に分布している。つまり、次に出現する刺激提示開始のタイミングを予測してつついていたことが分かる。なお、本研究のような周期的な運動を評価するためには、円を用いることが都合がよいため、統計的な処理はサーキュラー・スタティスティクス(Circular statistics)を用いた。

動画 セキセイインコのつつき実験の様子

<用語解説>

注1) 情動情報
喜び、悲しみ、驚き、怒りといった心の状態を他者に伝達する表情や音声、体の動きの情報のこと。
注2) オペラント条件付け
学習方法の一種で、生物個体が自発的に行った行動の後に、環境変化に応じて、自発頻度が変化する学習。今回の実験では、最初の段階として、鳥がたまたま自発的にLEDをつついた直後に餌を与えること(環境の変化)により、まず、LEDをつつくという行動の頻度を上げる。続いて、ランプや音の提示に合わせてつついた時にのみ餌を与えることで、それらの提示タイミングに合わせてLEDをつつくという行動の頻度を上げる――というように段階的に動物の行動を変化させていった。

<論文名>

“Rhythmic synchronization tapping to an audio-visual metronome in budgerigars”
(セキセイインコによる視聴覚メトロノームへのリズミカルな同期タッピング)
doi: 10.1038/srep00120

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

関 義正(セキ ヨシマサ)
科学技術振興機構 ERATO「岡ノ谷情動情報プロジェクト」 研究員
理化学研究所 脳科学総合研究センター 客員研究員
〒153-8902 東京都目黒区駒場3−8−1
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<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
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