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平成23年10月5日

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理論限界に迫るPET解像度の実現に向けた
3次元放射線検出器を開発

JST 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)の一環として、独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センターの山谷 泰賀 チームリーダーらの開発チームは、革新的アイディアに基づく新しい陽電子断層撮像法(PET)注1)用3次元放射線検出器「クリスタルキューブ」の開発に成功しました。

放射性物質を利用し、がんなどの検出に用いられるPETの放射線検出器は、放射線を光に変換するシンチレータ注2)と、その光を検出する受光素子から構成されます。現状のPETの解像度は3〜5mm程度ですが、理論的には1mm前後まで高めることが可能です。PET検出器を測定対象に近づけると、解像度・感度ともに向上しますが、従来の検出器ではシンチレータの厚さ方向について放射線位置を正しく検出できず、解像度が低下してしまいます。この問題はシンチレータを薄くすると解決しますが、放射線が通過し、感度が下がってしまいます。そこで、感度と解像度を高めるには、シンチレータの厚みを保ったまま放射線位置を3次元的に特定する必要がありますが、これまでの検出器では実現できませんでした。

今回開発したPET用の3次元放射線検出器「クリスタルキューブ」では、受光素子をシンチレータブロックの全面に接続しました。この検出器では、シンチレータ内部で放射線が光に変換される位置を、縦・横・深さ方向の全てについて正確に決定できます。これは、今まで小型化が難しかった受光素子に新しい薄型半導体受光素子「MPPC注3)」を採用することで初めて実現しました。今回、1辺1mmの立方体型シンチレータを16×16×16に並べたシンチレータブロックの6面すべてに、MPPCを接合した検出器を試作しました。この検出器に放射線を照射した結果、縦・横・深さの全方向について、個々のシンチレータブロックを区別することに成功しました。この結果は、PET用検出器として究極の解像度1mmを実現可能とするものです。この成果を脳診断など部位に特化した小型PET装置などに応用すれば、神経変性疾患や精神疾患の病態解明に役立つことが期待されます。

本開発成果は、10月5日(英国時間)に英国物理学会発行の学術論文誌である「Physics in Medicine and Biology」誌に掲載されます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

事業名 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム) 要素技術タイプ
開発課題名 「革新的PET用3次元放射線検出器の開発」
チームリーダー 山谷 泰賀(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター チームリーダー)
開発期間 平成21〜23年度(予定)
担当開発総括 本河 光博(東北大学 名誉教授)

JSTはこのプログラムの要素技術タイプで、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を行うことを目的としています。

<開発の背景と経緯>

近年、がんや認知症などの早期診断にPETが有効であると注目されています。PETとは、極微量の放射性同位元素(陽電子放出核種)を含む特殊な薬剤を投与し、放出される放射線を測定することで薬剤の分布や動きを画像化し、病気の有無や程度を調べる検査法です。PETは、がんなど病気の早期発見だけではなく、分子イメージング研究注4)の推進にも不可欠な技術です。その一方で、従来のPET感度や解像度は、理論的に到達可能な値までは達しておらず、世界中で研究が続けられてきました。

PET用の放射線検出器は、放射線を微弱な光(シンチレーション光)に変換するシンチレータと、光を電気信号に変換する受光素子から成り立っています。PETの感度と解像度をともに高めるためには、検出器を測定対象に近づけなくてはなりません。さらに、放射線を高い感度で検出するためには、どんなに高性能なPET用シンチレータでも2cm程度の厚さが必要です。しかし、シンチレータ自体の厚みによって斜め入射の放射線位置を正確に検出できず、高い感度を保ったまま、理論限界まで解像度を高めることが困難でした(図1)。シンチレータ内部の放射線位置を3次元的に特定できる検出器が実現すれば、この問題を解決できます。

放医研では、これまでにシンチレータの深さ方向に4段の位置弁別が可能な3次元放射線検出器「DOI検出器注5)」を開発しています(図2中)。しかし、受光素子である光電子増倍管注6)の小型化には限界があり、従来の2次元放射線検出器と同様に、シンチレータブロックの1面のみにしか受光素子を接合できませんでした。これではシンチレータの深さ方向の位置弁別性能は十分ではありません。そこで本開発では、縦・横・深さ各方向ともに同等な解像度を持つ3次元放射線検出器の実現を目指しました。

<開発の内容>

今回開発した検出器では、シンチレータブロックの全面に受光素子を接合して、シンチレータ内部の放射線3次元位置を縦・横・深さ各方向ともに同等な解像度で得られるようにしました(図2右)。検出できるシンチレーション光の量が多いほど、検出器の性能を高めることができます。「クリスタルキューブ」と名付けたこの検出器が実現可能になったのは、新型の半導体受光素子MPPCを採用したからです。MPPCは薄いため、放射線の入射窓を覆っても放射線を遮ってしまう問題はなく、検出器を並べたときにも邪魔になりません。今回、1辺1mmという微小な立方体形状のLYSO(ケイ酸ルテチウムイットリウム)単結晶シンチレータを16×16×16に並べたシンチレータブロックの6面すべてにMPPCを接合した検出器を試作し(図3)、PET用検出器として究極とも言える1mmの解像度を得ることに成功しました(図4)。

なお、本開発において、千葉大学 大学院工学研究科の菅 幹生 准教授と東京大学 大学院総合文化研究科の澁谷 憲悟 助教が、クリスタルキューブに適した演算アルゴリズムの開発を担当し、千葉大学 フロンティアメディカル工学研究開発センターの羽石 秀昭 教授が、シンチレータブロック内部の光の広がり方の解析を担当しました。また、浜松ホトニクス株式会社が、MPPCや専用信号処理回路の開発を担当しました。現在、クリスタルキューブの実用化に向けて、検出器のコンパクト化や、シンチレータブロック加工の効率化を進めています(図5)。

<今後の展開>

本開発成果を脳診断など部位に特化した小型PET装置などに応用すれば、PET解像度の理論限界とされる1mm前後の優れた解像度が得られると期待されます。例えば、これまでのPET検査では見えなかった、大脳皮質の層構造や脳幹部におけるさまざまな神経細胞の分布などが見えるようになると考えられ、神経変性疾患や精神疾患の病態解明に役立つことが期待されます。また、検出器を測定対象に近づけると同時に感度も向上しますので、検査による被ばく量を1/10程度にまで低減できる可能性もあります。

<参考図>

図1

図1 従来の2次元放射線検出器の概念図

PETの感度と解像度をともに高めるためには検出器を測定対象に近づける必要がある。従来の2次元放射線検出器では、シンチレータの厚み自体によって斜め入射の放射線位置を正確に検出できない。

図2

図2 従来検出器と開発検出器の比較

従来の2次元放射線検出器(左)や3次元放射線検出器(DOI検出器)(中)では、シンチレータブロックの1面のみに光電子増倍管を接合していた。今回開発した検出器「クリスタルキューブ」(右)では、シンチレータブロックの全面に半導体受光素子MPPCを接合する。

図3

図3 試作に用いたMPPC(左)とシンチレータブロック(中、右)

最初に1辺3mmの立方体シンチレータからなるブロック(中)で基本原理を検証した後、1辺1mmの立方体シンチレータからなるブロック(右)へ進んだ。材質は、3mmサイズはLGSO(ケイ酸ルテチウムガドリニウム)単結晶、1mmサイズはLYSO(ケイ酸ルテチウムイットリウム)単結晶である。

図4

図4 試作したクリスタルキューブ(左)と位置弁別性能を示す実験結果(右)

一様に放射線を照射し位置演算を行った結果、各々の1mmの立方体シンチレータが分離できていることが示された。なお、検出器の写真(左)では、一部のMPPCを外して撮影している。

図5

図5 クリスタルキューブの実用化に向けて進めている改良の一例

MPPCアレイの開発(左)をはじめとした回路部品の小型化や、一塊のシンチレータに外部からレーザー照射して加工するシンチレータブロックの開発(右)を進めている。

<用語解説>

注1) 陽電子断層撮像法(PET:Positron Emission Tomography)
PET装置は、画像診断装置の一種で、陽電子を検出することにより、さまざまな病態や生体内物質の挙動をコンピューター処理によって画像化する。
注2) シンチレータ
放射線が当たると蛍光(シンチレーション光)を出す物質のこと。
注3) MPPC(Multi−Pixel Photon Counter)
複数のガイガーモード(APD:Avalanche Photodiode)からなる半導体受光素子のこと。光電子増倍管に匹敵する増倍率を持つことから、Silicon Photomultiplier(SiPM)とも呼ばれる。MPPCは浜松ホトニクス株式会社の登録商標。
注4) 分子イメージング研究
生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化する技術およびそれを開発する研究分野であり、生命の統合的理解を深める新しいライフサイエンス研究分野。体の中の現象を、分子レベルで、しかも対象が生きたままの状態で調べることができる。がん細胞の状態や特徴を生きたまま調べることができるため、がんができる仕組みの解明や早期発見が可能となる新しい診断法や画期的な治療法を確立するための手段として期待されている。
注5) DOI検出器
放医研が産学官共同研究により開発した3次元放射線検出器のこと。DOIは、Depth−Of−Interactionの略。
注6) 光電子増倍管
光が物質に当たると電子が生ずる現象(光電効果)を利用して光を電子に変換し、さらにその電子を100万〜1000万倍に増倍して光を高感度で検出できる光検出器のこと。

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

山谷 泰賀(ヤマヤ タイガ)
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター チームリーダー
〒263-8555 千葉県千葉市稲毛区穴川4−9−1
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

安藤 利夫(アンドウ トシオ)
科学技術振興機構 産学基礎基盤推進部(先端計測分析技術・機器開発担当)
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