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平成23年8月26日

科学技術振興機構(JST)
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理化学研究所
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細胞の自食現象(オートファジー)を
高感度で定量的に検出するイメージング技術を開発

(サンゴ由来の蛍光たんぱく質の特性を利用)

JST 課題達成型基礎研究の一環として、理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チームの宮脇 敦史 チームリーダーと、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「宮脇生命時空間情報プロジェクト」の片山 博幸 研究員らは、細胞の自食現象(オートファジー)を高感度かつ定量的に検出する蛍光イメージング技術を開発しました。

オートファジーは、細胞が自らの細胞内成分を分解する主要メカニズムで、飢餓時における栄養源確保だけでなく、アルツハイマー病などの原因たんぱく質の分解除去にも関与していることが知られています。オートファジーを検出するイメージング技術としては、細胞内成分を囲い込む袋状構造(オートファゴソーム)に集積するたんぱく質LC3注1)に緑色蛍光たんぱく質GFPを連結したものが広く用いられています。しかし、オートファジーが進行するにつれてオートファゴソームが消失するため、この蛍光シグナルは一時的にしか検出されません。さらに最近になって、LC3を使わないオートファジーの経路が存在することが判明し、さまざまなオートファジーを高感度かつ定量的に検出するイメージング技術が求められています。

本研究グループは、全てのオートファジーの終着器官となるリソゾーム注2)(細胞内で消化作用を行う器官)に着目しました。細胞内成分が最終的に酸性のリソゾームに移行して分解を受けることを考慮し、pHによって蛍光特性が変化し、かつリソゾームの中で分解されないサンゴ由来の蛍光たんぱく質「Keima(ケイマ)」注3)を利用して、オートファジーを高感度で定量的に検出することに成功しました。また、Keimaをミトコンドリア内に導入して、傷ついたミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジー注4)という現象を観察することにも成功しました(動画)

今回開発したイメージング技術を用いることで、オートファジーを多角的に調べることができると考えられます。また、Keimaを発現する遺伝子改変動物を作製すれば、個体発生におけるオートファジーを包括的に調べることができると期待されます。

本研究成果は、東京医科歯科大学と大阪大学との共同研究で得られ、平成23年8月25日(米国東部時間)に米国科学誌「Chemistry & Biology」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

研究プロジェクト 「宮脇生命時空間情報プロジェクト」
研究総括 宮脇 敦史(理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー)
研究期間 平成18〜23年度

JSTはこのプロジェクトで、生物個体を扱うライブイメージングの技術革新と実践応用を実施し、多細胞生物における生命現象の時空間的制御の動的な理解を目指します。

<研究の背景と経緯>

オートファジーは、酵母を含め真核生物の細胞が、普遍的に備えている細胞内成分を分解するための仕組みです。これまでは、飢餓状態の時に自己を非選択的に分解して栄養分を確保し、飢餓環境を生き抜く生存機構だと考えられてきました。しかし近年は、オートファジーが、変性たんぱく質や障害オルガネラ、さらに侵入した病原体を選択的に分解、排除することが明らかになってきました(図1)。オートファジーの破綻は、がん化や細菌感染、神経変性疾患などを引き起こすことが報告されており、オートファジーが生存機構だけではなく、さまざまな疾患において重要な役割を担っていることが知られています。

オートファジーは1960年代初めには電子顕微鏡で観測されていましたが、その分子機構については長い間謎でした。近年、酵母のオートファジー関連遺伝子群(Atg)の同定に成功したことをきっかけに、オートファジーの分子機構の解明が進んでいます。オートファジーを検出するイメージング技術も、このAtgたんぱく質群のうちの1つであるLC3が、細胞内成分を囲い込む袋状の構造(オートファゴソーム)に集積することを利用して、LC3にオワンクラゲ由来の緑色蛍光たんぱく質GFPを連結したもの(GFP−LC3)を用いています。しかし、GFP−LC3を用いた検出では、マクロオートファジーの現象が進行すると、オートファゴソームが消失するため、GFP−LC3の蛍光シグナルは一時的にしか検出されません。オートファジーによる分解量をより定量的に分析するには、そのシグナルが持続する蛍光プローブ注5)が必要です。

また、オートファジーは現在までに、マクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジー、Atg5/7非依存性の新たなマクロオートファジーの4種(図2)が報告されていますが、このうちLC3を用いるのはマクロオートファジーのみです。つまりGFP−LC3は、マクロオートファジーしか検出することができません。LC3が関与しないほかのオートファジーの機能を理解するためには、より広くオートファジーを可視化できる技術が求められています。

本研究グループは、広くオートファジーに共通する特性に注目し、新たな蛍光プローブを用いたイメージング技術の開発を行いました。

<研究の内容>

1)さまざまなオートファジーを検出できるプローブの確立

全てのオートファジーにおいて共通する特性は、分解される基質が最終的にリソゾームに到達し、そこで分解されることです。リソゾームの中は酸性なので、オートファジーが進むにつれて基質の周りのpHは中性から酸性へと変化します。本研究グループはこのpHの変化を捉えることで、オートファジーの総量を検出できると考えました。

一般的にたんぱく質は、リソゾーム中では酸による変性や、たんぱく質を分解する酵素プロテアーゼ注6)による分解を受け、その機能を失います。しかし2008年、本研究グループは、サンゴ由来の蛍光たんぱく質が酸やプロテアーゼに強く、リソゾーム中でも蛍光を発し続けることを発見しました。今回、その中で蛍光特性がpHにより変化するdKeimaを用いてオートファジーの総量を検出、可視化することに成功しました。また、マクロオートファジーが起こらないAtg5欠損細胞にdKeimaを発現させると、Atg5に依存しないオートファジーも検出することができました(図3)。このことはKeimaによりマクロオートファジー以外のオートファジーも観察可能であることを示しています。

2)選択的オートファジー(マイトファジー)の検出

細胞内でエネルギーを作り出すミトコンドリアは、その過程で有毒な活性酸素を生み出すことがあります。この活性酸素はミトコンドリア自身を傷つけ、かつ傷ついたミトコンドリアはさらに活性酸素を放出するため、速やかに隔離、分解される必要があります。最近の研究により、これらの傷ついたミトコンドリアは目印が付けられて識別され、オートファジーによって分解されることが分かってきました。この選択的なオートファジーはマイトファジーと呼ばれています(図1B)。本研究グループは、ミトコンドリアに局在するKeima(mt−mKeima)を作製し、このマイトファジーを簡便に検出、可視化することに成功しました(図4)。

<今後の展開>

1)フォールディング病の発症メカニズムの解明と治療薬の探索

たんぱく質が本来の構造と異なった構造になることで引き起こされるフォールディング病(アルツハイマー病、ハンチントン病など)の病因たんぱく質にKeimaを連結し、細胞や個体に発現させることで、その原因たんぱく質の分解メカニズムの詳細を解析することが可能になると期待されます。また、こうした基盤技術は原因たんぱく質の分解を促進する薬剤を探索するスクリーニング技術に使用できると期待できます。

2)パーキンソン病の発症メカニズムの解明と治療薬の探索

最近の研究により、一部の家族性若年性パーキンソン病の原因遺伝子Parkinは、マイトファジーの誘導に関与していることが明らかになっています。現在、パーキンソン病の発症にマイトファジーによる障害ミトコンドリアの除去がどのように関与しているか、盛んに研究されています。本研究で用いたミトコンドリアに局在する蛍光プローブmt−mKeimaを発現した細胞や個体は、パーキンソン病の発症メカニズムの解明や、障害ミトコンドリアを効率的に排除する薬剤を探索するスクリーニング技術に使用できると期待されます。

3)動物個体でのオートファジーのモニター

Keimaやmt−mKeimaを発現する遺伝子改変動物を作製することで、個体発生、分化時にオートファジーやマイトファジーがどの場所で、どのタイミングで活性化され、機能しているのかを観察することが可能になると期待されます。また、この遺伝子改変動物と疾患モデル動物とを掛け合わせて、病気の際のオートファジーの働きを観察し、予防法や治療法の開発に役立てることも期待されます。

<参考図>

図1

図1 オートファジーの働き

オートファジーは栄養飢餓により細胞内の至る所でランダムに誘導され、取り囲んだ細胞質成分や細胞小器官を分解する非特異的分解機構(A)だと考えられてきた。しかし近年、細胞内で何らかの障害を受け、有害となったミトコンドリア(B、マイトファジー)や、細胞内に侵入してきた病原菌(C、ゼノファジー)などを選択的に分解、無毒化し、積極的に細胞内の恒常性の維持のために働いていることが分かってきている。

図2

図2 さまざまなオートファジーと蛍光プローブを用いたオートファジーの検出法

現在、以下の4つのオートファジーが報告されている。

  • (A) マクロオートファジー:細胞質に現れた膜区画が伸長して細胞質成分やオルガネラを取り囲み、これがリソゾームと融合してその内容物を分解する。オートファジーの中で最も研究が進んでおり、オートファジー関連遺伝子産物(Atgたんぱく質)などの必須たんぱく質群が同定されている。LC3はこのAtgたんぱく質群の1つである。
  • (B) ミクロオートファジー:リソゾームや、酵母でリソゾームに相当する器官である液胞がくぼんで、直接、細胞質成分をその中に取り込み、分解する。酵母では研究が進んでいるが、哺乳類細胞での報告は極めて少なく、詳細はいまだ不明。
  • (C) シャペロン介在性オートファジー:細胞質内のたんぱく質の特別な配列をシャペロン(ほかのたんぱく質が、それぞれの機能を発揮するのを助けるたんぱく質)が認識し、たんぱく質の折りたたみを解いてペプチドとしてリソゾーム内に挿入、分解する。
  • (D) Atg5/7非依存性の新たなマクロオートファジー(Atg5/7 independent alternative macroautophagy):最近報告されたオートファジーで、上記(A)のマクロオートファジーに必須のたんぱく質Atg5/7を必要としない。
図3

図3 dKeimaを用いたオートファジーの検出

  • (A) dKeimaの励起、蛍光スペクトル。dKeimaの励起スペクトルは周囲のpHに依存して変化する。dKeimaの励起スペクトルは中性環境では短波長側優勢であるが(青)、酸性環境では長波長側優勢に変わる(赤)。
  • (B) オートファジーを検出、可視化した例。dKeimaを発現する野生型、Atg5-/-細胞(Atg5を欠損しているためにマクロオートファジー不能の細胞)を栄養培地あるいは飢餓培地で培養した後のレシオ画像(長波長側で励起した時の蛍光/短波長で励起した時の蛍光の比を疑似カラー表示した像。この場合酸性の部分は高い比を示す赤色で表示される。スケールバー:20μm)。赤い部分がリソゾームと融合した後の酸性環境下からのシグナルを示す。野生型細胞では、飢餓に伴いオートファジーが誘導されているのが分かる。Atg5-/-細胞では恒常的にオートファジーが増加していた。
図4

図4 ミトコンドリア局在型mt−mKeimaを用いたマイトファジーの検出

  • (A) mKeimaの励起、蛍光スペクトル。mKeimaの励起スペクトルは中性環境(青)では短波長側優勢であるが、酸性環境(赤)では長波長側優勢に変わる。
  • (B) マイトファジーを検出、可視化した例。mt−mKeimaを発現する細胞のレシオ画像(スケールバー:20μm)。通常の状態ではミトコンドリア内のpHは中性〜弱アルカリ性であり、緑色で表示されるが(左)、薬剤処理によりミトコンドリアを傷害し、マイトファジーを誘導すると、ミトコンドリアとそこに局在するmt−mKeimaがリソゾームに移行し、酸性を示す赤色シグナルが検出される(右)。

動画 ミトコンドリア局在型mt−mKeimaを用いたマイトファジーの経時的イメージング

図4と同様に、薬剤処理によりmt−mKeimaを発現する細胞にマイトファジーを誘導し、経時的にイメージングしてレシオ画像化した。初めはミトコンドリア(中性〜弱アルカリ性)は緑色で表示されるが、マイトファジーの進行に伴い、リソゾーム内(酸性)に取り込まれたミトコンドリアが増加するにつれ、赤色シグナルが蓄積していく。

<用語解説>

注1) LC3
オートファジーの一種であるマクロオートファジーでは、始めは細胞質に柿の種のような小胞が現れ、それが湾曲しながら成長し(隔離膜)、末端が融合して最終的に二重の膜構造(マクロオートファゴソーム)が形成される。LC3はこのマクロオートファゴソームに特異的に局在するたんぱく質で、GFP(オワンクラゲ由来の緑色蛍光たんぱく質)をつけたGFP−LC3がマクロオートファジーの検出に広く使用されている。
注2) リソゾーム
多くの加水分解酵素を含み、細胞内消化を担う細胞小器官。オートファジーなどによってリソゾーム内腔に取り込まれた生体高分子や細胞小器官、細菌などの異物や老朽化した自身の細胞などを分解し、細胞の構成成分としてリサイクルする。
注3) Keima
コモンサンゴ由来の色素たんぱく質に遺伝子変異を導入して得られた蛍光たんぱく質。大きなストークスシフト(励起ピークと蛍光ピークの差。励起ピーク440nm、蛍光ピーク620nm)を持つことが特徴。このKeimaは酸性環境下で586nmの2つ目の励起ピークが現れ、440nmのピークが低下するので、この2つの励起ピークのレシオを取得することでレシオメトリック型pHプローブとして利用可能。また、このKeimaは酸性環境下でも極めて安定で酸性のリソゾーム内でも安定して蛍光を発することができる。
注4) マイトファジー
酸化ストレスにより障害を受けた障害ミトコンドリアがParkinによるユビキチン化を受け、それが目印となって選択的にオートファジーで隔離、分解される現象。ユビキチン化を担うParkinは一部の家族性若年性パーキンソン病の原因遺伝子であり、この疾患の発症にマイトファジーによる障害ミトコンドリアの除去がどのように関与しているか、現在精力的に研究されている。
注5) 蛍光プローブ
目的の分子や環境を観測するための分子ツール。ほぼ全ての生体分子は無色、無蛍光で、通常の顕微鏡で観測することは不可能だが、目的分子にこの蛍光プローブを結合して細胞内や個体内に導入し、蛍光顕微鏡を用いることで観測が可能になる。また、蛍光プローブの中には周辺環境の変化によりその蛍光特性を変化させるものも存在し、ミクロ環境指示プローブとして利用可能。
注6) プロテアーゼ
たんぱく質の分解に働く酵素で、たんぱく質分解酵素ともいう。たんぱく質のペプチド結合を加水分解する反応を触媒する。リソゾーム内にはこのプロテアーゼが多数存在している。

<論文名>

“A Sensitive and Quantitative Technique for Detecting Autophagic Events Based on Lysosomal Delivery”
(オートファジーを高感度、定量的に検出するイメージング技術の開発)
doi: 10.1016/j.chembiol.2011.05.013

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

片山 博幸(カタヤマ ヒロユキ)
科学技術振興機構 ERATO 「宮脇生命時空間情報プロジェクト」 研究員
理化学研究所 脳科学総合研究センター 客員研究員
〒351-0198 埼玉県和光市広沢2−1
Tel:048-462-1111 Fax:048-467-5924
E-mail:

宮脇 敦史(ミヤワキ アツシ)
科学技術振興機構 ERATO 「宮脇生命時空間情報プロジェクト」 研究総括
理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー
〒351-0198 埼玉県和光市広沢2−1
Fax:048-467-5924
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
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