JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成23年7月20日

自然科学研究機構 生理学研究所(せいりけん)
Tel:0564-55-7722(広報展開推進室)

科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)

光スイッチでマウスのノンレム睡眠誘導に成功

―脳のオレキシン神経細胞の活動を光スイッチ遺伝子改変技術で操作―

特殊な光感受性センサー・タンパク質を遺伝子導入することで、光を使って神経の活動をコントロールする「光スイッチ(光操作)」技術が昨今注目されています。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の山中 章弘 准教授と常松 友美 研究員らは、ハロロドプシンという光感受性センサーを用いて、光スイッチをオンしたときに、マウスの脳(視床下部)のオレキシン神経の活動だけを抑えることに成功しました。これによって、光のオン・オフに従ってマウスの睡眠・覚醒を操作することに成功し、ハロロドプシンをオレキシン神経細胞に遺伝子導入したマウスでは光を当てたときだけ徐波睡眠(ノンレム睡眠)になりました。

2011年7月20日(米国東部時間)発行の米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)」で報告されます。

<プレスリリース内容>

これまでにも、オレキシン神経が脳の覚醒に関わっていることは知られていましたが、覚醒に関わるオレキシン神経の活動だけを短時間でも抑えた場合、実際に睡眠を誘導することができるのか?またどのような睡眠なのか?その詳細は分かっていませんでした。今回、オレンジ色の光を当てると神経の活動を抑えることができるハロロドプシンと呼ばれる光感受性センサー・タンパク質をオレキシン神経細胞に遺伝子導入したマウスを作製しました(図1)。このマウスを用いて光スイッチでオレキシン神経の活動を1分間だけ抑制したところ、睡眠を人工的に誘導することに成功しました。睡眠には夢をみるレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠がありますが、今回の睡眠は特にこのうちノンレム睡眠だけを選択的に誘導していました(図2)。

山中准教授は「例えば、ナルコレプシーという睡眠異常の病気では、オレキシン神経が長期的になくなることが原因で、突然の睡眠発作や脱力発作が引き起こされます。今回のマウスでは、光スイッチでオレキシン神経の活動を短時間(1分間)だけ抑制することで、ナルコレプシーと同じような睡眠発作を再現することができました。しかし、誘導できる睡眠はノンレム睡眠のみで、ナルコレプシーで特徴的と言われる突然のレム睡眠や脱力発作は引き起こさないなどの点で違いもありました。こうした違いを調べることがナルコレプシーを引き起こす神経回路の病態の解明につながると期待しています」と話しています。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「脳神経回路の形成・動作と制御」研究領域(研究総括:村上 富士夫 大阪大学 大学院生命機能研究科 研究科長)における研究課題「本能機能を司る視床下部神経回路操作と行動制御」(研究代表者:山中 章弘)の一環として行われました。

<今回の発見>

  1. 1. 光感受性センサー・タンパク質であるハロロドプシンを脳(視床下部)のオレキシン神経にだけ遺伝子導入したマウスを作製しました。
  2. 2. オレキシン神経に導入したハロロドプシンを、光ファイバーを使ってオレンジ色の光で刺激したところ、オレキシン神経の活動が光を当てた間だけ抑制されました。
  3. 3. オレキシン神経の活動を光で短時間(1分間)抑制すると、その遺伝子改変マウスはノンレム睡眠になりました。

<この研究の社会的意義>

オレキシン神経細胞の異常:ナルコレプシーの病態解明に期待

オレキシン神経が長期的になくなることによって、ナルコレプシーという睡眠異常・脱力発作の病気になることが知られています。ナルコレプシーは、10〜30代で、1,000人に1人の割合で起こるとも言われています。今回オレキシン神経を光スイッチで短時間(1分間)だけ抑制すると、ナルコレプシーと同様に、突然睡眠する症状が見られました。しかし、ナルコレプシーでは突然のレム睡眠や脱力発作が見られますが、今回オレキシン神経の活動を低下させただけでは、ノンレム睡眠を誘導することはできてもレム睡眠や突然の脱力発作を誘導することはできませんでした。この違いを手掛かりにして、オレキシン神経が長期的になくなった場合に起きるナルコレプシーの病態のメカニズムと神経回路の変化についての解明が進むものと期待されます。

<補足説明>

光操作法(光スイッチ)とは?

光感受性センサー・タンパク質を神経細胞に遺伝子導入し、光によって生体を傷つけることなくその活動を操作する方法です。例えば、チャネルロドプシンと呼ばれるタンパク質の遺伝子導入では神経細胞を青色の光で興奮させることができます。また、今回用いられたハロロドプシンではオレンジ色の光で神経活動を抑制することができます。

詳細については、「せいりけんニュース」20号で解説していますので、ご参照ください(生理学研究所 ホームページ:http://www.nips.ac.jp/nipsquare/sknews/backnumber/docs/sn20.pdf より)。

<参考図>

図1

図1 光感受性センサー・ハロロドプシンの遺伝子導入でオレキシン神経の活動を光で操作

光感受性センサー・タンパク質であるハロロドプシンは、オレンジ色の光を当てると塩素イオン(Cl−)を細胞の中に取り込み神経細胞の活動を抑えることができます。このハロロドプシンをオレキシン神経細胞にだけ遺伝子導入したマウスで、オレキシン神経の電気活動をオレンジ色の光を当てた時だけ抑えることに成功しました。

図2

図2 光スイッチによってマウスの徐波睡眠(ノンレム睡眠)を誘導

オレキシン神経にハロロドプシンを遺伝子導入したマウスでは、光ファイバーを使ってオレンジ色の光でそのハロロドプシンを刺激してオレキシン神経を抑制したところ、少しずつ脳波が徐波に向かい、それと同時に筋肉の電気活動が弱まっていき、ノンレム睡眠の状態になりました。つまり、光スイッチ・オンで、オレキシン神経の活動を抑えたところ、ノンレム睡眠が人工的に誘導されました。

<論文情報>

“Acute optogenetic silencing of orexin/hypocretin neurons induces slow wave sleep in mice”
(光遺伝学操作法によるマウスのオレキシン/ヒポクレチン神経細胞活動の急性抑制で、徐波睡眠が誘導される)
Tomomi Tsunematsu, Thomas S. Kilduff, Edward S. Boyden, Satoru Takahashi, Makoto Tominaga, Akihiro Yamanaka

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

山中 章弘(ヤマナカ アキヒロ)
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門 准教授
Tel:0564-59-5287 Fax:0564-59-5285
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

原口 亮治(ハラグチ リョウジ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部(さきがけ担当)
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067
E-mail:

<報道担当>

小泉 周(コイズミ アマネ)
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721
E-mail:

科学技術振興機構 広報ポータル部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: