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平成23年6月30日

九州大学
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科学技術振興機構(JST)
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マウスの皮膚細胞から肝細胞を直接作製する方法の開発に成功

九州大学生体防御医学研究所の鈴木 淳史 准教授らは、マウスの皮膚細胞に遺伝子導入と適切な培養環境を提供することで、皮膚細胞から機能的な肝細胞を直接作製することに成功しました。本成果は、ヒト皮膚細胞からの肝細胞作製とその臨床応用や創薬研究への展開に繋がる成果です。

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われ、本研究成果は、2011年6月29日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature」のオンライン速報版で公開されます。

<背景>

最近になって、細胞の周辺環境や遺伝子発現パターンに人為的操作を加えることで、その細胞がおかれた分化状態を強制的に変更して全く別の性質をもった細胞を生み出せることが明らかになりました。この現象はダイレクトリプログラミングとも呼ばれ、これまでに皮膚から抽出した繊維芽細胞を神経細胞や血液系細胞、心筋細胞などへと直接変化させることが可能になっています。ダイレクトリプログラミングとは異なり、繊維芽細胞の分化状態を白紙に戻して作製されたものが人工多能性幹細胞(iPS細胞)です。再生医療の実現に向けた潮流の中でiPS細胞が重要な位置を占めることは言うまでもありませんが、iPS細胞には腫瘍形成の危険があり、また、iPS細胞から目的の細胞を狙って分化させることはまだ難しく、さらなる研究が必要です。これに対し、ダイレクトリプログラミングによって繊維芽細胞から目的の細胞を直接作製することができれば、iPS細胞が抱える重要な問題のいくつかを解消することができると考えられます。そのため、上述した細胞以外でも、目的の細胞を繊維芽細胞から直接作製することが強く望まれており、世界中で精力的に研究が行われています。

<内容>

今回、鈴木准教授らは、マウス胎仔及び成体マウスの繊維芽細胞にHnf4αとFoxa(Foxa1、Foxa2、Foxa3のいずれか1つ)という肝細胞分化に関連した2つの転写因子を導入し、コラーゲンや肝細胞増殖因子を含む肝細胞分化に適した培養環境を提供することで、繊維芽細胞を肝細胞に非常によく似た細胞へと直接変化させることに成功しました。作製した細胞(induced hepatocyte−like cells:iHep細胞)は肝細胞の形態的特徴や遺伝子・タンパク質発現を有し、肝細胞特有の機能[グリコーゲンの蓄積や低比重リポタンパク質(LDL)の取り込み、アルブミンの分泌、アンモニア代謝、シトクロムP450活性、脂質代謝、薬物代謝など]をもったまま培養下での増殖・維持が可能です。また、肝機能不全で死に至る高チロシン血症モデルマウスの肝臓へiHep細胞を移植すると、肝細胞として障害を受けた肝臓組織を機能的に再構築し、マウスの致死率を大幅に低減させることが可能です(図1)。

<効果>

本研究成果は、ヒトiHep細胞の作製に向けた基盤科学となり、iHep細胞を用いた細胞移植や人工肝臓、創薬研究への応用が期待できます。

<今後の展開>

ヒトiHep細胞の作製に向けた研究を進めるとともに、その基礎研究として、マウスiHep細胞の作製効率の改善やウイルスを用いないiHep細胞作製法の検討、導入因子の標的遺伝子の特定などの研究も進めます。こうした研究によって得られる知見は、ヒトiHep細胞の作製に大きな影響をもたらすと考えられます。

<参考図>

図1

図1

iHep細胞は、繊維芽細胞マーカーのビメンチン(Vim)を発現せず、上皮細胞マーカーのE−カドヘリン(E−cad)や肝細胞マーカーのアルブミン(Alb)を発現し、グリコーゲンの蓄積やLDLの取り込みも可能な細胞である。また、iHep細胞を高チロシン血症モデルマウスの肝臓へ移植すると、障害を受けた肝臓組織を再構築することができる(最下段の茶色に染色された細胞がiHep細胞由来の細胞)。

<論文名>

“Direct conversion of mouse fibroblasts to hepatocyte-like cells by defined factors”
(特定因子によるマウス繊維芽細胞の肝細胞様細胞への直接変換)
doi: 10.1038/nature10263

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

鈴木 淳史(スズキ アツシ)
九州大学生体防御医学研究所 准教授
Tel/Fax:092-642-6793
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<JSTの事業に関すること>

原口 亮治(ハラグチ リョウジ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部
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