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平成23年5月16日

科学技術振興機構(JST)
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東京大学 大学院工学系研究科
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界面の構造や性質を制御し、有機薄膜太陽電池の電圧を大幅に向上

(変換効率向上への新たな戦略)

JST 課題解決型基礎研究の一環として、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「橋本光エネルギー変換システムプロジェクト」(研究総括:橋本 和仁)の但馬 敬介 グループリーダー(東京大学 大学院工学系研究科 講師)らは、有機薄膜太陽電池の界面構造を精密に制御することで、太陽電池の電圧を大幅に向上しました。

有機薄膜太陽電池では、有機物質の接合界面で電流が発生するため、変換効率注1)がこの界面の性質に大きく影響されます。しかし、従来の手法では、物質内部の界面の構造や性質を直接分析することは困難であり、また界面の状態を制御する手法がないことがさらなる性能向上を妨げる問題となっていました。

本研究では、フッ素化した有機半導体の自発的な表面配置と、有機薄膜の張り合わせ技術を組み合わせることで、有機薄膜太陽電池の界面の構造や性質を制御することが可能であることを初めて明らかにしました。この方法では、薄膜の表面をさまざまな手法で分析してから、表面同士を張り合わせて界面形成することができるため、界面の構造に関する情報を直接得ることができます。この手法により、有機太陽電池の電荷分離界面に異なる向きの電気双極子注2)(フッ素化化合物)を挟み込むことが可能であることを示しました。その結果、太陽電池の開放電圧注3)を大幅に向上することに成功しました。

今回、界面の制御により電圧の向上が可能であることを示したことから、この方法を活用することによって、今後、有機薄膜太陽電池の変換効率の向上が期待できます。また、界面の構造や性質と電荷分離過程の関係を明らかにする上で基礎的に重要な情報を得ることができるものと期待されます。

本研究は、東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻 橋本研究室の研究グループと共同で行われました。

本研究成果は、2011年5月15日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

研究プロジェクト 「橋本光エネルギー交換システムプロジェクト」
研究総括 橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成18〜23年度

JSTはこのプロジェクトで、光エネルギーを主としたエネルギー変換材料について、利用目的に合わせて物質のナノ構造を最適化するための設計・作成をする手法を研究し、新しいエネルギー変換材料・システムの開発を目指します。

<研究の背景と経緯>

有機薄膜太陽電池は、フレキシブル化ができる、軽い、さらには製造コストが安く大量生産が可能であるなど、多くの利点を有しており、次世代太陽電池として世界中で注目を集めています。しかし、現在主流であるシリコン太陽電池に比べると、性能を表す発電効率は低いことが実用化への大きな課題となっています。この原因の1つとして、有機物質同士の接合界面における構造や性質がよく知られておらず、制御が困難であることがあげられます。有機薄膜太陽電池では、光吸収により発生した励起子注4)が、主に2つの有機物質の接合界面において、電子と正孔(ホール)に分離して電力を発生するため、この界面の性質が変換効率の向上に大きく影響しています。従って、この界面の性質を明らかにし、さらに精密に制御できれば、有機太陽電池の変換効率向上への知見を得ることができると考えられていました。

有機物質の接合界面の性質を理解し、制御するためには、有機薄膜の表面の性質を明らかにしておき、さらにその表面の性質を保ったまま有機界面を作製する必要があります。しかし、現在、有機薄膜は主に有機溶媒を用いて塗布で作製されており、多くの方法が有機薄膜の積層時に熱や圧力を必要とするため、有機薄膜の表面の性質が変化したり、界面が混ざり合ったりすることが懸念され、界面の性質の理解および制御には適した方法ではありませんでした。そのため、有機物質の界面の構造や性質を保ったまま積層する技術によって界面の性質を理解し、精密に界面の構造を制御することが、有機薄膜太陽電池の変換効率を向上させるための課題となっていました。

<研究の内容>

本研究では、本プロジェクトにより開発された「接触転写法」という有機膜積層法を有機太陽電池の作製に応用することで有機界面の性質を理解し、制御することが可能であると考えました。この転写法では、2つの有機膜の表面を分析・修飾した後に、表面同士を張り合わせて有機界面を作製することができます。また、転写の際には熱や圧力を全く必要とせず、転写前の表面の性質がそのまま界面に残っていると考えられ、界面の性質を理解および制御し、有機太陽電池の性能と関連付けることが可能と考えました。

本研究ではまず、この接触転写法を用いた、有機薄膜太陽電池の作製を試みました。透明電極である酸化インジウム錫(ITO)基板上に、電子輸送層を作製し、さらに電子受容体であるフラーレン(PCBM注5))の膜をスピンコートしました。次に、接触転写法により、電子供与体である高分子(P3HT注5))の膜をPCBMの膜上に転写し、最後にホール輸送層と金属電極を作製しました(図1)。このように作製した二層型有機太陽電池を擬似太陽光照射下で測定したところ、良好な電流電圧曲線が得られました。この結果から接触転写法で作製した界面でも電荷分離が可能であることが示され、有機界面を制御可能な有機薄膜太陽電池の作製に成功しました。

次に、本研究では界面制御の具体的な例として、電気双極子の界面への挿入による開放電圧の制御を試みました。開放電圧は変換効率を決める重要な要素であり、界面でのエネルギー準位によって決定されます。そのため、界面に電気双極子を挿入することができれば、その性質に応じて開放電圧が変化すると考えられます。そこで、当研究グループで開発した有機半導体の表面修飾のための新しい方法(表面偏析単分子膜)を用いました。この方法は、フッ素化アルキル鎖(テフロンなどの撥水性材料と同様の構造:図1c、図1d)を有する材料をスピンコート時に混ぜて、有機膜の表面に電気双極子を有する単分子膜を自発的に作製します。この方法によってP3HTもしくはPCBM膜表面に電気双極子を作製し、表面分析によってその性質を調べ、接触転写法によってP3HT/PCBM界面に挟みこみました(図1e)。この結果、有機太陽電池の有機界面に異なる向きの電気双極子を挟み込むことに成功しました。また、このデバイスの擬似太陽光照射下での電流電圧特性を調べたところ、界面における電気双極子の向きに応じて開放電圧の値が大幅に低下、もしくは上昇することが分かりました(図2)。このように有機界面に向きの異なる電気双極子を挿入し、開放電圧を制御した例は世界で初めてです。さらに、この方法により、P3HT/PCBM系の有機薄膜太陽電池における、開放電圧の世界最高値を達成することにも成功しました。

<今後の展開>

本研究は、有機薄膜界面の性質を精密に制御し、開放電圧値の向上も達成しており、界面の性質の制御と有機薄膜太陽電池の性能とを関連付けることに成功した初めての成果です。この方法は原理的にはどのような材料にも適用できることから、今後、この方法で有機物質の組み合わせを変えること、または界面に電気双極子を挟み込むことによって、さらに電圧や変換効率の向上が期待できます。また、この方法をもとに、今後さらに界面構造と電荷分離過程の関係を明らかにすることで、新たな有機薄膜太陽電池の性能向上や作製技術につながるものと期待されます。

<付記>

本研究は、東京大学 大学院工学系研究科 修士課程2年の多田 亜喜良 氏、北京理工大学 博士課程3年の耿 彦芳 研究生、衛 慶碩 JST研究員らと共同で行われました。

<参考図>

図1

図1 本研究で用いた半導体材料と、張り合わせによる有機太陽電池作成の模式図

PCBM(a)またはP3HT(b)にフッ素化アルキル鎖を有する材料を混ぜて、PCBMもしくはP3HT膜表面に電気双極子を作製。PCBMとP3HTの間に挟む電気双極子層((c)もしくは(d))の向きによって、界面に異なる方向の電気双極子を形成することに成功した。

図2

図2 異なる向きの電気双極子を界面に持つ有機太陽電池の電流電圧曲線

図1に示したとおり、界面構造を変えるだけで太陽電池の開放電圧が約0.9Vと大幅に向上することが分かる。

<用語解説>

注1) 変換効率
太陽電池の性能を表す指標。太陽電池に入射した光エネルギーのうち、どれくらいの割合を電気エネルギーに変換できたかを示す。
注2) 電気双極子
プラスの電荷とマイナスの電荷が微小な距離だけ離れて存在する状態のこと。これがきれいに面状に整列すると、その面を跨いだ空間に電位の違いが生じる。
注3) 開放電圧
光照射下で、太陽電池の両側の電極を開放状態にした時の出力電圧。すなわち外部回路に電流が流れていない時の電圧値。有機薄膜太陽電池において、この値の最大値は、電子ドナーの最高被占軌道のエネルギー準位と、電子アクセプターの最低空軌道のエネルギー準位との差で決まると言われている。
注4) 励起子
有機半導体が光を吸収して生成するホールと電子の対。
注5) PCBM、P3HT
P3HT(poly(3-hexylthiophene))は電子供与体として、PCBM([6,6]phenyl-C61-butyric acid methyl ester)は電子受容体として、有機薄膜太陽電池研究で一般的に用いられている材料。それぞれホール輸送性、電子輸送性に優れる。P3HT/PCBMの材料の組み合わせだと通常0.55V〜0.6Vくらいの開放電圧が得られる。

<論文名>

“Tailoring organic heterojunction interfaces in bilayer polymer photovoltaic devices”
(二層型高分子太陽電池における有機ヘテロ接合界面の精密制御)
doi: 10.1038/nmat3026

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

但馬 敬介(タジマ ケイスケ)
東京大学 大学院工学系研究科 講師
JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「橋本光エネルギー変換システムプロジェクト」 グループリーダー
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-7244 Fax:03-5841-8751
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<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
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