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平成23年5月10日

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活性酸素の表面作用量モニターを開発

−水晶微小天秤(QCM)法を応用した活性酸素センシング−

岩崎電気 株式会社(本社:東京都中央区馬喰町1−4−16、代表取締役社長:渡邊 文矢) 技術研究所 所長 木下 忍、東海大学(所在地:神奈川県平塚市北金目4−1−1、学長:髙野 二郎) 工学部 機械工学科 教授 岩森 暁、独立行政法人 産業技術総合研究所(本部:東京都千代田区霞ヶ関1−3−1、理事長:野間口 有) 環境管理技術研究部門(所在地:茨城県つくば市小野川16−1、研究部門長:田尾 博明) 計測技術研究グループ 主任研究員 野田 和俊らの研究グループは、この度水晶微小天秤(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法注1)を利用した新しい活性酸素注2)検出モニターを開発しました。

活性酸素は、紫外線(UV)ランプ注3)大気圧プラズマ注4)などを用いた表面処理プロセス分野に幅広く利用されていますが、これまでその作用量を簡便に計測できる手段がありませんでした。空間中の活性酸素計測手法としては、レーザー誘起蛍光法や真空紫外吸光分光法などが知られていますが、いずれも計測装置の価格が数千万円以上と高価で、また装置そのものが大型という欠点がありました。

開発した手法では、水晶振動子注5)上に形成した有機系薄膜注6)と活性酸素との反応による薄膜質量の変化量を水晶振動子の共振周波数の変化量として計測することができ、活性酸素の表面作用量を連続的にモニタリングすることが可能になりました。図2に活性酸素検出モニターの水晶微小天秤センサーヘッド部の写真を示します。水晶振動子上に形成される有機系薄膜の材料を変えると、活性酸素検出感度が変化するため、用途に応じて使い分けることができます。この開発品は、産官学が連携して産み出した成果であり、表面処理プロセスの活性酸素作用量モニターとしての応用が期待され、工程歩留りの向上に道筋を拓くものとなります。

なお、この研究開発は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP) シーズ顕在化タイプ(課題名「活性酸素種の殺菌プロセスへの応用と評価モニタリング技術の開発」(企業責任者:木下 忍、研究責任者:岩森 暁)により行われているものです。

<研究のポイント>

<開発の社会的背景・経緯>

現在、ガラス基板の洗浄、各種エンジニアリングプラスチック(ポリマー材料)の表面改質、医療品の表面殺菌など工業的な表面処理プロセスでは、UV、プラズマ、電子線などが利用されています。これらの表面処理には共通して、“活性酸素”が重要な作用因子として機能していることが、古くから知られています。

活性酸素は、文字通り空気中に含まれる基底状態(励起されていない通常の状態)の酸素分子(O)よりも高活性で、桁違いに高い酸化力を有する酸素種の総称と定義されています。活性酸素のプロセス中での生成量を計測する手段は、レーザー装置を使用する方法(レーザー誘起蛍光法)や真空紫外光の吸収を利用する方法(真空紫外吸光分光法)などが知られていますが、いずれも測定装置が大型、高価であり、UVやプラズマなどのプロセス装置ごとへの搭載は困難でした。

こうした事情を鑑みて、私たちは、安価で簡便な活性酸素の計測手法を確立し、プロセス装置ごとへの搭載を実現するため、QCM法の適用を検討し、この度、活性酸素の表面作用量をモニタリングできる活性酸素検出モニターを開発しました。

QCM法は古くから蒸着速度・膜厚モニター注7)や、ガス検出に応用されており、装置が小型で安価という特長を持っています。

私たちは、2009年頃からこの手法による活性酸素検出の基礎研究に着手し、各種の検出材料を用いた検証試験を行い、有機系薄膜が工業プロセス装置内部で生成する活性酸素のモニターに有効であることを実証してきました。

<開発の内容>

この手法を用いた活性酸素作用量の検出法として、QCMの母体となる“水晶振動子”上に銀薄膜を形成し、銀薄膜と活性酸素との反応による酸化銀(AgO)形成に伴う質量増加量を振動子の共振周波数の変化量としてモニタリングする手法が報告されていますが、銀薄膜を用いた場合、徐々に薄膜表面が酸化銀層で被覆されて、長時間作用量をモニタリングできないという欠点がありました。

新しい開発手法では、水晶振動子上に高周波スパッタリング法注8)によって形成した有機系薄膜が活性酸素と反応することによる、化学的なエッチング注9)に伴う質量減少量を水晶振動子上の共振周波数の変化量としてモニタリングすることが可能になりました。また、活性酸素との反応によって、常に新たな有機系薄膜表面が露出し、活性酸素に曝露するため、銀薄膜を用いた場合の問題を解決することができます。

図3に各種出発材料を用い、高周波スパッタリング法で形成した有機系薄膜による活性酸素(原子状酸素)のモニター特性を示します。横軸は活性酸素の照射時間、縦軸は水晶振動子の共振周波数変化量(単位:Hz)を示しています。カーボン系薄膜(図中、“Carbon”)、ポリイミドを出発材料として形成した有機系薄膜(図中、“Polyimide”)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)を出発材料として形成した有機系薄膜(図中、“PTFE”)、それぞれの材料は、同一の活性酸素照射量に対して、異なる周波数増加特性、すなわち質量減少の挙動を示し、形成する薄膜材料によって活性酸素の測定感度を変化させることができました。

さらに多くの有機系薄膜材料を開発することにより、用途や装置に応じた活性酸素モニタリングが可能になるため、有機薄膜の物性、活性酸素との反応機構などを解明することができます。

<今後の予定>

今回開発した活性酸素検出モニターは、2011年中に、岩崎電気より150万円以下での装置販売を行う予定です。さらにこの装置を用いて、表面処理プロセス中の活性酸素作用量のモニター結果と、実処理効果(洗浄、改質、殺菌など)との相関関係を明らかにし、処理速度の向上、最適化、新たな表面処理装置(滅菌装置など)の開発につなげたいと考えています。

<参考図>

図1

図1 開発した活性酸素検出モニター用の水晶素子

素子表面にそれぞれ異なる種類の有機系薄膜をコーティングしている。

図2

図2 水晶微小天秤センサー(開発品)の外観

  • 左: 水晶微小天秤センサーヘッド部(開発品、センサーヘッド部はInficon製)。右上のヘッド内部に黒く見えている箇所は、表面にポリイミド系の有機系薄膜をコーティングした水晶振動子が挿入されているため、活性酸素の検出面として作用します。
  • 右: 異なる種類の有機系薄膜をコーティングした水晶振動子。左手前はポリイミド系、右奥はフッ素系の有機系薄膜をそれぞれコーティングしたもので、測定環境に応じて使い分けが可能です。
図3

図3 有機系薄膜付き水晶振動子の活性酸素モニター結果

有機系薄膜を用いることで、直線性良く活性酸素(原子状酸素)をモニターできることが実証されています。また、有機薄膜の材料を変えることで、異なる検出感度の活性酸素検出モニターが作製できるという知見が得られています。図中、“PTFE”はポリテトラフルオロエチレン、“Polyimide”はポリイミド、“Carbon”はカーボンをそれぞれ出発材料として成膜したものです。

<用語解説>

注1) 水晶微小天秤(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法
水晶振動子の電極表面の質量変化量を共振周波数の変化量としてモニタリングするセンサーデバイス、計測手法を意味し、1959年、G.Sauerbreyにより、
図4
の関係式が導かれている。
 ここで、⊿fは周波数変化量、fは基本共振周波数、⊿mは質量変化量、Aは電極層の面積、μは水晶のせん断応力、ρは水晶の密度をそれぞれ示す。この原理式より、共振周波数6MHzの水晶振動子を用いた場合、検出電極上1Hzの周波数増加(減少)を約16ng(ナノグラム)の質量減少(増加)として検出できることを意味する(右辺のマイナス記号により、周波数増加が質量減少、周波数減少は質量増加に、それぞれ相当することに注意)。
注2) 活性酸素
文字通り、基底状態のOよりも桁違いに反応速度が高く、活性な酸素種の総称。広義には、オゾン(O)、励起状態の原子状酸素(O)、励起酸素分子()、スーパーオキシドアニオン(O)、ヒドロキシラジカル(OH)などが含まれる。その高い酸化力を活かし、洗浄、改質、酸化、殺菌などの表面処理に利用される。
注3) 紫外線(UV)ランプ
希ガス(通常Arガス)と水銀(Hg)をガラス管内に封入し、電子放出物質(アルカリ土類金属酸化物)が塗布されたタングステン2重コイル間の放電により、励起したHgから、波長253.7nmの紫外(UV)光および184.9nmの真空紫外(VUV)光が放射される。これらスペクトルの光と空気中のOとの光化学反応によって、O、励起状態のO、などの活性酸素種が生成され、これら活性酸素が被処理基材の表面に作用することによって、基材表面に付着した有機汚染物がCO、COといったガスとして飛散、除去されることで、表面洗浄(クリーニング)がなされる。UVランプは液晶ガラス基板の洗浄などの工業用プロセスで幅広く利用されている。
注4) 大気圧プラズマ
近年、大型、高価な真空排気系が不要で、大気圧近傍の圧力下で生成させたプラズマ、大気圧プラズマの利用が進んでいる。大気圧プラズマは、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの希ガスにOなどのプロセスガスを添加、電極間に高電圧を印加することで生成され、プラズマ化したガス中で生成するイオン、活性酸素などを表面へ照射、処理を行う。高価な希ガスを使用せずに、窒素(N)をベースとして使用したプラズマ装置も登場しており、UVランプと同様、液晶ガラス基板洗浄などの工業プロセスへの利用が進んでいる。
注5) 水晶振動子
人工的に結晶成長させた水晶を特定方向の角度から薄い板状に切り出し、その両面に金属薄膜電極を成膜した構造の素子であり、金属電極間に交流電圧を印加すると特定の周波数(共振周波数)で振動する逆圧電デバイスである。水晶振動子は、時計の時間基準用クオーツのほか、携帯電話などのクロック周波数素子、コンピューターの同期信号発振源など幅広く使用されている。
注6) 有機系薄膜
炭素原子を含む高分子(ポリマー)を薄膜化したもの(明確な定義はないが、工業的には厚さ1μm以下を薄膜という)で、ここでは水晶振動子を基板として、その片面上に有機系の薄膜が形成される。近年、この有機薄膜を応用した太陽電池やトランジスタ、エレクトロルミネッセンス(EL)などのデバイスに関する研究開発が盛んに行われている。
注7) 蒸着速度・膜厚モニター
QCMを応用したモニターの一種。真空蒸着法、スパッタリング法などの薄膜成膜プロセスで蒸発源、ターゲットから飛来、基板上に付着する粒子を水晶振動子上の質量変化量としてモニターするもの。蒸着する物質(飛来粒子)の密度および上述Sauerbrey式を使って演算することで、水晶振動子上に付着した薄膜の膜厚、また単位時間当たりの付着速度(蒸着速度)をモニターすることができる。
注8) 高周波スパッタリング法
所定圧力まで真空排気後、ガス(Arなど)が導入されたチャンバー内部に対向電極が設けられており、片側電極上にターゲットと呼ばれる成膜材料、もう片側の電極上に基板を配置し、電極間に高周波(RF)を印加することで導入ガスをイオン化、ターゲットに衝突させ、ターゲット材料を真空中にたたき出すことで基板上に薄膜を堆積(コーティング)させる手法。導入ガスの種類や圧力、高周波の電力など、条件を変化させることで、緻密な膜構造で、特定の機能性を持った膜を形成することができる。
注9) エッチング
化学薬品などの腐食性を利用して、特定の層を除去する手法の意で用いられる用語だが、ここでは、活性酸素との物理・化学反応によって有機系薄膜が分解、除去される過程を意味する。QCM法では、有機薄膜のエッチング(水晶振動子からの除去)に伴う、質量の減少を周波数の増加量としてモニターしている。

<本件に関するお問い合わせ先>

<プレス発表/取材等に関する窓口>

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岩崎電気 株式会社 広報宣伝室
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渡部 雄太(ワタナベ ユウタ)
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土屋 慈弘(ツチヤ ヨシヒロ)
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