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平成23年3月14日

大阪大学産業科学研究所
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広島大学
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住友化学株式会社
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高分子有機ELの発光に十分な電流を制御する高分子有機TFTを開発
−低コストかつ大型で高速動作に対応するオール高分子有機ディスプレイへ道−

大阪大学産業科学研究所 竹谷 純一 教授、広島大学 工学研究院 瀧宮 和男 教授らは、住友化学 株式会社および独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で実施する科学技術振興機構(JST) 産学イノベーション加速事業の一環として、住友化学 株式会社がすでに開発した高分子有機EL注1)を発光させるのに十分な電流を供給できる、高分子有機トランジスタ(高分子-TFT)注2)を開発しました。

有機ELディスプレイに用いられる有機EL素子は、素子内に流れる電流量に応じた明るさで発光します。したがって、画素がディスプレイとして十分な明るさを得るためには、各画素の有機EL素子と組み合わされた有機TFTに、十分な電流を制御する能力が必要です。高分子有機ELを発光するためには50 µm角(マイクロは百万分の1)のピクセルあたり数µAの電流が必要ですが、これまでは、この大きさの有機TFTでこの電流量を制御することが困難でした。

高分子を用いた有機半導体は、塗布して薄膜ができるため、簡便で低コストの生産手法として、住友化学株式会社などで開発が進められてきました。高分子有機EL素子を、溶液塗布で製作する技術は、すでに同社にて開発済みでしたが、各々の有機EL素子を制御するための高性能の有機TFTと組み合わせる必要がありました。本研究では、広島大学で新しい高分子半導体化合物ポリナフトジチオフェンビチオフェニル注3)を合成し、大阪大学らのグループが本高分子化合物を塗布した三次元トランジスタ(3D-TFT)注4)を開発したことによって、高分子有機ELを高速動作するのに十分な性能のTFTが得られました。ディスプレイパネルに必要な有機ELと有機TFTの両方の素子が、高分子有機半導体を利用して製作できたため、全てを溶液塗布の工程で製作可能なオール高分子の低コスト薄型フレキシブルディスプレイの開発へ道が拓かれました。

本開発成果は、2011年3月24日(木)から27日(日)まで神奈川工科大学(神奈川県厚木市)にて開催される「第58回応用物理学関係連合講演会」で発表される予定です。

本成果は、以下の事業・研究開発テーマ・研究開発課題によって得られました。

産学イノベーション加速事業【戦略的イノベーション創出推進】(S−イノベ)

研究開発テーマ 「有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発」
(プログラムオフィサー(PO):谷口 彬雄 信州大学 名誉教授・特任教授)
研究開発課題名 「新しい高性能ポリマー半導体材料と印刷プロセスによるAM-TFTを基盤としたフレキシブルディスプレイの開発」
プロジェクトマネージャー(PM) 瀧宮 和男(広島大学 工学研究院 教授)
開発リーダー 小廣 健司(住友化学 株式会社 主席研究員)
研究開発期間 平成22年1月〜平成31年3月

S−イノベは、JST 戦略的創造研究推進事業(CREST、ERATO、さきがけ、SORST)などの成果から新産業創出の礎となる研究開発テーマを設定し、当該テーマの下で公募選定された産学連携による複数の研究開発チームが長期一貫した研究開発を進めるプログラムです。

本課題では、新しい高性能高分子半導体材料と印刷プロセスによるフレキシブルディスプレイの開発を目指しています。

<研究の背景と経緯>

有機EL発光デバイスや有機TFTなど有機半導体を用いたデバイスは、低コスト・大面積の薄型ディスプレイのような次世代のエレクトロニクス産業を構築する技術として期待されています。その中で、高分子半導体は、溶液を塗布して薄膜ができるため、室温近くで印刷法などの簡便な工程により、大面積に素子パターンを製作可能で、低コストでプラスティック上にもディスプレイパネルを形成でき、産業上のメリットが非常に大きくなります。高分子半導体を用いた高分子EL素子を溶液塗布による簡便な手法で製作する技術は、すでに住友化学株式会社などにて開発済みでしたが、低コスト・大面積の薄型ディスプレイを実現するためには、各々の高分子ELデバイスを制御するための高性能の高分子TFTと組み合わせる必要がありました。 オール有機材料で構築した有機ELディスプレイは従来、低分子有機半導体を真空蒸着して形成したTFT上にさらに低分子有機EL材料を真空蒸着して作製していました。そのため、設備コストが高価になり、また、フレキシブル化や大型化が困難でした。有機ELデバイスや有機TFTデバイスを塗布で作製できれば、設備コストが安価となり、また、フレキシブル化や大面積化も容易となります。そのためには、大気下で安定かつ溶液塗布できる材料が必要となります。 今回、広島大学 瀧宮教授らは、大気中で安定かつ溶液塗布可能な新規高分子半導体化合物ポリナフトジチオフェンビチオフェニルを開発しました。従来の高分子半導体では、ホールの移動度注5)が0.1 cm2/Vs程度と一般に小さく、有機ELを発光するに十分な電流量を供給することは困難でした。本開発の材料を用いると大気中での安定性に優れ、通常の平面型TFTにおいて、移動度は最高で0.8 cm2/Vsにも達します。 また、有機ELディスプレイに用いられる有機ELデバイスは、デバイス内に流れる電流量に応じた明るさで発光します。従って、画素がディスプレイとして十分な明るさを得るためには、各画素と組み合わされた有機TFTに、十分な電流を供給する能力が必要です。高分子ELを発光するためには50 µm角のピクセルあたり数µAの電流が必要ですが、これまで、溶液塗布法で形成した平面型TFTでは、チャネル長を短くすることや多チャネルを用いて電流を増幅するが困難で、大きい電流量を制御することが困難でした。特に、高分子半導体では、一般にホールの移動度が0.1 cm2/Vs程度と小さいために、十分な電流量を供給することは至難と考えられていました。

<研究の内容>

本研究では、新しく合成された図1の高分子半導体を用いて、図2aの構造を有する三次元高分子トランジスタを開発し、この問題を解決しました。 通常の有機TFTでは、図2bのような構造を取るため、横方向の1つの平面にだけ電子が流れるチャネル層がありますが、大阪大学 竹谷 純一 教授、大阪府立産業技術総合研究所 宇野 真由美 主任研究員らのグループが開発した三次元有機TFTでは、縦方向のチャネルを高密度に配置することができるため、単位面積当たりの電流量を飛躍的に増大させることが可能になりました。広島大学 瀧宮 和男 教授、尾坂 格 助教らが新たに合成した高分子半導体化合物ポリナフトジチオフェンビチオフェニルは、通常の高分子半導体と比べて大気中安定で、高い移動度を有するため、電流量はさらに向上しました。図3のように−20 V程度の電圧入力によって、得られる電流増幅量は10 µAに達するため、高分子ELの画素を十分に発光する能力があることが分かります。

<今後の展開>

今回開発した新規高分子半導体材料を用いた三次元TFTでは、高分子ELの高速動作に十分な電流が得られました。オール高分子で、低コスト大面積の高分子ELディスプレイを実用化するためには、信頼性および歩留まりの向上、on電流とoff電流の比を向上させることを今後の開発目標とします。さらに、すでに開発された高分子ELと組み合わせることによって、次世代の有機エレクトロニクス産業のキーデバイスとして、オール高分子ELディスプレイの実用化に向けた開発研究を行います。

<谷口彬雄 プログラムオフィサー(PO)コメント>

高分子ELディスプレイは次世代の大面積フレキシブルディスプレイとして期待されています。今回、ディスプレイを高速動作させるためのデバイス構造設計・作製技術などの基本技術が開発されました。今後、印刷による製造などの研究を進め、実用的なディスプレイを実現させて行きます。

<参考図>

図1

図1 ポリナフトジチオフェンビチオフェニルの構造式

大気中での安定性に優れ、通常の平面型TFTの移動度は最高で0.8 cm2/Vsにも達する。

図2a
図2b

図2 (a)三次元高分子トランジスタの構造図とトランジスタのアレイを上から見た写真。チャネル長;0.5 µm
(b)通常の平面型有機トランジスタの構造図。チャネル長;5µm

三次元高分子トランジスタでは、多数の縦チャネルよりなる構造により、三次元空間を有効に利用するため、大電流密度を実現する。

図3

図3 三次元トランジスタの動作特性

ゲート電極に−20 V程度の電圧を加えて、160µAのドレイン電流量(ID)が得られている(この時、ドレイン電圧 VDは−7 V)。素子のサイズを50µm角の高分子EL画素のサイズに換算すると高分子EL素子の発光に十分な10µAに対応する。通常の平面型TFTでは、同じ条件で0.1〜1µA程度しか得られないので、1桁以上の大電流が得られている。

<用語解説>

注1) 高分子有機EL
高分子半導体を用いた素子に電流を流すことによって発光させるデバイス。住友化学株式会社等が開発を進めている。ELは、Electro Luminescenceの略。
注2) 高分子有機トランジスタ(高分子-TFT)
高分子半導体を用いたトランジスタで、ゲート電圧(VG)を変化させることによって、流れる電流を制御するスイッチ素子。液晶やELのディスプレイの画素ごとに配置されたパネル(アクティブマトリックス)を構成して、画素のスイッチングに利用される。TFTは、Thin Film Transistorの略。
注3) ポリナフトジチオフェンビチオフェニル
広島大学 瀧宮和男教授、尾坂格助教らが開発した新規高分子半導体。大気中で安定かつ、高い移動度を示す特徴を有する
注4) 三次元トランジスタ(3D-TFT)
大阪大学 竹谷 純一 教授、大阪府立産業技術総合研究所 宇野 真由美 主任研究員らが開発した新しい構造の有機トランジスタ。一般に高分子半導体の移動度は小さく、得られる電流値が小さいため、多くの伝導チャネルを立体的に配置し、電流値を増幅させる。大電流密度と高速動作を実現する高性能デバイスが得られる
注5) 移動度
半導体の中に注入されたホールや電子キャリアの動きやすさを表す。有機トランジスタ素子では、移動度は電流増幅量や高速動作と直接関連するため、デバイス性能の指標ともなる。

<論文名>

“大気中安定な大電流駆動三次元ポリマーFET”
第58回 応用物理学関係連合講演会で発表(開催日:2011年3月24日(木)から27日(日)、開催場所:神奈川工科大学 発表No.25a-BU-1)

“構造異性ナフトジチオフェンを有する半導体ポリマーにおける構造とOFET特性との相関”
第58回 応用物理学関係連合講演会で発表(開催日:2011年3月24日(木)から27日(日)、開催場所:神奈川工科大学 発表No.26p-BU-2)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹谷 純一(タケヤ ジュンイチ)
大阪大学産業科学研究所 教授
〒567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘8−1
Tel:06-6879-8400 Fax:06-6879-8404 E-mail:

瀧宮 和男(タキミヤ カズオ)
広島大学 工学研究院 教授
〒739-8527 広島県東広島市鏡山1−4−1
Tel:082-424-7734 Fax:082-424-5494 E-mail:

小廣 健司(コヒロ ケンジ)
住友化学 株式会社 筑波研究所 主席研究員
〒300-3294 茨城県つくば市北原6番
Tel:029-864-4171 Fax:029-864-4747 E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学基礎基盤推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8475 Fax:03-5214-8496 E-mail:

<報道担当>

鍵田 直子(カギタ ナオコ)
大阪大学産業科学研究所 広報室
〒567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘8−1
Tel&FAX:06-6879-8524 (内線8524)
E-mail:鍵田アドレス 、広報アドレス 

和木 光江(ワキ ミツエ)
広島大学 社会連携・情報政策室 広報グループ プレスリリース専門員
Tel:082-424-6017 E-mail:

飯村 清寿(イイムラ キヨトシ)
住友化学 株式会社 事業化推進室 主席部員 事業化リーダー
〒104-8260 東京都中央区新川2−27−1 東京住友ツインビル東館
Tel:03-5543-5444 Fax:03-5543-5909 E-mail:

科学技術振興機構 広報ポータル部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail: