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平成23年2月23日

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小学生の脳の英語処理は音声から「言語」へ

―小学生の大規模研究で英単語を処理する脳活動の基本パターンを解明―

首都大学東京 大学院人文科学研究科の萩原 裕子 教授らの研究グループは、光による脳機能イメージング法、光トポグラフィを用いて、小学生約500人の母語・英語復唱時の脳活動を調べる過去最大規模の言語脳機能研究を実施しました。その結果、母語と英語を処理する時の脳活動に顕著な差があること、音声分析の進行とともに語彙(ごい)習得が進み、それに伴って脳活動が右半球(右脳)から左半球(左脳)へと移行する可能性を見いだしました。

まず、実験で言語音として聞き慣れない英語を処理する際は、母語を処理する場合に比べて脳活動が著しく低く、非語(無意味な綴り)と同様の処理が行われていました。これは、小学生の段階で脳はすでに母語にチューニングされていることを示唆しています。次に、一般に、言語を司る領域は左半球にあると言われており、実験でもよく知っている単語の処理では左半球の角回が活発に活動していましたが、逆にあまり知らない単語の処理では、右半球の縁上回が活発に活動することが分かりました。さらに、言語領域としてよく知られているブローカ野においても、右半球のブローカ野に相当する場所が活発に活動していました。これらの結果は、音声言語処理には左右両半球が関与し、特に語彙獲得の初期には右半球が重要な役割を担っている可能性を示しています。子どもたちの脳は、未知の言葉を習得する際には、言語を問わず、音のリズム、アクセント(音の強弱)、イントネーション(抑揚)などを頼りに処理していると考えられます。

本研究結果から、子ども達が新しい言葉を耳から学ぶ時には、脳ではまず音声の分析が優先的に行われ、それが意味を持つ「言語」へと徐々に移行する可能性が示唆されました。本研究は、学齢期初期における外国語習得の基礎資料となるもので、小学校における効果的な英語活動や、脳科学的な根拠に基づく英語学習法の開発へ道を開くものと期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 社会技術研究開発事業「脳科学と社会」研究開発領域(領域総括:小泉 英明 株式会社 日立製作所 フェロー) 研究開発プログラム「脳科学と教育」(タイプⅡ)の研究開発プロジェクト「言語の発達・脳の成長・言語教育に関する統合的研究」(平成16年12月〜平成21年11月)(研究代表者:萩原 裕子)の一環として行われたもので、株式会社 日立製作所 基礎研究所および自治医科大学の檀 一平太 准教授らの研究グループの協力を得ました。本研究成果は、2011年2月24日(米国現地時間)に、米国科学誌「Cerebral Cortex (大脳皮質)」のオンライン版で公開されます。

<研究成果のポイント>

<研究の背景と経緯>

言語習得の領域では、外国語学習に関する研究が古くから行われていますが、主にアメリカにおける移民の英語習得のような第二言語環境でのものが多く、日本のような外国語環境での子どもの英語学習については科学的なデータがほとんどありませんでした。小学生の場合、母語も発達途上であり、この時期における母語および英語処理時の脳内メカニズム、またそれらの違いはほとんど分かっていませんでした。そこで、本研究チームでは、小学生が母語および英語の単語を復唱している時の脳活動を記録し、それぞれの言語処理時の脳反応や、その違いを調べました。

<研究の内容>

本研究では、安全で計測時の負担も少ない光トポグラフィを用いて、484人の小学生(年齢:6〜10歳)について、母語(日本語)および外国語(英語)の単語復唱時の脳活動(脳の血流変化)を調べました。実験は、日本語と英語のそれぞれにつき、出現頻度の異なる2種類の単語(高頻度語と低頻度語)を用意し、合計4種類の復唱課題を実施しました。高頻度語は100万語中50回以上の使用頻度、低頻度語は100万語中5回以下の使用頻度でした。言葉の模倣は言語の獲得にとって重要な行為の1つであり、この能力は、外国語を習得する能力と相関があると言われています。

単語復唱時の脳活動は、聴覚野付近では言語(母語 vs. 英語)や出現頻度(高頻出度語 vs. 低頻出度語)によらず同程度で、左右半球差も見られませんでした。一方、ウェルニッケ野付近、角回、縁上回では、語彙知識(意味知識の有無)によらず、母語処理時の方が英語処理時より脳活動が有意に大きいことが分かりました。聴覚野付近では母語と英語で脳活動に差がないのに対して、これらの脳の場所では顕著な差が見られたという結果は、これらの脳の場所が、「言語音」の認知処理(音韻処理)の座であることを示唆しています。つまり、小学生の段階ですでに脳が母語の音韻処理にチューニングされており、言語音として聞き慣れない英語は非語と同様に処理されていると考えられます。また、聴覚野付近やウェルニッケ野付近は、音声−言語処理のプロセスの初期段階にあたりますが、脳の活動は左半球と右半球で対称でした。一方、音声−言語処理プロセスの後期段階(角回、縁上回、ブローカ野)では言語刺激の種類によってそれぞれの皮質が異なる反応を示し、高頻度語に対しては左半球の角回、低頻度語に対しては右半球の縁上回の活動が統計的に優位でした。また、ブローカ野では右半球の活動が優位でした。一般に言語は左半球で処理されており、言語処理の中でも特に音韻処理には左右両半球が関与していると言われていますが、本研究の結果から、新しい単語を学ぶ時には右半球が重要な役割を担っている可能性が高いことが示唆されました。あまり聞き慣れない低頻度語の音韻処理には、右半球の縁上回が深く関与し、聞き慣れた高頻度語に対しては左半球の角回の活動が高いという結果は、音声分析が進むと語彙の習得が進み、それに伴って脳活動が右半球から左半球へ移行する可能性を示しています。また、この傾向は母語でも外国語でも同様に観察されたことから、言語に普遍的な現象であると考えられます。

言葉はある長さの意味を持つ音の響きで、複数の単位から構成されていますが、それぞれの単位は分離することができます。例えば、『シロイウマ(白い馬)』はシロイとウマに分けることができ、シロイはさらにシ、ロ、イに分けることができます。このように、人間の音声言語は、さらに小さい単位(音節)に分けられ、分節構造を成しています。このように、音声は一つ一つの音(分節音、単音)が連結してできているため、分節的特徴と、分節音が連結した単位(音節、語、句など)に起こるリズム、アクセント、イントネーションなどの超分節的特徴に分けられます。従来の研究結果と併せると、左半球では分節的特徴の処理、右半球では超分節的特徴の処理が行われている可能性が高いと考えられます。新しい言葉を学ぶ際には、外国語のみならず母語でもこの超分節的特徴の処理機能が重要であり、この機能が言語の上達を左右すると思われます。本研究から、左半球に加えて、右半球の縁上回および右半球のブローカ野に相当する場所が言語習得の初期に重要な役割を担っていると考えられます。

この結果は、音声処理から言語処理の一連の過程において、音の入力のごく初期段階である聴覚野付近では言語の種類によらず音声として処理され、さらにウェルニッケ野、角回、縁上回、ブローカ野という高次な脳機能を担う場所へと処理プロセスが進むにつれて、より特化した「言語」の処理へ移行していくことを示唆しています。

小学生について、母語と外国語の音声処理から言語処理のプロセスを可視化し、言語や出現頻度の違いによる脳活動の程度の相違を明らかにしたのは本研究が初めてです。

<本研究の社会的意義>

本研究結果から、子ども達が新しい言葉を耳から学ぶ時には、脳ではまず音声の分析が優先的に行われ、それが意味を持つ「言語」へと徐々に移行する可能性が示唆されました。本研究は、学齢期初期における外国語習得の基礎資料となるもので、小学校における効果的な英語活動や、脳科学的な根拠に基づく英語学習法の開発へ道を開くものと期待されます。

<参考図>

図1

図1 移動脳機能計測車(右)と、光トポグラフィによる計測(左)

図2

図2 神経活動に伴う酸素化ヘモグロビン、および脱酸素化ヘモグロビンの相対的変化

図3

図3 平均的な賦活パターン(MNI標準脳座標系へのマッピング)

A・C・E・G:右半球、B・D・F・H:左半球、Jpn:日本語、Eng:英語、HF:高頻度語、LF:低頻度語。

図4

図4 言語領域毎の酸素化ヘモグロビン相対値

棒グラフの青(青)は左半球、赤(赤)は右半球の活動の大きさを示し、紫(紫)はよく知っている単語、緑(緑)はあまり知らない単語をそれぞれ示す。脳の図にある数字は計測したチャンネルの位置、括弧内は解析対象領域を示す。聴覚野付近では、左半球と右半球で同程度の活動がみられる(a)。ウェルニッケ野付近では、左半球も右半球も同程度だが、英語よりも日本語の方が高い活動を示す(b)。角回では、英語よりも日本語の方で高い活動を示す。また、日英語ともによく知っている単語(紫)では、右半球(赤)よりも左半球(青)の方が高い活動を示す(c)。縁上回では、英語よりも日本語の方で高い活動を示し、さらに、日英語ともに知らない単語(緑)では、左半球(青)よりも右半球(赤)で高い活動を示す(d)。ブローカ野では、左半球よりも右半球の方が高い活動を示す(f)。

統計について、L1:母語、L2:英語、L:左半球、R:右半球、Freq:出現頻度、Hemi:左右半球、印はそれぞれ統計上の有意差***:p< .001、**:p< .01、:p< .05を示す。

<論文名および著者名>

“Sound to language: different cortical processing for first and second languages in elementary school children as revealed by a large-scale study using fNIRS”
(音声から「言語」へ:光トポグラフィによる大規模研究によって明らかになった小学生の母語と第二言語のそれぞれに異なる皮質処理)
doi: 10.1093/cercor/bhr023
Lisa Sugiura*, Shiro Ojima*, Hiroko Matsuba-Kurita, Ippeita Dan, Daisuke Tsuzuki, Takusige Katura, and Hiroko Hagiwara
(*は同等の貢献をした筆頭著者)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

萩原 裕子(ハギワラ ヒロコ)
首都大学東京 大学院人文科学研究科 言語科学教室 教授
Tel:042-677-2217 Fax:042-677-2950
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<JSTの事業に関すること>

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